(財)資産評価システム研究センター

土地評価に関する調査研究


目 次



はしがき
平成16年度 土地に関する調査研究委員会委員名簿
平成16年度土地に関する調査研究委員会審議経過

固定資産税評価における方位格差の取扱いに関する調査研究

T 調査研究の目的
U 方位格差の顕在化の背景と意義
V 不動産鑑定評価における方位格差の考え方等
 1 不動産鑑定評価における価格形成要因の把握方法と方位格差
 2 方位格差と他の価格形成要因との関係分析
 3 方位要因の作用の実態
 4 方位格差の把握
W 不動産鑑定評価における要因分析から個性率査定への流れと評価先例
 1 取引事例比較法における要因の比較
 2 方位と関連する評価先例の分析
X 固定資産税評価における方位格差の取扱い
 1 固定資産税評価における方位格差の課題
 2 標準宅地の適正な時価と鑑定評価価格等の活用
 3 固定資産税評価における方位格差の考え方
 4 所要の補正についての考え方
 5 その他
Y まとめ
<参考資料1>方位と関連する評価先例の分析

報告 土壌汚染対策法と不動産鑑定評価上の考え方について

はじめに
 1 土壌汚染対策法の概要
 2 不動産鑑定評価における土壌汚染の取扱い等の状況
<参考資料2>土壌汚染と不動産鑑定評価
<参考資料3>土壌汚染対策法における指定区域




はしがき



 固定資産税は、市町村財政における基幹税目として重要な役割を果たしてきておりますが、課税情報の情報公開の促進等を背景に、固定資産税制度や資産評価に対する納税者の関心は、今後ますます高まっていくものと予想されます。
 当評価センターは、昭和53年5月設立以来、固定資産税に関する調査研究、地方公共団体職員に対する研修、情報の収集・提供等の幅広い業務を行って参りました。
 特に、調査研究事業では、その時々の固定資産税を巡る問題点をテーマに選定し、各テーマごとに学識経験者、地方公共団体等の関係者をもって構成する研究委員会を設け調査研究を行ってまいりましたが、特に、本年度は6つの調査研究委員会を設けて、専門的な調査研究を行い、固定資産税制度、資産評価制度の改善に寄与してまいりました。
 土地に関する調査研究委員会は、「固定資産税評価における方位格差の取扱い」、「土壌汚染対策法と不動産鑑定評価上の考え方」について調査研究を実施いたしました。
 この程、その調査研究の成果をとりまとめ、ここに研究報告書として公表する運びとなりましたが、この機会に熱心にご研究、ご審議いただきました委員の方々に対し、心から感謝申し上げます。
 当評価センターは、今後とも、所期の目的にそって、事業内容の充実及び地方公共団体等に役立つ調査研究に努力をいたす所存でありますので、地方公共団体をはじめ関係団体の皆様のなお一層のご指導、ご支援をお願い申し上げます。

平成17年3月

財団法人資産評価システム研究センター

理 事 長    小 川  コ 洽

目次へ戻る





平成16年度 土地に関する調査研究委員会委員名簿


委 員 長片桐 久雄(財)農政調査委員会理事事務局長
委   員井出 多加子成蹊大学経済学部教授
木村 收阪南大学経済学部教授
前川 俊一明海大学不動産学部教授
泉 達夫(社)日本不動産鑑定協会理事
平舘 勝紘(財)日本不動産研究所システム評価部長
稲葉 勝巳(財)日本不動産研究所システム評価部参事
池田 哲夫東京都主税局資産税部固定資産評価課専門副参事
横家 和也名古屋市財政局主税部固定資産税課長
岡部 庚次高崎市財務部資産税課長

目次へ戻る




平成16年度土地に関する調査研究委員会審議経過


○ 第1回委員会 [平成16年6月22日(火)]
    議題(1) 委員長の指名
    (2) 平成16年度調査研究項目等について
      @ 固定資産税評価における方位格差の取扱い
      A 土壌汚染地の評価
    (3) その他

○ 第2回委員会 [平成16年10月15日(金)]
       不動産鑑定評価における方位格差の取扱い

○ 第3回委員会 [平成16年12月20日(月)]
       固定資産税評価における方位格差の取扱い
○ 第4回委員会 [平成17年2月1日(火)]
       (1) 固定資産税評価における方位格差の取扱い
       (2) 土壌汚染地の評価
○ 第5回委員会 [平成17年3月11日(金)]
       平成16年度報告書(案)について

目次へ戻る



固定資産税における方位格差の取扱いに関する調査研究



T 調査研究の目的

 地価の下落傾向が続くなかで、土地取引市場において条件の良否に一層着目する傾向が見られる。
 このため、土地の条件の良否の一としてのいわゆる方位による格差についても、より意識される傾向にあるものと考えられる。
 また、地価公示においては、平成13年から方位格差は価格形成の個別的要因として整理されることとなった。
 ところで、固定資産税評価においては、平成6年度評価替えから地価公示価格又は都道府県地価調査価格若しくは鑑定評価価格を活用することとし、これらの価格の7割を目途として評定することとされているが、この場合において例えば地価公示価格に係る鑑定評価書における方位格差について固定資産税評価においていかに考慮すべきかが課題となる。
 そこで、方位格差の実態、不動産鑑定評価における考え方・取扱い等について調査・分析し、これを踏まえて固定資産税評価上の考え方、取扱いについて検討・整理するものである。

目次へ戻る



U 方位格差の顕在化の背景と意義

 現在、「方位格差」と呼ばれるものについては必ずしも確定的な概念があるわけではない。しかしながら、近年における地価下落の中にあって、土地の価格は二極化・差別化する傾向にあり、その要因を分析する過程で「方位による格差」が挙げられる場合が出てきたものと言われている。一般的に考えて地価を形成する要因は複雑、多様であるが、「方位格差」と呼ばれるものについては今のところ不動産鑑定において価格形成要因の説明として用いられている場合が多い。そこで、ここでは一般的な課題としての「方位格差」について検討する。

(1) 方位格差が顕在化した背景

@ 市場環境の変化による方位格差への注目度の高まり
 我が国における地価の推移を、例えば1950年代以降について概観すると、程度の相違はみられるもののそのほとんどの期間を通じて地価は一貫して上昇局面にあり、いわゆるバブル期に典型的に見られるように全面的な土地価格の上昇がみられたことから、土地取引市場は、土地価格に比較的大きな影響を及ぼす要因に主として着目しがちであった。しかしながら、いわゆるバブル崩壊直後の急激な地価下落と土地取引の停滞、その後現在に至るまでの全体的な地価の下落局面のなか、土地取引市場は従来と大きく様相を異にし、土地の所有・利用に対する社会的価値観の変化もあいまって、条件の細部にわたる良否によって土地を峻別する市場環境に変化してきている。
 土地のいわゆる方位による格差も、このような市場環境の変化に伴って、厳格な優劣格差として意識される状況になってきたものと考えられる。
A 地価公示における方位格差
 上記のような社会経済環境の変化とともに、公的土地評価において方位格差が顕在化してきた背景には、地価公示による価格が公示地点そのものの価格であり、方位による格差も含まれる、とされたことがあると思われる。
 平成13年の地価公示地点の鑑定評価において、既に一部地域で実施されてきた方位の格差を、住宅地系の用途について統一的に適用することとなり、基準方位を東または北向きに設定し、その格差修正を個別的要因の画地条件で行っている。
 一般的には、土地の種別が住宅地である場合はその更地価格を求めるとき、特に戸建住宅地などについて次のように適用範囲が示されている。

@ 住宅地(中高層のマンションが最有効使用と判断される標準地を除く。)
A 準工業地のうち住居系の標準地
B 市街化調整区域のうち既存宅地

B 基準方位について
 平成13年地価公示から公示価格には個別的要因として方位の格差が明示されることとなった。
 この方位の格差はそれぞれの地価公示標準地が街路に接面している方位について、一定の方位を基準にとって示されている。この一定の方位を「基準方位」といい、これまで東をとる場合と、北をとる場合があったが、平成15年地価公示からは全国的に基準方位として北をとることで統一されている。
 一般の鑑定評価では、対象不動産の個別性を反映させる個別的要因の比較は近隣地域の標準的画地に対する個別性を検討して行うのに対し、地価公示における方位の格差判定は基準方位に対して行うものとされている。



《標準的画地の比較と基準方位の比較》

 ○ 標準的画地との比較
   地域の中庸的水準を表す標準的画地との比較を行う。
   格差率は標準的画地の価格を100とした指数で表示される。
 ○ 基準方位との比較
   評価の前提に定められた基準方位との比較を行う。
   基準方位を100とした指数で表示される。


(2) 方位格差の考え方

 いわゆる方位格差と呼ばれるものについては、必ずしもその意義や実態が確定している状況にはないと思われる。前記(1)においては、方位格差をあたかも既定の概念のように使用したが、方位格差という概念がこのような状況にあるとすれば、固定資産税評価における方位格差の取扱いについて調査研究するに際しては、まずその意義・実態について予備的に分析検討しておく必要があると考えられる。そこで、ここでは、いわゆる方位格差の影響が生じるとされる一般的事例の分析検討や他の公的土地評価制度における方位格差の意義の調査・検討を通じてその意義・内実を極力明確にしておくこととする。なお、地理学上の方位角、いわゆる方位そのものの間には優劣や良否の関係はないのであるから、方位格差という場合の方位の優劣や良否についての格差は、方位自体の優劣や良否の格差ではなく、方位に起因してその土地に生じる特定の状態についての優劣・良否の格差であると考えられることを無用な混乱を避けるためにも予め記しておきたい。

@ 一般的事例と方位格差
 一般に土地の価格形成要因には、当該土地が属する地域に共通する要因と当該土地固有の要因とがあり、いわゆる方位格差を生じる方位に関連する要因は、地域の共通要因としてあげられる場合もあるが、個々の土地についての固有の要因とされる場合がより一般的である。後者のように個々の土地の方位の優劣や良否がより一般的に比較対照される場合について、方位に起因するどのような土地の状態や環境が比較対照されているかを検討するならば、方位格差と称される概念の一般的意義や実態の概要把握に資するものと考えられる。このような場合、通常、「南向きであるから日当たりが良い」とか、「北方位のため日照が悪く、乾湿の程度も劣る」「東南角地、日照・通風良好」等々と言われるように、具体的には方位に起因する土地の日照、通風及び乾湿等の状態が比較考量されているものと考えて良いであろう。ここに、「南向き」あるいは「北方位」とは、その土地からみた接面街路の方向・方位であることは明らかであるから、個々の土地についての日常的な意義の方位格差とは、対象土地から見た接面街路の方位(単に「接面街路の方位」と呼ぶのが一般的である)の相違による対象土地の日照、通風及び乾湿等の優劣格差という意義であり、結局のところ日照、通風及び乾湿等の環境条件の格差に帰結するものと考えられる。
 このことは、地域の共通の方位要因として、例えば丘陵地帯におけるように、地域的な傾斜の方位の優劣が比較される場合であっても同様である。すなわち、住宅地については、一般的に、地勢が南向きの緩傾斜をなす丘陵地について最も優良な方位とされるのであるから、このような緩傾斜地域相互の日照、湿度あるいは風向き等の優劣が比較考量されているものと考えることができよう。
A 公的土地評価制度と方位格差
 次に、現行の主要な公的土地評価のうち、方位による格差率を採用しているものとして、「土地価格比準表」について検討してみる。土地価格比準表は、国土利用計画法の基本通達「国土利用計画法の施行に伴う土地価格の評価等について」(昭和50年1月20日)において定められたもので、基準地と対象地の地域要因及び個別的要因の比較を行う際の比準表であるが、方位による格差率は、このうち個別的要因の画地条件の一として定められているものである。そして、この格差率表の備考欄には「画地からの接面街路の方位により分類し比較を行う」旨の記載があり、またその手引き書には「接面街路からの方位による格差率は、接面街路の方位による日照、通風等の変化に伴う快適性の優劣に着目して設けられているもの」と解説されている。したがって、この場合の方位による格差の意義は、評価対象地から見た接面街路の方位による日照、通風等の変化に伴う快適性の優劣についての基準地のそれとの格差、と言うことになるであろう。

 以上、一般的に方位による格差が比較対照される事例についてその具体的実態と公的土地評価の一手法である土地価格比準表における方位格差の意義について検討してきた。この検討結果を踏まえるならば、いわゆる方位格差という概念の意義は、当面、個々の土地においてはその土地から見た接面街路の方位による日照、通風等の変化に伴う快適性の優劣格差の意義であり、一定範囲にわたる地域の場合においても、その具体的実態は地域の日照、温度、湿度、風向き等の優劣格差の意義であるものとして分析・検討することができるものと考える。
 次章においては、地価公示や都道府県地価調査にはもとより、固定資産税評価にも密接に関連する不動産鑑定評価における価格形成要因及びこれらの要因の方位格差との関係等の調査分析を通してここでの検討結果について検証するとともに、方位格差の不動産鑑定評価における考え方、取扱い等について調査分析することとする。

目次へ戻る



V 不動産鑑定評価における方位格差の考え方等


 1 不動産鑑定評価における価格形成要因の把握方法と方位格差

(1) 不動産鑑定評価における価格形成要因

 不動産の鑑定評価では、不動産の価格を形成する要因(価格形成要因)について次のように考えられている。すなわち、不動産の経済価値は、@その不動産に対してわれわれが認める効用、Aその不動産の相対的稀少性、Bその不動産に対する有効需要、の三者の相関結合によって生ずる。価格形成要因とは、この三者に影響を与える要因をいうとされ、これらの価格形成要因は、各々ばらばらに独立して存在し、作用しているものではなく、すべての要因が有機的に関連し、結合し合うことによって、不動産の価格を形成している。
 不動産の鑑定評価を行うに当たっては、価格形成要因を市場参加者の観点から明確に把握し、かつ、その推移および動向並びに諸要因間の相互関係を十分に分析して、前記三者に及ぼすその影響を判定することが必要であるとされている。
 これを図示すれば、概ね次のように表すことができる。



《要因間の相互関係》


@ 価格形成要因の分類
 土地の価格形成要因は、一般的要因、地域要因及び個別的要因に分けられる。
 一般的要因とは、一般経済社会における不動産のあり方及びその価格の水準に影響を与える要因をいう。
 地域要因とは、その地域の特性を形成し、その地域に属する不動産の価格の形成に全般的な影響を与える要因をいう。
 地域要因を考察する場合、住宅地域では快適性及び利便性に係る要因項目に主として着目することとなる。同様に商業地域では収益性、工業地域では費用の経済性及び生産の効率性に着眼点がおかれている。不動産鑑定評価基準では「住宅地域の地域要因の主なものを例示すれば」として、次のとおりいくつかの価格形成要因が列挙されている。

@ 日照、温度、湿度、風向等の気象の状態   G 汚水処理場等の嫌悪施設等の有無
A 街路の幅員、構造等の状態   H 洪水、地すべり等の災害の発生の危険性
B 都心との距離及び交通施設の状態   I 騒音、大気の汚染、土壌汚染等の公害の発生の程度
C 商業施設の配置の状態   J 各画地の面積、配置及び利用の状態
D 上下水道、ガス等の供給・処理施設の状態   K 住宅、生垣、街路修景等の街並みの状態
E 情報通信基盤の整備の状態   L 眺望、景観等の自然的環境の良否
F 公共施設、公益的施設等の配置の状態   M 土地利用に関する計画及び規制の状態


 また、個別的要因とは、不動産に個別性を生じさせ、その価格を個別的に形成する要因をいうものであり、不動産鑑定評価基準が「住宅地の個別的要因の主なものを例示すれば」として示している価格形成要因は次のとおりである。



@ 地勢、地質、地盤等   H 公共施設、公益的施設等との接近の程度
A 日照、通風及び乾湿   I 汚水処理場等の嫌悪施設等との接近の程度
B 間口、奥行、地積、形状等   J 隣接不動産等周囲の状態
C 高低、角地その他の接面街路との関係   K 上下水道、ガス等の供給・処理施設の有無及びその利用の難易
D 接面街路の幅員、構造等の状態   L 情報通信基盤の利用の難易
E 接面街路の系統及び連続性   M 埋蔵文化財及び地下埋設物の有無並びにその状態
F 交通施設との距離   N 土壌汚染の有無及びその状態
G 商業施設との接近の程度   O 公法上及び私法上の規制、制約等


 これからも明らかなように、住宅地の個別的要因の項目は、地域要因において掲げられている項目がかなりある。
 地域要因・個別的要因の重複項目については、これらの要因が土地の地域的な価格形成に作用するとともに、個別の土地の価格形成に作用することとなる場合が少なくないことから、多面的に分析する必要がある。
A 地域要因の分析(地域分析)と個別的要因の把握
 不動産の鑑定評価における価格形成要因の分析のうち、地域要因の分析(地域分析)を行う過程では、用途的観点から区分した地域(用途的地域)に着目することとされている。ここでいう地域分析とは、その鑑定評価の対象となる不動産(対象不動産)がどのような地域に存するか、その地域はどのような特性を有するか、及びその特性はどのような影響力を持っているかを分析し、判定することをいうものとされている。地域分析に際し、対象不動産が属する用途的地域を近隣地域という。近隣地域の地域分析は、対象不動産の存する近隣地域を明確化し、次にその近隣地域がどのような特性を有するかを把握することであり、最終的に地域要因を共通にする地域を抽出することとなる。
 地域分析は以上のとおりであるが、不動産鑑定評価基準運用上の留意事項では、近隣地域の範囲の判定に際し、基本的な土地利用形態や土地利用上の利便性等に影響を及ぼすため留意を要する事項として「地勢、地質、地盤等」が例示されている。

《不動産鑑定評価基準運用上の留意事項より抜粋》
(近隣地域の範囲判定の留意事項)
    @自然的状態に係るもの
      ウ 地勢、地質、地盤等
        地勢、地質、地盤等は、日照、通風、乾湿等に影響を及ぼすとともに、居住、商業活動等の土地利用形態に影響を及ぼすこと。

 この点に留意して地域の範囲を判定した場合には、「地勢、地質、地盤等」が及ぼす影響も大まかには地域内で共通となり、地域内の標準的な画地と個別の画地の間でこれらの地域要因に基づく格差は生じないこととなる。このことの結果として、地域内の画地間で格差が生じうる要因があるとすれば、その要因は個別的要因として把握することになる。


 2 方位格差と他の価格形成要因との関係分析

 前節で見てきたとおり、方位の要因は、不動産鑑定評価における価格形成要因としては、地域要因としても、個別的要因としても明示的には示されておらず、したがって、当然に方位格差の具体的な例示もない。しかし、地域要因の例示には「日照、温度、湿度、風向等の気象の状態」があり、個別的要因としては「日照、通風、及び乾湿」の要因が示されているので、価格に及ぼす方位の影響は、通常、これらの要因のなかで把握されることとなる。方位の影響と価格形成要因との関係を、さらに広く考えた場合には、以上の他に地域要因としては、住宅地域の場合の「眺望・景観等の自然的環境の良否」に関連する傾斜の方位があり、個別的要因としては「地勢、地質、地盤等」に関連するがけ地の方位などがある。しかし、いずれもやや特殊な影響関係であり、通常、「方位格差」という場合の「方位」とは、個別的要因の「日照、通風及び乾湿」に影響を及ぼす接面街路の方位と考えられる。
 次に、地域要因としての傾斜の方位と、個別的要因としての接面街路の方位について検討する。

(1) 地域要因 …… 傾斜の方位

 地域要因の例示の中に住宅地域の場合の「眺望、景観等の自然的環境の良否」の要因があるが、ここでいう自然的環境には、眺望、景観を中心に、地勢、地盤、地質が含まれるものである。地勢は、その土地が丘陵地、台地、低湿地、窪地、平坦地等であるか、傾斜地であればどの方位へ傾斜しているか等の区別するものであって、自然的環境における場所的価値を左右する大きな要因の一つとされている。通常、傾斜地にあっては、地勢が南向きに緩い傾斜をしている丘陵地が最高の住宅地とされ、北向き傾斜地は地勢条件としては劣ると考えられる。
 このような地勢の要因は複数の画地を含んで面的に共通するものであるから、地域要因に該当し、不動産鑑定評価ではこれらの要因が共通する範囲を地域の単位として把握するものである。したがって、南向き斜面の住宅団地などについて「南向き」の状況は地域要因としての眺望、地勢、傾斜の方向などとして把握することとなる。

(2) 個別的要因……接面街路の方位

 個別的要因としての価格形成要因の分析、判定を行う過程で、住宅地の評価の場合には、接面街路の方位により日照、通風がその住宅地としての快適性に及ぼしている影響に着目する。したがって、方位の要因は、接面街路の方位により鑑定評価対象地とその対象地が属する近隣地域の標準的画地との間に格差を生じる日照の確保の程度ということになり、画地ごとに価格への影響を分析、判定するものである。
 しかしながら、日照、通風及び乾湿の優劣に基づく格差率は、方位の影響のみならず、画地が属する地域、住宅地・商業地などの用途、画地規模、間口、奥行き等によっても異なることに注意する必要がある。



《接面街路の方位》



 極めて稀なケースの想定となるが、下図のように、仮に、ある地域内で画地の接面街路がすべて同じ方位(たとえば北)である場合を考えると、方位は地域内で共通の要因となり、画地間では方位格差が生じないこととなる。しかし、地域内のある一つの画地が東西に分割され、道路が築造されると、地域の状況はそれほど変化しない中で、地域内に新たに東向きの画地と西向きの画地が生じるケースがある。
 この場合、すべて北向き画地の場合で地域内の格差がゼロであったとしても「接面街路の方位」はあくまで個別的要因であって、地域要因とは扱いが異なると思われる。




 3 方位要因の作用の実態

(1) 用途・市場等による方位要因の作用の相違

@ 中小規模の戸建住宅地の場合
 日照、通風及び乾湿の優劣に係る格差の程度は所在する地域、画地の用途、規模、間口、奥行などに応じて変化する。
 住宅地の評価では快適性に着目して価格形成要因を分析し、どの要因が価格形成にどのような影響を及ぼしているかの判定を行う過程で、接面街路の方位による日照、通風及び乾湿の変化に伴う快適性の優劣に着目して方位格差を考慮することがある。
 一般の鑑定評価では、地域によっては北向きと南向きで平均5〜6%の格差を査定することがあり、戸建住宅地の分譲では、分譲価格に0〜20%程度の格差が付けられるケースもある。
 過去においても旧住宅公団、地域公団の大規模分譲や民間大手のデベロッパーなどで先行的に方位格差が考慮されて、分譲価格が設定された例がみられる。
A マンション用地の場合
 同じ住宅用途であっても大規模な屋敷の敷地やマンション用地の場合は、接面街路の方位はあまり問題にならず、敷地内での建物配置や各居室の開口部の方位が重視される。このように規模の観点からは、敷地内での建物配置の自由度が増すため、規模が大きくなるほど方位の影響は小さくなる。
 また中高層のマンション用地は、開発、転売を目的とする市場にあり、市場参加者を異にするほか、建物を高層化するときに生じる日影との関係から北側道路がプラス要因となり、方位について戸建て住宅地とは正反対の価格形成をする場合がある。
B 地理的特性、市場特性による違い
 北海道などでは日照による採光時間が長くとれるため真南よりもやや西向きが選好される場合がある。このように画地が存する地域の緯度、気象条件等によって日照、通風等に対する価値尺度が異なるので、地域の実情に即して格差率を適宜修正して適用することになる。
 一方、商業地、特に生鮮品や服飾関係の店舗では、日照による商品の劣化等を避けるため、北向きの画地が選好されることがある。


(2) 他の個別的要因との作用関係

 既に触れたように、不動産の価格を形成する要因は、各々独立して存在し、独立して作用しているものではなく、すべての要因が有機的に関連し、結合し合うことによって不動産の価格を形成している。このことは、接面街路の方位についても同様であり、評価対象地の接面街路の方位が北側にあっても、その対象地が南側隣接地よりも高く、日照時間が十分確保できる場合には、画地条件としての方位格差は生じない場合がある。このように、接面街路の方位は、特に戸建て住宅地の価格形成において、他の要因と有機的に関連しながら作用するのであるが、結局のところ「日照、通風及び乾湿」要因を通じて住環境・居住の快適性に影響することとなる。これを図示すれば次のようになろう。


《価格形成要因間の相関関係》



 次に、この関係を具体的に見ることとする。
@ 住宅地の場合に接面街路の方位と他の要因が関連する例
 住宅地の場合、方位は所在する地域・地勢・用途・規模、間口、奥行、形状等の要因と関連しながら日照、通風及び乾湿に影響を及ぼす。
 このケースを想定し、検討してみると次のようになる。


《方位と規模・形状等との関係》
ケース 1




[A](旗竿地)は南側で道路に接面しているが、間口は狭く、南側隣接地にも建物が連担している場合である。[B]は標準的な画地のイメージ。[C]は大規模な画地だが、南側道路対面側に山(高台地など)がある場合である。
[A]〜[C]はいずれも南側道路に接面しているが、形状・規模等の違いから、日照、通風及び乾湿に及ぼす影響は異なってくる。また、形状について、上図と同様であったとしても、前面道路の幅員によって影響は異なり、例えば4mの場合、8mの場合、12mの場合で、南向きであることによる日照、通風及び乾湿のメリットは異なってくる。

ケース 2




[D]は北側道路に接面する戸建住宅地で、南側にも家屋が連担している場合である。[E]は画地規模は小さいが、南側に日照、通風及び乾湿を確保できる公園等のスペースがある場合である。[F]は大規模な戸建住宅地(屋敷)であり、南側に庭を配することができるなど敷地内での建物配置の自由度が高くなる場合である。
 前述のとおり住宅地では居住の快適性に影響を及ぼす要因として日照、通風及び乾湿が重視されることから、上図のとおり日照、通風及び乾湿の程度については、接面街路の方位のほか、地勢、前面道路の幅員、画地の形状、規模、隣接不動産等周囲の状態等と関連しながらその優劣が決定されることになる。
A 隣接不動産の影響
i) 日照阻害との関係
 日照阻害は、隣接地または周囲の土地の利用状況という個別的要因として価格に影響を及ぼす。中高層の建物によって取り囲まれている場合や、その住宅地の南東側をそれらで占められている場合には、かなり悪影響を受けることとなる。しかし、それらの建物が取り壊されたり、新たに建築される場合など、周辺の利用状況が変化することで、日照阻害による減価の程度も変化する。
ii) 格差判定の方法
 南側が道路に面する地域で、道路の対面に中高層のマンションが迫るなど評価対象地を含む一団の画地の日照が劣ること(日照阻害)を個別的要因として、環境条件の「日照」で格差を設けた場合には、総合的に考慮して画地条件「方位」では格差を設けないことがある。



《南側にマンションがある場合》



 このように個別的要因としての環境条件「日照」による影響がある場合は、画地条件の「方位」による格差修正は行わないことがある。
B 角地との複合
 住宅地における「角地」の要因は一般的にプラス評価されるが、この場合の格差付けにおいては快適性・利便性の程度に着目される。
 たとえば土地価格比準表の手引きでは次のように示されている。
 住宅地の場合、角地による格差率について、最高の格差率を適用することとなる「特に優る」場合とは、例えば、角地の方位は南東側にあり、かつ、側道は正面街路の幅員と同等であって、そのために快適性及び利便性が特に高められている画地がこれに該当することとなろう。

 このように角地による快適性向上に伴う増価には接面街路の方位による日照、通風の向上が含まれることがある。
 なお、方位・角地とも格差は対象地の間口や道路幅員などの影響を受けて個別に定まり、たとえ南東角地であっても間口が短く交差点からの距離により駐車場出入口の設置が制限される場合などでは、効用増は小幅なものにとどまる。


《方位と角地との関係》



[A]は北東の角地、[B]は南東の角地、[C]も南東の角地であるが南側の間口が狭く、接面する道路幅員は南側が広く東側が狭い場合。それぞれ、接面する道路幅員、画地の形状、等により「方位」や「角地」の要因が日照、通風及び乾湿に及ぼす影響は異なってくる。
C 新規造成住宅団地・土地区画整理地区で方位格差がクローズアップされる場合
 同時期に複数画地を売り出す新規造成の住宅団地や、同一時点での評価が求められる土地区画整理地区では、方位格差がクローズアップされることがある。
ア 当初の売出価格
 新規造成住宅団地や土地区画整理地区では売り出し時に大きな価格差が設定されるケースが多く、例えば南東角地の価格を北向き画地に対し10〜15%程度高く設定された場合でも南東角地の競争率が高い、という例がみられる。
 これは、新規造成住宅団地等の場合、同じ地域内で同時期に多数の画地が市場に出され、一般の消費者でも同時に画地間の比較が容易となるばかりでなく、このような新規造成住宅団地等は同程度の画地規模、形状等の場合が多いことから、住宅地の価格に大きく影響を与える日照、通風及び乾湿の差異をもっぱら接面街路の方位の違いとして把握されることとなる。
 また、住宅地の取引において一般の消費者は日照、通風及び乾湿への選好性が非常に強い傾向があることから、特に更地分譲の場合、日照、通風及び乾湿に影響する隣接不動産等の要因はなく、もっぱら日照、通風及び乾湿の優劣は接面街路の方位の差異として把握され、ある画地の接面方位が日照、通風及び乾湿の優る方位であれば消費者の日照、通風及び乾湿に対する期待感は強くなり、逆に日照、通風及び乾湿が劣ると思われる方位の画地は、あまり選好されないこととなる。
 このように日照、通風及び乾湿に対する消費者の選好性が強いことに対応して、デベロッパーは売り出し価格に大きな格差をつけることで、特定の画地に需要が集中しないような販売戦略をとっている。
 この結果、特に新規造成住宅団地では、画地間に強くメリハリ(北向き画地に対し南向き+20%など)をつけた価格設定がなされるケースもみられることとなる。
イ 地域の熟成後の価格
 当初の売出し後、地域が熟成することにより、日照、通風及び乾湿の優劣は方位のみならず隣接不動産等周囲の状態の影響を受けることとなり、日照、通風及び乾湿への接面街路の方位の影響は弱まってくる。また、画地が売り出された場合、一般消費者にとっては当初の売出しのように同じ地域内で画地どうしを比較することが困難である。
 この結果、既成市街地では方位の違いによる価格差が明確に把握されないこととなる。


 4 方位格差の把握

(1) 方位格差と他の要因との関係整理

 本章において、これまで見てきたように、不動産鑑定評価上、日照、通風及び乾湿に影響を与える要因として、方位のほか街路の広狭や土地の高低等があることが、明らかになったが、これらをもとに類型化すると、実際の方位格差とその他の要因との関係は次のようにパターン化して考えられる。



 パターン1は、方位、街路の広狭、土地の高低等の各要因が個別に作用して日照、通風及び乾湿に影響を及ぼしているイメージが考えられる。
 これに対しパターン2は方位と他の要因が重なるイメージで、例えば「土地の高低」は単独で「日照、通風及び乾湿」に影響を及ぼすとともに、「方位」にも影響を及ぼす部分があり、「方位」と「高低」の状況が相まって日照、通風及び乾湿に影響を及ぼしているパターンである。
 パターン3は各要因がすべて重なるイメージであり、複合的に作用しているととらえた状態を示している。
 前述のとおり、価格形成要因は各々ばらばらに独立して存在し作用しているものではなく、すべての要因が有機的に関連し結合し合うことによって不動産の価格を形成していることを考えると、方位についてはパターン2若しくは3のいずれかで整理されるものと考えられ、これらのパターンによって把握することが妥当であると考えられる。

(2) 日照、通風及び乾湿と方位の関係を把握するパターン

 次に、前述のパターン2及び3の関係からすると、方位格差はすべて日照、通風及び乾湿に包含される関係となるが、この両者の関係はこれだけではなく、次の2つのパターンが考えられる。
 下図のパターン4と5は日照、通風及び乾湿と方位との関係に着目したイメージである。



 パターン4は方位が完全に日照、通風及び乾湿に包含されているケースであり、パターン5は方位の影響が日照、通風及び乾湿のみならず他の要因や価格形成に影響を及ぼしているケースを示している。
 パターン5に該当するようなケースとしては、建物レイアウトの制約を考慮する場合がありうる。具体的には戸建住宅地のような場合で、北向き画地と南向き画地で建物と庭の位置関係、前面道路からの配管、出入口や駐車場の配置等が制約される程度に違いが生じることがある。
 しかしながら、一般の戸建住宅地で通常の売買の対象となる土地の場合には、方位が日照、通風及び乾湿以外の要因に及ぼす影響は小さく、パターン5のように格差率として把握するほどの差はない場合が多い。
 接面街路の方位は、住宅地の場合、建物の配置等の自由度により日照、通風及び乾湿が確保されるような画地規模に関連する要因、すなわち当該画地自体に内在する要因というより、接面する街路を日照、通風及び乾湿を確保するスペースとしてとらえ、このスペースと当該画地の規模を一体としてとらえた場合の日照、通風及び乾湿の優劣に影響する要因としてとらえることができる。
 このことは第V章3(2)@(p.16)の南側が公園等のスペースに面する[E]の場合で当該画地と公園等のスペースを一体として考えたときに当該画地単独との比較で、日照、通風及び乾湿の優る程度が把握される場合と同様である。





 したがって、方位格差は日照、通風及び乾湿に包含されるパターン4が一般的と考えられる。

目次へ戻る



W 不動産鑑定評価における要因分析から個性率査定への流れと評価先例

 これまで見てきたように、不動産鑑定評価上の方位格差の位置づけ、作用の実態、把握方法が明らかになったので、本章では、不動産鑑定評価における要因比較の方法と、その具体的取扱いについて考察する。

 1 取引事例比較法における要因の比較

 不動産鑑定評価の一つの手法として取引事例比較法があるが、この手法は取引事例地が属する地域と対象不動産が存する近隣地域について地域要因を比較し、対象不動産が存する近隣地域における標準的画地と当該対象地について個別的要因の比較を行う手法であり、この要因比較には取引事例が存する地域における当該取引事例土地の個別的要因を除いた個別的要因が標準的な土地(標準的画地)を設定して行う方法がある。



(1) 事例価格の標準化補正

 標準化補正では、取引事例に係る不動産について、その事例が属する地域における標準的な土地を設定し、当該取引事例土地に係る個別的要因の標準化補正を行って、まず取引事例に係る土地をその地域の標準的な土地に合致したものに補正する。
 この個別的要因の標準化補正は、取引価格がその不動産の個別的特性を反映し、しかも個々の土地の最有効使用がその近隣地域の特性の制約下にあることから、その個別的要因をその属する地域内で土地の利用状況、環境、地積、形状等が中庸のものである標準的使用の土地、すなわち標準的画地に合致したものに補正するために行うものである。

(2) 地域要因の比較

 次の段階では、その地域における標準的な画地と対象地の存する近隣地域における標準的な画地に係る地域要因の比較を行う。
 この地域要因の比較に当たっては、対象不動産及び取引事例に係る不動産の存する地域それぞれの標準的使用のあり方(標準的画地の利用状況)とそれによって代表される地域の価格水準とを十分に認識し、関連づけて分析することが求められている。

(3) 個別的要因の比較

 対象地が属する近隣地域における標準的画地と対象地との個別的要因の比較を行い、個別格差率を判定する。
 「接面街路の方位」は他の要因と関連しながら「日照、通風及び乾湿」に作用することで、住環境・居住の快適性に影響を及ぼすものであり、鑑定評価で価格形成要因の分析対象となるものである。
 ただし、この要因間の相互関係が複雑であるため、「日照、通風及び乾湿」の格差について個性率として表示する際には、各鑑定士の判断で様々な要因名で代替させて表示することがある。
 例えば新規に造成された住宅団地のように、同時期に同規模・同形状の大量の宅地が供給される場合、「日照、通風及び乾湿」の優劣の程度が増幅され、この優劣の程度が方位格差に代替され顕著に把握されることがある。


 2 方位と関連する評価先例の分析

 方位格差における他の個別的要因との関係の取扱いについて、評価先例の分析を行った。(※詳細は<参考資料1>を参照)
 その結果、方位については、居住の快適性に影響を与える日照、通風及び乾湿との関連でその影響を考慮し、さらに、方位が日照、通風及び乾湿に作用する他の要因と複合する場合、互いの影響を考慮して格差率を査定し、その格差率を方位に代替させて表示することもあれば、逆にその他の要因に代替させて表示することもあることが確認された。

目次へ戻る



X 固定資産税評価における方位格差の取扱い


 1 固定資産税評価における方位格差の課題

 固定資産税評価においては、平成6年度の評価替え以降、宅地の評価において、標準宅地の適正な時価を求めるに際しては、下図に示すように、地価公示価格及び鑑定評価価格等を活用することとされている。この場合、これらの価格を活用する際には、鑑定評価上の個別的要因が含まれていない価格(地域における標準的な価格)を求め、当該価格を基礎として当該標準宅地の沿接する主要な街路の路線価を付設することになる。したがって、固定資産税評価における方位格差の取扱いを検討するに際しては、前章までの内容を踏まえつつ、さらに標準宅地について、鑑定評価額あるいはその1平方メートル当たり標準価格との関係及び考え方等について分析・検討する必要がある。



《市街地宅地評価法のしくみ》



 2 標準宅地の適正な時価と鑑定評価価格等の活用

(1) 鑑定評価価格の活用

 固定資産税評価における標準宅地の適正な時価の評定に際し、鑑定評価価格を活用するに当たっては、標準宅地について、鑑定評価上の個別的要因が含まれていない価格である「1平方メートル当たり標準価格」を求め、当該価格を基礎として当該標準宅地の沿接する主要な街路の路線価を付設することとされている(「鑑定評価書に係る『1平方メートル当たり標準価格』の取扱いについて」平成4年8月20日事務連絡)。これは、標準宅地に固有の評価上の要素が路線価に反映され、路線価を同じくする各画地の共通要素とならないようにするためである。
 ところで、ここにいう「1平方メートル当たり標準価格」とは、鑑定評価における標準的画地の1平方メートル当たり価格であり、また、鑑定評価における標準的画地とは、鑑定対象地の属する近隣地域において土地の利用状況、環境、地積、形状等が中庸のものであり、その利用状況が標準的使用の土地をいうものであるが、固定資産税宅地評価における標準宅地とは、状況類似地域内の主要な街路に沿接する宅地のうち奥行、間口、形状等が当該状況類似地域において標準的な宅地であることに留意が必要である。そのため、当該標準宅地の奥行について、固定資産税の画地計算法を適用され、何らかの補正がなされる場合であっても、それが当該状況類似地域において標準的な奥行であれば、鑑定評価上の標準的画地となり、したがって、「1平方メートル当たり標準価格」にこの鑑定評価上の要素が反映されている場合もあることから、このような場合には当該1平方メートル当たり標準価格を画地計算法に定める当該補正率によって除した額の7割を目途として路線価を付設することとなる(「鑑定評価書に係る『1平方メートル当たり標準価格』の取扱い等について」平成7年9月19日事務連絡)。

(2) 地価公示価格及び都道府県地価調査価格の活用

 標準宅地である地価公示地及び都道府県地価調査地の画地条件等補正内容の把握のため、不動産鑑定士等から意見書を徴し、これらの土地について個別的要因が存する場合には、同要因を標準化補正して求められた「標準化補正後価格」を基礎としてこれらの土地に沿接する主要な街路の路線価を付設することとされている(「標準宅地の適正な時価の評定に当たり、地価公示価格又は都道府県地価調査価格を活用する場合に、不動産鑑定士等から意見書を徴する際の参考様式の送付について」平成10年4月24日事務連絡)。


 3 固定資産税評価における方位格差の考え方

 前章で整理したところからすれば、不動産鑑定評価においては、方位は、他の要因とともに、それを包含する要因である日照、通風及び乾湿に影響を与えているという関係に立つものであり、したがって一般的には、方位は日照、通風及び乾湿の要因によって反映されているものと考えられる。また、前節では標準宅地の適正な時価と鑑定評価価格等の活用について、標準的画地と標準宅地の関係を含めてみてきた。以下、これらを踏まえて固定資産税評価における方位格差の考え方について整理・検討することとする。

(1) 日照、通風及び乾湿の要素として整理される場合

@ 標準宅地の適正な時価の評定
 標準宅地の適正な時価の評定に際し、鑑定評価価格等の活用に当たっては、例えば、鑑定評価価格について1平方メートル当たり標準価格を求めること等によって不動産鑑定評価上の個別的要因が含まれていない地域の標準的な価格になることから、日照、通風及び乾湿に包含される方位の影響についても地域の標準的な価格として含まれているということができる。
 なお、この場合において、日照、通風及び乾湿の影響に最も影響を及ぼす要因を代替して表示させることがあり、この一例として方位格差をもって表示されることがあるが、この場合においても当該方位格差の要因だけに着目して標準的画地の価格が求められるものではないことに注意する必要がある。
A 主要な街路の路線価の付設における日照、通風及び乾湿
 主要な街路は、当該状況類似地域内において、価格事情及び街路の状況等が標準的で宅地評価の指標となる街路が選定される。主要な街路の要素は当該状況類似地域における標準的な価格に影響を及ぼす要素を表しているものと考えられるところから、主要な街路沿いに選定された標準宅地についても、地域の標準的な価格影響要素を反映しているものである。
 また、標準宅地としては、主要な街路に沿接する画地のなかから、同地域の標準的な価格形成要因を体現した画地が選定される。さらに、地域の標準は、主要な街路の標準でもあるので、標準宅地の価格は、主要な街路の標準としての性格も併せ持つこととなる。
 したがって、主要な街路の路線価の付設においては鑑定対象地(=標準宅地)固有の価格形成要素(鑑定評価上の個別的要因)を除いた地域共通及び主要な街路に沿接する画地共通の日照、通風及び乾湿の要素が主要な街路の路線価に反映されていることになる。
B その他の街路の路線価の付設における日照、通風及び乾湿
 その他の街路の路線価についても、主要な街路の路線価を比較することによって、当該街路に沿接する画地共通の日照、通風及び乾湿の要素が反映されているので、それに比準したところのその他の街路の路線価も、当該路線に係るこれらの要素が反映されることになる。
C 方位格差の路線価付設における影響
 A、Bの過程により、日照、通風及び乾湿の程度は路線価において考慮の対象とされていると考えられており、仮に方位格差と呼ばれるものがあるとしても、一般的には日照、通風及び乾湿の要因を把握することによって、価格に反映されていると見ることができる。


(2) 個別の要素として整理される場合

 現状の価格形成要因等を分析すれば、方位を要因とする日照、通風及び乾湿の価格に及ぼす影響が顕著であるのは、ある程度限定された地域であるとみて差し支えない。
 例えば既成市街地においては日照、通風及び乾湿の優劣は方位のみならず隣接不動産等周囲の状況の影響を受け、また、価格に与える影響は周囲の状況による場合の方が勝るのが一般的なので方位による影響は顕在化しないと考えられる。一方、新規造成住宅団地や土地区画整理事業地等の同一・多量の宅地が同時に分譲される場合においては、方位に代替された日照、通風及び乾湿の影響について顕著な価格差が認められる場合があると第V章で分析されたところである。この場合は、路線価とは別に、各筆の評点数の付設において、その価格差を反映することが考えられる。ただし、この価格差については、地域性、個別性が強いので、必要と認められるのであれば市町村長所要の補正として対応するのが適切と考えられる。


 4 所要の補正についての考え方

(1) 所要の補正の例

 前節で、方位格差と呼ばれるものは、日照、通風及び乾湿の優劣が顕著な価格差を方位に代替させて方位格差として把握される場合は、地域性、個別性が強いので、所要の補正として対応するのが適切と整理されたことから、一般的な所要の補正の例を示すことには困難が伴う。また、地域性、個別性が強いことから、所要の補正は限定された地域について対応すべきものであり、地域の実情やその個別性に着目して、個々具体的に判断すべきものではあるが、あえて参考的な考え方を示すと次のようなものが考えられる。
@ 地域性、個別性が強い点に着目し、その影響を総合的に考慮した上で価格差補正を行うということも考えられる。例えば、方位等による日照、通風及び乾湿の程度について、地域の標準と比べて、優る場合や劣る場合に区分し、その補正率を求める等が考えられる。
A 標準宅地の適正な時価の評定において、不動産鑑定士が判断した標準的画地の方位に着眼し、標準宅地と各筆の価格差に着目して、日照、通風及び乾湿の影響を方位格差に代替して把握された価格差について標準的画地の方位と評価対象土地の方位との格差に基づいて補正を行うことも考えられる。ただし、この場合においては、路線価との整合性(場合によっては調整)を確保することに留意する必要がある。


(2) 所要の補正を考慮する場合の留意点

@ 適用対象地域は同時期に大量の画地が分譲される新規造成住宅団地が考えられる。ただし、時間の経過とともに、地域が熟成し、方位以外に日照、通風及び乾湿へ影響を及ぼす様々な要因の作用、市場における需給環境や市場参加者も変化すること等により、既成市街地と同様に顕著な格差はみられなくなることとなる。また、デベロッパーの販売戦略により、価格差が増幅されていることに留意する必要がある。
A 方位は日照、通風及び乾湿に影響を及ぼす要因であり、日照、通風及び乾湿の影響は標準価格、路線価にある程度織り込まれている。したがって、所要の補正により対応するのは特に顕著な格差がある場合に限られる。


 5 その他

 平成14年度土地評価に関する調査研究委員会では、個別的要因を固定資産評価基準に取り込むべきか否かの判断基準として、@個別的要因が価格に及ぼす影響はある程度普遍的であること、A合理的な根拠に裏付けられた一定の数値を示すことが必要、とされているとされたところであるが、このうち、@については、価格に及ぼす影響はある程度普遍的であるとは、価格に影響を及ぼすことが地域的にみられる現象ではなく、全国普遍的に見られるということと、価格に影響を及ぼす程度(価格差の割合)が全国的に見て一定の割合(格差率)で分布していること、また、Aについては、評価基準に取り込まれると全国一律の率等を適用しなければならなくなることから、適用すべき率等を合理的な根拠により示しうることが必要とされている。
 今回、日照、通風及び乾湿の代替要因として接面街路の方位として把握される格差率は、所在する地域、地勢、用途、さらに宅地の規模等の影響を受ける。必然的に、そのため格差率は地域ごとに様々なものとなる。
 このように、価格に及ぼす影響は普遍的とはいえず、また、全国的に合理的な根拠により一定の格差率を示しうるものではないことから、固定資産評価基準に規定し、全国一律的に適用すべきものではない。したがって、これまで考慮した接面街路の方位として把握される格差が顕著な場合においては、固定資産税評価上、所要の補正で対応することが適当と考えられる。

目次へ戻る



Y まとめ

 方位による格差については、仮にその格差が認められるとしても、その価格差の状況、それがどのような場合に現れるか等その実態が必ずしも十分に明らかでなく、地域によっても方位に対する考え方は異なり、また、科学的な数値把握が困難な状況にあるものと考えられる。
 したがって、このような状況の中で早急に結論づけることは困難な面が多々あるが、あえて、その整理を試みるとすれば、以下のとおりと考えられる。

 方位格差と呼ばれるもののうち、「接面街路の方位」において把握できる方位格差は不動産鑑定評価においては、個別的要因として住宅地域の価格形成で重視される「日照、通風及び乾湿」に影響を及ぼしていると整理することが可能であるとされた。
 固定資産税評価においては、標準宅地の標準価格、主要な街路の路線価、その他の街路の路線価の付設等の各段階で方位格差が包含される日照、通風及び乾湿の影響は考慮されていることが合理的に推量できるので、仮に方位格差と呼ばれるものがあるとしても、一般的には日照、通風及び乾湿の要因を把握することによって、価格に反映されていると見ることができる。
 一方、新規造成された住宅団地や土地区画整理地区などでは、同じ地域内で同時期に多数の画地が市場に出されるため、同時に画地同士を比較することが容易になり、地区内での相対的な要因の差異が注目されることになる。このような場合には、各要因の影響を考慮してもなお日照、通風及び乾湿の優劣に基づく顕著な格差が認められ、方位に代替させて格差を把握することがある。
 この場合の格差率は地域や個々の状態により異なることから、固定資産評価基準の画地計算法などで統一的な補正率を定めることはできず、市町村ごとの所要の補正で対応することが適当と考えられるが、所要の補正を行う場合については、@時間の経過とともに、地域が熟成し、方位以外に日照、通風及び乾湿へ影響を及ぼす様々な要因の作用、市場における需給環境や市場参加者も変化すること等により、既成市街地と同様に顕著な格差はみられなくなること。A所要の補正により対応するのは特に顕著な格差がある場合に限られることといった点に留意する必要がある。

目次へ戻る



<参考資料1>方位と関連する評価先例の分析


評価例@ 日照・通風及び乾湿を接面街路の方位の差として考量した例


【標準的画地】              【対象地】



 要 因 分 析
日照・通風及び乾湿による居住の快適性、建物の配置等の利用効率が劣る
セットバックを要する不整形地で建物のレイアウト等利用効率が劣る
総額が抑えられ、市場性が優る




 個性率の表示
〈方位格差〉  接面方位……▲1
〈画地条件〉  規模が小さい
        路地状部分を含む不整形
        要セットバック

 この例では、日照・通風及び乾湿による居住の快適性とともに建物配置等の利用効率の面も合わせて接面方位の格差として表示している。また接面方位を北向きととらえ、南側は道路幅員も間口も狭いため、南側で接面している影響はないものと判断している。


(参考)

仮に右図のように南側道路の幅員が広かったとしても、接面する間口が狭いため、一般的に方位はプラス評価されない。


 なお、実際の比準過程では相関関係にある要因が複合する場合、互いの影響を考慮して格差率を査定し、同じ要因の影響をダブルカウントしないように調整していることに留意する必要がある。


評価例A 接面街路の方位の影響を角地で代替表示した例


【標準的画地】              【対象地】




 要 因 分 析
角地で、接面方位等も勘案すると利用効率・居住の快適性が優る




 個性率の表示
〈方位格差〉 (記載なし)
〈画地条件〉 角地……+4

 このように、要因分析では日照・通風及び乾湿との関連で方位の影響を考慮しながら、格差率としては「角地」に代替させて表示することがある。この場合の「角地」には「接面方位等も勘案すると利用効率・居住の快適性が優る」ことも考慮した格差が含まれている。
 すなわち、単に正面と側方で道路に面することのみをもって格差率を査定しているものではなく、「南東の角地」を考慮していることから、仮に「北西の角地」であった場合には、上記例の「+4」とは格差率が異なることもありうる。


評価例B 住宅団地で、方位による格差が顕在化しているとして格差率表を定めた例
 新規造成住宅団地、土地区画整理地区等で多数の画地が同時期に売り出されたときに、日照・通風及び乾湿が優れた画地が相対的に高い競争率になる例がみられる。これは同じ地域内の多数の画地が売り出されたことにより、一般消費者にとっても各画地の条件を相対的に比較しやすくなることから、方位以外の条件が同じ場合、日照・通風及び乾湿の優劣が方位による格差として把握されることとなり、方位の差異がより注目された結果と考えられる。
 ここで、ある住宅団地における鑑定評価先例から、方位の影響を考慮した格差率を定めた例を取りあげる。
 この住宅団地の評価では次のような前提のもとに、方位等の要因の格差率表を査定し、評価を行っている。
@ 適用対象を一定の地域(同団地内、鑑定評価上は近隣地域)に限定
A 適用地域内では価格形成過程が類似
B 格差率の査定においては、複合する他要因の格差率の影響も総合的に勘案
C 画地の規模など他の要因との関連で格差率変更・適用除外とする場合も想定


i) 評価の概要
 この評価例の対象地はいずれも○○2丁目に所在する戸建住宅用地である。
 この造成団地は街区が区画整然としており地域の一体性が強く、周辺の既成住宅地域と比較して良好な近隣環境が形成されており、価格形成過程に類似性が認められる。
 評価の手順として、まず標準地(近隣地域の標準的画地)の標準価格を査定し、次に各画地の個別的要因の格差修正率を査定して、各画地の価格を求めている。
ii) 日照・通風及び乾湿と方位格差の扱い
 この住宅団地の評価例では、日照・通風及び乾湿に係る価格形成要因について次のような分析を行っている。

要 因 分 析    
道路との接面方位による効用の差は、方位との関係によって隣接画地等の建物からの距離、日照・通風及び乾湿、プライバシー等の居住の快適性が異なることによるが、特に日照が重視されている。
ただし、戸建住宅用地以外の規模が大きい画地について、分割利用の可能性等を考慮すると影響は過少と判断し、格差は付さない。
角地は中間画地と比較して建築上のメリット、日照・通風及び乾湿の快適性が優るなどの利点がある。
また、角地間では方位によって日照・通風及び乾湿の快適性に差が認められる。
ただし、規模が大きい画地については効用がやや薄れるため、個別に格差率を査定した。
概ね前面道路の幅員が広いほど効用が増加
団地内の高台地では、日照・通風及び乾湿、景観等の効用を考慮
道路・隣地との高低差について、日照・通風及び乾湿、排水、見通し、プライバシーの保護等を考慮
間口・奥行について、採光・通風、開放感を考慮
個性率の表示    
    角地、幅員、隣接不動産等周囲の状態(高台地・地勢)、高低差、間口・奥行の要因ごとに格差率表を査定。
日照・通風及び乾湿の影響は方位だけではなく、上記の各要因の格差率に含めて考慮されている。



《要因ごとに定めた格差率表のイメージ》


【日照・通風及び乾湿に関連する要因の格差率表】







目次へ戻る



報告 土壌汚染対策法と不動産鑑定評価上の考え方について





はじめに

 平成15年2月に、土壌の汚染の状況の把握、土壌の汚染による人の健康被害の防止に関する措置等の土壌汚染対策を実施することにより、国民の健康の保護を目的として、土壌汚染対策法が施行されたところである。
 一方、不動産鑑定評価においては、平成14年7月に、収益性を重視した鑑定評価の充実、鑑定評価結果の説明責任の強化等を目的とした不動産鑑定評価基準の改正(平成15年1月1日施行)の一環として、土壌汚染等の地中の状態についても価格形成要因に係る調査事項として基準等に具体的に明記されたところである。しかしながら、不動産鑑定評価においても、なお土壌汚染地の明確な鑑定評価手法が確立されているとは言い難い状況にある。
 そこで、まずは土壌汚染をめぐる鑑定評価の分野における現状、現実の取引の実態等について整理したので、その概要を参考として報告するものである。

目次へ戻る



 1 土壌汚染対策法の概要

 土壌汚染対策法は、土壌の汚染の状況の把握、土壌の汚染による人の健康被害の防止に関する措置等の土壌汚染対策を実施することにより、国民の健康の保護を図ることを目的として制定され、平成15年2月から施行されている。
 この法律においては土壌汚染の原因物質を「特定有害物質」と規定しているが、具体的には、鉛、砒素、トリクロロエチレンその他の物質(放射性物質を除く。)であって、それが土壌に含まれることに起因して人の健康被害を生ずるおそれのあるものとされている。
 また、この法律の目的を達成するため、土壌汚染の状況の調査、区域の指定及び健康被害の防止措置等を講ずることとされている。(参考資料2−1)

(1) 土壌汚染の状況の調査

@ 土壌汚染対策法第3条による調査
 使用が廃止された「特定施設」(水質汚濁防止法第2条第2項に規定する施設)であって、その施設において特定有害物質を製造し、使用し又は処理する施設に係る工場・事業所の敷地であった土地の土地所有者、管理者又は占有者(以下、「所有者等」という)は当該土地の土壌汚染の状況について指定調査機関に調査させ、その結果を都道府県知事に報告しなければならないとされている。(参考資料2−2,2−3)
A 土壌汚染対策法第4条による調査
 都道府県知事は、特定有害物質による土壌汚染により人の健康被害が生ずるおそれがあるものとして、一定の基準に該当する土地があると都道府県知事が認めるときは、土壌汚染の状況について、当該土地の所有者に対し、指定調査機関に調査させて結果を報告することを命ずることができるとされている。

(2) 指定区域の指定等

 都道府県知事は(1)@、Aの調査の結果、当該土地の土壌の特定有害物質による汚染状態が環境省令で定める基準に適合しないと認める場合は、当該土地の区域を特定有害物質によって汚染がされている区域として指定(以下、「指定区域」という)、公示することとされており、その場合には、指定区域の台帳を調製し、閲覧に供することとされている。

(3) 健康被害の防止措置

 人の健康に係る被害が生じるおそれがある場合には、都道府県知事は、土地の所有者等に対して、汚染の除去等の措置を命ずることができる。また、指定区域内で土地の形質変更をする場合には、都道府県知事に届け出なければならず、施行方法が一定の基準に適合しないと認めるときは、その施行方法に関する計画の変更を命令することができるとされている。なお、土地の所有者等に土壌の汚染除去等の措置命令がなされた場合には、命令を受けた土地所有者等は、汚染原因者に費用を請求することができるとされている。(参考資料2−4)

(4) 指定区域の状況について

 土壌汚染対策法による指定区域については、既に解除された区域も含めると平成17年1月15日現在で52区域となっている。このうち、既に全部解除された区域は17区域となっており、これらの区域は12の地方団体に所在していた。また、一部解除された指定区域は3区域となっており、これらの区域は3の地方団体に所在していた。これらの解除に係るものを除いたものが現に指定されている指定区域となるが、これについては32区域となっており、26の地方団体に所在している。なお、この団体数は、延べ数である(参考資料3参照)。

目次へ戻る



 2 不動産鑑定評価における土壌汚染の取扱い等の状況

(1) 土壌汚染の経緯

 不動産市場の中で土壌汚染がクローズアップされたのは、ここ数年の話になると思われるが、土壌汚染は、かなり古くからあるが、土壌汚染の原因行為はつい最近の話ではなく、むしろ、少なくとも昭和の時代が主だったといわれている。また、汚染原因についても違法性のあるものとは限らず、たとえば、揮発性有機化合物(以下、VOCという)であるテトラクロロエチレンや、重金属である六価クロムといった、当時非常に便利なものとして扱われていたものが、実は有害なものであったということが、後々大きな問題になった(参考資料2−5)。こうしたことから、平成3年には土壌汚染の環境基準が設けられ、平成15年の土壌汚染対策法の施行に至っている。
 一方、不動産市場において土壌汚染の問題は、phase(フェイズ)T,U,V(※)といったASTM(米国材料試験協会)の履歴調査の規格や、土壌汚染対策法及び各地方自治体の土壌汚染に関する条例などの制定、個別の問題事例等があり、これらを背景として、不動産鑑定評価の改正があり、土壌汚染という問題が大きなインパクトを与えることになった。(参考資料2−6)
土壌汚染の調査は、簡易なものから複雑なものまで様々あり、専門調査機関以外の不動産鑑定士等が行ういわゆるフェイズ0.5と呼ばれる調査から、専門調査機関が行うフェイズV調査まであるとされている。


(2) 土壌汚染対策法と不動産市場

 土壌汚染対策法は健康被害の保護が目的であり、不動産市場あるいは不動産の価値から考える場合には捉え方が異なることになる(参考資料2−7)。
 また、土壌汚染対策法においては立ち入り禁止や、覆土、掘削除去等様々な措置があるものの、その目的は健康被害の保護であり、原則は覆土ということになっている。ただし、指定区域が解除になる要件については掘削除去あるいは原位置浄化になっている(※掘削除去も原位置浄化も措置の際に含有基準、溶出基準を超える汚染範囲を確定して、その全てを浄化する)。この措置レベルには立ち入り禁止から掘削除去まで様々あるが、掘削除去に近づくほど、費用がかかることになる(参考資料2−8)。

(3) 土壌汚染地の価値

 土壌汚染地の価値について、基本は掘削除去、浄化であることを考えると、その価値は、土壌汚染がないものとした場合の土地の価値から、浄化措置に要する費用と、心理的な嫌悪感等と呼ばれるスティグマによる減価を控除したものになると考えられる。ただし、この場合、地価水準が低いところについては、スティグマを考える前の掘削除去等の浄化措置に要する費用が、土壌汚染がないものとした土地の価値を上回ることになることが考えられる。スティグマについても、浄化した後に、すぐに消滅するということにはならないとしても、一般に時の経過とともにその減価は逓減していくのではないかという考え方もある(参考資料2−9,2−10,2−11)。

(4) 鑑定評価基準と土壌汚染

 不動産鑑定評価基準が改正されたことに伴い、不動産鑑定士がおこなわなければならない調査(独自調査)は、土壌汚染対策法等の情報や、閉鎖登記簿を含めた過去に遡っての調査とされている。この調査については、過去の住宅地図について、昭和30年代まで遡ることが理想とされている。また、ヒアリングや、終戦直後の米軍による航空写真などについてもできる範囲内で収集することになっている。このような調査を全く行わずに、不動産鑑定士等は鑑定評価することができないということになる(参考資料2−12)。
 また、正常価格の概念については、土壌汚染のない場合の価値と比較して、基本的には浄化措置(掘削除去、原位置浄化)に要する費用を前提としたものと、スティグマによる減価の2つの要素分の価値減価を考量したものを原則的に正常価格と考えることが、不動産市場の実態からも妥当性が高い(参考資料2−13)。ただし、掘削除去等を行うと、浄化措置に要する費用がもともとの土地の価値を上回る場合には、この考え方は使えない場合があるという問題がある。
 また、社団法人日本不動産鑑定協会から「土壌汚染に関わる不動産鑑定評価上の運用指針U」が示された。不動産鑑定士等の専門家責任を可能な限り回避できるように、鑑定評価する際には、判断に至った経緯について鑑定評価書に記載するといったことや、その判断に至った資料を一定期間保管することなどが定められている(参考資料2−14,2−15,2−16)。

(5) 浄化措置に要する費用

 鑑定協会の考え方としては、現時点では不動産鑑定士等が独力で浄化措置に要する費用の算定を行うことができるものではなく、専門調査機関からの見積もりを活用し、その見積もりの内容について不動産鑑定士等が判断して、浄化措置に要する費用として用いることになっている(参考資料2−17)。

(6) スティグマ

 スティグマは心理的な要因だけではなくて、調査が不十分であった場合の対応など、将来、追加的に発生する費用なども含まれている。また、売り手・買い手の中でスティグマに関しては主張が分かれている(参考資料2−18,2−19,2−20,2−21)。

(7) 土壌汚染地の評価手法

 不動産鑑定評価基準には原価法、取引事例比較法、収益還元法の3手法があり、各試算価格を調整して最終的な鑑定評価額を求めるが、土壌汚染地に関しては事例がないことなどの理由により、土壌汚染がない場合の土地の価値を求め、浄化措置に要する費用とスティグマによる減価を控除するという手法を取らざるを得ないということが現状のようであり、鑑定協会も、当面、この一手法で評価を行うこともやむを得ないという見解を示している(参考資料2−22,2−23)。

(8) 価格形成要因としての土壌汚染

 価格形成要因として土壌汚染をどのように捉えるかについては、土壌汚染による減価を定量化し、それを不動産の鑑定評価額にどのように反映させていくかということである。土壌汚染による減価を定量化するには一定レベルの土壌調査が必要であり、可能性のレベルにとどまる不動産鑑定士等の独自調査や、専門調査機関によるフェイズT調査では、当該減価を定量化するというところまで達しないことになる(参考資料2−24,2−25)。
 なお、鑑定協会の運用指針Uに関する研修会において、土壌汚染地の鑑定評価額を求めるのに必要な調査レベルに関する基本的な考え方が示された。

(9) 各省庁の考え方

 土壌汚染地の評価に関しては、各省庁で種々の考え方が併存している。ここでは、国土交通省の不動産鑑定評価基準について概要をまとめてきたが、国土交通省による「公共用地取得における土壌汚染への対応に関する基本的考え方」については、覆土が原則措置になっており、財務省の国有財産を売却するときの考え方については、掘削除去が基本になっている。また、競売の場合については、土壌汚染の可能性(必ずしも専門調査機関による十分な調査によらないレベルの可能性)で減価の判定をすることになっている。一方、国税庁は土壌汚染地として評価する土地は、「課税時期において、評価対象地の土壌汚染の状況が判明している土地」であり、土壌汚染の可能性があるなどの潜在的な段階では土壌汚染地として評価することはできないという考え方が基本になっているが、ここでいう「土壌汚染の状況が判明している土地」とは、フェイズUの調査が行われており、土壌汚染の質的、量的な把握ができる土地であると思われる(参考資料2−26,2−27,2−28,2−29)。

目次へ戻る



<参考資料2> 土壌汚染と不動産鑑定評価



〔2−1 土壌汚染対策法のフロー〕






〔2−2 有害物質使用特定施設とは〕






〔2−3 土壌汚染対策法上の特定有害物質〕






〔2−4 健康被害の防止措置等の実施主体と費用負担〕






〔2−5 土壌汚染の経緯〕






〔2−6 不動産市場と土壌汚染〕






〔2−7 土壌汚染のとらえ方〕






〔2−8 土壌汚染に対する措置のレベル〕






〔2−9 土壌汚染地の価値のイメージ〕






〔2−10 土壌汚染地の価値の時系列変化〕






〔2−11 土壌汚染地の価値概念〕






〔2−12 不動産鑑定士による調査事項〕






〔2−13 正常価格の概念〕






〔2−14 土壌汚染に関わる不動産鑑定評価上の運用指針Uについて〕






〔2−15 土壌汚染に関わる不動産鑑定評価上の運用指針Uのポイント〕






〔2−16 不動産鑑定士の専門家責任〕






〔2−17 浄化コストとは〕






〔2−18 スティグマとは〕






〔2−19 買い手のスティグマに対する意見〕






〔2−20 売り手のスティグマに対する意見〕






〔2−21 スティグマの傾向〕






〔2−22 不動産鑑定評価における土壌汚染地の評価方法(パターン1)〕






〔2−23 不動産鑑定評価における土壌汚染地の評価方法(パターン2)〕






〔2−24 価格形成要因としての土壌汚染〕






〔2−25 価格形成要因としての土壌汚染の特殊性〕






〔2−26 土壌汚染地に対する各省庁の考え方〕






〔2−27 公共用地取得の場合の土壌汚染地に対する考え方(国交省)〕






〔2−28 公共用地取得の場合の土壌汚染地に対する考え方(国交省)〕






〔2−29 相続税評価の場合の土壌汚染地に対する考え方(国税庁)〕




目次へ戻る



<参考資料3> 土壌汚染対策法における指定区域

目次へ戻る

戻る