評価センター資料閲覧室

第13回固定資産評価研究大会概要「時代の変化に固定資産税はどう対応していくべきか〜家屋評価の場合〜」

「固定資産税創設60周年を迎えるに当たって」

(財)資産評価システム研究センター理事長  堤 新二郎


レジュメ

次に、残された時間で、「固定資産税創設60周年を迎えるに当たって」と題して、お話をさせて頂きます。ここでも、意見にわたるところは、全くの私見です。

はじめに

昭和24年、シャウプ勧告が出されてから、今年で60周年、勧告を受けて、翌25年、現行地方税法が制定され、固定資産税が創設されてから、来年で60周年を迎えます。また、昨年、当評価センターは、設立30周年を迎え、それを記念して、『固定資産税のあゆみ』という冊子を発刊しました。

固定資産税の制度と評価について、現時点での概要、改正経緯を簡潔に纏めるとともに、評価センターにおける30年間の調査研究事業の推移やこの評価研究大会全12回の概要、路線価等データの集約とインターネットによる「全国地価マップ」の経緯と概要等を纏めています。

全地方団体はじめ関係の方々に既に配布しておりますので、関心のある方は、お暇なときに、ざっと目を通して頂ければと思います。

1 固定資産税創設までの経緯

資料10(P.19〜20)の1、固定資産税創設までの経緯でありますが、土地に対する課税としては、明治6年に、国税としての地租と府県税としての地租附加税の創設、明治21年に、市町村の地租附加税が創設されています。

家屋に対する課税としては、明治15年に、家屋税が、東京・大阪・京都・神奈川の大府県に限り創設され、明治21年にはこれらの府県の市町村に家屋税附加税が創設、その後(明治23年)全国で課税できるようになりました。

償却資産に対する課税としては、明治11年に、国税の船税に対し府県税として船税附加税の創設、大正15年に、府県の電柱税と市町村の附加税が、昭和22年に、府県の軌道税と市町村の附加税が、創設されています。また、市町村は、法定外独立税として、各種事業用償却資産(例えば、原動機、冷凍機、織機、製材機、印刷機等々)に対する課税を行っていました。

現在の固定資産税は、このような、地租、家屋税及び個別償却資産に対する課税に由来する、長い歴史を有する税であることをまず認識して頂きたい。

特に、地租については、創設当初、全国的な地租改正反対の一揆や暴動に見舞われながらも、時の為政者の大変な努力の末、定着していきました。

2 シャウプ勧告と現行地方税法の制定による固定資産税の創設

資料10の2、シャウプ勧告と現行地方税法の制定による固定資産税の創設ですが、昭和24年に、国・地方を通じる税制改革について、シャウプ勧告がなされました。

まず、地方税制全般について、市町村税の増税、附加税の廃止、いわゆる雑税の廃止、三大地方税(地租・家屋税、住民税、事業税)の大改正の4つの重要な点についての改革が勧告されています。

次に、シャウプ勧告は、個別の税目についても勧告していますが、特に、地租・家屋税を徹底的に改革しなければならない。具体的には、

① 市町村税として、市町村が課税の全責任を負うとともに、税収入は全額市町村のものとする

② 課税標準は、従来の賃貸価格から資本価格(自由な市場において得られる価格)に変更する

③ 課税客体は、土地、家屋のほか、所得税・法人税において減価償却が認められる事業用資産(減価償却資産)を含むこととし、名称は不動産税(the real estate tax)に改めるべきである等と勧告しています。

そして、昭和25年、このシャウプ勧告を受けて、現行地方税法が制定され、市町村税として固定資産税が創設されました。

創設当時の固定資産税の課税要件を見ますと、税率と免税点が変わっているほかは、現在の固定資産税の課税要件と全く同じであります。また、評価方法をみると、地方財政委員会(旧自治省、現総務省)の評価の手引きとあるのが、昭和38年に、固定資産評価基準になったほかは、全く同じです。

従って、現在の固定資産税は、全く昭和24年のシャウプ勧告と昭和25年の現行地方税法から生まれたもので、それ以後、基本的には大きな変更はありません。

3 固定資産税創設後の経緯

次に、資料10の3、固定資産税創設後の経緯でありますが、昭和26年度から平成21年度まで、年次別に、主要な改正の経緯を抜粋しておきました。見出し程度しか書いていませんので、関心のある箇所は、是非『固定資産税のあゆみ』の本文を見て下さい。

レジュメの中程では、改正の主要なものを、税率、税負担の軽減措置、負担調整措置、評価関係といった論点といいますか、項目ごとに纏めています。

まず税率では、昭和25年、1.6%の一定税率でスタートしましたが、早くも、翌26年に、一定税率から標準税率と制限税率に改正され、その後、29年、30年に、税率が引き下げられ、標準税率が1.4%になり、以来今日まで50年以上維持されています。

制限税率の方は、昭和34年に、2.1%に引き下げられた後、平成16年に撤廃されるまで維持されてきました。

このように固定資産税の税率が長期間にわたって同じ率で維持されてきたのは、税率を上げないでも経済の発展に応じて税収が確保できたほか、税率を引き下げないで、

① 固定資産税の評価において税負担を配慮してきたこと

② きめ細かい負担調整措置や住宅用地の特例措置の導入等で税負担を配慮してきたこと

③ 市町村ごと、更に同一市町村内でも、負担水準の均衡が保たれていないなかで、一律に標準税率の引上げ、引下げを行うことが困難であったこと等によるものです。

平成6年度の評価替えから導入された地価公示価格の7割評価により、評価の適正化が図られ、評価で税負担を配慮することを止めました。

また、負担水準の均衡化促進のための負担調整措置が導入され、かなり負担水準の均衡化も図られてきましたので、地方分権、課税自主権の観点からもいよいよ標準税率のあり方が、その税率の水準も含め、議論することが可能になってくると思います。

次に、税負担の軽減措置では、電気事業等公益事業用償却資産等に対し、昭和28年、税率の特例措置が導入され、翌29年に、課税標準の特例措置に切り替わり、その後、様々な固定資産(主に償却資産)に対する特例措置が導入されたり、縮減、廃止されたりしています。この特例措置の改正経緯を辿ると、日本の経済成長政策、産業政策等が解って面白いと思います。

この特例措置については、法人税等においては、政策的に割と簡単に特別償却等が認められても、固定資産税では、広く薄く負担して頂く税として、公平の観点からも、また市町村の財政に影響を及ぼす点からも、私ども事務方はできるだけ特例措置の新設は認めたくない、認める場合でも、スクラップアンドビルドで、廃止や縮減を求めるのですが、これが、業界や族議員という政治主導で困難を極めました。

政権交代で、私が期待している最大のポイントは、この非課税等特別措置の抜本的な見直しとその議論の透明化であります。是非、これは、抜本的に見直して欲しいと思います。

また、課税自主権の観点からは、市町村の判断による非課税等特別措置がもっと活用されて良いと思います。

次に、新築住宅に対する減額措置ですが、昭和39年に、3年間、住宅部分の税額の1/2を減額する措置が創設され、昭和40年に、中高層耐火建築物について5年間、1/2減額が創設され、以後40年以上続いています。

今、住宅が余り、また優良な中古住宅が見直されているとき、新築住宅に限定し、しかも、大きな減収額を占めるこの減額措置は見直すべきだと思います。

ところが、景気対策が話題になると、きまって住宅政策上、所得税における住宅ローン控除とともに、固定資産税のこの減額措置が必要であるとかで、なかなか廃止できません。廃止できないどころか、反対に、住宅の耐震化だ、バリアフリー化だ、省エネだ、長期優良住宅だとかで、減額措置の対象がどんどん拡大しています。それこそ屋上屋を架しています。

そうではなくて、ほとんど全ての新築住宅が対象になるこの減額措置を廃止し、本当に政策的なものに限定した減額措置で誘導していくべきだと言う意見もあります。

しかし、私は、政策的に誘導したい住宅の新築・改築についても、それは特別の融資や補助で対応すべきであって、固定資産税における減額措置は廃止し、固定資産税は評価額に応じた公平な負担とすべきだと思いますが如何でしょう。

次に、住宅用地に対する課税標準の特例措置についてであります。

昭和48年に、住宅用地に対する課税標準の特例措置(1/2)が創設され、翌昭和49年には、更に、200m2以下の小規模住宅用地は1/4とする特例措置が導入されました。

更に、平成6年度の7割評価の導入に伴う税負担の総合的な調整措置の一環として、この特例措置が拡充され、更に、都市計画税においても初めて住宅用地に係る特例措置が導入されました。

この住宅用地に対する税負担の軽減措置について、住宅用地以外の非住宅用地との税負担の格差から、軽減措置を縮減すべきだという意見があるのかどうか、私は、最近の動向は知りません。

住宅用地と非住宅用地の収益の差等が一般的に数値で立証できるのであれば、その数値に基づいて軽減措置の縮減について研究してもいいと思いますが、困難だと思います。

反対に、私どもが現役の時には、小規模な住宅用地や小規模な商業地等は生活するうえで最低限必要ないわゆる生存権的財産権で、固定資産税は非課税にするか、大幅に負担を軽減すべきだという学説や意見がありましたが、今は、どうなのでしょうか。

また、超高齢化時代を迎え、年金生活者等所得がほとんど無くて、しかも土地や住宅等財産を持っている人の固定資産税負担をどうするのか、リバース・モーゲージ制度(土地・住宅を所有する高齢者が、それを担保に資金を借り入れ、生活資金として利用し、死亡時に担保とされた不動産を売却し負債を清算する制度)やアメリカのサーキット・ブレーカー制度(所得の一定割合を超える財産税額を所得税から税額控除ないし還付する制度)を、日本において一般的な税制度として仕組むことは可能なのでしょうか。

住宅用地に対する税負担の軽減措置は、このような制度の代わりの機能を果たしているのではないでしょうか。

主要な改正経緯のうち、評価替えに伴う負担調整措置では、昭和41年に、現行制度(前年度の課税標準額に、その年度の評価額の上昇率に応じた負担調整率を乗じる制度)が導入された後、昭和48年、平成6年、平成9年、平成18年に、大きな改正がなされています。

このうち、昭和48年度は、先ほど述べたように、特に配慮が必要な住宅用地については思い切った課税標準の特例措置を導入しながら、住宅用地以外の土地については、きめ細かいというか、涙ぐましい複雑な負担調整措置が講じられています。これは、48年、49年、50年と負担を上げ、昭和50年度までになんとか評価額課税に持って行こうとしたものだと考えられます。

平成6年度は、7割評価の導入に伴う税負担の総合的な調整措置で、評価の上昇割合の高い宅地に暫定特例、平成7年には、臨時特例等を入れながら、なんとか7割評価を定着するために、大変な苦労をした頃です。

平成9年度は、これまでの負担調整措置を大改正するというか、発想の転換をして、負担水準という考え方(前年度課税標準額/当該年度評価額)を取り入れ、負担水準の高い土地については、税額を引き下げたり、据え置く一方、負担水準の低い土地については、なだらかに税額が上昇する負担調整措置を講じ負担の均衡化を図ろうとするものです。

平成18年度は、更に負担水準の均衡化を促進するため新たな負担調整措置が導入されました。

このほか、平成16年度には、商業地等に係る条例減額制度が、平成21年度には、住宅用地等に係る条例減額制度が、それぞれ導入され、市町村の判断に任せる仕組みが導入されています。

平成6年度以降今日までの評価替えは、土地評価の均衡化・適正化を図るため7割評価を導入しようとした時に、バブルがはじけ、その後毎年地価が大幅に下落するという予想もしなかった状況の中で行われてきました。

7割評価が一応定着し、評価の均衡が達成された後も地価の下落が止まらず、しかも税負担の均衡化を図るため、地価(評価)が下落するのに税負担が上昇するという納税者に対し説明しにくい状況が続きました。

しかし、税の公平性からも、税負担の均衡化を図ることは重要なことであり、関係の皆さん、特に市町村の固定資産税担当者、また、固定資産評価審査委員会の皆さんには、大変ご苦労をおかけしましたが、自治省、総務省歴代の固定資産税課長も、評価替えの年度以外の年度も含め、毎年度の税制改正で、大変苦労したと思います。

次に、固定資産税の評価関係では、昭和38年に、固定資産評価基準制度が導入され、市町村の行う評価は、自治大臣(現総務大臣)が定めて告示する固定資産評価基準に「よって」行うことになりました。従来は、評価基準に「準じて」評価することとされていましたが、ここに評価基準は法的拘束力を有するものとなりました。その後、平成6年に、地価公示価格の7割程度を目途の評価替え(これも当初、「固定資産の評価基準の取扱いについて」という依命通達において、次いで、平成8年に、評価基準の中の経過措置として明記されました。)、平成9年には、地価の下落が止まらない状況に鑑み、基準年度以外の据置年度における価格の修正制度が導入され、今日まで継続しています。

なお、土地及び家屋の評価制度の改正経緯については、『固定資産税のあゆみ』を参照して下さい。評価関係についても、未だ未だ課題を抱えており、評価センターの研究会等でも調査研究していますが、今日は意見を述べる時間がありません。

次に、市街化区域農地の宅地並み課税では、色々と経緯がありました。時間の都合で省略しますが、平成4年に、都市計画の生産緑地制度に乗っかった制度になり、税の世界から都市計画の世界に移り、一応の決着をみました。

しかしながら、現在、都市計画において、適正な運用がなされているのでしょうか。生産緑地の看板を掛けながら、営農が放棄されている土地はないのでしょうか。一方、都市における農地、農業が、改めて見直されているなかで、市街化区域農地の税負担について、もう少し、地方団体の判断に任せることはできないのでしょうか。

次に、都市計画税では、これも長い歴史を持ち、現在1兆2,000億円を超える税収を上げている税ですが、目的税として都市計画事業に正しく使われているのでしょうか。オーバーフローしていないでしょうか。更に、目的税をやめ、固定資産税と一緒にして自由に使えるようにする可能性はあるのでしょうか。

主要な改正経緯のうち、その他重要なものとして、平成11年に、固定資産評価審査委員会制度の改正、平成14年に、固定資産税の情報開示制度の大幅な拡充(縦覧、閲覧、証明制度、課税明細書の送付、路線価等の公開等)がなされております。これまで、地方団体ごとに解釈や取扱いが分かれたり、課長通達や課長内かんで処理していた情報開示制度について、法律による明文化を図ったものです。

評価審査委員会制度や情報開示制度については、昔と比べると格段に整備されましたが、これらの制度の運用の実態を調査し、更に納税者が利用しやすく、かつ、理解が得られる情報開示制度について研究する必要があると思います。

現在、地方団体の皆さんの協力を得ながら評価センターで実施している、路線価等データの集約、インターネットによる「地価マップ」の運用なども、評価の均衡化を図る観点からも、情報開示の観点からも、大変重要な施策だと思います。

4 固定資産税創設60周年を迎えるに当たって

固定資産税は、固定資産の保有と市町村の行政サービスとの間に存在する受益関係に着目し、資産価値に応じて、毎年経常的に課税される物税です。

税収の安定性に富み、偏在度も少ない、最も市町村税に相応しい税の1つとして、市町村税収の約4割、都市計画税を合わせると約5割近くを占める市町村の基幹的な税です。

この固定資産税が来年で60周年を迎えます。

改めて、固定資産税の、市町村税、地方税における位置づけを認識し、過去の先人の努力・苦労の跡に思いを馳せ、将来とも、納税者のご理解を得ながら、固定資産税を大事に育てていくために、固定資産税の制度と評価の両面にわたって、絶えざる見直しが求められます。

また、その際、特に、地方団体の首長並びに幹部の皆さんにお願いしたいこととして、資料11(P.21)に、評価センターの機関誌「資産評価情報」の平成20年5月号を転載しておきましたが、その右半分を是非、市町村長や幹部の皆さんに読んで頂きたいと思います。

市町村長自らが、固定資産税の公平・適正な評価並びに課税について、最終の責任を負っていることを十分認識して欲しい。

地方分権とか地方自主財源の充実と口では言いながら、補助金や交付税の確保には奔走するが、自らが納税者に説明責任を負う固定資産税等地方税の確保には腰の引けた態度を取るのではなく、職員の先頭に立ってリーダーシップを発揮して欲しいと思います。

また、税の担当者は、反対に、市町村長等に対し、税制の状況等について絶えず情報を上げ、市町村長を支えて欲しいと思います。

以上、駆け足での説明になりましたが、お許しを頂きたいと思います。ご静聴感謝申し上げます。



資料10


資料11