評価センター資料閲覧室

第5回固定資産評価研究大会 基調講演

 「現在の不動産市場にみた固定資産税制の問題点とその評価−ストック経済下の資産課税のあり方−」

資産評価政策学会副会長、日本大学大学院経済学研究科教授 田中 啓一


1.はじめに
 ただいまご紹介を賜りました田中啓一でございます。約40分という非常に短い時間に与えられた課題ができるかどうか、その点はお許しをいただけたらと思っております。
 また、我々の学会が日ごろお世話になりましてありがとうございます。以後も、いろいろとおつき合い、ご指導をいただけたらと思っておりますが、これから特別講演でまた参加させていただくならば、我々の学会の幹部の皆さんがますますいい講演をすると思いますので、だんだんよく鳴るほっけの太鼓ということで、本日は前座を務めさせていただくことになろうと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。

2.バブル経済の崩壊と文明西下論
 さて、この10年余ですか、ほとんど、あんまりいい意味で日本経済が、バブルの時とこんなに変わるのかと改めて実感するところでございます。発展する国家、その都市の地価は絶えず上がり続けるということを、ジー・エス・ウィルが150〜160年前に既に指摘しているところでございますが、まさにそのとおりだろうと思います。この地球は、西へ西へと発展する国家が、都市ができてくるという文明西下論が歴史学者トインビーが言われたところでありますが、確かに近代社会を見ましても、イギリスに、いわゆる近代化が進むと同時に、資本主義、そして産業革命というものが起きて、1810年ごろ集積のメリットでロンドンにバブルが起きました。
 その約30年後に、マンチェスター、リバプールに第2のバブルが起きました。そのマンチェスター、リバプール、最近行ってきましたが、改めて、これまで150年の間、ほとんど衰退しておりました。しかし150年前は、永久に繁栄する都市であると言われた訳ですが、この150年の間、産業革命の変化に対応できなかったということを背景として、衰退、アーバン・デクライン現象が起きていたわけです。
 こういう中で、最近になりまして急激に復活してきたというわけでありますが、その原因を探りに行ってきました。リバプール大の都市環境学部ございまして、たまたま私の友達で、ベイティーという世界地域学会の会長をやっておられる方がおります。彼を中心として、リバプールを、EUの力をかりて開発、そして復興してきたわけです。これもいつか、我々の衰退現象から回復するという一つのモデルになるような気がいたしますので、何かの機会にまたご報告をさせていただきたいと思っているところであります。
 バブルはいつまでも続くわけではございません。市場経済では必ずそうでありますが、バブルは、西へと回っていき今度は大西洋を越えて、アメリカにいき、第1次世界大戦の後の戦争バブルが崩壊した後、余剰資金が国内投資に向かわれて、それがポートフォリオ・セレクション(資産選択論)になってくるわけであります。何に投資したら一番安全で儲かるかというような現実的な学問が対象となったわけでありまして、日本にも700近い大学がありますが、この資産選択を教えている大学は、今のところ、残念ながらないわけでありますが日本経済がストック経済に入ったわけですから、こういう学問体系もぜひ必要であろうと感じるところでございます。
 いずれにしろ、余剰資金が当時の低金利で投資に選択するものがなくて、土地にいったわけでありますが、特にマイアミの土地、いわゆる別荘地に投資が向けられたわけであります。それが、ご案内のとおり、1920年代の初めでございます。23年ぐらいまで3年間続いたのですが、大ハリケーンがやってきまして、水浸しになってしまいました。政策によってバブルを抑えたのではなくて、自然現象が抑えたというようなことが言われているわけであります。
 それから、まだお金がありますから、23年から25年ごろ、今度は一般の商業地に投資がいったんですが、それもああいう広大な土地ですから、これも終焉して、そして25年から、今度はその余剰資金が株にいったわけであります。ダウ平均と言葉ができて、きょうも1ドル上がった、きょうも30セント上がったと。とにかく、ダウという会社を買えば一番儲かるというようなことで庶民が走ったわけでありますが、そんな株はございません。そして、庶民が出てくるときには、大体株高が終わるということで、1929年10月24日、魔の木曜日を迎えたわけでございます。

3.国富と土地本位制資本主義
 こういうように、大体資本主義社会では、だんだん西へ西へと回って、しかも株と土地が、特に土地がスタートを切ってバブルが発生するということが指摘されているわけであります。また、我が国も日清・日露戦争に勝ったというんでしょうか、そういう戦争の後、実は明治時代の末から大正にかけて、土地が異常に上がりました。そして、そのときには、私どもが所属しております資産評価によく似た不動産学会とか、そういう学会をつくって、日本にも土地の、不動産の教育をやるべきだという説が出てきたぐらい地価の高騰が激しかったわけであります。
 明治40年、そして大正5、6年ごろの、国富統計を見てみますと、実に54%が土地と建物の不動産であります。国民総資産、国富といっていいと思いますが、そのうちの半分以上がそうであります。そして、私どもの十数年前のバブル、平成元年から2年にかけてのバブルのとき、土地が2,350兆円と推定されました。今日、以前国土庁土地局長をなさった片桐さんもお見えになりますが、そのときにいろいろ指摘されたところであろうと思います。わずか、37万8,000平方キロメートルの日本国土、国土面積は地球上の400分の1のちっぽけな面積、しかも84%が、残念ながら使えないような山また山というようなものであると思いますが、その平地、利用できるのはたった16%、そのうちの11、12%は農地ということですから、残りの4、5%の土地を我々は商業用地、工業用地、そして我々の住宅という形で使ってきたわけであります。
 こういう狭い国土の中では、やはりそれに対応する、担保となる、あるいは投資財の一つの目的となるようなものが、なかなか限られている。欧米と比べて非常に限定されているわけでありますから、土地しかないわけでありまして、そのときの国富の中で不動産がは54%を占めたわけでございます。そういうところの中で、いわゆる『土地国有論』という、一炭屋のおやじさんが、こんなばかなことはないと出版しました。たまたま土地を持っておれば巨万の富を得る、何もやらんでこんなに富める。こんな国はなっとらん。学者も、政治家もなっとらんというようなことで、一炭屋だけど、怒らざるを得ないということで本を書かれたわけです。どういうわけか私の本と全然違いまして、非常に売れて、今、古本屋さんに行きますと、『土地国有論』という本がいまだに売られております。このときは、実に、先ほど申しました54%、そして我々、十数年前のバブルのとき2,350兆円、そして国富全体では7,400兆円と推定されたその時期、このときの土地のウエートは37%前後であったわけでございます。
 あれだけの巨大なバブルが発生したときよりもはるかに、実は明治の終わりから大正の初めにかけては、土地の資産のほうが大きなウエートを持っていたわけであります。そこから、土地本位制資本主義と言われるような現象が、長い長い歴史の中で構築されてきたわけであります。ちなみに、この土地本位制資本主義を崩壊させたのは今度のデフレでありますけれども、これは必要であります。しかし同時に、それにかわるべきものがなかったのが、残念ながらこの十数年にわたる不況の主因であるような気がするわけであります。

4.日本経済の現状と、ストック経済活用による再生
 土地から発生して、そしてそれが株に連動してストック経済、そしてバブルが、世界の歴史の中で見られる現象であります。そういう中で、我が国は、終戦直後、世界の0.2%の経済力しかなかったわけであります。そしてアメリカは、実に一国で52%の経済力を世界経済の中で持っていたわけであります。戦後五十有余年になりますけれども、この間、日米の二国だけで4割以上を支えてきたわけです。
 そして、今では200とか言われる国々の中でも、未だにこの大きなウエートの違いはないわけですけれども、アメリカは25、26%に下がり、そして日本は、バブルのときには実に15、16%を占めたたわけであります。
 先ほど申し上げましたように、ストックが7,400兆円になったわけでありまして、ストック経済にバブルのときに特段と入ってきたわけであります。世界第2位の経済大国に我が国は、高度成長期のときにドイツを追い越してなってきたわけでありますけれども、しかし、それと同時に、実は我々が忘れてはならないのは、このストック経済、資産大国になったという現実であります。
 しかしバブルのときには、土地資産は2,350兆円、アメリカが5つ買えるというような、東京の地価でアメリカが買えるんだというような馬鹿なことを我々は信じてきたわけであります。そういう一種の過信があったことも事実だろうと思います。まあ、バブルに、ある意味では浮かれていたということも現実でありますが、バブルは泡ですから、これはいつまでも続くわけはありません。
 これが崩壊したのが今日ですが、その後も資産大国であるということを政策の中で忘れてきたのではないか。そして10年の間に9人も首相がかわり、サミットに出てもいつも隅というような現実がこの10年間見られたわけであります。
 考えてみますと、我が国はフローでは、世界第2のまぎれもない大国であるわけですけれども、バブルのときには約500兆円近くに達したわけであります。その1割経済である東京都のGDP、これが約50兆円でございました。そして当時、今から十二、三年前、経済大国になりつつある中国でありますけれども、この中国の12億人の民と1,200万人弱の東京都民が、稼ぎ出すお金がちょうど50兆円でありました。この10年間、東京は日本を代表するわけでございますけれども、マイナス経済を含めてほとんどゼロ成長であったわけであります。
 つい最近では、世界の中でこんな国はないと言われている一つの事例があります。GDPが国内平均よりも伸び率が低いというのは日本の首都である東京だけであります。
 一方、7%から8%の経済成長を続けたきた中国経済は、ご案内のとおり、今では世界経済のシェアの第8位になりまして、3%近くなっているわけであります。年率7から8%伸びていく国と、我が国のような、ほとんどゼロ成長である国との違いがここで厳然と、乖離現象というんでしょうか、分かれてくるわけであります。
 そういう意味では、早く東京をどうかして再生する、そこからエンジンをかけていくということが、日本経済の一つの大きな復活の要因であると私は思っておるところであります。都市再生という意味で、ようやくこの61冊目の本『都市再生と環境共生』(中央経済社)を近いうちに出しますけれども、その中でも書かせていただきましたが、その原点はストック経済だということを忘れていたということであろうと思います。
 この10年間、不況続きで明るい話があまりなかった。しかし、そんな中でも、500兆円近い日本経済でありますけれども、これはほとんど伸びませんでした。しかし、ストック経済を、現実には、フローの塊がストックになるわけですが、伸びなかったのはご案内のとおりであります。
 現在、ストック総額は、約7,500兆円と推定されるわけでありまして、バブルのときの土地資産は2,350兆円でありました。しかし、建物、ビルとか、あるいは住宅はそれなりに増えてきておりまして、200兆円から300兆円台になってきたわけであります。もっとも、一番伸びたのが、低金利にあえぐ金融資産が4,000兆円を超えてきたわけでありまして、個人金融資産が1,400兆円超もあるということも指摘されているわけであります。
 ご案内のとおり、この土地資産、不動産資産からこの10年、デフレの間に、金融資産に大きく資産構成がシフトしてきたということが現実であります。しかし、こういう不景気な中でも、ストックは7,500兆円をほぼこの10年間、維持している。中身は変わりましたけれども、維持してきているということであります。
 実は、フローとストックが15倍を持っている国というのは日本しかないわけであります。アメリカが株バブル、これがテロによって崩壊するとか、いろいろな意見があります。いっぱい張ったところでテロ事件が起きましたので、「世界経済同時不況」とも言われて、その深刻度は増してくると思いますが、この可能性を、私は平成元年に出した本『都市空間整備論』(有斐閣)の中に書いておきました。
 こういう中で、アメリカ経済は株バブルと言われておりますが、それでもストックはフローの大体10倍から、最近のバブルによって11倍になったわけであります。EU諸国、ヨーロッパの国々はドイツにしろ、フランスにしろ、イタリアにしろ、あるいはイギリスにしろ大体、フローの7倍から8倍がストックであるわけでございます。我が国は、経済フローで、510兆を超えるぐらいを、毎年我々は一生懸命稼ぎ出している。この15倍にほぼ近い、バブル時には16倍にいったわけですが、今14倍ぐらいに落ちてはおりますけれども、15倍前後のストックを持っているわけであります。
 これが活用されないでいる。金融資産4,000兆円を、普通預金でしたら0.01%というような極端に低い。ODA予算で、あまり知られておりませんが、1,000人の旧ソ連邦の役人の方々、若い方々を日本に招いて、エリツィン・橋本会談でそうなったわけでありますが、私もずうっと旧ソ連邦の皆さんを教えているんですが、財政金融政策を担当しております。そのときに、話の中で、日本の金利はどれだけだと言うとびっくりしますね。うちは60%、70%の金利をつけるところもあると言われますけれども、キャピタル・ロスがそれ以上に大きかったら危険ですから、日本の投資家でも、いくら預金金利が高くても、しないよと言って大笑いしたことがありますが。
 いずれにしろ、まさに天文学的な低金利ですが、これがもし7,500兆円を例えば1%上がるような経済政策をとるならば、75兆円、ほぼ国家予算に近い形が新たに生み出されるわけです。2%ならば150兆円ということでありまして、これは、私はバブルではないと思っております。
 こういうような政策、そして我々のフローで稼ぐのとストックで稼ぐ本音の議論というのがアメリカがこれまで伸びてきた、そして中国が現実的に社会主義的市場経済という理論を構築した方で私も10年以上のおつき合いをさせていただいておりますのが高尚全先生でありまして、今の首相の恩師でもあり、上海市長の恩師でもあります。毎年お会いしておりますが10年少し前、市場経済に移行していくんだ、国営企業で扇風機一つ買うのに判こを60も70も押しているため一夏終わっちゃう。これではどうにもならんということを堂々と言っておりまして、「先生、命は大丈夫ですか」と言って心配したぐらいですけれども、あっという間に、こういうような形で社会主義的市場経済、ある意味では理論的にはなかなかわからないところでありますが、一方日本はその逆だというようなこともよく言われます。
 そして、きょうの『日経』にも載っておりますとおり、昨年の3月の株の市場のピーク時から比べますと、実に10兆ドルといいますから、1,200兆円近い日本のGNPの2年半分ぐらいが、この1年間で世界じゅうでは消えてしまったわけであります。これを早く立て直すということが、世界の61億の民が生きていくためにはぜひ必要な手段であります。この二、三年がまさに勝負であり、張りつめ切っちゃったアメリカ経済に対して、ある意味ではこれまでじいっと耐えてきた日本が第2の出番である。それには、私はストックをうまく利用していくことであろうと思います。その意味でも、土地の評価、土地がどうあるべきかということを我々は本音の議論が必要であると思っております。

5.高度経済成長期とその後の不動産市場
 私は、五、六年前から、容認地価水準はどうなのか、あるいは容認地価上昇率をどう考えていくのか、本音の議論が必要でないかということを申し上げておりますが、なかなかご理解をいただけなくて今日を迎えたところであります。しかし、そういう議論にもう入らないと、ストック経済の中の土地、そしてそれに連動する株、を解決しないと、日本経済の再生はないと思っております。きょう与えられた課題の中では、不動産業というテーマが一つ関連するかと思いますが、土地に依存する追い風経済や地価上昇があったわけであります。
 現在の中国の7、8%よりも、実はご案内のとおり、高度成長期、昭和30年、もはや戦後ではないと言われた1955年から石油ショック、48年でございますか、1バレル原油159リッターが2ドル14セントで買えたのが、あっという間に11ドル55セントになり、3年後の54年には実にスポット物で42ドルまでいって、世界経済が不況になってきたというパターンがあったかと思います。
 この間、昭和30年から48年の18年間に、長期にわたり14、15%の経済成長を遂げたわけであります。そして、名目でありますけれども、19.2%ずつの地価上昇が平均値であった。もっともこの18年の間の前半部分はイタリアとか、あるいはスペインとか、フランスあたりのラテン系の地価上昇は日本よりも激しかったわけです。年率21%ぐらい上がってきたわけですが、土地増価税の導入とかいろいろなことがありまして、ラテン系の地価は抑えられたわけですが、日本は後半もずうっとその勢いで上がってきたわけであります。
 だから、不動産業は業種別では、高度成長期に日本の業種を調べますと、大体18倍ぐらい、この18年間にちょうど伸びたわけですが、第1位は実に144倍伸びた。これは不動産業であります。そして第2位がレジャー産業、サービス業であるわけでして、48.1倍、総資産の伸びが、会社、業種の含み益というんでしょうか、それを含めた資産が伸びたわけであります。実に18年間で144倍も不動産業は伸びたわけでありまして、3番が建設業であります。これが44.2倍伸びたわけであります。今、不景気の中でも、トヨタやホンダが活躍しておりますけれども、自動車産業はこの間28.7倍伸びたわけでありまして、電機産業、松下は今不況、ソニーも大変苦労されているようでありますが、24.7倍ということで、上位3位がものすごい勢いで日本の高度成長期に伸びた業種であるわけであります。
 これはまさに地価上昇メカニズムの中で、追い風経済があったわけであります。エクスターナル・エコノミーといいましょうか、外部経済メリットが日本経済全体にありました。戦争が終わりますと、その技術がトランスファーされて民間に移ります。これは旧ソ連では移らなかった。民間の受け皿がなかったわけでして、宇宙技術はアメリカ以上のものを持っていたわけですが、トランスファーする、それを受け入れるシステムがなかったわけであります。日本はそういう中で、吸収する力を持っておりまして、それによって高度成長を遂げることができたわけであります。
 しかし、これはあくまでも追い風経済であった、今それが崩壊して、いわゆるバブル経済の崩壊が金融機関を含めて、非常に苦しんでいる背景があるわけであります。これもほとんど土地から発生し、今、地価の下落が11年間、基準地価、公示地価では急激に下がっている。これは東京ですが、全国レベルでは10年、下がっています。しかもまだまだ下がることがいろいろな識者からも指摘されているのはご案内のとおりであります。
 しかし、住宅をせっかく買って、その途端にどんどん安くなる。一方ではローンを払わなきゃならん、そして固定資産税、きょうの問題でありますが、税負担も基本的にはかなり上がってきている現状で、健全な社会構成ができるのかどうかというのも我々は考えざるを得ないと思います。もっと早くそういう本音の議論をスタートして、それに沿った政策が必要であろうと思いますが、これが今までなかったわけであります。
 日本の場合はあと1世紀たてば、ちょうど6,700万人から6,800万人に減ります。しかし、地球上の人口は、今の61億人から120から130億人までいくとも言われているわけでありますが、こういう中でも、我が国をはじめとする先進国では人口が減っていきます。このため、コンパクト・シティー化の世界の動きの中で、土地利用をどうするのか、昼夜人口が、千代田区あたりでは1割も満たない。ある意味では資源をむだにしているわけでございます。
 パリのように、昼夜人口が8割ぐらいのところにいくべきだと思いますし、つい先日パリから帰りましたが、パリの20区あたりで、築70年ぐらいで15坪、50平米のマンションが、今、売れております。一種の不動産ブームです。15%ぐらい年率で上がっています。これは今まで経済が堅調であったイギリス人が、新幹線ができる結果、2時間半でおいしい食事を、パリに来れるということで、庶民が、ロンドン・バブルでもうけた人々が、パリに別荘を買っているわけです。EUの影響というんでしょうか、通貨が一緒になるという前提の投資が行われているわけであります。
 このような現象をみると、土地が、不動産がある程度、適正な上昇をしていない限り、その国の経済は健全ではないという感じが本音ではいたすわけでございます。
 こういう中で、今、確かに超高層マンションが売れていると言われております。しかし、最近の一般の、つい最近の業界の皆様方にお聞きすると、需要はストップしたといっています。

6.これからの地方自治体の役割と税財政
 我々は1,400兆円も貯金があるなんて言っておりますが、低金利であるわけでありまして、その資産増による増え方はほとんどないのが現実であろうと思います。日本では、70歳以上の方々の持家比率は、金融資産も含めて80%も持っている、こんな国も日本しかないわけであります。高齢者の皆様方が持っている資産をどう流動化していくかということ、それには長い老後の将来を安心、安全にできる生活環境、そしてまたそういうまちに住んでいく、そしてまた社会保障、そういうシステムの構築が今何よりも求められているわけであります。
 そういうときには、地方自治体の役割が国家よりもある意味では重要にはなってくるわけです。もっとも、地方自治発祥の国のイギリスが税だけでなく、行政・地方自治を含めて、だんだん中央集権化に向かっているのがちょっと気になるところであります。つい先日も今年二度目のイギリスに行って、向こうの方々ともお会いしたり、いろいろ聞いてきましたけれども、中央集権化の動きは避けられないというような感じがいたしたわけです。
 翻って我が国を考えてみますと、地方自治財政は、ご案内のとおり20兆円がことしの13年度の計画であろうと思います。このうち固定資産税が、収入はご案内のとおり、市町村税では46.3%、そしてまた都市計画税は6.5%、合わせると53%。市町村税は16ぐらいから20ぐらいの税源があろうと思います。そしてまた都府県税もそれくらいある。そして国税が20ぐらいありますから、60に近い日本は複税国家であろうと思います。先進国の中でも一番多いロシア、ロシアは先進国と言っていいかどうかわかりませんが、ロシアとともに大きい国、税の種類だけはたくさんある国であろうと思います。
 こういう中で、市町村税で翻ってみますと、今申しましたように、一つの税だけで過半の53%を占めている。そしてまた、これは都市計画税を入れてでありますけれども、熱海市をはじめとして固定資産税と都市計税だけで6割を占める自治体もあります。これはまさにストック課税に入った、ストックに対して課税するということであります。税体系自体はアングロ・サクソン税制に入ってきたわけであります。
 私は、残念ながら望ましい税体系になっていないという感じがするわけです。元気の出るのは、住民税や法人住民税であります。しかし、残念ながら3分の2が赤字企業というような態勢であります。また個人住民税はご案内のとおり、リストラ、そして失業率5%を超えるというようなことにもなっておりますから、どうしてもストックに課税するということになろうと思います。しかし地域経済の活性化のためには、私はむしろストックの多い、固定資産税関連のウエートの多い税源に頼っている自治体というのは、卵・鶏論になるかもしれませんが活力がない。
 こういうようなことで、フローに、結果的には課税のウエートがかかるようなそういう自治体づくりをする必要があるような気がするわけであります。税は、所得の段階で課税するのか、あるいは消費の段階で課税するのか、またはストックに課税するのかという、この3つのバランスがこれからますます重要となってきます。明治の初めには、税制は、ほとんど地租、今でいう固定資産税が92%ぐらいを一つで占めていたわけです。税の負担は、日本は国営企業というようなことを、八幡製鉄をはじめ、いろいろやらなきゃならなかったわけですから、公共部門のウエートが高い。だから11%ぐらいのウエートがございました。今はどの国も約4割以上を公共部門が持っているウエートになってきているのが先進国であろうと思います。
 こういう中で翻ってみますと、所得課税は、この数年の予測では、残念ながら不況が続かざるを得ないということを考えますと、3税の中でのウエートは低下していくだろう。消費課税は、今のところ5%でありますが、これを導入して、税源の第1の税収にならない国はない。
 フランスはラテンの皆様ですから、財政学者の中には、国民性からいって、「税をごまかすこと我が生きがい」なんていう悪口を言う先生方もおられますけれども、間接税、ごまかしやすいと言ってはしかられますけれども、そういうシステムの中でインボイスを導入することによって、適正な、日本の益税よりもはるかにしっかりした課税の徴収率を高めるというシステムを構築したわけであります。そういうEUの国はほぼ15%の税率ですから、ほとんどトップになるわけであります。
 日本はこれが5%、大体1%の税率で2兆円強の税収が入りますので、もしEU並みの15%前後ぐらいだったら30兆円ということでありますから、日本の地方財政全体が20兆円、固定資産税収入が大体9兆3,000億円ぐらいだと思いますから、これがあっという間に全部重なってもいいぐらいの、将来消費課税というのが、そんな税率のアップということがある程度予測されますと、こういうような巨大な税収入になっていくのです。
 そして、資産課税は、徐々に上がってきております。しかし、今申しましたように、地価が10年も下落しているのに、上がっているというのは果たしてどういうことかということであろうと思います。バブル時の平成元年には、個人所得が32%、そして住民税が大体31%あったわけでありますが、3分の2シェアを占めていたのが約半分の20と27、半分以下に落ちてきたわけであります。この分だけ、資産課税と消費課税がこのデフレのリストラの時代に上がってきたということが日本の現実であります。不況時には、資産課税のウエートが逆に高くなり、そして好況時には、フローの所得課税のウエートが高くなるというパターンを繰り返して好況、不況の時期と税、財源との関係が関連づけられるわけです。
 そういう中で我が国の場合は、資産課税のウエートが、今申しましたように、予測としては高くならざるを得ない経済体制、税源システムになるだろう。いわゆるアングロ・サクソン型税制は望ましくないわけですが、そういうように移行せざるを得ないというのが現実であろうと思います。資産課税は、国税と地方税を合わせた対国民所得費ではフランスが8.4%で一番先進国の中で高い。日本はこれに対して3.7%で半分以下のウエートでありますが、しかし地方税では、これはご案内のとおり、イギリスとかアメリカは非常に高いウエートを持っているのはご案内のとおりであります。

7.日本の土地税制のこれまでと、これからのあり方
 我が国では土地分だけで約1億7,700万筆もある。ヨーロッパは大地主制度であります。シャルル・ド・ゴール空港は、ちょうど成田空港と同じ時期にド・ゴールによってできたと思いますが、10倍の面積を持っていると言われております。そのとき日本の場合には一坪地主も含めて3,000人でした、成田から逆算すると3万人以上いると推定できますが、実際には10人以下の地主で対応できたというぐらいの大地主制度が、ラテンの国やイギリスを含めてあるわけです。このように地主構成が大きく違っているわけですが、家屋も、今、6000万棟のところで3,500万の方々が持っているということであろうと思います。
 考えてみますと、固定資産税収入というのは、昭和30年、「もはや戦後ではない」といったとき、476億円の税収でありました。このとき、大学の初任給が五、六千円であったかと思います。476億円というと、今、人口、二、三十万ぐらいの今の財政規模であろうと思いますが、これが固定資産税収入全収入であるわけであります。昭和40年に2,813億円、そして1兆円を超えてきたのは、あの列島改造論の昭和48年、1973年であったわけであります。そして63年、バブルのときに5兆2,000億円でした、それが不景気の中で上がってきた。これは自治体側、徴収側では安定的、普遍的な税であるという評価が行われるわけでございます。
 しかし、納税者側を見ますと、必ずしもそうではないわけでありまして、資産価値は低下しているのに相対的に税額が上がるのはおかしいという考え方が潜在的にあるわけであります。納税者と、残念ながら政府というんでしょうか、"お上"という形では、本来ならば自分たちの財源だということであろうと思いますが、どうも太古の昔から対立関係にあるというのはいずれの国でも見られる現象であるわけです。税負担は「負担の重からざるを憂いず、等しからざるを憂いる」ということでありますがこれに反抗するには、昔は乱、あるいは一揆という、大塩平八郎をはじめとする乱と一揆でこれを解決しようとしたわけです。
 しかし、現代社会ではご案内のとおり、納税の義務があると同時に、我々の代表が、国会で税を決めていくわけであります。強制性、無償性、そして貨幣という近代租税の中の大原則の中で、公平とか中立とか簡素ということがあるかと思います。そういう中で、時間がありませんので「簡素」という視点からお話を、残り時間をやらせていただけたら思いますが、いずれにしろ、評価のあり方ということ、課税のあり方、そして税負担のあり方というのが政府への信頼とともに、これからはとくに重要になってきます。
 イタリアでは民間企業が入札によって徴税する、徴収をするというようなシステムもありました。あるいはフランスではVATという、先ほど申しましたように、Value Added Taxと言われる付加価値税を、もう30年位になりましょうか、若いときに、すぐ飛んでいって調べたことがありますが、こんなのが日本に導入できるのかなということを考えたことがあります。学会に報告したことがございますが、いずれにしろ、そういうようなのが日本でも消費課税としてこれから定着してくる。そうすると余計に国民の納税の信頼が必要となってくるわけであります。
 さて、固定資産税に絞ってまいりますと、適正な土地の評価が必要となってくるわけであります。土地の評価の場合には、「一物四価」とも指摘されております。そしてそういう中で、公示地価に一元化するという形である程度の定着を得たかと思います。私たまたま、確か、平成五年前後でしょうか、公示地価に一元化することで、まとめ役をやらせていただいたことがあります、調整率がこれからいろいろな問題に、課題となってくるかと思います。ニューヨークでは、住居用の場合はこれだけ、非住居用ではこれだけ調整するというような形を公表しております。こういうようなこともこれから必要になってくるかと思います。さらに一層のディスクロージャーが必要になってくるかと思います。

8.日本や諸外国の建物の市場、動向および資産課税の現状
 建物の評価、これは非常に、難しいわけでありまして、財源に苦慮している地方都市ほどウエートが高いわけであります。逆のことを言えば、それだけ住民の関心が強いということになろうと思います。そして、減価償却資産の評価もこれから大きな問題になってくるかと思います。日本の住宅一つをとりましても、ご案内のとおり、24年前後で消滅してしまいます。マンションですら、あれは丈夫だとお考えでございましょうが、私が登記簿をとりますと1,000円で、2,000件とりましたら200万かかってしまいましてフーフー言いましたけれども、青山、赤坂の、東京オリンピックのときに建築された築40年近いマンションの登記簿をとりまして見たところであります。わずか15坪か20坪ぐらいのところに何億円が軒並みに抵当権がバブルのときについているわけであります。今400万戸あります。あと10年後には実に100万戸が築30年を超えてくるわけであります。
 こうなりますと、あの阪神・淡路、私もすぐに行きました。昭和56年以前に建ったマンションでは、耐震構造をはじめとしていろいろ課題を抱えております。こういう問題、そしてまた、これが、今申しました過剰な抵当権、さらにその後建築基準法、都市計画は強化されましたので、既存不適格で今住んでいるようなのは建てられません。そして、高齢者の皆さんが多い。こういう状況では都心のスラムが現実化してくるわけであります。「トンネルを抜けると雪國であった」。あの地域には、実に40万円のマンションが今売りに出ております。40万円は1坪ではありません。1戸40万円です。それはもう、ほとんど居住者がいないわけですから、いないから電気代も払わない、ゴースト・タウンの出現という人ごとではない現象が今出てくるわけであります。
 いま、リバース・モーゲージ、あるいはまたビアージュという制度を私どもは研究しておりますけれども、こういう制度を使って高齢者の居住資産をうまく生かしていくということ。そしてまた土地の再生にこういうものをつくっていくということも必要であろうと思います。
 日本の住宅は、短命であります。アメリカは45年もつ、そしてまたイギリスは75年もつと言われております。日本はわずか24年、マンションですら、30年過ぎたら老朽化して建てかえていいという判決が出てきているわけであります。こうなりますと、これからは評価をどうするのか、いわゆる税法上の耐用年数のほうがはるかに長いわけでありまして、こういう現実を、建てかえをどんどんやらざるを得なくなってきたとき、どうするのかという課題も起きてくるかと思います。
 さて、簡素という税のあり方が必要であろうと思います。アダム・スミスも徴税費最小の原則と言っておりますので、簡素であるということが必要であろうと思います。いろいろな事例がありますが、例えばアメリカの譲渡益課税、これはいわゆる普通の夫婦ならば、50万ドルまで譲渡益が出ても無税だというのが今の税制であります。単身者ならば、その半分の25万ドル、約3,000万円まで利益が出ても無税である、だから自分のうちをきれいにペンキを塗って、隣が汚かったら、コミュニティーの地価が下がっちゃう、だからもっときれいにしろということを言って、まちづくりはそういうインセンティブのある税制であり、それにも簡素であることが非常にわかりやすいわけであります。
 そういう税というのも行く行くは必要であろうと思います。日本人の住み替えは一生涯3.5回、アメリカは7.5回ですが、日本は新築では134万戸つくっている。そしてアメリカはその2倍の人口でありますが、147万戸ということですから、実に1.1倍です。日本の住宅は短命で、人間長寿、特に女性は世界一の長寿ですけれども、住宅短命ということが言われるわけです。
 こういう中で、今、SI住宅、スケルトン・インフィル、これも私、今、委員長をさせていただいてやっているところでありますが、このごろかなり出てまいりました。都市公団でも、都心に、500戸の賃貸住宅をつくっています。皆さん方でマンションにお住みの方は、おれのところは築20年だという方がおられましても、水道管をカットすると半分ぐらい水垢で詰まってしまっている。これが現状であります。そういう水を飲んでいると思うとぞっとするわけでございます。
 さて、イギリスの例、先ほど中央集権化されている税制だと言っておりますが、地方税の場合でも半分は国税として、半分は地方税として、そういう中で人頭税的なものを50%、あるいは資産課税というような面を50%というようなウエートで、割合単純明快な形で徴税しており、そしてまた資産課税、全体の課税を16段階に分けて、真ん中のランクのものを9として、これで一番初めの4万ポンド以下のものについては2分の1の課税、そして大資産家に対してもこの平均値の2倍の資産課税にとどめています。これは逆進性を持っておりますし、または金持ち優遇ということにもなりますが、働いて資産を増やしていこう、それも課税が非常に少ないというインセンティブがあるわけであります。
 つい先日見てきましたが、大学の教員仲間のスウェーデン人がストックホルムの古い住宅ですけれども、売り希望は幾らだというのがインターネットで全部出ます。そして、建物分が評価額幾ら、土地分の評価額は幾ら、そして1年間の税金がこれだけだという形でインターネット上に出ております。税額も明示するのがノルマになっているわけですね。こういうディスクロージャーが行われているわけであります。土地が400坪ぐらいの土地に、上物が60坪ぐらいだと思いますけれども、それで3,000万円ぐらい。税金はちなみに、現在のクローネで換算しますと、約3万円ということです。評価基準も全部出ている、開示していくことが、北欧諸国では行われてきています。

9.環境問題と資産評価
 こういう状況下で、我々は、もう一つ考えなければならないのは、環境という評価をどう入れていくのかということであろうと思います。私、たまたま日本学術会議で、地球環境の委員長をさせていただいております。地球環境問題では、2時間、3時間欲しいぐらいでありますが、我々の想像以上に、今この地球が悪化しております。この100年の間に日本列島は1.4度上がりました。東京は2.4度上がりました。万が一、今世紀もこれぐらい上がったら、多分このままでいったら、あと四、五十年のうちに完全にこの温度に達します。そうすると、この東京も完全に水浸しです。地震の怖さとともに災害の怖さ、そういうのを早く抑えていくことが必要です。
 そしてまた、中国経済が7、8%の成長力だといいますが、日本を去年追い越して、第2位の石油輸入国になっております。アメリカを近いうちに追い越してしまうわけであります。石油はあと45年と言っておりますが、もっと早く終わってしまって、今のこういう化石燃料で依存しているものは全部、あと50年、ウランを含めてもちません。
 こういう中で、どうやったら我々は生存して、サステーナブル・ソサエティーというんでしょうか、持続ある社会をつくっていけるのか、こういう面でも我々の都市環境を含めて、いろいろな効率的なものに、環境を重視したものにならざるをえません。さて、地価の動向も二極分化から、今年から多面現象になってきました。駅から同じ5分という同じところでも、坂道の多いところでは、高齢社会ではその坂を上がり切れませんから、そこのところの地価は安いという評価が当然行われてくるわけでございます。

10.終わりに
 こういうふうに多面性を持った状況の中で、我々は生きていく時代を迎えています。ストック課税がこれからはますます大きくウエートが高まらざるを得ない今後にあっては、ぜひそういうような状況下では、特にフー・ペイ、フー・レシーブ、だれが税を払い、その便益をだれが得ているのかということが非常に重要になってくるかと思います。こういう視点からいきますと、地方自治と自主財源の確保というのは非常に大切でありますが、国からの援助とか、サポートとか、地方交付税の問題とか、そういうことじゃなくて、みずから生み出していくという都市間競争、地域間競争がこれから税を含めて行われてくるということが必須であろうと思います。自治体間の競争と共生の時代に入ってきたという感じがするわけであります。
 御清聴していただきましたことを感謝して、お礼の言葉とさせていただきたいと思います。
 どうもありがとうございました。