評価センター資料閲覧室

第13回固定資産評価研究大会概要「時代の変化に固定資産税はどう対応していくべきか〜家屋評価の場合〜」

2 パネルディスカッション

「時代の変化に固定資産税はどう対応していくべきか〜家屋評価の場合〜」

コーディネーター 吉田 倬郎 工学院大学工学部教授
(家屋に関する調査研究委員会委員長)
パネリスト 小松 幸夫 早稲田大学理工学術院創造理工学部教授
三橋 博巳 日本大学理工学部教授
村松  章 東京都主税局資産税部専門副参事
井戸 伸浩 大阪市財政局税務部固定資産税担当課長
平  純郎 総務省自治税務局資産評価室長

はじめに

【吉田】 それでは、早速、ディスカッションを始めたいと思います。会場の皆様、非常に大きなスクリーンがございますが、それと、一部、お手元に資料も用意させていただいております。ご覧いただきながら、ディスカッションにおつき合いいただきたいと思います。

今日のディスカッションは、「時代の変化に固定資産税はどう対応していくべきか」というテーマ中の、特に家屋の評価を取り上げてございます。事務局からご紹介がありましたように、今日のメンバーは、資産評価システム研究センターの、家屋に関する調査研究委員会という少し長い名前の委員会の委員でございます。委員会名は、略称家屋研と申しておりますが、これまでにも家屋の評価につきましていろいろなテーマについて検討をしてきたところでございます。それから、ご承知の方もいらっしゃると思いますが、固定資産税の家屋の評価につきましては、日本建築学会の中に固定資産評価小委員会という委員会がございまして、評価センターの家屋研といわば車の両輪のような形で、建築学会の立場から学術的な見地で家屋の評価に関わるテーマを取り上げて報告書をつくるということをさせていただいてきておりますが、今日のパネリストの中の三橋先生はただいまその主査を務めていただいております。小松先生はその前任の主査ということでございまして、私もご縁があって長く学会のこの委員会のお手伝いをしてきております。

今日のディスカッションでございますが、この数年間の家屋研の調査研究の経緯も織り込みながら、もう少し大きな視点で現行の家屋評価制度というものを考えてみたいということでございます。そして、将来に向けまして家屋の評価制度はどのようにあるべきかということにも及ぶようなディスカッションをさせていただきたいともくろんでおるところでございます。

それでは、まず最初に平さんから、現在の家屋評価の制度がどのようになっているか、あるいはどのような経緯があって今の制度になっているかというあたりのお話をいただきたいと思います。

よろしくお願いいたします。

1 現行の家屋評価制度について

【平】 それでは、私のほうからは、今、ご注文がございましたように、家屋評価制度の経緯といいましょうか、沿革等を含めて少しお話をしまして、その上で現在の制度の概要などをお話ししたいと思います。資料1(P.46)でございますが、先ほどの堤理事長のお話の中でも地方税法創設60周年に関連して固定資産税の経緯のお話がありましたけれども、私のほうからも改めてお話をさせていただきたいと思います。

資料1にございますように、固定資産税ができる前の不動産税ということで、土地については地租なり地租附加税、家屋については家屋税なり家屋附加税というのが、賃貸価格を課税標準として課税をされていた。そして、堤理事長のお話にありましたように、シャウプ勧告とその後のGHQ、お若い方はおわかりにならないと思いますけど、当時の連合国の総司令部ですね。GHQとの交渉、協議、こういう過程を経まして、昭和25年7月に地方税法が成立をする。そして、地租と地租附加税、家屋税と家屋附加税は廃止をされて、市町村税としての固定資産税が創設された。これが昭和25年ですね。

その創設当時の地方税法におきましても、固定資産の価格というのは現在と全く同じく、「適正な時価」というふうに規定をされておりました。ですけれども、地方税法の成立が昭和25年7月という半端な時期でありましたので、25年度の課税については、1月1日ではなくて4月1日を賦課期日というふうにした上で、価格についても、地方税法上は「適正な時価」というふうになっているんですが、とりあえず戦前から家屋税において使ってきていた賃貸価格、これを900倍するというかなり便宜的な評価をして、これを課税標準にすることで何とかスタートを切ったというのが、創設当初の実情だったようでございます。

翌年度、昭和26年度になりますと、当時の総理府の地方財政委員会というところから初めての土地及び家屋に係る評価基準というものが出されておりまして、初めてここで固定資産評価員、あるいは固定資産評価補助員という方々による1月1日現在の時価評価が行われたということになりますけれども、このとき既に、家屋の評価方法については再建築価格を基準として評価する方法というものが採用されておりました。この当時の再建築価格の算出方法が、当時の評価基準上どのように定められていたものか、詳細はちょっと私も調べておりませんけれども、どうも、周辺の資料から推測するところでは、現在の非木造家屋についてのいわゆる明確計算ですか、これに近いようなことを木造家屋についてもやっていたのではないかと思われる節がございます。これは、会場の皆さんの中でもっと詳しくご存じの方もおられるかと思いますけれども、私はそんなふうに推測をいたしました。

それからまた、このように直接、再建築価格を算出するというのは標準家屋についてだけでありまして、その他の家屋については標準家屋から比準をして評価をするという方法が当時とられていたということでございます。この当時の主な問題点としましては、工事費、資材費、この積算が非常に難しいという点、それから、標準家屋から比準をするときにうまく比準ができないという点、地域ごとに評価水準に大きなばらつきを生じるという点、こういった点が主な問題点ということで指摘をされていたようでございます。しかし、ともあれ基本的にはこの評価方法が10年以上、正確には昭和38年度まで続いていくということになります。

それから、昭和38年度までの間の昭和34年度ですけれども、総理大臣の諮問機関である固定資産評価制度調査会というものが設置をされておりまして、当時の本当にそうそうたる専門家集団の方々が2年間で70回以上という非常に精力的な活動をされまして、昭和36年3月に「固定資産税その他の租税の課税の基礎となるべき固定資産の評価の制度を改善合理化するための方策に関する答申」という大変長い題名の答申を当時の池田勇人内閣総理大臣に提出をしてございます。この略称調査会答申が皆様方ご承知のとおり現在に至る固定資産評価の基礎となっているわけでございまして、これを踏まえて昭和38年度に現行の固定資産評価基準の原型がつくられて、翌昭和39年度から新しい評価基準による評価がスタートをした。おおむね、経緯、流れとしては、こういうことになってございます。

そこで、資料2(P.46〜47)を参照しながら、この大変重要な位置を占めている調査会答申の考え方、それからポイントなどをお話ししておきたいと思います。

答申の最も基本的な認識でございますけれども、これは、そこにもございますように、固定資産税をはじめとする関係諸税の価格はいずれも時価とされているけれども、この場合の「時価」というのは、正常な条件のもとにおける取引価格、いわゆる正常価格であって、現実の取引価格のうちで正常でない条件による部分を捨象して得られるその資産自体の本来の価値、これを適正に反映した価格である。これが最も基本的な認識だろうと思います。そして、この基本認識のもとに、家屋の評価につきましては再建築価格を基準として評価する方法によるべきであるというふうに答申をしております。

先ほどお話ししましたように、再建築価格を基準として評価する方法、この方法自体は昭和25年の地方税法創設以来一貫して家屋の時価を評価する方法とされてきたわけですけれども、調査会の答申は当然ながら、安易にこれを引き継いだというわけではなくて、先ほどの基本認識に基づいて他の評価方法とも比較考量した上で、改めて再建築価格を基準として評価する方法によるべきであるというふうに答申をした。

その理由についてですけれども、家屋評価の基準として考えられる価格のうち、現実の取得価格、それから賃貸料、こういったものには個別的な事情による偏差、あるいは種々の事情による格差がある。いずれも評価の基準として採用するには、ちょっとばらつきが出やすい。また、売買実例価格については、取得価格と同様に、個別的な事情による偏差、種々の事情による格差がある。また、それに加えて、売買が主に宅地とともに行われるということから、家屋の部分だけを分離することが困難であるというような事情があって、やはり評価の基準としては採用しがたい。これに対して再建築価格は、家屋の価格の構成要素として基本的なものであり、その評価の方式化も比較的容易であるので、家屋の評価は再建築価格を基準として評価する方法によることが適当であると、こういう具合に答申をしてございます。

ここからは私の解釈になりますので、私の考えていることとしてお聞きいただきたいんですが、今のところのポイントは、再建築価格は家屋の価格の構成要素として基本的なものというところにあるのではないかと思います。商品の時価というのはいろんなあり方をするわけですけれども、時々刻々移り変わっていくいろんな水準の時価を形成するときの最も中核となる部分は、その商品の原価、それをつくるのに幾らかかったかというコストであろうというふうに考えられます。時々の時価というのは、あるときは原価割れ、コスト割れになったり、またあるときは原価の何倍もの高騰価格になったりもしますけれども、そういった価格がそのまま法のいわゆる「適正な時価」、調査会答申の言い方で言う、「正常価格」、あるいは「その資産自体の本来の価値を適正に反映した価格」というものであるかというと、やはりそこには問題がある。これに対しまして再建築価格は、その再調達原価、その家屋が基本的に幾らでできるのかというコストに基づくというがために、いろんなあり方をする現実の価格に対して、いつも基準値としての役割を果たすことができる。そういう意味で常に「家屋の価格の構成要素として基本的なもの」というふうな調査会答申の言い方がされているのではないかと言うことができますし、個別的ないろんな事情による偏差、あるいは格差というものをコストに基づくというところで一応排除するので、「適正な時価」・「正常価格」を求める際の基準となり得ると、そういうことだろうと私は考えております。固定資産評価制度調査会はこういう理由で他の評価方法を退けて、再建築価格を基準とする評価方法を選んだというふうに考えられます。

家屋評価の仕組みにつきましては、皆様方はおそらくご専門の方々ばかりだと思いますし、時間もありませんのでごく簡単に触れておきますと、資料3(P.48)になりますけれども、評価額、これは評点数に評点一点当たりの価額を掛けて求める。この評点数については、再建築費評点数に損耗の状況による減点補正率を掛けて、さらに需給事情による減点補正率を掛けて求める。また、評点一点当たりの価額のほうは、1円に物価水準による補正率を掛け、それから設計管理費等による補正率を掛けて求める。こういうふうにいろんな補正率がかかっておりますけれども、これらはあくまでも補正でございまして、評価額の基本となっているのは再建築費評点数ということでありますので、先ほどの調査会答申の言う家屋の価格の構成要素として基本的な再建築価格を基準とする評価の仕組みになっていると思います。

それから、再建築費評点数を算出する部分別の基準表、これにつきましては日ごろから、複雑煩瑣であり、実務上の負担となるというようなご指摘が多々ございます。そういうこともありまして、改正の都度、簡素・合理化には努めてきておりますけれども、適正な再建築費の算出上どうしても、これ以上簡素化できないという限界がやはりあると思います。私としては、現状はほぼその限界に近いところまで来ているのではないかなというふうに考えているところです。

私からは、とりあえず以上でございます。コーディネーター、よろしくお願いします。

【吉田】 ありがとうございました。

今のお話で、現在の評価制度がどういういきさつ、経緯で形が整ったのかということについて、改めて認識させていただけたかなと思います。また、その後いろんなことがございまして、その都度、簡素、あるいは合理化ということを検討しながら運用してきているということでございますが、そういうことにつきましては、これから東京都と大阪市の2つの大きな団体から、家屋評価の実務に非常にたけていらっしゃるお二人のパネリストからお話をいただくことになってございます。それぞれの団体で、どのような組織、やり方で評価額の算定に当たっていらっしゃるのか。あるいは、そういうことを通していろいろご苦労なこともあろうかと思います。あるいは、そういうことを踏まえて今の制度についてのお考えをお持ちでございます。そういうお話を、短時間でございますが、お二方から伺いたいと思います。

それでは、最初に村松さん、よろしくお願いいたします。

2 家屋評価の実務対応(東京都と大阪市の例)

【村松】 では、都における家屋評価の現状ということで、最初にお断りですが、地方税の中に都における普通税の特例という規定がございまして、固定資産税は本来市町村税でございますが、23区内におきましては東京都で評価・課税を行っています。このため東京都における家屋評価事務は、23区内については不動産取得税と固定資産税を課税するため、多摩地区につきましては不動産取得税を課税するために行っております。

それでは、資料4(P.48)をご覧下さい。都の家屋評価体制ということですが、都税を扱います事務所は、23区内は各区に1カ所ずつ23の都税事務所がありまして、多摩地区には立川と八王子に都税事務所がございますが、今日は、普通の市町村と同様の評価・課税を行っています23区内の家屋評価事務について、お話しいたします。

23区内の家屋評価の調査体制ですが、本庁組織といたしまして、資産税部の中に家屋評価の企画指導を取り扱う家屋係と、都独自でございますが、進達という制度がございまして、主に5万平米以上の事業用家屋の評価を行っている家屋評価係がございます。

都税事務所につきましては各区にございますが、固定資産税課として1課制のところと固定資産税課と固定資産評価課の2課制のところがございますが、仕事の内容は同様です。事務所の規模の違いにより、1課制のところは、各資産の評価を含めまして、固定資産税、不動産取得税の全体を取り扱う固定資産税課と、土地・家屋・償却資産の評価部門を切り離して2課制にしているところがございます。各事務所におります家屋評価担当者は21年度は総勢で270名おりまして、この270人で23区内の家屋の評価を行っております。

23区内の家屋の棟数ですけれども、全体で167万棟、木造が115万棟、非木造が52万棟でございます。

資料5(P.49)をご覧下さい。平成20年度の調査棟数は、新築、増築、改築でございますが、25,304棟で、平成16年度の32,634棟より7,000棟程度減少しております。景気の動向や姉歯事件の影響もあると思いますが、平成20年度の建築棟数は大きく減少いたしました。しかしながら、5に示しております納税義務者数をご覧いただければおわかりのように、この数字は土地のみを所有している方は含まれていませんので、家屋を所有する納税義務者は増加しております。これは、臨海部をはじめ23区内において大規模の高層分譲マンションが建築されているためかと考えられます。

23区内での再建築費評点数の算出は、明確計算、不明確計算で行う部分別評価と、比準評価で行っております。比準評価は昭和42年より総合比準を導入しておりまして、基準年度ごとの標準家屋の棟数にもよりますが、調査棟数に対する比準評価の割合は毎年少しずつですが、減少しております。平成20年度は、新築家屋の88%程度の家屋を比準で評価しております。21基準年度は、欄外に示してありますが、木造84棟、非木造111棟、低層階が非木造・上階が木造の複合構造23棟の218棟の標準家屋で概ね1,000平米以下の家屋を評価しております。

調査員でございますが、どこの団体でも同様だと思いますが、5年間で5%程度減少していますが、評価担当者の平均年齢は団塊の世代が退職していく中で少しずつ若返っております。今後この傾向はしばらく続くと思いますが、職員の若返りとともに経験豊かなベテラン職員が減少してきており、評価の技術を維持するために、知識や技術の承継が問題になってきております。また、都では3年サイクルで人事異動がありまして、毎年、家屋評価が初めての職員が5分の1程度配属されています。新たに家屋評価の担当となった職員に対しては、春から夏にかけ集合研修を連続ではありませんが15日間程度、その他、職場研修やブロック研修を行って、早期の戦力化を図っているところです。しかしながら、部分別評価と比準評価の両方の家屋評価の仕組みを理解し、使用資材やその程度を判定すること、建築関係の図書の見方など、専門的な知識が要求されますので、3、4カ月で一人前になることは難しいのが現実です。

次に家屋評価制度についてですが、再建築価格方式で評価額を算出する方法は、平室長よりお話のあったとおり昭和39年より新たな評価基準で行われており、再建築価格方式に関係する審査申出や納税者からの苦情等も少なく、一般に広く認められていると思いますが、その算出方法は、納税者から見るとわかりづらく、評価担当者から見ると複雑で難しいということになると思います。何が複雑で難しいかと考えますと、評価や建築関係の仕事に携わったことのない担当者が評価額を求めるために見積書等の建築関係書類をお借りして使用資材や使用量等を把握して積算するわけですが、評価基準における部分別と請負契約書等の工事区分が異なっているため、使用量等を正確に把握するためには標準評点数の構成内容等の知識が必要になり、見積書の構成方法等の理解も必要であります。また、建具の使用量の把握でも、少し規模の大きな家屋になりますと、何百という建具を建具表から1本ずつ、資材、枠見込み、それにタイプ別に積算して使用量を把握するという、細かく根気の要る作業があります。建築設備においても、電気関係の図面から動力の使用されている機器の容量を積算するなど、随所に専門的な知識が必要になっています。このようなことが、複雑で難しいと言われている一端かと思います。そのため、都では専門家の方に講師をお願いして意匠、建築、電気設備等の各分野別の研修を行うことや、調査に行くときは必ず複数で行くようにして、知識、技術等の習得や承継を図っております。また、都においては、専門知識を持ったベテランの職員の大量退職に対応するため、主税局人材育成実施計画を作成いたしまして資産税部門のみならず主税局全体で税務力強化を図っておりますが、資産税部門においては長期専門科研修という研修科目を設置しまして、5月から11月までの7カ月間、係長クラス10名程度を1カ所に集めまして長期研修を行い、資産税部門の専門知識を牽引する層の育成に努めております。この試みは今年初めてでございますが、どのような結果が出るのかまだわかりませんが、近い将来、資産税部門の中核的な存在になる人材の育成を図っているところでございます。

最後にですが、調査件数は先ほども申し上げましたとおり姉歯事件や経済不況の影響もありまして減少しておりますが、特殊な家屋や複雑な家屋が増加し、また、納税者に対する説明の時間も増えてきております。それに伴ない1件当たりの処理時間は増加しております。経験豊富なベテラン職員も減少している中で、家屋評価のレベルを維持するため、事務所におけるOJTや職場研修、研修所における集合研修、長期研修等を行い、早期の人材の育成に努めているところでございます。

以上です。

【吉田】 ありがとうございました。

続きまして、大阪市からお見えの井戸さん、よろしくお願いいたします。

【井戸】 大阪市の井戸でございます。私のほうからは、大阪市の現状についてご報告をさせていただきます。資料6(P.49)をご覧いただきたいと思います。大阪市における家屋評価体制という資料でございます。

まず、大阪市の概要でございますが、面積は約220平方キロメートル、人口は約265万人で、24の行政区に分かれております。先ほど東京都の資料がございましたけれども、東京都さんのほうは621平方キロメートル、879万人というご紹介でしたので、面積、人口についてはそれぞれ3分の1程度でございますが、区の数にいたしますと東京都の特別区23区に対して大阪市は24の行政区ということでございますので、非常に細かく行政区が分かれているというのが、大阪市の特徴ではないかと思っております。

家屋の概要でございますが、棟数につきましては約130万棟、納税義務者は約71万人となっております。これは平成21年度の概要調書のベースでございます。そして、21年度評価棟数、これは21年度に向けて評価を行った棟数ということでして、平成20年中の新増築分の家屋ということですが、約14,000棟となっております。このうち木造は約3,200棟ございますが、その大部分が木造の専用住宅ということでございます。それを除きます1万棟余り、大体8割近くになろうかと思いますが、これは非木造ということになっておりまして、新築家屋の多くが非木造というのが現状でございます。

これらを評価するための体制ですが、もともと大阪市は政令指定都市ということで各行政区ごとに区役所で評価を行っていたのですが、平成19年10月以降はそこに書いておりますような体制で評価を行っております。大阪市に財政局という局がありまして、その中に税のトップであります税務総長というのが置かれており、税務総長が、固定資産評価員の役割を担っております。そのもとで評価補助員として税務部と6つの市税事務所それぞれに職員が配置されているところでございます。税務部では税務部長以下、固定資産税につきましては固定資産税担当課長と課長代理、そのもとに家屋担当として8人の職員が配置されております。内訳といたしまして、係長が3人、この3人のうち1人は建築技術職の係長を配置しております。さらに係員が4人、固定資産税の経験のある再任用の職員が1人、合計8人で家屋の評価を担当しております。こちらの税務部では主に、大阪市全体の評価の企画ですとか、研修の企画ですとか、そういったことを担当しております。

それから、市税事務所が6カ所に分かれておりまして、こちらのほうは、部長級であります所長、そのもとに税務担当課長、この課長は市民税等も担当しております。固定資産税の専門ということになりますと、その下の固定資産税担当課長代理以下ということになります。実際に担当しております家屋担当の係長以下は202人ということでございます。係長が21人、係員が181人ということでございますので、1事務所あたりで平均すると34人程度で家屋事務を担当しているということでございます。

また、大阪市の場合は、今ご紹介いたしました職員については、評価だけではなく、家屋事務全体を担当しています。

資料7(P.50)をご覧いただきたいと思います。先ほど申し上げましたように平成19年10月以降、市税事務所の設置ということで大阪市の税にとりまして、非常に大きな改革を行ったわけなんですけれども、それについて少しご紹介させていただきます。従来は、市長から区長に対して賦課徴収権限を委任して24の区役所の中に税の担当を置きまして税務事務を行っておったということですので、税務担当については、区長の指揮命令権下にありながら、一方で財政局税務部から税務事務に関する企画指導を受けるということで、命令系統が一本化されていないというような状況もありました。それが平成19年10月以降は、市長のもと、財政局税務総長、これが税のトップで、その指揮命令、あるいは企画指導、両方、税務総長から受ける形で市税事務所に集約して税務事務をやっているところでございます。従前24カ所ありましたものを7つの市税事務所に統合いたしております。各地域ごとに設けております6つの市税事務所と、それから、その下に書いています船場法人市税事務所というのは法人関係の税を一括して担当している事務所でございまして、7つの市税事務所に統合することによって、税の専門組織で税務行政を行うことになりました。今までは福祉や地域振興といったサービス行政の拠点でもある区役所で税務行政をやっていたのを、税の専門知識を有する職員を集めた専門組織で行うということで、組織の簡素化と充実・強化を同時に達成しようということを意図してこういう体制をつくっているところでございます。専門性の向上が一つの大きな目標になっているところですが、これに伴いまして職員数の見直しもやっております。一番下の「※」のところですが、市税事務所化に伴いまして約300人の職員数が減少しております。この300人のうち、家屋担当者での見直し人数は約70人ということになっております。ですから、先ほど約200人で家屋の担当をしておると言いましたが、区役所でやっておった時代は270人程度の家屋担当者がいたということになります。

家屋評価を取り巻く状況について、次にお話しいたします。資料8(P.50)をご覧下さい。まず、家屋の担当者の状況ということで、市税事務所において家屋の評価を担当しております職員の平均経験年数というのを調べております。平成21年度を見ますと、係長級で8.6年、係員で4.2年、合わせますと4.6年ということになっております。市税事務所開設直前の平成19年度の区役所の税務課での担当年数を見てみますと、係長級で5.2年、係員では3.5年、合わせますと3.7年ということで、職員全体を見てみますと、市税事務所化によりまして、専門性を高めるということで異動もかなり計画的に行えるようになりましたので、そういった効果もあり、経験年数は若干延びる傾向にはございます。ただ、問題となるのはその下の「○」のコアとなる職員の状況というところでして、これは、家屋の担当の係員のうち、それぞれ市税事務所なり区役所で主担者という立場にある職員の経験年数を調べたものでございます。主担者といいますのは、係長の補佐役ということで担当全体を取りまとめている係員でして、言ってみれば次の係長候補、現場でコアとなって仕事をしている職員でございますけれども、平成21年度には、6つの市税事務所ですから6人おりまして、その平均経験年数は5.6年となっております。市税事務所開設直前の平成19年度、24区役所のときは3.9年ということですので、この平均年数だけを見ますと、かなり延びてきています。さらに、今わかります一番古い年度であります昭和61年度、この当時は26の行政区がございましたが、そのときの主担者の平均経験年数は6.1年ということですので、平均だけを見ると、市税事務所化によって、昔の状況といいますか、ベテランが戻ってきているのかなということではあるんですが、その内訳を見てみますと、平成21年度の平均5.6年といいますのは、実は5年以上のところが5人ということで、経験年数5年、6年、7年という職員が5人おりまして、5年未満3年程度という人が1人いらっしゃって、合わせて平均で5.6年という状況です。一方、昭和61年度は10年以上の経験をお持ちの主担者というのが5人おりました。一番長い方では13年の経験という方がお二人いらっしゃいましたし、そのほかにも10年以上経験している方が5人、5年以上の方も9人ということで、5年未満という方は例えば土地で長い経験をしていて家屋の担当に異動したというような方ももちろんいらっしゃったわけですけれども、家屋評価一筋といったようなベテランが全体を引っ張っていたという状況かなと考えているところでございまして、こういうコアになるようなベテラン職員の経験年数が低下しているのは否めないかなと思っております。組織としてスキルを維持・継承していくということは、そういうベテラン職員の力というのが必要ですが、現状はなかなか厳しいものがあると考えているところです。

それから、その四角の中の3つ目の「※」ですけれども、今度は平均年齢を見てみますと、これは平成20年度の数字でございますが、市税事務所で家屋を担当しております係長級の平均年齢は54.8歳ということになっておりまして、かなり高齢化してきております。ここ数年のうち、これらのベテラン職員の多くが退職していくということも見込まれているという状況にもあります。

それからもう1つ、評価を取り巻く状況ということで、見方を変えまして、納税者の家屋評価に対する関心の高まりということが言えようかと思っております。審査申出につきましても、だんだん増えてきておりますし、難件化しているというのが実態でございます。平成21年度の審査申出件数は、家屋について123件出ております。土地が142件でございますので、ほぼニアリーの数字で審査申出の提出があったというのが実態でございます。かつて平成6年度に土地の7割評価を導入いたしましたときに土地についての審査申出がたくさん提出されまして、家屋の審査申出をそれとあわせて出すというようなケースが多かったわけですが、最近では、弁護士さんですとか、税理士さん、建築士さんといった専門家の方が代理人となって評価の詳細についての説明を求められるといったようなケースが増えているというふうに感じているところでございます。現在の家屋評価、非常に複雑精緻な制度になっておりまして、納税者に対して説明するときは複雑精緻であるがゆえに細かいところまで見て評価しているということで今までは説得力も持っていたということが言えるかと思いますが、昨今、家屋評価に対する納税者の関心が高まり、非常に厳しいシビアな見方をされるようになってきているというのも感じているところです。

次の資料9(P.51)をご覧下さい。こういった状況で大阪市としてどういうふうな工夫をして評価精度の維持・向上を図っているかという資料でございます。

まず研修についてですけれども、評価の研修では、実在する家屋を実際に評価するということをやっております。新任者の評価研修会につきましては、軽量鉄骨造のモデルハウス、上の写真の家屋ですけれども、これを実際に実地調査して積算するという研修を4日間行っております。そういう経験を踏まえて、中級者の方に対しては、今度は下の写真の鉄骨造の病院、本市施設と書いていますが、これは休日急病診療所の施設なんですけれども、これについても実地調査して、その後、設計図書等を用いて実際に積算するという研修を5日間やっております。この中級者研修会につきましては、今年から大阪府の担当者の方も参加していただき、お互いに切磋琢磨するということもやっております。

次に、建物見学会の実施ということで、高層マンションなんかにつきまして、民間の会社の協力も得まして、実際に建築中の建物の見学をさせていただいております。仕上げと下地の関係なんかを含めまして建物の完成する過程を実際に目で見るということで、建築工法に関する知識の習熟を図るという趣旨でやっておるところでございます。

そのほか、比準評価につきまして、大阪市においても昭和42年度から導入しておりまして、対象家屋といたしましては一般的に建築される家屋のうち評価額がおおむね1億円未満のものとしておりますので、木造の住宅なんかですと、ほとんどが比準評価を行っているというのが実態でございます。

最近の取り組みといたしまして、家屋評価システムの開発ということでございます。これは、平成21基準年度に際しまして、市税事務所から職員を選抜いたしまして家屋評価システム研究会というのをつくって、表計算ソフトを用いた評価システムを開発したということもやっております。

最後の庁内公募制度の活用ですが、これも平成21年度の人事異動から家屋について導入しておりまして、意欲のある職員を配置するため、全庁的に家屋を担当する職員を公募いたしました。平成21年度におきましては、係長2人、係員7人を市税事務所の家屋担当として配置したところです。経験者も含めて応募がありましたし、自ら応募してきた職員ですので、配置先でも非常に熱心に取り組んでいただいています。

こういった取り組みもずっとやっておりますけれども、人事構成等を見ますと、一定の評価技術を有する職員を安定的に育成していく、組織として技術を維持・向上していくというのが課題なんですが、かつてのような家屋評価一筋といったベテランを育てていくというのは難しい状況であるし、さらには、納税者の方の家屋評価に対する見方、これも非常にシビアなものがあるというのを感じているところです。家屋の評価制度につきまして、先ほどお話がありましたように簡素化の方向での見直しもされてはいるといいましても、まだまだ複雑な、先ほど、平さん、村松さんのほうからお話がありましたように複雑な制度でございますので、評価制度そのものがさらに簡素化できないかというのを感じているところでございます。

以上でございます。

【吉田】 ありがとうございました。

東京都、そして大阪市という大きな団体の家屋評価の様子をご紹介いただきました。業務の内容としましては、再建築価格評価方式というものをベースにした現行方式について適切かつ安定的に運用されてきているということがございますが、一方では、職員さんのローテーションの期間が短くなる中で、新しい人にどうやって研修をされるかとか、あるいはベテランの職員、かつてはたくさんいたんだけれども、今は足りないことについてどうされているかということも含めて、それぞれの団体での組織の見直し、体制の組み直しの様子も伺えたかと思います。また、近年は不服審査への対応も非常に重要な業務の一部になってきているということがございました。それにしましても、先ほどの平さんのお話にもありましたように、家屋評価の基本的な方式として再建築価格評価方式をずっと継承してこれまで運用してきているわけでございますが、そのあたりの方式の基本的なあり方という観点から、小松先生、三橋先生から、それぞれお考えをいただきたいと思います。

それでは、小松先生、よろしくお願いいたします。

3 現行の家屋評価制度が基礎とする再建築価格方式について

【小松】 今ご説明にありましたように、再建築価格方式というのが家屋の固定資産税の評価基準になっています。その方向でいいのかどうか、場合によってはそれよりも取引価格を評価額にしてはどうかという議論が起きたりするのですけれども、その辺の話を分析したものが参考資料(P.53〜63)としてお配りしたものです。これは、昨年3月に建築学会から総務省へお出しした報告書の一部です。報告書にはこの文書に加えて文献資料のコピーがたくさん入っているのですけれども、その分は省略して、文献リストだけを巻末におつけしています。これらはほとんどが資産評価システム研究センターの出版物なので、もしご覧になりたいということであれば、それをお探しいただければと思います。この資料に基づいて、現行の方式とほかの方式とを比べて検討してみた結果を簡単にご説明したいと思います。

まず、54ページをあけていただくと、2.家屋評価の理論ということで4つほど方式を書いております。aとして取引事例比較法、それから、b収益還元法、c原価法、d取引価格による方法というふうにあります。dの取引価格による方法というのは取引事例比較法とほとんど同じなので、取引価格か、収益還元か、あるいは原価またはコストとも言われますが、方法としてその3つがあるとお考えいただいていいと思います。これらは不動産関係の理論としていろいろ議論され、それぞれ特徴があるとされている訳ですけれども、固定資産評価の中であえて原価法を使っているということの裏づけをここで検証しております。

55ページ、3.家屋評価方式検討のための観点整理ということで、基本原則として公平、公正、公明という3つの観点があるとしています。これは前川尚美さんの文章から借用したものですけれども、評価理論とその基本原則とを照らし合わせて考えてみたのがその下にある文章でございます。

細かく言うと時間がかかってしまいますので簡単に言います。56ページで取引事例比較法の話をしております。資産の時価というのは取引価格だというのは一般の方の認識としては非常に強く、おそらくほとんどの方がそう思っておられると思いますけれども、納税者の理解ということでは、非常にわかりやすいと思います。けれども、その価格が本当に正常と言えるかというあたりでは非常に問題があります。先ほどの資料2にもありましたけれども、いろいろ取引の状況その他によって不正常の要素が入りやすいということがあります。その点をもし配慮するということになりますと、正常さの裏付けのためのバックデータが必要になります。要するに、本当にその価格が適正と判断できるための資料を、判断する側が持ってないといけないということがあります。ところが、日本の場合、このような資料というのはほとんどなくて、一部で試みられてはいるのですけれども、なかなか使える状態にはなっていかない。それから土地と家屋が一体で売買されるケースがほとんどですので、そこから家屋だけの価格を分離するというのも、実は非常に難しいということがあります。

収益還元法というのは、最近、不動産が証券化されるというような状況が進んでまいりまして非常に注目されている評価の仕方でございます。先程の平さんの歴史的な経緯のご説明の中でもありましたように、初期にはこの方法に相当するものが一部使われたことがあるのですが、固定資産の評価方法としては難しさが残ります。ひとつには非常に長期にわたる収益というのを予測しなければいけないので、これがなかなか難しい。不動産証券化の場合ですとせいぜい10年ぐらいの短期間の評価ということで済みますので、あまり困難はないのですが、20年、30年、場合によっては50年というようなことになりますと、これは相当難しい。それから、賃貸が期待できないような家屋というのもたくさんあるわけで、その賃料をどうやってはじき出すのか、これも技術的には非常に難しい問題があります。固定資産の場合はそういう家屋も当然対象にするわけですから、方法として適用するのは困難だろうということになります。

その下に原価法のことを書いてございますが、これについてはよく納税者からのクレームがあると聞いております。買った価格より評価額のほうが高いじゃないか、この評価は何だというようなことがあるというふうに伺っていますが、この方法は考え方としては非常に即物的でして、もし同じものを今つくったら幾らかかりますよと言っているだけのことなのです。理論的には同一のものは同一に評価できるということになるわけで、そういう意味での明快さはあります。ただし、そのプロセスがわかりにくいということで、いろいろ納税者の方からのクレームもあるし、先ほどお話がありましたように評価技術的に難しいということが欠点としてあるのかと思います。

納税者からのクレームで、中古で買ったほうが評価額より安かったという話ですけれども、この背景には家屋に対する日本での価値判断の特殊性のようなものがあるという気がします。日本では、家屋の経年減価、これは固定資産評価の中にも入っていますが、家屋は経年によって減価するのだというのが大前提になっています。例えば木造家屋は20年たったら売買価格はゼロですよというような話が不動産取引の中では公然とまかり通っているわけです。でもこういうことは、ヨーロッパ、あるいはアメリカではほとんど考えられない、古ければ古いほど高くなるというようなケースも珍しくはない。家屋について経年減価するという日本独特の考え方、これがいろいろ悪さをしているのではないかと思っております。この辺に関してはいろいろ申し上げたいことがありますが、時間がないのでこの辺にしておきます。

結論的に申しますと、わかりやすさということでは取引価格とか収益還元法などは非常に説明しやすいですけれども、不安定な要素が多くて税の公平性という点で問題が残ります。そこで、とりあえずはやはり現在の原価法による方式がいいのではないかと思っているところでございます。

以上です。

【吉田】 ありがとうございます。

ご存じの方もいらっしゃると思いますが、小松先生は、固定資産評価基準関連の研究成果の一環として、日本では建物の寿命研究の第一人者でもいらっしゃいます。そういう方ですから、そういうテーマであればいろいろと話を伺えるんですが、今日の趣旨とはちょっと違いますので、ご興味のある方はぜひ別途勉強していただければと思っております。

それでは、三橋先生からお話をいただきたいと思います。三橋先生は、先ほど日本建築学会のお役目をご紹介させていただきましたが、別にただいま、日本不動産学会の会長、あるいは資産評価政策学会の会長も務められています。実は建築分野の人がこれら団体の会長を務めるというのはわりに珍しいんです。これまで土地の方とか、あるいは経済の方が主に務めてこられています。そういうご経験も少し交えたお話をいただければと思っております。

先生、よろしくお願いいたします。

【三橋】 ご紹介いただきました三橋です。私も小松先生も建築が専門ですけれども、家屋は建築基準法で言うと建築物ということになるわけですが、土地も建物も不動産となります。従って不動産という視点も必要になってきます。建築のほうでも、いろいろな評価、安全性の評価とか、環境性能等々、評価ということが非常に重要になっているかと思います。先ほど平さんのほうからお話がありましたが、60年間の経緯の中で固定資産税評価というのは、評価としては非常に先駆的な形で基本的な考え方が出てきたというふうに認識しております。

最近、建物、建築物、あるいは建築という用語の定義が問題になっておりますけれども、建築物というのは建築基準法の言葉で、建築というのは建築基準法では動詞で、建築するということで、全く概念が違うということの位置づけになるわけですが、もう1つの見方は、建築は作品としてつくるわけですけれども、竣工した後は、所有者に移り資産としての側面が強くなるということで、資産として見ていくのが重要であると、私、常々思っているところです。

建物を資産として見たときに、注文生産であるということ、あるいは個別性が強い、あるいは特異性がある、そういう観点から通常の形での評価は難しいと思います。建物をつくるときに、設計図に基づいてですけれども、まず材料や労賃などから見積もりをして、それから施工会社や建築主などとの契約をしてという、そういうプロセスの中で取引価格につながっていく。そういう建築のプロセスの視点から見ても、再建築価格方式で考えていくという考え方は基本的に、また先ほどの公平・公正・公明という、そういう視点から見ても、客観的な評価方法だというふうに、私自身も考えております。

先ほども、東京都、大阪市など、各自治体での評価作業が大変であるとか、専門性が必要であるというお話がありましたが、建築のプロセスのほうから見ると、見積もりをしているものを点数にかえて、評価し、価格として捉えていくという考え方は、ある意味ではシンプルではないかというふうに、私自身は思っております。

一方、「適正な時価」とは何ぞやとか、納税者からの不服審査申出を見ると経年減価が市場と乖離しているのでは、古くなっても価格が安くならないなど、いろいろ課題がありますけれども、そういう課題については、今後解決していかなければならない課題と思っております。

不動産の証券化という話も今日は出ましたけれども、証券化した建物ではデューデリジェンスや不動産鑑定評価という評価法があるわけですが、今後、いろいろな評価の方法も考えていかなければならないものと思っております。先ほどの市場との乖離、すなわちマーケット価格と乖離しているというようなことももちろんあるわけですけれども、これは、先ほど述べたように、市場の取引価格はいろいろな状況によって変わり、変動が非常に激しいというようなこともございますので、今後、収益性のある建物とない建物、あるいは居住用、非居住用などに分けて考えることも必要と思います。基本的な考え方としては、現在、この3種類の中では再建築価格方式が、客観性、公平性から見ていい方法ではないかというふうに考えております。

【吉田】 ありがとうございました。

お二人の先生方からは、一般的な建築あるいは家屋の評価については、いろんな局面の中で幾つかの種類の評価方式が用いられ、それぞれ役に立っている中で、固定資産評価の世界での評価方式としては、やはり再建築価格方式が基本的に適切であるというお話をいただきました。資産評価システム研究センターでも、家屋研の中だけではなく、そもそも固定資産評価はいかにあるべきかというような検討を折々やってきている中で、私の認識では、やはり再建築価格方式が原理的には適切であるという議論を重ねてきたように思います。

ただ一方で、実際の評価の実務の中では、先ほど東京都と大阪市からお話がありましたように、評価の実務そのものが非常に複雑煩瑣で専門性があって、新しく異動で移ってきた職員さんには非常に苦労をかけるとか、全体として職員の数が少なくなっている中でどうやって簡素・合理化を図るかということ、あるいは、再建築価格方式だからというよりは、そもそも税の世界ですからクレームがないはずがない中で日ごろご苦労されているというふうなことも含めて、いろんな課題があることを伺いました。東京都、あるいは大阪市、大きな団体でございますので、それなりの組織的な取り組みをされてきて成果も上がっている、あるいは今もそういう取り組みをされているということでございますが、それほど大きくない規模の団体におかれましてはまた違ったご苦労もあろうかなと思ってはいるところでございます。

そういう中で、今、実はセンターの家屋研の中でも、従来検討をしてこなかったわけではないんですが、従来以上に力を入れて評価方式の簡素・合理化につきまして検討を昨年度から始めているところでございます。そういう成果も少し出てきておりますが、その取りまとめに当たりましては、家屋研究会の下に小委員会をつくりまして、鋭意作業をしていただいております。その委員長を村松さんに、今日のパネリストでいらっしゃいますが、やっていただきましたので、その内容につきまして、ここでざっとご紹介いただければと思います。

村松さん、よろしくお願いいたします。

4 新たな家屋評価方法に関する調査研究

【村松】 では、昨年度の小委員会報告の概要をお話ししたいと思います。資料10(P.51)をご覧下さい。

1に記載されているとおり、家屋研の下に家屋の新たな評価方法検討小委員会が、現行の再建築価格方式に代わる新たな評価方法を検討し、具体的なモデルを構築することを目的に設置されました。

まず小委員会の中では、現行の再建築価格方式に代わる新たな評価方法として、過去に家屋研の中で研究されました中から、取得価格方式、平米単価方式及び広域的比準評価方式の資料を参考にいたしまして、シンプル、客観的、メンテナンス、公平性等の各要素を判断基準に比較検討を行いました。例えばシンプルという視点をとれば、取得価格方式は、納税者自らの申告に基づくため評価額に対する納税者の納得が得やすい一方、事業用家屋にだけ導入すると、非事業用家屋を所有する納税者の不満が増大するおそれがある。また、取得価格はさまざまな事情により大きく変動するため、課税の公平性に欠けるし、課税庁が取得した価格が適正か否かをチェックするためには、事務負担の軽減にならない可能性がある。平米単価方式は、家屋の属性をもとに該当する家屋の単価に床面積を乗じるだけなので、納税者にとってはわかりやすい。しかし、課税庁からすれば、調査及び評価計算に係る時間の短縮が期待できる一方、一般的な属性に属さない家屋の特殊性が反映できない。広域的比準評価方式は、標準家屋と比較して補正する方法は納税者にとってイメージしやすく、わかりやすいが、標準家屋の選定に納得が得られなければ、評価全体への不信感を持たれる可能性がある。課税庁にとっては家屋評価の事務負担の軽減が期待できる。などの多くの意見が出されました。その他、客観的であること、メンテナンスが容易であること、公平性を欠かないこと等の視点についても分析した結果、小委員会としては、現在実在する家屋から標準家屋を設定しなければならない広域的比準評価に対し、仮想のものであっても柔軟に標準家屋が設定できること、家屋の類型ごとに決められた属性を判断基準とするため評価の公平・客観性が保たれること等の理由により、再建築価格方式を基礎とする平米単価方式を選択することとし、具体的な検討を行うことになりました。

この結果をもとに検討に入りまして、平米単価方式は、まず類型化が比較的容易と思われ、評価対象が多く、事務の軽減効果が大きい新築住宅用家屋等の比較的簡易な家屋から導入し、徐々に対象を拡大していくこと。モデル家屋の示し方については、単価計算だけでなく、コンピュータグラフィック技術等を活用して、家屋の概要がわかるものにすること。モデル家屋は全国一律のものを設定し、その設定及び評価は国その他専門機関が行う等で意見の一致を見ましたが、モデル家屋の区分設定、基準単価の選択、補正項目の設定などについてメンバーの意見が分かれまして、家屋の実態調査や統計分析が必要であるとの結論に至りました。

具体的なイメージは、資料11(P.52)をご覧いただきたいと思います。

家屋研では、今年と来年の2年間、平米単価方式を検討することになっていますので、この図は小委員会報告に家屋研の現在までの検討結果を反映したものになっています。報告書に基づきまして、現在、木造の在来工法及び2×4工法の戸建て住宅について具体的な検討に入っています。

まず評価計算式ですが、再建築価格基準単価に最低限度必要な補正項目に係る補正率を乗じ、計算単位として延べ床面積を乗じて、評価額を求めます。現行の比準評価に近い形でございます。再建築価格基準単価は、家屋の用途、構造、程度等によるグループ分けをした上で、それぞれ全国一律になるものを目指しておりまして、補正項目、補正率、ともに評価基準上で設定することを考えております。再建築価格基準単価と補正項目とは相互補完的な関係になりますので、基準単価、言いかえれば、用途、構造、程度等によるグループ分けの数が多くなれば、補正項目は少なくなります。

以上が小委員会報告の概要ですが、詳しい内容は、この大会の主催団体であります資産評価システム研究センターのホームページで見られますので、興味のある方はご覧いただきたいと思います。

https://www.recpas.or.jp/jigyo/report_web/h21_kaoku/kaoku.html

以上です。

【吉田】 ありがとうございました。

昨年度から検討を進めております、再建築価格方式を基礎とする平米単価方式というもののご紹介をいただきました。先ほど、東京都とか大阪市のような大きな団体ではできても、そうでないところではというふうなことも申し上げましたが、今ご紹介いただいた方式には、いわば広域的、つまり複数の団体を合わせたような広がりを持った比準の考え方が盛り込まれています。いろんな意味で実現性もあって可能性が期待できる選択肢であると考えていますが、この小委員会の作業につきましては、総務省のほうからも複数のメンバーが参加されて、それなりの反映も十分されています。平さんから総務省のお立場で少し補足いただければと思います。

【平】 ここまでパネリストの皆さんのお話を伺ってまいりまして、それこそいろんなことをこの壇上で考えさせられている次第でありまして、お話ししておきたい部分はたくさん出てきているんですけれども、時間もかなり押しているようですので、簡潔に絞って感想めいたことをお話しさせていただきたいと思います。

まず1つは、私も行政の人間ですので、やはり地方行財政の置かれている現状というのが非常に気になります。税務行政について、簡素で効率的なあり方が求められているということです。特に全国市長会をはじめとする地方団体の皆様方からは、家屋評価については簡素・合理化のご要望を毎年度いただいているというような現状が1つございます。これは何も行政それ自身のために簡素・合理化をやるということではなくて、社会経済状態の変化に伴いまして地域住民の皆さんに対して果たすべき、地方政府といいますか地方自治体の役割が飛躍的に増大をしていく。そういう中で、村松さん、井戸さんからお話がございましたように、定員・人員のほうはかなり頑張って削減をしていかなければいけないという現状があるということですから、住民の皆さんに果たすべき役割のほうに十分な人員なり役所の経費を充てていくというために、やはり簡素・合理化が必要なんだと思います。何も行政自身のための簡素・合理化ではないということを念頭に置いておかなければいけないんだろうと思います。そのためにはやはり、税務行政の中で極めて多くの人員、労力、経費を必要としている家屋評価の簡素・合理化というのは、避けて通るわけにはいかないだろうと思います。それも、いつまでも机上の議論だけではなくて、実際に適用できる実行可能なシステム、制度というものとしていかなければいけないだろうというふうに、この壇上で切実に考えてございます。

それから、2つ目ですけれども、家屋評価の簡素化・合理化というのは、納税者の方々にとってわかりやすくて、かつ納得の得られやすいものでなければ絶対いけないだろうというふうに思います。これは、評価する側のほうからすれば、きちんと説明責任の果たせる仕組み、制度、そういうものとして簡素・合理化を心がけなければいけないというふうに思います。家屋評価の課題、途中、小松先生からもお話があったように、他にもいろいろとございますけれども、簡素・合理化についての課題ということに絞ると、そういうことかなというふうに感じました。それで、村松さん、井戸さんからのお話にありましたように、政令市などの大都市ではかなりのところで長年にわたって比準評価が行われてきていると。そういう意味からすると評価方法としては比準評価というのも定着をしてきているという事情があるようにうかがえますし、もともと固定資産の土地の評価は標準地の平米単価に比準をして各筆の土地を評価するという方法が最も基本の原則というふうになっております。そういうこともあわせ考えますと、家屋についても、基準となる家屋の平米当たりの単価を基礎として、そこから多少の補正率というようなものを用いながら各戸の家屋を評価していくという平米単価方式というのは簡素・合理化の最も現実的な選択肢であろうというふうに思いますけれども、ただ、現実的だから選択するというわけにはなかなかまいりませんで、同時に評価方法として合理的でなければならない。最低限、現在行われている比準評価レベルの合理性というものはどうしても確保しなければならないというふうに考えております。

そういうことで、先ほど吉田コーディネーターのほうからお話がありましたように、パネリストの先生方にも入っていただいた家屋に関する調査研究委員会、ここで先ほどの村松さんからのご報告に、木造専用住宅の平米単価方式のイメージという図がございましたけれども、そういう形のご研究を今取りかかってやっていただいているということで、総務省としても基本的なデータをそろえるとかいうような点でかかわっていきたいと思っておりまして、今、総務省から各自治体に対してサンプルデータの提供をお願いしておるはずでございます。これは、先ほど申し上げましたように毎年度ご要望いただいている家屋評価の簡素・合理化のために合理的な分析を行うということで最低限必要なデータとしてお願いをしてございますので、ご多忙な中、さらにご負担をおかけして恐縮ですけれども、ぜひともご協力をお願いいたしたいと思います。データがある程度そろって分析もある程度進むという状態が来ないと簡素・合理化の具体的な中身についてはお話しできませんけれども、ただ、課題は大変多いと感じております。大げさに言うと山のように課題があるというふうに思いますけれども、先ほどお話ししたような簡素・合理化に対しての最低限の条件をクリアするということが何よりも肝要だろうと思っております。

今のところ、このぐらいでお願いします。

【吉田】 ありがとうございました。

総務省のほうからも、これまで力を入れてなかったわけでは決してないんですけれども、このたびはこれまで以上に力を入れて新しい評価制度の構築に取り組んでいるわけでございますが、そのあたり、もう少し具体的に、制度設計、制度構築という観点で、三橋先生、あるいは小松先生から、ご意見、あるいはご指摘があればと思います。

小松先生、いかがでしょうか。

【小松】 この話は、もし時間をいただけるのなら30分でも40分でもしたいのですけれど、そんなに時間はありませんので、簡単に今感じていることを述べさせていただきます。

参考資料の57ページ以降に、4.評価における同一性と差異性というところからいろいろと書いているのですが、簡単に言いますと、個々の家屋の違いを強調する方向に行くのか、みんなひとまとめにして同じだと見てしまうのか、その辺に分かれ道があると思っております。家屋評価の始まった当初は、評価方法を建築の積算の分野から借用しているのですが、建築の場合は1軒1軒みんな違う、建物は全部違うという前提で出発しています。細かく積み上げて、1円でも安くするとか、幾ら高くなるかというのが結構重要になるのですけれども、固定資産の評価でもそういう傾向があるように思います。いろいろお話を伺っていると、特にベテランの評価員の方になるほど、ここの家はあっちの家より1,000円高いというようなことを一生懸命強調されるような傾向があるのかなと感じることがあります。そのことについては、良い面もあれば、おそらく悪い面もあって、差を強調しようとすればするほど、評価のプロセスとしては非常に手間がかかってくるということになります。極端に言って木造住宅はみんな同じと見てしまえば、それは一つの平米単価だけで済みます。面積が違うのは明らかですから、これは差として当然にカウントするのですけれども、まず平米幾らと決めてしまえば話が早いじゃないですかというのが私の持論です。つまり、あまり細かいことは言いなさんな、みんなまとめて面倒見ましょうというのが、平米単価推進派としての意見です。けれども、今度はじゃあ本当にみんな同じと見ていいのかという議論が出てきます。例えばここに飲み水がありますが、これを単なる水だと言えば、日本の水もフランスの水もみんな同じということになるのですけれど、人によっては、飲み水としてはやはり違う、日本の水とフランスの水は区別したいというようなこともあります。ですから、そのあたりの折り合いをどこでつけるのがいいのかというのが、多分平米単価導入についての論点だろうと思います。皆さんの合意が得られるようなところをうまく見つけられれば、うまくいくだろうというふうに思っています。

資料の中にも書いていますけれども、たしか韓国は平米単価を一本にして決めるやり方をされていると思います。とにかく平米幾ら、つまり構造その他全部関係なしで平米単価が決められていて評価をやるわけですが、実際のいろいろな差をどう調整するかというのが非常にややこしくなって、いろいろな係数がたくさん出てくることになります。それがどうもややこしくてたまらないというのが現地の担当者の方の話でして、そういう煩雑さは残るのかなという気はします。

平米単価を導入するに当たって注意しなければと思うのは、さっきちょっと申し上げましたが、バックデータのことですね。今、日本の住宅がどうなっていて、どんな建物が標準的なのかということをきちんと科学的につかまえておく必要があると思います。結局それが単価の根拠になっていくわけで、そこをはしょってしまうと、何の合理性もないという話になりかねないです。韓国の場合はどうしているかと聞いたら、どうもその辺はブラックボックス化していてよくわからないこともあるのですが、いろいろな組織で調査結果を蓄積してやっておられるようでした。もし平米単価を導入するとすれば、そうした部分についても同時に考えないといけないということがあります。そういう課題はありますけれども、方向としては、平米単価というようなものを導入してまとめて面倒見ましょうというほうが、これからはいいのかなというふうに思っております。

【吉田】 ありがとうございました。

三橋先生、いかがでしょうか。

【三橋】 我々、よく計算でも、精算と略算という方式があります。略算でやっていいという形になるのは、精算したものとほぼ変わらないんだというようなことが説明できないと、略算でやっていいのかと。それが違っていれば当然使えないわけですから。納税者にしっかりとバックデータと共に、ほぼ同じくなるんだというふうに納得できる形でバックデータを揃えなければいけないし、当然それを情報開示して納税者に論理的に納得してもらうための標準家屋をどのように類型化していくかが課題です。また時代とともに技術も変わってまいりますし、建物の評価も多様化しています。環境的に非常に良い建物、あるいは安全性能の非常に高い建物とかの評価方法も将来関係してくるかと思います。そういう中で多様な建築物をいかに標準化するかというところを今のような形で、何らかの形で少し定量的に説明できればと思います。今、平米単価方式が1つ新しい形で出ておりますけれども、そのほかの方法もこれから考えていく必要があろうかと思います。プレハブ住宅とかはほぼ同じものを全国でつくっているという現時点では平米単価方式が一つの実現策として一番可能性が高いかなと思います。そういうことで、これから簡素化、あるいは標準化を進めていかなければいけないと思っております。

【吉田】 お二人の先生からそれぞれの立場で、平米単価方式への期待、そして、可能性についてお話をいただいたわけでございますが、一方で先ほどからの話にもございますようにいろんな課題がありまして、そういうことも含めて、東京と大阪のご経験も踏まえたご意見を村松さんと井戸さんからいただきたいと思います。村松さん、いかがでしょうか。

5 実務者から見た、望ましい新たな家屋評価方法

【村松】 まずは、望ましい評価制度といいますか、今、我々が行っていて、大きな制度基準の改正じゃなくて、少し進んだこんな改正をやっていただければ、現場としては、効率化、納税者にわかりやすいというようなことを少しお話ししたいと思います。

再建築価格方式自体は、固定資産税のための家屋評価方法としては長く行われており、特に大きな問題もなく、納税者にも理解されていると思いますが、その評価額を求める方法が複雑でわかりづらいことが、問題にあると思います。

1つは、比準評価を採用していない団体ではすべて部分別で評価計算を行っていることと思いますが、部分別計算は、各部分別の使用資材や使用量、施工割合の算出、建築設備の個数の把握など、手間がかかり、だれでもが簡単に短時間ではできません。ベテランの評価担当者の方はおわかりだと思いますが、専用住宅、共同住宅等の家屋評価は、外観や使用資材、建築設備等が多少異なっていても、部分別計算をした結果、単位当たり再建築費評点数はほとんど変わらないということが多くあります。このような家屋の評価に対して、個々の資材を事細かに確認することなく、補正項目も客観的な判断で適用可能な方式、現在の比準評価方式をベースにした方法や、家屋研で現在検討している平米単価方式でもいいと思いますが、全国統一的で簡易な評価方式を国が作成し評価基準で示すことによって、各団体の調査時間が大幅に減少するだけではなく、現在、比準評価を導入している団体、都においても24基準年度の標準家屋を収集しておりますが、比準表の作成事務等が大幅に少なくなり、評価事務の減量化になるかと思います。また、簡易な評価制度ができるということは、評価担当者も納税者に対して説明しやすくなり、納税者に対してはわかりやすい評価制度になると思います。

次は、先ほども申しましたが、評価担当者は家屋評価が難しいということですが、その原因の1つは、再建築費評点基準表、特に非木造再建築費評点基準表が細か過ぎる点にあるかと思います。見積書等の資料がない家屋の評価は不明確計算で行いますが、建築資料がないため、現地により使用資材等を明確に把握しなければなりません。しかし、再建築費評点基準表の評点項目は多岐に分かれているため、的確に判断することが難しくなっています。例えば非木造の床仕上げを見ますと、使用資材として塩化ビニールタイルが使用されている場合、まず評価担当者は資材を見て、評点項目の中で考えられる塩化ビニールタイルか、リノリューム・リノタイルかを判断する必要があります。そこで塩化ビニールタイルと判断すると、さらにそれを、軟質タイルか、半硬質タイルかの判断を行う必要があります。その次に、そのもの自体が2ミリ厚か、3ミリ厚か、厚さを判断する必要があります。そこまで判断して初めて、塩化ビニールタイル、軟質タイル、2ミリ厚という評点項目を確定することができます。

このような使用資材を判断するためには、多くの経験と建築資材等の知識が必要になります。評価担当者にいたしましては非常に難しい一つの原因かと、思っております。このため、15基準年度に木造の評点項目を大幅に圧縮したと同様に、非木造家屋についても、適正な評価は当然ですが、現行の評点項目を明らかに異なるもの以外は同一というような考え方に基づき大幅に圧縮して、原則としてある程度の研修を受けた評価担当者が現場で見て評点項目を付設できる程度にする必要があるかと思います。

新たな評価制度とはちょっと違っちゃいましたけど、多く建築される一般的な家屋については簡素で効率的な方法で評価を行い、その他の家屋につきましては、再建築費基準表の評点項目の圧縮、補正項目の適用基準を客観的にすることなどにより、家屋の評価事務の大幅な減量化が可能になると思っております。

以上です。

【吉田】 ありがとうございました。

井戸さん、いかがでしょうか。

【井戸】 望ましい新たな評価制度についてということでございますが、今までいろいろご議論ありましたように、現在、家屋研で研究されています家屋の新たな評価制度というのは、あくまで再建築価格方式を基礎とする平米単価方式ということになっております。この再建築価格方式自体は、今までの議論でも明らかになってきましたように、公平性を担保するためにも、固定資産の評価を行うためには非常にすぐれた方式であると思っておりますので、そこを変えずに、それを基礎として平米単価方式を導入していくということ自体、非常に納税者に対する説得力もあり、理論的にも優れたものになるのではないかと思っておりますし、今まで部分別で評価してきた在来分家屋の評価とも考え方に齟齬を生じないものであるということで、そういう方向で検討すべきなのかなと改めて感じたところです。

ただ問題は、新しい方式、簡素な方式で評価した結果が現在の評価額と大きく違うということになりますと、結果として説得力のないということになってしまいますので、それが大きな課題ではないかなと思っております。

先ほどからお話ありましたように、現在、全国市町村を対象にして木造在来工法ですとか2×4工法の家屋のサンプル調査が行われておりまして、非常に膨大なデータになるとは思うんですけれども、これをしっかりと分析して現実の評価実態を踏まえたものにしていくというのが非常に重要ではないかなと、改めて感じたところでございます。

また、今、抜本的な簡素化を図ろうということで家屋研でも研究を進めているわけですので、今までのような、先ほど村松パネリストのほうからご紹介ありましたような専門知識ですとか経験が必要な比準要素ということではなく、一般の職員に対して一定の研修を行えば、だれでも的確に、迷わずに判断できるといった比準要素にしていくことが非常に重要ではないかなと思っております。そうすることで、納税者も自ら評価内容を検証できますし、我々評価者側としても、二重、三重のチェックというのも容易にできるようになり、結果として、家屋評価に対する納税者からの信頼の確保ですとか、納税者に対する説明責任を果たすことにもつながるのではないかと思っております。

最後にもう1つ、これは特に平室長にお願いしておきたいと思うんですけれども、今後、総務省におきましても、新たな評価制度の検討を進めていかれるに当たりまして、日々、家屋評価を行っています我々現場の市町村なり、東京都さんを含めまして、そちらの意見なり要望というのも十分、いろんな機会を捉まえて聞いていただいて制度を作っていくということが非常に重要ではないかなと思っております。現場の意見をいろいろと聞いていただくことによって本当に使いやすい家屋の評価制度というのができるのかなというふうに思っておりますので、その点はよろしくお願いしたいと思っております。

いずれにいたしましても、評価する側にとっては簡素で、かつ納税者に対しては説得力のあるという制度を構築するのが必要かなと感じたところでございます。

以上でございます。

結び

【吉田】 ありがとうございました。

予定の時刻を少し過ぎかけておりますので、そろそろまとめなければいけないと思っております。今日、前半の議論は、固定資産評価の制度のそもそもの由来の話、そして、その評価方式のもとになっている再建築価格評価方式というものがどういうふうに導入されて、その後いろんな機会に他に代わるべき方式がないかということで検討も重ねておりますが、どうやら他の方式は基本的に家屋評価になじまないという中で、やはり基本理念としての再建築評価方式の適切さということが確認されただろうと思います。しかし一方で、非常に複雑で専門的な内容であることが、評価実務、あるいは納税者への対応等々でいろいろ課題があるという現状もございます。そういうことを踏まえて、ただいま後半の議論の中心になっております、新しい評価制度の構築を鋭意進めております。それに関連しましては、委員会だけではなくて、各団体にも調査その他のご協力をお願いしてやっているというところですので、いい成果が出ることを私どもは期待しているわけでございます。

ただ、そうは言っても一方で、すべてが平米単価方式になるのでなくて、規模の大きいものとか特殊なものについては部分別評価も残りますし、いざ不服が来たときには、これまでの部分別評価との対応がきちんと保たれている中で平米単価方式を運用しないと、一般の業務が簡素化されても、クレームがふえて、その対応で時間がいっぱいかかるということだったら、何をやったのかわからんということにもなろうかと思います。そういうことも含めて、現状をいろいろと改善することができる方式を何とか構築したいところでございます。総務省も非常に力を入れて取り組んでいる課題でございますので、どうぞよろしくお願いしたいと思っております。

それから、私の手元のシナリオではこれから各パネリストの方々に一言ずつご意見、ご感想をいただくことになっておりますが、時間のこともありますので、もし何かあれば一言ということで、手を挙げていただいた方にお話しいただくようなことでお許しいただければと思いますが、いかがでしょうか。

じゃあ、小松先生。

【小松】 時間のない中でこんなことを申し上げていいのかどうかわかりませんけれども、固定資産評価、特に家屋の課題の中で、経年減点補正の話があると私は思っています。というのは、最近、ご承知のように新築がどんどん減っていって、建物の経年がどんどん長くなっています。私は建物の寿命調査をやっていますけれども、だんだん延びてきているという事実がございまして、極端なことを言うと、いずれそのうちすべての家屋が残価率の評価だけで課税価格が決まるという状況も想定しなくちゃいけなくなるかもしれないと想像します。こういうふうになりますと、税収上では非常に大きな問題になるのではないかと思っております。これはここで議論をする話ではないので、課題があるということだけ申し上げておきます。いずれこの辺も検討していただければと、総務省にお願いしておきます。

【吉田】 平さん、お立場上、何か一言。

【平】 会場においでの皆様方は自治体の方々が多いのではないかと思うんですけれども、途中、話がありましたように、皆様方は大変ご苦労されている、ぎりぎりの努力をされているということだろうと思います。そういう中で、地方分権とか地域主権推進の一環として、家屋評価の簡素・合理化というのは切実な、解決を図らなければならないテーマだろうと思います。簡素というのは、ご承知のとおり、租税の三大原則の1つですけれども、つまり、いただく税金の多くを評価とか徴税費で使ってしまうくらいならば、むしろそういう税金は取らないほうがいいわけでして、適正な課税と同時に、いただく税収のできるだけ多くの部分を地域、あるいは地域住民の皆さんのほうに使えるようにするというのが大事な話でありますので、公平・適正と、それから簡素というこのバランス、小松先生のほうからもバランスというお話が出ましたけれども、バランスを図ることが極めて重要だと思います。

一方、評価方法の簡素・合理化を皆様方がご苦労なく説明責任の果たせる、十分合理的なものとしていくということも非常に重要ですけれども、これがまた決して簡単な話ではないということで、クリアしなければならない課題は大変多いと思っております。そういうことで、今日おいでの皆様方をはじめとして、全国の関係者の方々のご理解、ご支援なくしてはこういう大きな簡素・合理化というのは到底できないことだと思いますので、今後とも、皆様方のご理解、ご支援、ご協力を引き続きいただけるように改めてお願いをして、お願いベースで最後のコメントにかえさせていただきたいと思います。

【吉田】 ありがとうございました。

短い時間ではございましたが、非常に貴重なお話をいただきました。そして、家屋研で進めている新しい制度構築のご紹介もそれなりにさせていただけたかと思います。

少し、私のほうから申し上げたいこともございます。小松先生の話にありましたけれども、これからは建物の寿命が長くなる時代です。国の政策にもございます。そういう中で、長く建っている建物の評価というものが、適切に行われるということが、これから、いい建物、すばらしい名建築でなくても、普通に建っているしっかりした、きちんと使われている、かつ長く使われている建物が適切に評価されることは、建物の長寿命化が求められる時代に非常に重要な社会的な課題だと思っております。これは、むやみに高ければいいとか、そういうことでは決してありません。そして、家屋評価はそういうことにものすごく大きくかかわっている業務だということを改めて感じております。そして、ここにお見えの大勢の方々は好んでか好まざるかはともかくとしまして、日ごろ家屋評価にご尽力されている方々が多いと思います。私は建築屋としまして、これからの建物の長寿命化の時代に、適切な評価をぜひ既存家屋についてもやらなきゃいけないと思っておりますので、そういう点からもよろしくお願いしたいと思いますし、日ごろのお仕事に感謝を申し上げたいと思っているところでございます。

今日は、短時間でございましたが、有意義なディスカッションができたと思っております。皆様方のご参考に、あるいはお役にどのくらい立てるかなという面もございますが、それぞれこれからのお仕事に生かしていただければ、私どもとしては大変幸せだと思っているところでございます。

今日は、どうもありがとうございました。



資料


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資料8


資料9


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参考資料
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