評価センター資料閲覧室

第3回固定資産評価研究大会 パネルディスカッション討議録

「21世紀の固定資産税のあり方─地価動向と税負担─」

コーディネーター 神野 直彦  東京大学大学院経済学科・経済学部教授
   パネリスト 金子  宏  学習院大学法学部教授
   パネリスト 岡崎 浩巳  自治省税務局固定資産税課長
   パネリスト 小幡 純子  上智大学法学部教授
   パネリスト 小倉 輝亮  横浜市財政局主税部長


 神野 ご紹介にあずかりました東京大学の神野でございます。至りませんが、コーディネーターを務めさせていただきますので、よろしくお願いいたします。
 本日のテーマは「21世紀の固定資産税のあり方」ということで、固定資産税の未来に向かってのビジョンを考えていこうというテーマでございますので、固定資産税のビジョンに基づくデザイン的な改革のあり方というものを検討していくという趣旨になっております。ところが、副題の方は「地価動向と税負担」ということになっておりますので、これは現実から出発した問題解決的なテーマになっております。
 と申しますのも、21世紀といっても秒単位と言いましょうか、ごく近未来になっておりますので、大きなビジョンではありますけれども、きょうの金子先生の基調講演にもありましたように、現実の問題から出発しながらビジョンにたどりついていくということをするような時期にきておりますから、きょうはビジョン的な問題と、問題解決的な問題とちょうど中間的な議論をさせていただこうかと考えております。
 先ほど金子先生から、「固定資産税制度の改革の方向」という演題で基調講演をいただいたわけでございます。そのお話にもありましたように、今後、少子高齢化社会とか、分権型社会とかいうことで市町村の役割が非常に大きくなっていく。その中で市町村税の基幹税である固定資産税のあり方はどうあるべきかということで進めさせていただくわけでございますけれども、ご出席のパネリストの方々には、金子先生の基調講演を踏まえてご意見をいただきたいと考えております。
 金子先生のお話は、先ほど申しましたように現実の問題から出発されて、二重構造ということで問題提起をされたあと、α方式とか極めて興味深い提案をされたわけでございます。特に固定資産税を引き上げると私立大学の授業料が値上がるということをさらっとお触れになりました。しかし、これを認めると固定資産税というのは間接税だということになるわけで、企業は負担しているということを言うけれども、実は生産物の価格に転化しているのではないか。国際統計では2つの取り方がございまして、固定資産税を間接税として捉まえてしまうという取り方をとっているところもございますので、見方を変えますと、極めて大きな本質論にかかわるようなことをさらりとおっしゃっていらっしゃいました。
 そのほか固定資産税の人税化の問題など、多岐にわたる問題提起をされたわけでございますけれども、初めに少し大きな問題から出発したいと思います。先ほども申しましたように、少子高齢化とか分権型社会が本当に近づいてきた、足音が聞こえてくる、21世紀における市町村の行財政のあり方を中心に、固定資産税の改革を念頭に置きながら、ご出席のパネリストの方々にご意見を伺いたいと思っております。
 金子先生には先ほど基調講演をいただいたばかりでございますので、最後におまとめをいただくという役回りをお願いいたしまして、最初に小幡先生からお話をお伺いしたいと思います。
 小幡先生は、住宅宅地審議会の委員をされていらっしゃいますので、今後、少子高齢化社会とか分権型社会になりますと、まちづくりの方もバリアフリー(バリアフリーというのは階段というバリアをつくっておいて、それをフリーにするということですが)よりも、障害者であろうと高齢者であろうと、だれもが普遍的にユニバーサルにアクセスできるまちづくりというのが最近言われております。つまり、ユニバーサルデザインに基づくまちづくりということが言われ始めておりますので、都市基盤整備を中心に、今後の市町村の行財政のあり方についてお伺いできればと思っております。
 時間制限をして申しわけありませんが、それぞれのパネリストの方々にまず5分程度のお時間でお話を頂戴できればと思います。
 それでは、小幡先生、よろしくお願いいたします。

21世紀社会における市町村の役割
 小幡
 上智大学の小幡でございます。私の方からは、今、神野先生からありましたように、バリアフリー型とよく言われますが、少子高齢化時代の市町村がすべきまちづくり、社会基盤整備について若干お話いたしたいと思います。
 この問題は、固定資産税プロパーの問題からはやや外れますけれども、市町村の固定資産税を負担する住民にとってみると、市町村がこれからやるべきまちづくりとして一番重要な、まさにこれまでのまちづくりと違うものが21世紀に向かって要求されているということでございますから、そういう観点からお話申し上げたいと思います。
 統計的なことはあちこちで言われておりますので、あまり繰り返しませんが、65歳以上の人口が全人口に占める割合、いわゆる高齢化率と申しますけれども、1995年は14.6%でございます。2000年には恐らく17%を超えて、2015年には25%を超えるのではないかと言われております。
 従来、社会基盤整備と申しますのは、道路などの絶対必要な公共的な施設、それから、下水道、下水道はまだのところもございますけれども、そういったところは大体基盤整備として20世紀でほぼなされてきたという総括はできるのではないかと思うのですが、これはどちらかというとかなり中央集権的な仕組みにおいて進められてきた都市の基盤整備であったのではないかと思われます。
 それに対してこれからはまさに分権の時代でございまして、それぞれの市町村が特徴を出しながら、どういうふうに高齢化社会においてまちづくりを用意できるかということは、そこに住む住民にとって最も重要な関心事である行政サービスの1つとも言えるわけでございます。深刻な問題は、例えば都市の外円部に開発されたニュータウンは世代がほとんど高齢者ばかりになってしまうというふうな状況を迎えております。
要するに高齢者の単独世帯が増える、そうすると自分たちだけあるいは一人でやらなければいけませんので、生活機能が低下いたします。そういう中で、高齢者であっても安心して暮らせるまちづくりを進める必要がますます増大してくるということでございます。高齢者の方に調査いたしますと、一番不満を訴えられるのが買い物とか病院への通院のときの不便、それから、徒歩で行くのに適した道路とか公園が未整備であるということが不満として出てまいります。
 介護保険の問題もございますが、今後老人が増えてきて、福祉という観点でも高齢化社会に対応した基盤整備を行うことによって、社会保障にかかる費用を軽減することが可能でございますので、そのような観点からも、必要な人的サービスにかかる費用をできるだけ効率的に軽減していくという立場から、このバリアフリー型の社会基盤整備が必要になっております。
 あまり時間もないのでそれほど例は申しませんが、ノンステップバスなどもこのごろはだいぶ広まってまいりましたけれども、車いすがすれ違えるような幅の広い歩道というものも必要になってくるのではないか。しかも、我が国の高齢者の特徴を外国と比べた場合、勤労意欲が非常に高い。つまり、高齢者になっても何かしていたい、社会参加を望む声が非常に多うございます。
 単に引きこもっているというのではなくて、高齢者に配慮したまちづくり、例えばデーサービスセンターと福祉施設とか住宅、駅とかを人工的な立体地盤をつくることによって、スムーズに水平的に動けるようにするシステム。地区全体としてのバリアフリーを進める。あるいは、長寿福祉社会にふさわしい、さまざまな健康回復施設のようなものを兼ね備えた公園を整備していく。
 そういった観点というのは、今までは国によって、例えば補助金等によって引っ張られてきたという感がございますが、これからはそうではなくて、市町村独自の特徴として、逆に差が出てくるということになりますけれども、そういうことを意識しながら各市町村が積極的に進めていく必要がある。まさに分権化時代でございますので、市町村自身の発意にかかわるというところでございます。
 高齢化社会といって、いろいろ負担が大変だ、市町村も介護保険で大変だという話ばかりございますが、積極的な基盤整備としてとらえると、少し明るいイメージが広がってくるのではないかと思います。

 神野 どうもありがとうございました。
 日本でもバリアフリーのまちづくりは進んでおりますが、今ご紹介いただきましたように超低床バスとか、それから、そういうことに限らず製品もバリアフリーと言いますか、ユニバーサルデザインのものが増えてきています。例えばシャンプーとかリンスも目の不自由な人が触っただけでわかるような製品とか、半身不随の人が片手でふたを開けられる歯磨きとかがどんどんできていています。
 ところが、障害者やお年寄りのために工夫された製品というのは、普通の人が使ってもやさしい製品だということがわかってきておりますので、それが広く普及してくる。例えばウォシュレットというのも、手の不自由な人々のために開発された製品だけれども、実際使ってみると普通の人々にとってもやさしいんだということがわかってきて、急速に普及していく。
 まちづくりも同じことで、高齢者や障害者のためにやさしいまちづくりは、一般の普通の人々にとってもやさしいまちづくりになるはずであります。日本の場合には、先ほど小幡先生がお話になりましたように、これまでは国が細かなところを決めてまちづくりをしてきた。
 ただ、肝心なところはあまり統一がとれていなくて、眼の不自由な人のために歩道に張ってあるストッパーというのはまちごとに全部違っておりまして、統一されていませんから、違ったまちへ行くと指標が違って不自由をしてしまうというようなことになりかねないわけです。
 いずれにいたしましても、これからは人々にやさしいまちづくりを初め、21世紀の行政のために、市町村への権限の移譲の問題が大きくクローズアップされてくるわけでございますけれども、そうした観点から岡崎課長から問題提起を含めてお話をいただければと思いますので、よろしくお願いいたします。

 岡崎 それでは、市町村への権限移譲の話なり分権の話ということで、私の方から問題提起をしろということでございます。
 分権については、先ほどオープニングセレモニーで湊理事長、あるいは矢野実行委員長、私どもの石井税務局長からもお話がありましたけれども、分権推進一括法が通りまして、これから地方分権の時代と言われるわけでございます。なぜ分権が必要かというのは、今、神野先生のお話にもあったように福祉などでも、平成の御代になって"ゴールドプラン"というのができましたけれども、市町村が主役にならないと世の中全体の面倒を見切れなくなってきたという流れなんだろうと思います。
 分権をすることによって個性溢れるまちづくりができるということですけれども、今のお話にもありましたように、まちによっていろいろ違い過ぎては困るということで、基準は国なりで企画する必要はありましょうが、実際には地域ごとの創意工夫でモノができる。後ほど議論になるでしょうけれども、それにふさわしい税財政制度も考えていかなければならないという時代になっているんだろうと思います。
 分権法の内容はご紹介するまでもありませんが、それぞれの地域が個性を発揮して、いいまちづくりができるようにということだろうと思います。権限を与えるかわりに自分で責任をとりなさいと、自己決定、自己責任。今は国が決めてますからという責任逃れができるわけですけれども、それができない世の中になってくるんだろうと思います。
 こんな議論をしてふさわしいかどうかわかりませんけれども、分権の中で権限の移譲、あるいは国の関与等の見直し、自主財政権、こういう流れがあるわけですけれども、その中で一つ、市町村合併というのがあります。ちょうど今、市町村の皆様、あるいは県で市町村行政をされている皆様方が多いでしょうから、ちょっと私の考えを申し上げます。
 この関係である先生と話してましたら、分権、分権というけれども全然進まないと。今より100年以上昔の江戸時代の方がよっぽど分権していた、当時の方が各藩において独自の産業振興施策とか独自の教育をやっていたはずだ、今の方がずっと遅れていると、こういう議論があってちょっと調べてみました。そうしましたら、よく三百諸侯と言いますけれども、明治の初年に302藩あったという記録があります。
 その302藩のうち一番大きいのは金沢藩で108万人という人口で、名古屋、広島あたりが90万を超えていまして、50万人以上は10藩あります。10万人以上は70藩、1万人以上は188藩ときまして、1万人を切っているのは34藩しかない。一番小さいのが奈良県の田原本という藩でして、4,500人ぐらいの人口である。当時の国の人口は3,300万人ぐらいという記録になってますから、平均で11万人ぐらいの単位があったわけであります。このぐらいの規模があるといろいろ独自のことができるのかなという気がいたします。
 翻って今の市町村を見てみますと、お隣に小倉さんがいますけれども、小倉さんの横浜市が330万人いるんですが、一番小さい村は200人いないところがあるということです。今3,230ぐらいあるんですけれども、平均人口で3万6,000ということで、江戸時代に比べて平均的に3分の1の規模になっている。しかも、問題は人口1万人に達しない市町村が半分の1,500あるわけです。
 今、神野先生からもいろいろ議論のありました、これからの高齢化社会に向かって、分権をしようという掛け声はいいんですけれども、これで本当にできるのだろうかということをまじめに考えなきゃいかんのかなという気がするわけであります。当時、交通の手段というのは歩きか、せいぜい馬ぐらいの時代に、それだけの広い地域でそれだけの人口がいて、きちんと行政をやっていたわけでありまして、今できないはずがない。
 私なんかもいろいろな県に勤務しましたけれども、経験的に言うと、車に乗ったら、役場から隣町の役場まで5分ぐらいのところは結構あるわけですね。こういうのはもう少し単位を大きくしないといけないし。介護保険でよく言われますけれども、三、四十万人いないとなかなかうまくいかないというような行政も出てきているわけです。世の中、明治以降いろんな分野が専門化しまして、難しくなる仕事に対応していろんな組織がまたできてきているわけですけれども、市町村の行政単位は戦後一貫して、大合併以降3,000ぐらいで動かないわけです。
 ちなみに、これから福祉の面を含めてお金が大変かかります、税財政を充実するのはもちろんですけれども、出る方も少し考えなくてはいけないと思います。そのときに行政単位というのもかなり大きな意味を持ちます。これは統計上の数字なんですけれども、10万人を超えると行政経費というのは安定してまいりまして、人口10万人以上の自治体の統計上平均をとってみますと、人口1人当たり約31万円使っています。10万人以下のところで平均しますと、43万円使っているというのが出ていまして、12万円違うわけですね。
 1人当たり12万円違うものを、10万人以上に合併すれば安くなるだろうと考えまして、全部は無理でも、半分安くなって、1人当たり6万円ぐらい安くなるとすると、今10万人未満の自治体に人口5,000万人が住んでますので、5,000万人掛ける6万円とやりますと、毎年3兆円出てくるということになります。これはかなり単純な計算ですけれども、できるだけ行政単位をまとめて、コストを下げてやっていかないと、高齢化社会でいろいろなコストが増してくるときに対応できないんじゃないかと思うわけであります。
 分権ということは非常に大事ですし、またそれを進める上で受け皿としての市町村の、単純に合併という言い方は好きではありませんけれども、規模あるいは能力を高めていく。そのために合併も一つの手段ではあると思います。そういう意味でこれからの非常に厳しい時代に対応するのに、我々自身もそうですが、特に自治体に分権を進めるために何が必要かという議論、自分への問いかけというものをぜひお願いしたいと思っている次第であります。
 ちょっと観点が違うかもしれませんけれども、そんなことを問題提起としてお話した次第であります。

 神野 分権時代の地方行政のあり方のようなお話でございました。
 江戸時代は分権が進んでいて、金沢藩が一番人口が多くてというお話がありましたが、日本の国勢調査は明治13年にできますが、明治13年に一番人口が多かったは新潟県の200万人でして、第2位が石川県でございました。東京府は第7位で70万人でございましたので、日本海側に人口が集中していたわけですね。それはなぜかと言いますと、当然のことですけれども、東京では食べられない。
米ができるところ、食糧ができるところに人が張りつくというのが人類の習わしで、農水省の調査によりますと、東京都は食糧自給率が1%か2%だったと思います。一番多いのが北海道でほぼ170%、もちろん新潟県は自給ができますが。逆に交流が盛んになってしまうと、地方は没落するという悲劇的なことになってしまう側面もあるわけです。
 それから、合併なども、今のお話にありましたように、合併というのを結婚に例えれば、独身時代はテレビを1台、1台、2台持っていたのが1台で済んでしまうということで、合併すればコストは低くなりますが、同時に浮かせたコストで新しい需要に応じるような工夫をすることではないかと思います。
 私は昨日スウェーデン、フランスから帰ってきたばかりなんですが、スウェーデンは強制合併をやらせました。合併をやらせるというのは何のためかというと、市町村の財政力を強めるためだから、合併をさせると市町村の役人の数を増やすんですね。当然ですが、財政力を増やして役人を増やすし、公共サービスをよくしようという発想法でやりますので、合併その他は住民に強力のメリットと言いますか、合併するメリットがわかるような、公共サービスが増えますよということをきちっと示さないと、なかなか進まないのではないかと思います。
 その意味で、課長のご指摘のように分権、それから、こういった21世紀のあり方を考えるときに、どれだけ住民に質のよい公共サービスを量的に多く出せるか、そういう体制をつくり上げるというのが重要なポイントになるだろうと思います。
 そこで、今度はまさに住民の側からいろいろな要求があり、現場で住民のニーズと直接接せられている立場からご意見をお伺いしたいと考えておりますので、小倉先生からお願いできますか。

 小倉 私は本日出席されております地方団体の方の代弁ができればと思ってお話をさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 地方分権の問題が今いろいろ話題に出ておりますが、私どもの市におきまして市民が地方分権についてどう考えているかというアンケートをしたものがございます。「分権に関心がある」という市民の方は約半分おいでになりまして、「分権と聞いて何を思い浮かべるか」という問に対しましては、2つまで選択しておりますが、「地域特性に合う行政が進められるんだ」という答えとか、「市民の声が届きやすくなる」といった、非常に前向きと言いますか、まさにきちっととらえられているなと思うのでございますが、先ほど小幡先生からお話がございましたように、地域によってサービス水準に格差が出てくるんじゃないかというご心配をされている方もおいでになります。
 それから、「地方分権が推進された場合、生活はどのように変わるか」、これも2つ選択でございますが、「行政とのつながりが密接になる」あるいは「地域の役割や責任が大きくなる」ということで、地域にとって分権はプラスと考えておられる方が多うございます。それから、「これから行政と市民のかかわりはどういうものか」という問に対しましては、「身近な地域の問題は行政と市民が一緒に進めていくべきだ」というお考えの方が一番多うございまして、1つ選択で72%という高い割合でございます。地方分権は市民にとりましても意義があるものと考える期待が相当多うございます。
 そういったものを踏まえまして、私どもで平成10年度市民意識調査をいたしましたが、「生活の心配事は何ですか」と尋ねますと、一番多かったのが、自分の病気や老後の事ということでございます。そこで行政への要望ということで、どういう要望を一番されますかという問に対しては、高齢者の福祉対策というのが一番多うございました。これはここ10年間ずっと1位でございまして、ある意味では市民は高齢者、高齢社会あるいは高齢者の問題というのをかなり前から気づいており、こういうアンケートに反映してきているのではないかと考えております。
 そこで、福祉対策というのをどのように受けとめているかということでございますが、私どものトップは今後の行政が目指す役割ということで、「活力ある福祉社会の実現」というものを掲げております。福祉対策というのは3つございまして、1つは、先ほども出ておりましたとおり、生活保護などのセーフティネットの機能でございます。2つ目は、高齢者・障害者の介護を含めまして、社会的連帯の中での自立を支援するという政策。最後に、こういうとらえ方は非常にユニークかもわかりませんが、福祉コストを支える地域経済政策、これを広義の福祉政策ととらえております。この意味で職住近接や雇用の創出を福祉政策ということで考えております。
 したがいまして、先ほど言いました「活力ある福祉社会の実現」というのは、福祉システムの充実ということは当然のことながら、地域の経済の活力、雇用の確保という2つの戦略と言いますか、考え方を踏まえまして、これからの行政をやっていこうというふうに考えております。

 神野 どうもありがとうございました。
 それでは、先ほどもご講演をいただいて大変恐縮なんですが、おまとめいただく意味で、少子高齢化時代の社会像ということについて、総括的なことを金子先生からお話いただきたいと思います。
 よろしくお願いいたします。

少子高齢化時代における固定資産税の役割
(市町村の役割の増大と固定資産税)
金子 
うまくまとまるかどうかわかりませんけれども、今、お三方からお話を伺いまして、いろいろと教えられるところが多くございました。少子高齢化はいろいろな背景があって、そういう現実が生じているわけでありまして、暗いイメージを持つ人も多いのではないかと思いますけれども、私は比較的明るいイメージを持っておりまして、今お話を伺っていて一層そう思いました。
 少子高齢化時代のそれぞれの市町村における人々の生活を考えてみますと、多くの場合は夫婦は、妻が家にとどまるという例が多数派だったわけでしょうが、最近はむしろ夫婦ともに仕事を持つというのが普通になりつつある。そして、一層その方向は進んでいくであろうと思われます。そうすると、子供の世話を、高齢になったお年寄りと言っては悪いですが、そういう方がなさるというようなこともありましょう。
 それから、さっき小幡さんが言っておられましたように、アメリカの高齢者と違って日本の高齢者は参加意欲か強いということが確かに言えるのではないかと思います。そういたしますと、働ける人は働くということになるでしょうし、さっき言いましたように夫婦がともに働いている場合、同居している場合は家のことも出来るでありましょうし、例えばまちの美化運動とか、花壇をつくってまちを美しくするなんていうことにはお年寄りは大いに情熱を燃やすのではないかという感じもいたしました。
 全体としてみると子供の数が少なくなって、子供の遊ぶ声があまり聞こえなくなったという面はあるかもしれません。そういう意味では活力が少し低下するということはあるかもしれませんけれども、他方ではお年寄りが生き生きとしており、また夫婦が生き生きとしているというようなこともありまして、全体としては明るいイメージを持ってもいいのではないか。もちろん、その中には福祉対策を十分にしなければならないお年寄りはたくさんいるわけですけれども、そういう人に対しては十分な介護をすることが必要であります。
 それから、若い人と年寄りの間の交流の問題ですが、私は最近学生と話しておりまして気づくことは、最近の学生は大変に思いやりがあるのではないかという感じがいたします。ただ、大事に育てられておりますし、受験勉強に熱中しているものですから、やや常識を欠くところはありますけれども、それはこちらが言ってやればすぐわかるようでありますので、そういう意味では若い人もお年寄りに対していろいろと親切にする、お年寄りの方も従来のように威張っているというのではなくて、控えめに生きがいを見い出すというようなことで、全体として平和的になっていくのではないかと思います。
 高齢化社会を支えていくためには大きな負担も必要でありますけれども、さっきお話がありましたように、その財源をどういうふうに捻出するかという問題と同時に、高齢化社会に独自の新しい産業が起こってくるということもありますので、マイナスというか暗いイメージばかり持つ必要はないのではないか。問題は、どういうふうに高齢化社会をプラスの方向で考え、そういう方向に持っていくのかということではないかと、皆さんのお話を伺っていて思いました。
 簡単でございますけれども、以上でございます。

 神野 どうもありがとうございます。
 私も高齢化社会というのは恐れるに足りないと思っております。1つは、高齢化社会になっても子供と高齢者を合わせた扶養人口は、2030年になっても50年前と変わりませんので、社会が扶養していかなければならない人口は増えるわけではないということです。
 それから、経済学で恐れているのは、お年寄りは貯蓄をしないで、貯蓄率が非常に低下するということが高齢化社会の問題点になるわけですけれども、日本のお年寄りは世界のお年寄りと違って異常なお年寄りで、貯蓄率が若い人よりも高いんです。よく3月になると納税者にインタビューをしていて、金さん銀さんにテレビのインタビュアーが「おばあさん、このお金をどう使われるんですか」と聞くと、お二人とも必ず「老後の貯蓄」とおっしゃっていまして、貯蓄率は落ちないのではないかと思います。
 とは言え、少子高齢化社会になってまいりますと、これまでお話がありましたように、バリアフリーのまちづくりや、小倉部長からお話がありましたように、今の国民は老後に非常に不安を持っていると、そうすると病気や老後のための社会的セーフティネットを張らなければならないという使命が市町村に増えてくるわけです。
 そうすると、財源の問題が出てきます。つまり、市民のニーズからいうとますますニーズは高まってくるのに、財政状況は非常に苦しくなっている。その中で市町村の基幹税としての固定資産税が問題になってくるわけでございます。
 次に、そういう増大する役割と、税財政状況をどういうように考えていったらいいのかというテーマに移ってまいりたいと思います。まず現実から出発させていただこうと思いますので、最初に横浜市の小倉部長から口火を切っていただければと思います。
 よろしくお願いいたします。

 小倉 これから都市基盤整備から社会的セーフネットの方向にということでございますが、横浜市が今まで進めてきた基盤整備について触れさせていただきたいと思います。
 昭和45年度と平成9年度を比較いたしますと、人口が220万人から330万人ということで110万人増えておりまして、政令市がもう1つできたという異常な伸びでございます。小学校は、当時175校が現在2倍の347校ということでございます。先ほど小幡先生から下水道の話が出ておりましたが、水洗化普及率、処理区域内の人口で見ますと、昭和45年度に17%だったものが平成9年度では98%ということで、ほぼ終わっております。
 このお金がどれだけかかったかと申しますと、あまり古い数字は統計上とれなかったんですけれども、昭和55年度から平成9年度をとりますと、55年度は下水道普及率43%、9年度で98%でございますので、18年間で2倍になっております。下水道企業会計を単純に合計しますと、約5兆円でございます。そのうち、整備費が2兆2,300億円ということでかなり膨大な投資をしております。また、この合計を賄う財源として企業債は全体で1兆6,300億円発行しており、企業債の残高は9年度で1兆2,500億円ございます。これをこれから返すという重いおもりといいますか、そういう債務を持っております。この18年間に市税等一般財源が費やされたのは1兆4,300億円ということでございまして、1年間に800億円費やしたという数字になっております。
 急激な人口増に対して、これまで都市基盤整備に努めてきたこと、そういったことを前提にしまして、平成元年度から10年度にかけての歳入全体を見ますと、元年度は1兆円でございますが、10年度1兆5,000億円ということで、一・四倍という数字になっております。歳入のうち市税は元年度で5,800億円でございますが、10年度は7,200億円ということで、市税の伸びは1.25倍、歳入全体よりも低いという数字でございます。5年度以降からほぼ7,000億円ちょっと超えたぐらいで行ったり来たりしているということで、5年度以降市税は横ばいということでございます。
 市債は、元年度に約1,000億円弱あったんですが、10年度で1,900億円という数字でございます。もちろん、5年度、6年度になりますと、2,600億円、2,700億円という市債の額でございまして、歳入に占めるシェアーは元年度に9.4%だったものが10年度で12.9%というぐあいに増えております。そのおかげと言うのも何ですが、市債残高が10年度2兆1,500億円、市税収入の2.6倍という額でございます。
 次は、歳出で見ますと、元年度には4,000億円ということで歳出全体の4割を土木費で占めておりましたが、10年度では30.1%ということで、シェアーを10%落としており、額も10年度は元年度の1.1倍となっております。そのかわり伸びましたのは公債費でございまして、800億円あった公債費が2,000億円ということでございまして、2.5倍でございます。また、衛生費とか民生費につきましては、衛生費850億円、民生費1,200億円であったものが、それぞれ1,500億円、2,500億円ということで、1.7倍、2倍となっており、土木費から福祉関係にシフトしているのが裏づけられると思います。
 市税収入について、先ほど横ばいと申し上げましたが、ご承知のとおり平成6年度に特別減税がございまして、500億円減収となりました。平成7年度以降、特別減税と制度減税の組み合わせで減税されたわけでございますが、制度減税で350億円、平成11年度の恒久的減税で340億円、さらに法人市民税で法人税の税率が2回引き下げられまして、その影響が50億円。全体で740億円が市税の基礎から落ちてしまっているということでございます。その中で固定資産税は奮闘と言いますか、平成元年度1,800億円で市税収入に占めるシェアーが3割でしたが、市民税の落ち込みもございまして、10年度は2,911億円でシェアー40%となり、10ポイント上げております。
 今、心配なのは固定資産税でございます。9年度に固定資産税は大きな改正がございまして、今までかなり伸びていたものが9年度0.1%の伸び、横ばいでございます。内訳を見ますと、土地は0.1%の増ということですので、ほぼ横ばいで、8年度と比べ1億しか違いません。したがって、評価替えをして増えなかった、まさに負担水準の上と下とがちょうどバッティングして、プラスマイナス0になりました。制度が非常に効いているという内容でございます。
 家屋につきましては、評価替えで残念ながら戦後初めてマイナス3.2%となりまして、評価基準の改正が非常に効いたものとなっております。そういったことで、9年度は固定資産税全体で0.1%の増、10年度は2.6%増えておりますが、土地は価格を修正した関係から0.5%の減ということでございます。家屋は、このときは評価替えがございませんので、6.9%ぐらい伸びております。11年度をみましても、固定全体としては0.9%の伸び、土地については0.3%の増という数字でございます。
 こうやって見ていきますと、税収も厳しいということですが、私どもとして非常に大きい問題は市債の発行でございます。先ほど残高を言いましたけれども、このままいってしまうと起債制限比率20%を超えてしまうということも考えられましたので、8年度より毎年度市債の抑制ということで、前年度の12%減という数字を掲げまして、市債残高を抑える方向で財政運営を行っております。しかしながら、起債制限比率は、7年度が12.5%、8年度13.4%、9年度14.0%、10年度14.4%というふうに徐々に上がっておりますし、市債残高も7年度1兆8,000億円、8年度1兆9,000億円、9年度2兆円、10年度2兆1,500億円ということで、残高も増えております。ただ、毎年度12%減と市債を抑制していきますと、起債制限比率20%は超えないだろうと考ております。
 そういった状況から見ますと、歳入の半分を占める市税収入は横ばいで、市債は抑制。そういった中で一生懸命支えているのは固定資産税でございますが、先ほど申しましたとおり、9年度以降土地は横ばいということでございますし、12年度の評価替えが予定されておりますけれども、現行制度においても土地は減収になるだろうと踏んでおりますので、私どもとしては現行制度をいじらないでもらいたいという気持ちをここで披露させていただきたいと思います。
 さらに家屋については、新増築、横浜市は幸い増収要因ということで、40億円から50億円、毎年増えておりますけれども、9年度に評価替えで100億ぐらい減っておりますので、12年度の家屋の評価替えもそのぐらい減るんじゃないかと心配をしております。市債は抑制、財政調整基金等の臨時財源もないという状態になってきますと、財政状況はかなり厳しいというのが現状でございます。

 神野 ありがとうございました。
 市の財政が厳しくなっていく中で、市民のニーズに応えるような公共サービスを支えてきた固定資産税が、このままいくと減少してしまい、ニーズに応えるような政策はとても打てないと。そうであるとすれば、現行制度はこのまま維持していただかないというというお話でございました。
 しかもそういう状態であると国税と地方税の税源配分のあり方と申しますか、全体の税体系の枠組みそのものにも足を踏み込んで議論しないとうまくいかないと思いますので、そこを含めて岡崎課長からお話をいただければと思います。
 よろしくお願いします。

 岡崎 なかなか難しいお話ですけれども、地方財政が大変だということで、具体的に横浜市の例を小倉さんから言っていただきました。全体でよく言われることは、国・地方で600兆の借金があると。地方だけでも、11年度末で176兆円の借金があるということを言っております。特に平成3年度以降急に増えまして、106兆円増えたと。つまり、3年度以降2.5倍になっているということを言っております。今の176兆円の中には交付税特会の22兆円の借入金とか、それぞれの地方団体の地方債の残高も全部合わさっております。
 それから、地方財政の場合には、国のように1つではなくて3,300程度の自治体の集合体です。したがって、いわばアジサイの花のようなものですが、個別の花で状況は全部違うんですという中で、公債費負担比率が、我々の経験として15%以上になると黄色信号ですよという団体が、全団体の半分以上になっていますと。9年度末で1,853団体ありますけれども、そのぐらい公債比率が上がってきています。ですから、全体とは別に個々の団体を見ると、半分ぐらいは危険信号なんですよという話をよくするわけであります。
 私、個人的に言いますと、借金が多いのは事実でありますし、大変な問題ではあるんですけれども、もっと問題なのは一般的に市町村の人たちが本当にこれを自分の借金と思っているかというところがやや疑問に思っているわけです。というのは、今まで我々の言い方も悪かったんでしょうが、地方債を出すときにも有利な地方債がありますよ、交付税で償還費の何割を見ますということも言ってきましたから、市町村の方は返すのは大変だけれども、何とか国で見てくれるだろうというのがあります。もっと言えば、交付税特会で借りている22兆円余の金というのは、だれも自分の借金と思ってないところがある。176兆円借りて大変だという実感が市町村の経営にあたる方々にあまりないんじゃないかと思っているわけであります。
 その一番の原因は、主として交付税、地方にいけばいくほどウエートは高いんですけれども、交付税のような依存財源、あるいは補助金というもので今までやってきたからだろうと思います。そこのところを本当に大変だと思わせるにはどうしたらいいかという話になると、自分で稼ぐ財源のウエートを上げなくてはいけないと。稼がないと大変だと思うような仕組みにしないと、国が何とかしてくれるわというのは全体に変わらないのではないかというふうに思うわけであります。
 もっと別の議論からすると、国と地方の歳入と歳出がずれてます。仕事は7割近く地方でやっているのに、税収は6割以上が国ですよという話があっての話なのですが、私はむしろ自己財源を増やさないと自分で市町村を経営している実感が湧かないという観点から、実際に仕事をしている地方に税収を国から移すべきだろうというふうに思うわけであります。
 その際にどういうふうな動かし方をするかということで今いろいろな議論がありますけれども、大きな流れとしては、諸先生方が言っておられますように、所得課税に限界があるのかなという気がいたします。それは高齢化社会になって、神野先生のお話では支える人の割合は変わらないんだということですが、稼ぐ人が割合としては少し減るのかなという中で所得課税は限界がある、広く薄く負担しなくてはいけないという流れがあるのでしょう。
 もっと言うと、マスコミの方が消費税を導入してから言わなくなりましたけれども、昔は"クロヨン"とか"トウゴウサン"と言っていまして、所得課税には所得の捕捉が難しいという問題があると思っています。立場上あまり言えませんけれども、田舎で仕事をしていますと、例えば喫茶店のご主人でベンツを乗り回していて、毎週ゴルフをやっている人の所得が低いので、国民健康保険税の軽減対象になっているとかいうことが結構あるわけです。
ですから、何が公平かという議論をしていくと、消費課税なり資産課税というところに全体のウエートを移しながら、かつ国から地方へという流れをしていく必要があるんだろうと思います。そういう中で、固定資産税というのは一方の柱として大事に育てる必要があろうかと思います。そういう意味で、あまり欲張って固定資産税は増えなくてはいけないということをしていきますと、信頼を失うこともありますし、安定的な財源として大事にしていく必要があるんだろうと思います。
 もう1つ、消費課税の充実というのは今後必要だろうと思いますし、そういう中で地方消費税の率を高めていくべきだという議論もたくさんございます。それは、私がさっき言いましたように、所得課税の限界というところからいくと必要だろうと思います。我々はそう思っているし、税を勉強している方は大体流れとしてはそんなかなと思うのですが、前に神野先生からいただいた一般の方のアンケートを見ますと、税の負担感は何の税が一番ありますとか言ったら、圧倒的に消費税が出ていました。逆に、もし増税するとしたら何を増税すべきですかといったら、1番はたばこ税、これは吸わない人が多いからそうなのかと思うんですが、2番目に法人税というがあったと思います。
 我々の今の行政の中で、去年も今年も法人税を大減税して、将来消費税を増やしてやろうというふうに流れとしてはあるんでしょうけれども、国民の意識は全く違うような感じがあります。これは国の問題だけではなくて、大きな構造をどうするかによって、その中で地方に移していくという議論をすべきでしょうから、地方を巻き込んで、これからの社会を支える基幹的な税というのはどんなものがいいのだろうかという議論をもっとしていく。その結果として消費にかかる税の方が平等なんだということであれば、そこのところを一般の人にわかるようにPRしていかないと、なかなかうまくいかないのかなということを思うわけです。
 広く、薄く、漏れなくと。漏れなくという意味では所得課税は結構漏れがあるような気がしますので、そこら辺を全体として国民的な論議をしていく必要があるんじゃないかなと思っている次第でございます。

 神野 先ほど岡崎課長からお話がありましたように、固定資産税の負担感は非常に重いと言われているんですが、私どもの方で世論調査をいたしますと、1番は圧倒的に負担感のある租税は消費税で、その次が所得税、住民税で、固定資産税というのは割と低いんです。これは全部の国民に調査してますので、固定資産税の場合は納税者数が少ないせいもあるのかもしれません。いずれにしても、声としては非常に大きいんですけれども、国民全体でアンケートをとると、固定資産税の評価は負担感というのはあまりないというのが結果として出てまいります。
 そうは言っても、今のように住民のサービスが増えて、かつ租税に対する負担感も非常に強いと。かつどの税でどういうふうにやろうかというのも、今のところ暗中模索のような状態になるわけでございます。そうなってまいりますと、地方財政をどうやってどうしたらいいのかということとか、あるいは、非常に苦しいからどうにかしてくれということを自治省に訴えていってもしようがない話で、この苦しい中で「公共サービスを増やしましょうか」「税負担を増やしましょうか」、あるいは、「税負担を増やすとすればどんな税金で税負担を増やしたらいいと思いますか」というようなことを、住民に問いかけて説明していくことが必要になるのではないかと思います。
 そういう住民に対する説明責任との関係で、固定資産税について小幡先生からご発言をいただければと思いますので、よろしくお願いいたします。

地価動向と固定資産税負担
 小幡 
今、神野先生がおっしゃいましたように、分権の時代というのは、市町村の職員の方はもちろん大変なのですが、住民もかなり大変になる。というのは、自分の受けるサービスに見合ったものを自分で負担していかなければいけない。それを強く意識していかなければいけないというのが21世紀だと思うのです。
 従来は条例の制定・改廃の直接請求のところに、税に関するものは除くというのがだいぶ前に入れられたことからも分かりますように、住民の動きというのは、自分の直接的な税の負担になると非常に消極的な動きをするものだというのが何となく常識となっております。確かにアンケートではそういう感じがございますけれども、住民の意識というものが変わっていかなければいけないというか、変えていかなければいけないというのが一番重要な、これからの分権化の時代の課題ではないかと思うわけです。
 もう1つ、固定資産税というのは目下市町村の重要な財源であるというのは、横浜市の部長さんからもございましたけれども、今回の分権で本当に分権をやるのであれば、国と地方との税源にもっと踏み込むべきではなかったというのは、神野先生が非常にご苦労なさったところでございますが、分権の勧告では中期的な課題という形になっております。所得、消費、資産との間の均衡がとれた、国・地方を通ずる税体系のあり方は中長期的な課題となっておりまして、そもそもの税源を移動するというところまで、今回の分権勧告では残念ながら至らなかった。
 となると、まさに固定資産税の期待は強まらざるを得ない。しかも、地価は下がっておりますけれども、ほかのものに比べると変動はそれほどしておりませんし、安定財源だという金子先生からのお話もございましたが、頼るということにならざるを得ないわけです。そういう中で、今回、法定外目的税を新設したり、法定外普通税についても緩和という方向にはなっております。各市町村でそんなに負担が違ってしまうということを、我々日本人が許容するかどうかというのは非常に難しい問題なのですが、20世紀は少なくともあまり許容していなかった。
どこに住んでも同じような負担で、同じようなサービスを受けられるのが日本という国であるというのが常識的な理解ではなかったかと思うわけですが、それが本当によいのかということも考えなければいけません。従来から、例えば私立幼稚園に子供を通わせているお母さん方に聞くと、こちらの市にいたら補助金が沢山もらえた、あちらのところではもらえなかったとか、差を実感する部分というのはあるわけですが、だんだんそれが増えてくる時代になってくるのではないか。
それとは裏腹に、住民は自分の負担が重くなれば、そのサービスが本当に質のよいものであるか、それに見合ったものであるかという評価の目が厳しくなります。今の地方自治制度は直接請求の制度とか住民監査請求、あるいは、納税者訴訟である住民訴訟という、国にない制度を地方自治法は持っておりまして、地方自治体の住民は自分にされる行政サービスの質を評価できるという仕組みは一応できております。
これは市町村の職員の方にとっては大変なことではございますが、そういう厳しい監視の目にさらされながら、十分な説明責任を負いながらも負担を求めていくという方向が、今後は必要になってくるのではないか。それがよく言われる説明責任というものでございます。税がちょっと上がったから、ここは暮らしにくいとかいうようなレベルでは、これだけ情報が発達しまして、教育レベルも高い住民でございますから、いつまでもそういうことはないはずでございます。
それに見合った行政サービス、例えば無駄遣いがされていないか、無駄なことばかりして税金が増やされているのでは困るわけでございますので、そこら辺をきちっと監視することによって、本当の意味での住民サービスに応じた負担という考え方も我が国でもできてくるのではないかという感じがいたします。そうしていきますと、先ほど基調講演で金子先生がおっしゃいましたように、足りない部分を割戻し的に、例えば固定資産税の税率を市町村自由になるという可能性も、将来的にはあるのかもしれないなという感じがございます。

 神野 どうもありがとうございました。
 私の不手際で時間がだいぶ押してまいっておりますので、最後に金子先生からまず最初に各国の税制度などをご紹介していただいた上で、固定資産税を資産課税として、地方税の資産課税のあり方を位置づけていただいて、連続して先ほどご講演いただいた地価動向と固定資産税負担の関係で補足などを含めてご説明いただいて、次の話題にも結びつけたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 金子 固定資産税の課税根拠についてはいろいろなことが言われますし、また固定資産税の性格についても、収益税なのか財産税なのかという点をめぐって議論がありますが、市町村から受ける行政サービスを測る物差しとして何があるだろうということを考えてみますと、持っている財産の価値で受益の程度をとらえるということには十分な理由があるのではないかと考えられるわけでありまして、その意味で固定資産税は応益的財産税の性格をもっていると言えると思います。我が国では収益税か財産税かという意見の対立はありますが、裁判例では財産税だと言っているわけであります。
 確かに今もお話がありましたとおり、これだけの行政サービスを受けているのだから、この程度の固定資産税を払うのは当然だという考え方、あるいは、これだけの固定資産税を払っているのだから、もう少しいい行政サービスを提供してもらいたい、そういうふうに住民自身が税の問題について関心を持つ。あるいは、市町村の行政サービスの水準について関心を持つというような点で、固定資産税は大変に重要な位置を占めていると思います。
 市町村の税収の上では、都市計画税を含めた固定資産税と住民税が2本の大きな柱になっているわけですが、住民税については減税圧力ばかり働く。これは神野先生がよく言われていることですが、所得税が減税になったら住民税の方は減税しないで据え置いてもいいのではないか、そういうように相関的に国税との間で考えるということも必要だと思いますが、固定資産税の場合は市町村独自の税源でありますので、それ自体として考えてよろしいのではないかと思います。
 外国といっても、英、米、独、仏といろんな国がありますが、例えばアメリカの場合ですと、市町村の最も大きな税源は財産税でありまして、その財産税が学校の建設とか教育等〜アメリカにこれは学校区と呼ばれる特殊な制度がありますから、日本とはちょっと違いますが、広い意味での市町村あるいは連合体が学校をつくっているというふうに考えることができます〜のために使われるという関係になっておりますので、それほど日本と考え方が違うわけではないと思います。
 それから、ドイツやフランスの場合は、アメリカ、日本と比べますと、制度の実態も違うところがありますので、直接それほど大きな参考になるとは思われません。我が国の場合は固定資産税はシャウプ勧告によってできたわけでありますが、シャウプ勧告はアメリカの地方財産税を参考にして固定資産税を勧告したので、アメリカの制度が一番参考になる、また運用面でも一番参考になるということであります。
アメリカ人は税金の問題に大変関心を持っておりまして、自分の払った税金がどういうふうに使われるのかということに注目をするということがあるわけです。他方では、有名なホームズ裁判官のように、租税は文明の対価だから、自分は喜んで租税を払うんだということも言われるわけですが、固定資産税については文明の対価ということが一番よくあてはまるのではないかという感じがいたします。
 ちょっと話が長くなってしまって恐縮ですけれども、固定資産税のあり方とも関連しますが、制度の改革の一環として、負担の水準がどの程度であるべきかという点は、地方団体の時々の財政需要に応じて、制度上は地方団体が税率を自由に動かせるようにする必要があることはもちろんですが、地方団体自身も必要に応じてみずからの判断と責任で税率を動かすことをすべきであろうと思います。
 税負担の問題は別として、基幹税ですから、公平で簡明で中立的であることがどうしても必要であります。公平であることを維持しようと思うと、ベースが公平でなければならないわけですが、従来の課税標準というのはバラバラで不公平でありましたから、それに一定の税率を適用しても税負担が不公平になるということは必定でありますので、公示価格の7割というものを基礎にして、そこから出発するという制度改正が平成6年から行われたことは大きな進歩であったと考えているわけであります。
 その結果として、今までの二重構造が一層はっきりしてしまったということが逆に言えるわけであります。さっき言いましたように、二重構造は固定資産税をわかりにくくしている一番大きな原因の一つでありますし、不公平がそのまま残っているということの理由でもありますので、これをどういうふうに直していくのかということがこれからの課題になるわけでありますが、その辺は皆さんそれぞれ固定資産税の専門家であり、あるいは、固定資産税について強いご関心をお持ちの方々ばかりですので、どうしたらいいかということを、それぞれでお考えいただきたいと思います。
 例えば評価額を課税標準として、それに一定の税率を適用するとか、あるいは、評価額の一定割合に税率を適用する、そして税率は市町村が時々の行政需要に応じて改変する、上に上げることもあるし、下に下げることもある。現在、地価動向が安定している、あるいは、下落傾向にありますので、そういう二重構造を解消するためには、時期としては比較的いい時期なのではないかという感じがするわけであります。
 ちょっとまとまりが悪いかもしれませんが、以上です。

地価動向と税負担
 神野
 どうもありがとうございました。
 現在の固定資産税は地価の動向に振られていろいろな問題を巻き起こしているわけで、先ほど小幡先生からも行政サービスと税負担の関係についてお話をいただいたわけですけれども、住民の方から言うと地価の動向との関係で税率、負担、その他が複雑になってまいりますので、これは問題点を含むと思います。
 そこで、やや専門的な領域になりますので、小幡先生の方から、市民と申しますか、住民の立場からこの複雑な税率、税負担、その他について、どんなことに関心があり、どういう問題点があると考えられるだろうかということをお話いただければと思います。

 小幡 消費税のように簡明で公平なものもございますけれども、所得税などに比べると固定資産税というのは非常に公平なものなのだろうと思います。ただ、それのネックになるのが地価というものの存在、評価が本当に適正になされるかどうか、そこに尽きるわけでございます。所得税の場合、サラリーマンの方は源泉徴収されておりますので、税に対する痛みというのが少ないですね、自動的にとられてしまいますから。
 ところが、固定資産税は土地・家屋の所有者に賦課方式でまいりますので、自分がこのぐらい負担するんだということを非常に明確に認識することになります。それは納税者意識を持つという観点からは大変よいことだろうと思うのですが、自分の住んでいるところはどのぐらいの評価をされて、例えば隣と比べて本当に適正かどうかというのを多少疑いたくなるというのも当然の心理でございまして、納税者の意識という意味からすれば、これは当然のことでございます。
 公示価格の7割にしたということは、私もそれ自体としては公平にかなっていると思うのですが、大変残念なことにそれ以前に地価が上がり続けてしまっていたという状況がございました。これは相続税の路線価も同じですが、上がり続けている地価に追いつかないために、常に税の評価は実際よりも非常に低い評価がされるのだという認識が、ほとんどすべての人に浸透してしまった。浸透してしまっているところに地価が下がってきたわけです。
そこでタイミングの問題もございますけれども、7割と言われたことに対する反発が起きてきたんではないかと。まさにこれはタイミングだけの問題であって、公正に評価してもらうというのはもっともで、時価と書いてあるんですから、金子先生がおっしゃったように、二重構造の方がおかしいというのは、制度をきちんと説明してもらえればみんな納得する話ではあるんですが、残念なことに地価というのは余りに上昇カーブが激しかったために問題が生じてきたわけです。ですから、むしろ公平になっているということは明確に論理立てればわかることなのですが。
 そういう意味での説明責任を十分に果たす必要があると思いますが、そうは言いながらも負担調整措置をせざるを得ないという状況にある。では、いつまでそうしなければいけないかという問題はございまして、ほかの税で補えるかというと、必ずしもそうでもないとしたら、公平な固定資産税を納得してもらって、そこできちっとした形で課すというのは一つの方向であるはずです。固定資産税の場合、評価審査委員会の審査も大変多く出ておりまして、ある意味では納税者意識が非常に活発な状況にあるんですね。それは本来よいことなのだろうと思うのです。
 こういったことから理解を深めながら、先生のおっしゃった二重構造を解消すべく、そういう方向に進まざるを得ないのではないか。先ほど説明責任のところで、ちょっと言い落としましたけれども、市町村レベルで情報公開条例を持っていないところが数多くございまして、固定資産税の分野でも、標準宅地の価格の評定書の公開請求が出てきたところもあるなど、住民の側は納税者としての立場から、当然の権利としての説明責任を求めますので、そういう観点からも情報公開条例等々の整備によって説明責任に十分こたえた上で、とるべきものはきちっととるという態度が必要なのではないかという感じがいたします。

 神野 ありがとうございました。
 固定資産税についての考え方とか、市民の立場からのご説明をいただきました。今日ここにお集まりの方々にとって非常に重要な関心事であろうと思いますが、少し具体的な話に進ませていただいて、平成12年度の評価替えに向けての検討状況について、岡崎課長の方から、時間もございませんので、直接ご説明いただければと思います。
 よろしくお願いいたします。

 岡崎 それでは簡単にご説明いたします。
 今、小幡先生から説明責任の議論がありましたけれども、我々はもっとちゃんと説明をしなきゃいかんと思っております。12年の評価替えを控えて言われていますのは、地価がどんどん落ちるのに固定資産税はどんどん増えている、ずっと増え続けているということでございます。それに対してきちんとご説明しないとなかなかわかっていただけない。
 あるいは、昔はそうだったのかもしれませんが、家屋について言えば、どんどん古くなるのにちっとも税金が安くならないと、これもまた最近随分言われております。だから、新築住宅の特例をもっとまけろとかいろんなことを言われるわけですけれども、そうじゃないんだということをもっと説明しなきゃいかん。あるいは、国際的に見て高いんじゃないかと。さっき金子先生から外国の制度の話がありましたけれども、そういうようなお話に対しても、「いや、こうですよ」ということを、我々だけじゃなくて、税をいただいているわけですから、市町村の皆さんが住民にそういうご説明を折りをみてしていかなきゃいかんだろうと思います。
 そこで、その3つの点だけご説明いたします。ご承知のように平成9年度に負担水準という概念を入れて、同じ評価額であれば結構高い負担をしているな、高い税金を払ってくれているなということで、土地については下げたわけですし、同じような価値の土地なのにまだまだ税金が低いという土地は少しずつ上げようという仕組みにしたわけであります。
もう1つは、3年に一遍評価して終わりだったんですけれども、9年度の評価替えから途中の10年、11年でも、地価が下がっているところは評価を修正するという仕組みを入れました。その結果、8年まではほとんどの土地で着実に税額が増えていたんですけれども、9年度以降どんどん落ちてくるという土地が出ております。それが結構たくさんあるんです。特に負担水準が高い土地を下げてますから、そういう土地が多い大都市部で非常に顕著なんです。
ちょっと調べてみたら、納税義務者数ベースですけれども、東京都では10年度、商業地のうち72%は税額が引き下げもしくは据置になっています。正確にいうと引き下げが15%で、据え置かれている土地が57%ですから、7割2分がそうなっています。大阪市を見ますと、78%の商業地が引き下げもしくは据置になっているということです。したがって、地価が下がっているけれども、税はどんどん上がっていると、有力な業界は言うんですが、「お宅の本社の土地は下がってますよ」というと、「本当?」という話になりますので、よく説明責任を果していただきたいと思います。
 さっき横浜市の小倉さんからありましたけれども、23区は当然ですが、政令指定市でみますと、土地の固定資産税が減ってきちゃったというところが続出しております。そして、数は少ないですけれども、田舎にもあります。負担水準が高いと下がっちゃうというところはあります。しかし、大都市では今のような据置、あるいは下がる土地が結構出てきてますので、他の土地が少しずつ上がっても、トータルで土地にかかる固定資産税は減っているところが出てきていると。我々は決して地価動向に鈍感なのではなくて、それを反映する仕組みにした結果、こういうふうな状況なんですよということを説明しないと、高いぞという人にはなかなかわかってもらえないのかなと思います。
 それから、家屋についても、小倉さんがさっき言いましたように、平成9年度からは評価替えごとにかなり大幅な減税になっております。平成9年度で在来分の家屋は3,200億円も減りました。これはどんな規模かというと、平成8年度の税金が家屋分は3兆4,000億ですから、約1割ぐらいの減収になったわけです。そこに新しい建物の税金が入ってきますから、トータルでは1,100億円ぐらいの減税ですが、8年度の建物にかかる税金としては1割近く9年度に減る、同じようなことが12年度でもあるわけです。ですから、家屋は下がってます。特に最近新しくできたものは確実に評価替えのたびに下がってますということも説明していただきたいと思います。
 それから、国際水準の話はいろんな見方があって、制度も違うし、行政の役割、地方団体も違うし、いろいろあるんですけれども、国税、地方税を合わせて、家と土地からGNPの何パーセントぐらいの金を税金としていただいているかと言いますと、平成8年で日本は固定資産税の土地・家屋と都市計画税、保有税、地価税まで全部入れて2.2%になっております。これはアメリカ3.3%、イギリス4.3%、フランス2.7%に比べて低い、ドイツが0.6%とちょっと低いんですけれども、あまり高い方じゃないと思います。そういうことをご説明しなきゃいかん。
 そういうことを説明しながら、12年度どうするのかというと、市町村の基幹税制ですから、これが大きく減ったり、逆に大きく増えなくてもいいんです、波を打つような仕掛けにしちゃうと大変ですよということを基本に、できるだけ安定的に収入を確保しなきゃいかん。こういうことを基本にいろいろなご要望に対応していこうと思っております。そういう意味では、7割の評価は問題じゃないかとか、税率をどうしようというような議論は、私どもとしては結構ですけれども、実際に市町村の基幹税収をどうするかという議論になったら、それは相当無理があるということでございます。今の制度全体のどこを改善、改良していくのかということかと思っております。
これは全部なのか一部の方かわかりませんけれども、固定資産税が高いという声が非常に強い。というのは、昨年、所得税も法人税もみんなまけていまして、固定資産税だけまけてないという状況でありますので、非常に圧力は強いですけれども、皆様方のご協力をいただきながら、何とかいい評価替え、あるいは、それに伴う制度改正にしたいと思います。今日のところはあまり具体的なことは申し上げられませんけれども、これから検討してまいりたいと思っております。

 神野 どうもありがとうございました。
 それでは、最後に小倉部長から、先ほども市の財政の厳しい状況をご説明いただきまして、そうなってくると安定的な税収を確保する手段が必要になってくるわけです。全般的なお話と同時に、安定的な安定的な税収を確保する上で固定資産税をどう位置づけるのかということまで踏み込んでご説明いただければと思います。ので、よろしくお願いいたします。

 小倉 まず増大する市町村の負担を支えるということでございますけれども、どこの市町村でも共通するところは、福祉の基盤をどう築いていくかということだろうと思います。
横浜市といたしましては、福祉の基盤を整備するという意味で、例えば平成22年度までを長期的にみて、5年ごとに実施計画を立てております。8年度から平成13年度の5年間では、デーサービスとかヘルパーの方々の活動拠点を、私どもは「地域ケアプラザ」という呼び方をしておりますけれども、35カ所あったものを66カ所と約2倍にしなければならない。あるいは、ホームヘルプサービスにつきましては、1,817人おいでになるところを4,122名ということで、2.3倍にしなければならないということでございますが、これは各市町村の方も同じような状況だろうと思います。
 こういったことのみならず、都市基盤整備として鉄道、地下鉄がまだ残っておりますし、医療、あるいは環境の保全、廃棄物とリサイクルの問題、特に、最近災害が多うございますので、都市防災、地震対策といったこと、それから、生涯学習の問題、そして重要な問題の1つとしては横浜経済をどうするかといった問題等、さまざまございます。
この中で固定資産税をどういうふうに位置づけるかということにつきましては、所得課税は7年度、11年度の減税で、700億円ぐらいドーンと税収の基礎から落ちておりますし、地価下落もございまして、固定資産税がドーンと落ちると財政を運営するには厳しい状況になりますので、将来的には資産課税を安定した財源として考えなければならないだろうということでございます。
 先ほど説明責任のお話がありましたけれども、できる限りPRをし、あるいは、わかりやすいパンフレットをつくることは重要でございまして、いろいろ工夫をしているんですが、非常に難しいんですね。図にかいて、この数字をこっちに持ってきて、その数字をここに持ってきて、この算定式を使えば税額が出ますというところまでやっているんですけれども、やはり、わかりにくいという問題がございまして、これをぜひ簡素で簡明なものにしていただきたいなと思っております。
 さらに、固定資産税については、源泉徴収ではございませんので、小幡先生のおっしゃるとおり負担が目に見えるようにということでございますけれども、固定資産税・都市計画税を合わせた負担額については、横浜市の標準的なモデルで言いますと約14万円なんです。所得課税をみると、個人市民税の平均は約17万円でございまして、神野先生がおっしゃいましたとおり、額からみますとそれほど負担の重い税金ではないということだろうと思います。
 私どものトップはどう考えているかと言いますと、税収構造自体、横浜市の法人市民税の市税収全体のシェアーは7%ぐらいしかございませんし、個人の市民税は3割を割っています。固定資産税が4割ということですので、これに都市計画税を加えるとかなり高い割合になるわけですが、この税目を育てる税にしたいというふうに考えております。それはなぜかと言いますと、固定資産税の半分は法人が納税しておりますので、企業誘致をすれば、税収が増えるだろうと考えるからです。横浜市は業務核都市でございますので、業務機能を集中させ、そこで雇用拡大が図られれば、法人・個人とも所得課税も伸びるし、特に法人の固定資産税については、市税収入全体の2割も占めておりますので、一定の増収が図られるだろうと考えております。そして、この増収分を福祉に回すという戦略と言いますか、考え方をとっております。
 そういう意味で、固定資産税を育てる税、税源の涵養を図る税ということで考えております。制度的な問題はいろいろあろうかと思いますけれども、そういう側面から考えてもいいのかなと思っております。

 神野 どうもありがとうございました。
 司会の不手際で、時間がかなり押してまいりまして、最後にフロアからのご質問の時間もとりたいと思っておりますので、パネラーの皆様方に、21世紀に向けて固定資産税の夢と申しますか、ビジョンを語っていただきたいと思います。
 一言ずつ、ごく手短にお願いしたいと思います。夢を一言で語るというのは非常に無理なお願いでございますけれども、フロアの皆様方へのメッセージとしてお語りいただければと存じます。
 まず金子先生からお願いできますでしょうか。

21世紀に向けた固定資産税のビジョン
 金子
 それでは、一言ということで。
 私は21世紀には固定資産税は住民の暮らしに役立つ税金であるというイメージが定着していくように期待しております。そのためには、市町村議会における税金をめぐる議論が非常に活発化し活性化する必要があるのではないか。あるいは、住民と執行部との間の対話というものも活発化、活性化する必要があるのではないかと。それから、さきほど小幡さんその他の方から、説明責任というお話がございましたが、透明性も同時に高めて、隣の人の土地は幾らに評価されているのかとか、そういうことも縦覧の時にわかるようにするということも必要ではないかと思います。
 三言ぐらいになって恐縮です。

 神野 それでは、小幡先生、引き続いてお願いいたします。

 小幡 固定資産税というのは、住民に一番身近な、市町村の半分ぐらいを占める税金ですから、市町村の住民にとって一番身近な行政の財源となるものでございます。そういう観点からも、より民主的な、金子先生がおっしゃったような透明性を確保した上での税のあり方がより必要とされると思います。また、制度の仕組としても民主的なものとしていきやすい税ではないかと思います。行政法の観点から言いますと、審査委員会の審査手続についても、公正・中立性などを問題にする判例などがたくさん出てまいりました。市町村の役所の方は大変ですが、税の民主的なあり方という考え方がここであらわれていると思います。
 そういう意味から、身近な住民の暮らしを支える税として発展していただきたいと思います。

 神野 岡崎課長、引き続いてお願いいたします。

 岡崎 端的に言いますと、まず1つは将来もっと簡素な仕組みにしたいと思っております。今はいろいろ経緯がありまして、にわかには難しいですが、金子先生が言われたようなαの乗率を掛けるような方式もありますし、とにかくわかりやすい仕組みにしたいと思います。それからもう1つは、本来そういう税金なんだろうと思うのですが、広く薄く負担していただきたい。そういう意味で、これも金子先生のご講演にありましたが、例えば住宅用地も6分の1よりはもう少し負担してもらって、みんなで支えていいんじゃないかと思います。
 ちなみに、先日韓国に行きましたら、韓国では逆に住宅用地が高い税率を適用して、工場とか商店など生産に要する土地は低くしているということがありました。日本の常識が必ずしも当たり前ではないのだなという気がしましたので、特例で非課税とか安くしすぎるということをなくして、広く薄く負担する税金にしたいなと。
 最後に、税率等については、近い将来と思いますが、分権の時代ですから、固定資産税ぐらいは自主的に決めていただきたい。地方議会であれをつくれ、これをつくれの歳出の議論ばかり濃密にやってないで、来年の負担をどうしようかという歳入の議論が活発に行われるような姿にしたいというのが私の夢であります。

 神野 ありがとうございます。
 引き続いて、小倉部長、お願いいたします。

 小倉 私は諸先生方がおっしゃいましたとおり、公平、簡明、中立、民主、わかりやすい、広く薄く負担、自主的に決められる税、ぜひこういう税を運用したいと思ってますので、皆さんとともに頑張ってそういう制度をつくっていきたいなと思います。今日はどうもありがとうございました。

 神野 それでは、10分遅く始まったので、私の責任だけではないのですが、質問の時間を20分とれということでしたけれども、遅れた時間延ばしていただければ、中をとって15分ぐらいは質問をお受けできるのではないかと思います。
 どんなことでも結構でございますので、フロアからご質問いただければと思います。いかがでございましょうか。
 できれば所属と氏名をおっしゃってからお話いただければと思います。


質疑応答
 質問
 土地建物というのは、行政サービスがいいから悪いからといって、トラックに積んで引っ越すわけにいきませんので、同じ日本人としてどこに住んでいても同じ行政サービスが受けられるということからいくならば、サービスの度合いによって固定資産税を上げたり下げたりということはやめていただきたい、全国一律でお願いしたいと思うわけでございます。
 それからもう1つ、土地と建物両方に固定資産税を課されておりますけれども、我々は一生懸命稼いで所得税を払った残りで、借金を抱えて建物を建てるわけでございます。それにまた固定資産税を課税するというのはいかがなものかと。土地の税率を3倍、10倍にしていただくのは結構でございますが、建物の課税はやめていただきたい、それが本当の公平じゃないかと思うわけでございますけれども、いかがでございましょうか。

 神野 これは岡崎課長にお答えいただいた方がいいのではないかと思いますので、よろしくお願いいたします。

 岡崎 大変難しいご質問でありますけれども、一番最初のところは、全国一律で決めるのがいいんだと思っている人は、地方団体の役人の方にも結構いるのではないかと私は疑っておりますが、その方が確かに楽なわけです。何でこんな高いのって言われたら、それは自治省に言ってくださいで済むんですが、分権というのは、これから自分たちのことは自分たちで決めようという時代になるわけです。
 そういう意味では、受益と負担というものは自分たちで決めたらいい、我々のまちはどんな行政をして、どんなサービスをするのかということも、これからは住民の代表の議論で決めていくべきですし、それに伴う負担、これは税だけではありませんで、いろんな料金も含めて、そういうものも決めていくというのが、まさに分権の時代なのかと。同じお気持ちの方は全国におられるかもしれませんけれども、そこのところの意識の改革が地方分権の推進の一つのポイントなのかなと思います。
 それから、建物について非課税にすべきだというお気持ち、私自身も借金して家を建てましたので、そう思うわけでありますけれども、確かにいろいろな議論がございます。土地は重課して、建物は軽課、今のは非課税の話ですが、軽くすべきだ、その方が土地の有効利用が進むというのは、2月に出された経済戦略会議という総理の諮問機関の答申の中でもそういうことが書いてあります。確かに負担との関係もございますが、土地を重くすべきだというのと、全く逆に土地をもっと軽くすべきだという議論もありまして、この辺はいろんな議論のポイントになると思います。
ほかの先生方はどうお考えになるかわかりませんが、今、全国で土地分の固定資産税の総額と建物にかかる総額は同じぐらいであるという状況。ただし、大都市は地価の高いところですから、土地の税金の方が多くなって、地方にいくと建物の方が多くなるという仕組みになっていますけれども、大体こういう感じなのなかと私は思っています。役人だからといって現状追認する気はありませんけれども、建物が高いぞという方と土地が高いぞという方と両方いるというのは、結果としていいバランスがとれているんじゃないかというような気がしておりますが、将来の議論として勉強しなきゃいけない課題だろうと思います。
お答えになったかどうかわかりませんけれども。

 神野 ありがとうございました。
 はい、どうぞ。

 質問 2つほど申し上げたいと思います。
 1つは、金子先生のおっしゃる二重構造ですが、昭和39年ごろから負担調整措置が行われたということで、私自身土地について徹底分析もして、本も書いておりますけれども、私の分析によりますと、明らかにずっとポリシーの失敗ということできているわけですね。それでバブルにつながってきた。さっき財産税か収益税かと言われたけれども、大蔵省の対応は財産税的にとらえていると、自治省の対応は収益税的にとらえらたんじゃないか。
 ということは、上げた収益ないしは所得の中から払っているということですね。そこから払えないから、やむを得ず負担調整措置をしたということでずっときている。ですから、固定資産税の上がりは割合穏やかであった。それでも、なおかつバブルに引っ張られた痕跡は残っている。ところが、大蔵省の方はバブルのときに相続税をそのままズバリ課税しましたから、どうしようもなくて自殺したという人まであらわれた、そういうむちゃくちゃな話もあります。ですから、財産税は絶対に間違いである。
 それから、二重課税の悩みで今ありますのは、さっき言われたけれども、公示価格を100として、それにぶら下げているから間違いだと。相続税の方は間違いだと言いたいわけです。公示価格というのは、法律に書いてあるんですが、公共用地の買収のための役立ちをまず目的としている。そうするとバブルについていくわけです。買収を受ける側はそのときの時価で理屈抜きで買ってもらわないと代替できないということなんです。鑑定業界では昔から、損失補償基準には公平な取引価格と書いてあるが、鑑定評価基準は正常価格であると、この2つはイコールでないわけですが、それをあえてイコールにして今日まで引っ張ってきているから、間違いがずうっと続いてるわけです。
公示価格のときに収益価格も報告しているんですが、この収益価格にもかなり問題が残っているんです。少なくとも収益価格にぶら下げるようにしたら、そういう悩みが消えるんじゃないか。これは非常に大事な点です。例えば1種訂正のところも、直接法で収益価格を出せという間違いをいつまでもやってますけれども、あれは改めなくちゃいけない。これも私の本ではどうすればいいかということをちゃんと書いてあります。
 それからもう1つは、そういうアイデアを大蔵省が飲まないかということを言いたいんです。というのは、さっき横浜市で法人が50%払っていると、あと半分は個人が払っているわけですね。住宅ローンの利子控除についても議論があったんですけれども、固定資産税についても所得から控除すると、一般の個人の収入から控除したものが課税所得だというふうに持っていけば、皆さん方払いやすいですね。法人にとっては皆コストですから、一般個人についてもそれと同じ扱いにする、そういう大事な考え方が今抜け落ちているわけです。
法人税と所得税を比較していただいたら、所得税の方が個人に対していろんな面で冷酷であるということがはっきりわかります。ですから、それをこの際見直さなくちゃいかんということも私は言っておりまして、その一環として固定資産税を収入からコストへ取り込むということにすれば、非常に維持しやすくなります。以上です。

 神野 ご質問というよりも学説とご提案になりますので、金子先生から解説があれば、補足解説していただいたあと、岡崎課長からご提案について何かコメントしていただくということにいたしましょうか。

 金子 特にございませんけれども、時間の関係もございますので、手短に申しますと、課税標準をどう決めるかということと、固定資産税の負担水準がどの程度であるべきかというのは別の問題だというふうに私は考えております。
 もう1つ、所得控除の問題は大変興味深く伺いましたけれども、個人の場合も事業所得者は必要経費として引けているわけですので、それ以外の普通の場合に引くという考え方は今まであまり伺ったことがありません。私は反射的にそれはちょっと理に合わないのではないかと思っておりますけれども、重要な問題ですので、考えさせていただきたいと思います。

 神野 課長から何かコメントはございますか。

 岡崎 難しいお話ばかりなのであれですけれども、ただ、固定については、大蔵省がここにいないのでこのことはあまり言えませんけれども、あくまでも保有の継続を前提とするというところで、あまりむちゃくちゃなやり方はできないというのがあったわけです。向こうは財産を売り払っても払えという税になっていますので、そこの差が出ているのかなという感想を持ちました。
 あとの点につきましては、金子先生がおっしゃっておりますけれども、公示価格の性格についてはいろんな議論があります。ただ、私どもが大量一括評価をする、1億8,000万筆土地を評価する中で、基準になる公示価格に対し7割でやっているわけですが、そういう意味では今のところ公示価格しかないのかなと。収益価格を出すべきだという議論があるのは承知していますが、たくさんの土地を評価するときの目安としては公示価格なんだろうというような気持ちはしております。

 神野 ほかにご質問ございませんか。どうぞ。

 質問 固定資産税の評価に携わっておりますが、固定資産税の評価という性格は、評価するものにとってみればぜひ保守的な価格であってもらいたいわけなんです。そこで、固定資産税の評価が公示価格の7割ということが出たときに私はびっくりいたしました。随分際どい価格を出してこられたなと思いました。と言いますのは、不動産というのは売り急いだり買い進んだりするわけですが、7割というのはものの値段で言えば卸売価格に相当する値段なわけです。不動産も売り急げば3割ぐらいはすぐ減ってしまうわけですね。その値段を固定資産税で出してくるということは非常に際どいわけです。
 固定資産は売ろうとしても時間がかかるわけです。銀行預金のように下ろそうと思えば翌日現金になるわけではございません。また、売るには不動産業者に手数料を払ったりする必要があります。ですから、実現価格という意味ではこの7掛けがちょっと厳しかったんじゃなかろうか、これを5割ぐらいにでもしてもらえれば、いろいろ発生してくる問題点が少なかったんではなかろうかと。そういう意味で、不動産の性格をもう少し厳密に解釈していただければ随分助かった面があるんじゃなかろうかと思いますが、いかがでしょうか。

 神野 時間も押してまいりましたので、ほかにございましたら、一括して受けておきたいと思いますが、よろしいですか。
 では、このご質問をもちまして、フロアからの質問は最後にさせていただきます。
 集中して申しわけありませんが、これも岡崎課長からお答えいただくしかないと思いますので、よろしくお願いいたします。

 岡崎 平成6年度に7割評価をしたわけですが、7割か5割かというお話については、適正な時価を出すために評価をするわけでありまして、同じ土地でも急いで売れば安くなるし、買い手がどうしても買いたいとなると高くなるというのは実際にある話であります。そういう特別な要因を除いて、その土地を正常の取引の場合にはどのぐらいで売れるだろうかという評価、適正な取引価格、時価であるということをやる場合に、3割は安全率として見ているということで、大体適当なのではないかと。
 上級審ではありませんけれども、今年の2月26日に大阪地裁で出た判決でもこういうことが言われておりまして、私どもも、7割評価自体はいろんな議論があって決めたわけですが、間違いではなかったのかなと。ただ、前の評価に比べて、宅地は結果として平均で4倍ぐらい上がりましたので、びっくりもされたし、いろんな混乱があったことは事実でありますけれども、9年度の評価替えを経て大分定着してきたのかなと思います。
 問題は、7割の評価までずっと税額を上げていくのかというと、9年でそこはもう少し下のところまで下げたりしていますので、さっき金子先生がおっしゃったように評価は評価として横並びが大事です。どんな基準でもいいんですが、横並びが大事で、同じような土地については同じような評価をしなきゃいかんと。そういう意味では、7割評価は非常に意味があったんです。
あと、負担をどうするかというのは、今は負担調整でバラバラですから、やらざるを得ませんが、将来的には、さっきのα方式ではありませんけれども、どういう負担にするかはこの評価の適正化の問題とは別の問題として考えていくのかなと。その際に先生言われたように、わかりやすい仕掛けを考える必要があるだろうと思っております。

おわりに
 神野 ありがとうございました。
 最後に、コーディネーターとしてまとめをしなければならないのですが、既に4人のパネラーの方々からおまとめいただいておりますので、その内容について私なりの感想を述べさせていただいて、このディスカッションを締めくくりたいと思います。
 4人の先生方のお話をお聞きして、私の恩師の言葉を思い出しました。「国税とは、国民に国が負担させる税である。地方税とは、地域住民がお互いに負担しあう税である」と。つまり、金子先生のお言葉ですと、住民の暮らしに役立つ税、あるいは、住民との対話の活発化、透明性、小幡先生は身近な暮らしに役立つ税、岡崎課長は簡素な仕組みとか広く薄い、自主性の重要性、それから、小倉部長も民主性というようなことを強調されているわけですね。
 固定資産税というのは、日本は国税の地租から出発しておりましたので、地域住民に負担させるという側面が強かったような気がいたしますけれども、今後、分権化し、少子高齢化し、地域住民がお互いに助け合っていくというサービスが重要になってくる。地方税というのは、国税のように国民に負担させる税ではなくて、地域住民がお互いに負担しあう税という性格を強めていく必要があるのではないかというのが感想でございます。
 それからもう1つは、諸外国を見てみますと、市町村の基幹税というのは住民税、つまり所得税か固定資産税かどちらかに限られている場合が多いわけです。ところが、日本の市町村税は2つの基幹税を持っている。これはメリットとして活用すべきではないかということです。土地課税しか持っていないところは、地方自治さえ不可能な状態になっておりますが、日本の場合は幸いにして両方持っているということをうまく活用して、しかも、この2つの基幹税をうまく組み合わせることを考えるべきじゃないかという感想を持ちました。例えば固定資産税を人税化するという場合も、住民税は人税そのものですので、人的要素を考慮できるわけですから、2つの基幹税を合わせて市町村の目的を達成できる。
 それから、ラストリゾートとして、金子先生から、固定資産税や市町村税は課税標準だけふっておいて、最後に必要な税収を確保するために、割り戻して税率を決めるという方式を考えるべきだというご提案もございましたけれども、これも戦前の日本でやっておりました。戦前の日本では道府県は家屋税、つまり固定資産税の前身でやっておりましたし、市町村の方は戸数割、つまり今の住民税の前身でやっていたわけです。しかし、現在は2つ持っているわけで、この2つのどちらをラストリゾートにしてやっていくのかということを含めて検討していくと、日本は今までデメリットだと考えられていたところがメリットになって、21世紀の市町村税のビジョンが開けるのではないかという気がいたしました。
 その2つの感想を申し上げまして、きょうのパネルディスカッションを締めくくりたいと思います。司会の不手際でパネラーの皆様方にはご不自由をおかけいたしましたけれども、どうにかつつがなく時間内におさまりました。それからまた、ご参集いただきました方々には運営にご協力いただきましたことを感謝いたしまして、このディスカッションを締めくくりたいと思います。
 どうもありがとうございました。