評価センター資料閲覧室

第13回固定資産評価研究大会概要「時代の変化に固定資産税はどう対応していくべきか〜家屋評価の場合〜」

1 講演

「地方税をめぐる当面の諸問題」

(財)資産評価システム研究センター理事長  堤 新二郎
レジュメ

最初に、「地方税をめぐる当面の諸問題」と題して、地方税財政の現状と問題点についてお話をさせて頂きます。時々感想や意見を言うかもしれませんが、それは、かつて私の勤務していた役所(自治省)の意見でも、まして、現在の総務省の意見でもありません。全くの私見です。

1 地方財政の現状

まず、資料1(P.7)、地方財政の現状を見てみますと、近年、大幅な地方財源不足が続いております。平成19年度に4.7兆円にまで減少しましたが、平成21年度では、約10.5兆円の地方財源不足が見込まれました。

この財源不足に対しては、地方債の増発と地方交付税の増額で対処しておりますが、この結果、地方債依存度が平成21年度は14.3%と14%を超えております。

参考までに、国の一般会計では、平成21年度補正後で、公債金収入が44兆円、公債依存度は43.0%です。これが税収の激減で、公債は50兆円を超えると言われています。

次に、資料1の右ですが、地方は、多額の借入金残高を抱え、平成21年度末で、197兆円、約200兆円と見込まれています。平成3年頃は、これが70兆円程度でしたが、その後、増加の一途で、この5年ほどは、200兆円前後で高止まりをしている状況です。

参考までに、国の公債残高は、平成21年度末で、約600兆円と見込まれ、国、地方を合計した借入金残高は、平成21年度末で、約800兆円と見込まれています。金利が1%上がるだけで、約8兆円の公債費が増加します。

また、800兆円の借金残高は、日本のGDPを約500兆円とすると、その1.6倍となります。

この800兆円の借入金を、日本の人口1億2千7百万人で割りますと、国民一人当たり約630万円、4人家族で約2,500万円借金をしていることになります。

先進国でも、こんなに借金を抱えている国はどこにもありません。日本の財政は破綻しています。恥ずかしい話です。政治の怠慢です。

資料1の右下、個別の地方団体の財政状況をみても、財政構造の弾力性を判断する、経常収支比率、公債費負担利率等が、いずれも10年前に比べて更に悪化しており、財政の硬直化が懸念される状況にあります。

2 国・地方の税源配分について

次に、資料2(P.7)、国と地方の税源配分について見てみますと、平成19年度で、国・地方合わせた国民の租税総額は92.2兆円、このうち国税は52.7兆円、地方税は39.5兆円で、国税対地方税は、57対43、約6対4となっています。

これに対し、国と地方の歳出総額は149.2兆円、このうち国の歳出は61.4兆円、地方の歳出は87.9兆円で、国の歳出対地方の歳出は、41対59、約4対6となっています。

つまり、国と地方の関係で、歳出と歳入が対応しておらず、その差額は、国から地方へ、地方交付税や国庫支出金等が交付されていますが、歳入・歳出が出来るだけ対応するためには、もう少し、国から地方への税源移譲が必要です。

それとともに、約150兆円の国・地方の歳出に対し、約90兆円(しかも、平成21年度の税収見込みでは約80兆円)の税収しか確保できていない、その差額は、国債・地方債の増発で穴埋めし、将来の子どもたちに借金返済のつけを回しています。子どもたちが可哀想です。こんな状態は、一刻も早く解決しなければいけません。

無駄を見直し、思い切った歳出削減をすることも当然のことですが、とてもそれだけで対応できないことは明らかです。政治の責任で、国・地方を通じた税収増を含む、抜本的な税制改正の検討が1日も早く望まれます。

3 国税・地方税の税収内訳

次に、資料3(P.8)、国税・地方税の税収内訳を、平成21年度の国の予算と地方財政計画で見てみますと、国は、所得税が15兆円、法人税が10兆円、消費税が10兆円で21.6%、その他が10兆円と、なんとなくバランスが取れた構成になっています。

これに対し、道府県税と市町村税を合わせた地方税合計でみますと、地方消費税が6.9%と少ないのが目立ちます。道府県税では、景気に左右されやすい法人二税が28.3%と約3割を占めていること、市町村税では割と安定的な固定資産税が42.5%、都市計画税と合わせると約10兆円、約5割という大きな割合を占めているのが特徴です。

地方の仕事は、教育や福祉等住民に身近なサービス、また、法令で義務づけられているものがかなり多く、それを賄う地方税収は、できるだけ安定していることが望ましく、税収入の安定を図る観点からも、法人関係税と消費税の関係を見直すべきでしょう。

4 消費税の国と地方の配分

次に、資料4(P.8)、消費税の国と地方の配分についてであります。

皆さん方は十分ご承知だと思いますが、改めて、おさらいの意味をこめて、説明します。

いわゆる「消費税」5%は、国税の消費税4%と地方消費税1%(正確にいうと、国の消費税4%に地方消費税の税率25/100をかけるので、1%になる)を、国(税務署と税関)において、合わせて徴収しています。

また、国税の消費税4%の一部、具体的には、29.5%が、地方共有の財源としての地方交付税の原資とされています。これは、消費税4%に対し、1.18%になります。

従って、地方交付税として地方に交付される消費税分を差し引くと、いわゆる「消費税」5%の税収は、国分2.82%相当と地方分2.18%相当、もっと解りやすくいうと、消費税の国と地方の配分は、56.4対43.6ということになるのです。従って、平成21年度の税収で、いわゆる「消費税」5%、12.7兆円のうち、43.6%、5.5兆円は地方の社会保障費等の財源であり、国が年金財源等に充当できるのは、消費税率5%のうち、2.82%、7.2兆円しかありません。いわゆる消費税5%を全て年金に充てるなどと言う人は、現在消費税のうち地方へ配分されている5.5兆円の一般財源を地方から取り上げようというのでしょうか。

5 人口一人当たりの税収額の指数

次に、資料5(P.9)、人口一人当たりの税収額の指数についてであります。地方団体のサービスが、年度間で、また、地域間で、出来るだけ差が無いようにするためには、それを賄う地方税収が、安定的であるとともに、地域間で余り偏らない、いわゆる偏在度の少ないことが望ましいことは言うまでもありません。そこで、税収の偏在度を、都道府県ごとの人口一人当たり税収額の指数(全国平均を100とした場合)の最大値を最小値で割った数値でみることにします。例えば、地方税計では、最大の東京都175.9を最小の沖縄県58.4で割ってみると、3.0倍になります。

これでみますと、地方税全体では3倍、個人住民税では3.1倍、法人二税では6.6倍、地方消費税では1.7倍、固定資産税では2.2倍となっており、法人二税の偏在度が一番大きく、地方消費税と固定資産税が2倍前後で、偏在度の小さい税であるということができます。

税収の偏在是正という観点からも、法人二税と消費税の関係の見直しが求められます。

6 旧道路特定財源の現状(地方分)

次に、資料6(P.10)、旧道路特定財源の現状(地方分)についてでありますが、暫定税率による増収分は、地方税として、軽油引取税、自動車取得税、地方譲与税として、地方揮発油譲与税、自動車重量譲与税の合計で、都道府県で5,473億円、市町村で2,582億円、合計8,055億円となっています。

旧道路特定財源(地方分)の収入合計が、1兆8,000億円なので、暫定税率による増収分は、44.6%という大変な割合になっています。このほか、国の揮発油税等の暫定税率による増収分が1兆6,700億円、地方の増収分8,000億円と併せて、暫定税率による増収分は、約2.5兆円となります。

暫定税率分を含む道路特定財源のおかげで、日本国中の道路がかなり整備されたことは事実です。民主党政権は、この2.5兆円の暫定税率を廃止しようとしています。これから地球温暖化対策のための環境税等を検討すべき時に、今、直ちに暫定税率を廃止するのは如何でしょうか。それこそ、暫定的に、暫定税率を維持しておいて、早急に環境税等を検討し、それに切り替えていくべきではないですか。

また、この道路特定財源について、平成21年度から歳入面では一般財源化されました。歳出面では、相変わらず道路関係経費に充てられているという批判がありますが。しかしながら、一般財源化しますと、今度は、なぜガソリンや軽油の消費や自動車の取得だけに、消費税のほかに他の税を上乗せして課税するのかということが問題になります。道路の建設等に当てる特定財源だということで消費税とは別に課税されているものを、納税者の理解が得られたうえで一般財源化されたのか疑問です。

この旧道路特定財源には、このように暫定税率、一般財源化、地球温暖化対策、地方の財源確保等、色々と詰めなければいけない問題があり、政権交代を機に、これらの問題について、十分な議論を、しかも、スピード感をもった議論を、して欲しいと思います。

なお、市町村道路は、歩道や側溝、交通安全等、国道、都道府県道と比べて、まだまだ整備が遅れています。また市町村は財政的にも脆弱であり、市町村分2,582億円の減収は大きいと思います。何らかの財政的な対応が必要です。

7 個人住民税の公的年金からの特別徴収制度

次に、資料7(P.10)、個人住民税の公的年金からの特別徴収制度でありますが、これは、公的年金受給者の納税の便宜や市町村における徴収の効率化を図る観点から、平成20年度の税制改正において導入され、今年10月の年金支給分から徴収実施されています。新たな税負担を求めるものではなく、住民税担当部局や年金担当部局では、年金受給者の方々への周知・広報に努めておられると思いますが、お集まりの皆様も、ご理解頂いて、関係の方々から聞かれた場合など、この趣旨をお伝え下さい。

8 地方税の電子化のスケジュール

次に、資料8(P.11)、地方税の電子化についてでありますが、現在、社団法人地方税電子化協議会を設けて、そこを拠点に、法人二税、事業所税、住民税の給与支払い報告書等の電子申告等を進めることにしております。都道府県はすべて加入しておりますので、まず、全市町村に協議会に参加(加入)して頂くとともに、各種税の電子データの活用が図られるようにとのことです。総務省も、熱心に取り組んでおられますが、納税者側からは、やはり全地方団体が加入してくれないと、手書きの資料と電子申告が混在し、効率が悪く利用しにくいものとなりますし、地方団体からすれば、所得税確定申告資料のデータ連携とか、固定資産税の償却資産申告書と法人税等の資料との連携など、電子申告が地方団体の賦課徴収上もっと大きなメリットがでるよう、国において検討してもらいたいと思います。

9 税制調査会の設置について

最後に、資料9(P.11)、税制調査会の設置についてでありますが、政権交代により、従来の自民党政府の時の、政府税制調査会(政府税調)と自民党税制調査会(党税調)をともに廃止し、内閣府に、財務大臣を会長とする税制調査会を設置することにされましたので、その閣議決定を資料の最後につけておきました。民主党政権による、政府税調も、10月8日の総会で、鳩山総理から、諮問を受け、早速、来年度の税制改正についての審議が始まりました。

諮問事項では、

① マニフェストにおいて実施することとしている税制改正項目について、その詳細を検討すること

② 租税特別措置をゼロベースから見直すための具体的方策を策定すること

③ 地域主権の確立、地方再生の観点から、地方税制のあり方について検討すること。その際、国・地方の役割分担の見直しと合わせた税財源配分のあり方の見直し、地方の声を十分に反映する仕組み及び地方税制に関する国の関与のあり方についても検討すること

等7項目ありますが、税制の抜本的な改革については、最後の、7項目目に、「税制抜本改革実現に向けての具体的ビジョンについて検討すること」とあるだけで、消費税については、全く言及されていません。

新しい税制調査会が、国民の目線に立って、真に公正・公平で、かつ、必要にして十分な、安定的な税収を確保できる税体系の構築に向けて、真の意味で、政治主導で議論を進められるように、ゆめゆめ財務省主導や過去官僚主導、ましてや国税優先の税制にならないよう祈るばかりです。



資料1


資料2


資料3


資料4


資料5


資料6


資料7


資料8


資料9