トップ > 事業紹介 > 評価センター資料閲覧室 > 固定資産評価研究大会 講演録・討議録 > 第1回固定資産評価研究大会 パネルディスカッション討議録 評価センター資料閲覧室第1回固定資産評価研究大会 パネルディスカッション討議録これからの固定資産税のあり方を考える
片桐 これからの固定資産税のあり方を考えるということで、早速パネルディスカッションを始めたいと思います。 固定資産税の対象として土地、家屋、償却資産とあるわけでございます。 このパネルディスカッションでは主として土地の問題に焦点を当てて議論をしていただくということで進めたいと思っております。しかも、土地の中でも税収の大部分を占めております宅地につきまして平成6年に非常に大きな評価のやり方の大変革を行ったわけでございます。これをめぐっていろいろな議論がなされています。宅地についてのこれからの固定資産税のあり方が現在一番議論の焦点になっているのではないかということだと思います。そういうことで、固定資産税の中でも宅地についての評価とか負担とか税制のあり方に焦点を当てて議論を進めてまいりたいと思います。 平成6年度評価替え 片桐 宅地の評価のあり方、また負担のあり方に、平成6年と9年に大きな制度改革が行われたわけでございます。今後のあり方を議論する前に、最初に、この平成6年の制度改革につきまして諸先生方の議論を展開していただきたいと思います。 最初に、実際に固定資産税の行政運営をやられております片山さんから平成6年の宅地の評価のあり方なり、負担調整のやり方なりについて簡単にご紹介していただきたいと思います。 片山 自治省の固定資産税課長の片山でございます。 平成6年の宅地の評価の方法の変更について簡単に振り返ってみます。それより以前のバブルのときにバブルの一つの原因として土地の保有コストが低いのではないのか、すなわち、固定資産税が低過ぎるのではないかという議論がありました。それがバブルの一つの背景、原因としてあったのではないかということが言われたわけであります。 もう一つは、固定資産税独自の問題でありますが、地域によって評価の割合がずいぶん違うのではないかという指摘もありました。例えば、地価公示と比べて高いところもあれば低いところもある。固定資産税が地域地域によってばらつきがあるのではないかということです。当時は評価額がそのまま課税標準になるところが多かったものですから、標準のばらつきがあるということは税負担のばらつきがあるということでした。そういうばらつきは解消しなければいけないのではないかというような指摘がありました。 さらには、日本の公的土地評価として、固定資産税のほかに地価公示や国税である相談税の路線価があり、それぞれがばらばらに行われていて、同じ税金を使って土地評価をやっているのにそれぞれがバラバラで三者の関係がわからないのではないか、これをもう少しわかりやすくすっきりしないと納税者や国民の理解が得られないのではないかという指摘がありました。 このようないろいろな議論があって、その経緯は皆さん方もよくご承知いただいていると思いますが、結果的には平成6年から固定資産税は地価公示の7割を目途に評価を行うということになりました。そのことによって、先ほど言いました地域間のばらつきがあるという問題は解消されるとか、国税や地価公示と固定資産税との関係が非常にわかりやすくなったという非常にいい面がもちろんありました。ただ、先ほどの金子先生のお話にもありましたように、副作用がありました。例えば、先生のお言葉を借りれば二元性が生じ、すなわち評価額と課税標準とが離れてしまい、したがって納税者に制度がわかりにくくなりました。さらには7割評価を行った結果、税負担の水準をそのときあまりはっきり議論していなかったものですから、いったいどこまで税負担が上がっていくのか分からないため、納税者にいたずらに不安感を与えた面もありました。このような副作用がありました。そのような問題を抱えながら平成6年度の評価替えが行われて平成9年に向かっていったということだと私は理解しております。 片桐 どうもありがとうございました。 平成6年度の評価替えについて、行政の現場でいろいろ体験しておられます横浜市の加藤さんにそのへんのところのお話をお願いしたいと思います。 加藤 横浜市の主税部長の加藤でございます。 私ども横浜市では、従前から地価公示制度に対しましてある一定の均衡をはかる必要があるだろうということで、昭和50年代の初めのころから地価公示価格に対し一定割合で評価を行っておりました。ただ、水準が20%から25%と非常に低かったわけでございます。そういう方法で公示とのバランスを常に配慮した土地評価を心がけてまいりましたので、7割にするということで上昇の倍率が高くなるわけですが、均衡化を図るということについては私どもとしてはあまり抵抗感はなかったというのか実態でございます。 ただし、市内全域がすべてそうかと言うと、なかには地価が高騰したようなところについては、例えば平成3年、あるいはその前の基準年度の段階で公示価格に対する率が全市平均より低いところはございました。そういうところはそれまで上げきれないという面がありましたので、諸般の状況を考慮して評価替えを行ってきました。そういった問題が平成6年の7割という水準を設定することによりまして、少なくとも評価の均衡ははかられたと思っております。 ただし、私どもの神奈川県下で19の市が協議会をつくっておりまして、評価替えのときなども意見交換等をやります。実際に7割にしたときに、ものによっては5倍になったり、あるいは6倍になったりするものがあるという話は聞いておりますので、全国的にはいろいろご苦労があったかなと感じております。 片桐 どうもありがとうございました。 日本の場合には地価公示価格を基準にしてその7割という評価の仕方を採用したわけでございます。諸外国ではどのようになっているのかということで、アメリカの資産税について大変勉強しておられます福井先生にアメリカの評価の仕方を簡単にご紹介していただければありがたいと思います。 福井 アメリカにはもちろん地価公示制度というのはありません。と言うよりは、日本の地価公示制度自体が世界でも珍しい部類に入ります。我々の、日本の常識ではかると間違ってしまうわけです。そういった公的なものがなくても、アメリカでは長い歴史の中で評価というものにずいぶんとメスが入ってきました、幾度も改革の波が現実の問題として降りかかってきて、歴史の中で評価の手法は次第に高度化されてきました。 一方の日本では、いまでこそ、初めて右肩上がりの時代は幻だったということで急激な上昇のあと、さらに急激な下降というのを経験しました。これが初めての経験なわけです。アメリカでは、そういったものはすでに幾度か経験しているわけです。例えば不動産価格が市場と共にアップ・アンド・ダウンするというようなことがよくある。そういった波の中で稚拙な評価は淘汰されていきます。従来から、学問的には3手法、原価法、取引事例比較法、収益還元法があります。日本もそれをアメリカから輸入しました。 実態としてアメリカでは各州でばらつきはありますが、全部の州を調べてみたところ、最も進んだ州のレベルでは3手法が並列使用、しかも、並列使用というだけではなくて、使われ方にもっと高度化の流れがあります。例えば、一般的な取引事例が豊富にある住宅に関しては取引事例比較法をメインでやる。ほぼそれで尽きます。対して、オフィスとか事業用資産、商業といった収益用の不動産に対しては第一義的に収益還元法で評価する。なぜなら事例があまりなく、裁判になったときでもきっちり根拠を説明できて、取引事例比較法のような恣意的なものでないからです。そういうふうに市場とリンクして、つまり現実をベースとしまして、最も適した評価手法はなんであるかというのを選別しているわけです。そうして結果としては3手法併用になっているわけですが、メリハリをつけています。そこまで高度化している実態がアメリカの州にはあります。もちろん、全部の州がそこのレベルまで到達しているわけではありませんが、そういったレベルまで到達している州がだんだんと増えつつあります。そういう認識で間違いない。 ですから、背景としては適正な評価というのは何なのだ、現実を最も説得力ある描写をする評価手法は何なのだという研究がずいぶん進んでいると考えるのが正しいと思います。 片桐 どうもありがとうございました。 先ほど金子先生の基調講演で、市場価格の7割という評価によって評価の公平化は図られたのではないか、しかし、新たな問題として二重構造、二元性が出てきたのではないかという指摘がございましたが、そのへんのことにつきましてもう一度金子先生にお願いしたいと思います。 金子 平成6年に7割評価に踏み切って、平成9年にもそれを実施したということは私はずいぶん前向きの改革であったと高く評価しているわけであります。公示価格というのは客観的な物差しでありますから、その7割ということで納税者から見ると簡素でわかりやすいということもあると思います。もう一つは、従来評価が不均衡であった、あるいは不公平であったという問題が固定資産税の大きな問題だったと思います。そのところを客観的な物差しである公示価格の7割をめどとして評価することにしたというのはずいぶん大きな前進、進歩だったのではないかと思います。 いま福井先生がおっしゃいましたことは、アメリカでは三つの方法が併用されているということであります。地価公示価格でも三つの方法があげられているわけです。収益還元法もその三つのうちの一つとしてあげられていますが、実際問題としては取引事例法が主として使われている。また、原価法というのはあまり使われていない。収益還元法は取引事例法が適正であるかどうかを検証するために主に使われているということを聞いたことがあります。 そういう公示価格をこれからももっとより客観的な時価に近づけるための努力を続けていかなければならないことはもちろんだと思います。他方では、地価公示価格がより客観的になればなるほど、その7割ということで固定資産税の関係の評価が公平で均衡のとれたものになっていくのではないかということです。今度の制度改正はそういう意味で正しい方向への改革であったと思っているわけです。 他方では、従来負担調整措置がとられてきました。負担調整措置はやむを得ざる措置であったと私は思いますし、税負担が一挙に上昇するのを防止するということは、納税者の不満を解消するという意味では、必要な措置であったと思います。他方では、それによって不均衡が永続化するという意味では病気を悪化させる側面もあったような感じもいたします。本法の7割評価により課税、他方では本法附則による負担調整措置による課税という二元性の問題をどういうふうにして解消していったらいいのであろうかということが、これから大きな問題になっていくのではないかという感じがします。 片桐 どうもありがとうございました。 新たな固定資産税制度の構築 片桐 平成6年度の公示価格の7割評価ということで、全国平均で見ても評価額が一挙に4倍に上がったので負担調整措置を導入したということです。ところが、現実には地価がどんどん下落するという状況の中で、固定資産税に対するいろいろな批判、不服申し立てが出てまいりました。平成9年度の評価に当たってもいろいろな変革、制度改善に迫られたと思います。そのへんのことにつきまして、平成9年度の評価替えに当たってのいろいろな改善、工夫について片山さんからお話いただきたいと思います。 片山 平成9年度の評価替えとそれに伴います制度の改正を私が直接担当しました。そのときの認識を申し上げさせていただきたいと思います。 一言で言いますと、先ほど申し上げました平成6年度の評価替えと制度改正のいわは副作用をできるだけ除去したいというのが平成9年度の改正に当たっての一番の基本的な考え方でありました。私なりに平成6年度からのスキームを見ました場合に、大きく三つほどいわば副作用があったと思っておりました。 一つは、制度が非常にわかりにくくなってしまったということ。2番目は、それと関係があるのですが、あるべき負担水準にめどがついていなかったものですから納税者に不安感を与えた面があったということ。もう一つは、これは固定資産税が昭和25年にできてから恐らく予想していなかったことだと思いますが、ある程度長期的な地価下落に対応しきれていないということ。この三つが問題意識としてありました。 最初の制度がわかりにくいという面は、平成6年に評価替えをして評価は4倍になった、しかし課税標準はそれほど上げないで前年の課税標準をもとにしながらほふく前進していくという制度をとった以上どうしてもわかりにくくならざるを得ません。その問題以外に、実は平成6年の制度は、本来評価面で対応しておくべき問題を制度面でつじつまを合わせていたという面があったのだろうと私は思います。と言いますのは、これは地価下落に対応していないという問題意識とも関連しますが、1年前の地価公示を使っているときにこの1年間で地価下落がある、それが評価面に全然反映しない、それならば負担面で少しつじつまを合わせようという面があったわけです。これは実は固定資産税の市町村の窓口の担当の方はよくおわかりいただいていると思いますが、暫定特例だとか、臨時特例だとかの制度面での法律改正をいたしまして、評価がものすごく上がって下がったようなところは、課税標準を1/2とか3/4とかにぐっと落としましょうという制度をつくりました。そういう本来評価面で評価額に反映すべき点を負担面で処理しようとしたことが、固定資産税の制度をまた一層複雑にしてしまったということがありました。 そのへんを解消しようということで、今回は負担水準という比較的わかりやすい概念を導入して評価額に対して課税標準が何割の水準にあるか、それならば税負担の計算はこうなるというような仕組みにしました。正直言って、まだまだわかりにくいという点は解消されていないと思いますが、過去からずっと携わっておられる方は平成6年のスキームに比べると相当わかりやすくなったということを理解していただいているのではないかと思っています。 2番目のあるべき負担水準というのは、先ほど触れましたが、評価額、すなわち地価公示の7割の水準の天井まで税負担がひたひた上がっていくのでないかという不安が納税者にありました。それは今回ある程度整理いたしまして、少なくとも評価額の8割、すなわち地価公示の7割の8割でありますから、したがって地価公示の56%に相当しますが、これより上にはいかないという新しい制度をつくりました。同時に、評価額の6割の域に達している土地の場合にはしばらく足踏みしておいてもらい、それよりも低い水準の土地はその低さに応じて少しずつ負担調整措置を通じて税負担を上げていくというスキームをつくりました。 これも本来ならばすべて公平に、評価額の一律何割というやり方がとれればもっとすっきりしたのですが、そうした場合には税額の激増、激減というが起こります。激減はともかくといたしまして、激増は日本の固定資産税制度の中では今日まできわめて抵抗の強いところであります。したがって、今回の改正はいささか微温的だという批判はあるかもしれませんが、少なくとも負担水準の高過ぎるものは下げ、低いものは上げていくという方向に踏み出しました。平成9年度の改正ではまだあるべき負担水準は決めておりませんが、次の平成12年のときにはできる限り負担水準のめどをつけるということも方向だけは決めてあります。 地価下落に対応というのは二つの意味があります。一つは、基準年度の評価額に地価下落がどれだけ反映できるかという問題です。もう一つは、固定資産税は3年間据え置き制度をとっていますから、基準年度に評価替えをしても、2年目、3年目に地価が下がったときに評価額がかわらないのはおかしいのではないかという問題です。この二つの問題がありました。いずれも極力これを解消したいということで、前者の問題、すなわち基準年度までの地価の下落は賦課期日の半年前までに生じたものを評価額に反映させることにしました。もちろん半年分でありますのでまだ完全でないと言われればそのとおりでありますが、実務との兼ね合いではできる限りの努力をしたつもりです。すなわち、平成8年の1月1日の地価公示は使いましたが、その後半年間の地価下落は地価調査などを使いまして評価額に反映するさせるということをいたしました。 それから固定資産税は据え置き制度をとっておりましたが、地価が下落しているという状況にかんがみまして、平成10年、11年に全般的な地価の下落がさらに続くようであればその下落分だけは評価額に反映させることにしました。上がったところは放っておくにしましても、下落分だけは、大ざっぱなやり方になるかもしれませんが、少し簡易な修正を施してこの間の地価の下落を固定資産税の評価額に反映させようという制度をつくりました。現在平成10年の修正に向けて最初の取り組みが行われているところであります。 片桐 どうもありがとうございました。 平成9年度の評価に当たってはいろいろな改善が加えられた。先ほどの負担水準の公平化ということもありますし、さらに評価の半年間の時点修正とか、2年度、3年度の修正とかのかたちで、現場で固定資産税を担当しておられる方も今までと比べますと大変作業が増えたということもあったのではないかと思います。横浜市で具体的に担当しておられる加藤さんからそのへんの話をいろいろお伺いしたいと思います。 加藤 平成9年度の税制改正で、いま片山課長がおっしゃったように、従前に比べると非常に制度は単純化され、私ども実務担当者としてもそれはそれで結構なことだと思っております。 ただ、納税者のサイドから見るとまだ非常にわかりにくいといわれています。私どもも全所帯に配布しております『広報よこはま』という広報紙で3月、4月とだいぶ大きな紙面をとりましてPRに努め、またいろいろなパンフレットやチラシをつくり、できるだけ理解していただくように努力しました。しかし、まだまだとてもわからない、自分では計算できないという声が非常に多いわけです。税の制度というのは、特に固定資産税は非常に税額も対象も大きく市町村の税収の約4割を占めるという大変重要な位置にあるわけでございます。できるだけ税額計算の仕組みを単純化していくことがこれからぜひとも必要だと思っております。 しかし、平成6年度の制度から比べると非常にシンプルになりました。もう一つ、固定資産税の将来的な税負担の水準がある程度明示されたこと。これも納税者サイドからすると明瞭化されわかりやすくなったと言えると思います。 半年間の地価の下落に対応する措置を10年度、11年度ととることになったわけでございます。全国的に下落しておりますので、私どもも現在作業中ですが、どうしても簡便な手法をとらざるを得ない。これは技術的な話になりますが、そうするとどこで妥協するかという妥協の水準をいろいろ悩みながらいま探っているという状況であります。 9年度の水準は路線価で見れば自信を持って、適正にやったと私どもは思っております。しかし、これを10年度も同様に細かくやるにはどうしても時間的な制約、人員的な制約がございますので非常に困難でございますから、他の方法をとらなければいけない。それをどううまく整合していくかという作業をいま進めているところでございます。 片桐 どうもありがとうございました。 今後の負担水準のあり方 片桐 今まで平成6年度、平成9年度の過去の経緯について話をしてきました。現在の固定資産税の評価なり、負担なりということについてまだまだ議論があるわけでございますが、これからどういう仕組みを目指していくのか、今後のあり方についてこれから議論を進めていきたいと思います。 先ほど二元性、二重構造、評価と負担の乖理の問題が指摘されました。あるべき負担水準、評価の均衡化から負担の均衡化へという、金子先生からも先ほどの基調講演で話がありましたが、このへんの考え方についてまず最初に金子先生からお話いただきたいと思います。 金子 平成9年度の改正によってもなお二重構造、二元性が残っているということを先ほどの話で申し上げました。しかし、平成9年の改正の結果、将来への展望が開けてきたという感じを私は持っております。今後の負担調整措置を見ていますと、先ほど片山課長からお話があったように、負担水準という新しい考え方が出てきているわけです。課税標準、つまり公示価格の7割に対する昨年度の課税標準の割合を負担水準と呼んでおります。その負担水準を見ると、どのくらい実際の課税標準が本来の課税標準と乖理しているかということがわかるわけです。そうすると、それをあわせよう、どこかに収斂させようという機能的な概念、機能的な役割を負担水準という新しい観念は持っているのではないか。そういう収斂機能を持っているのではないかという感じがします。 そして、先ほどお話があったように、商業地等の場合ですと6割から8割ということは42%から56%までの間に徐々に収斂させていこうということになるわけです。それはおおむね5割と考えますと、商業地等については5割を基準としてそれに税率を適用した金額が税額になるということであります。そこで、商業地等でそれぞれの地域で標準的な収益額がどのくらいかということをいろいろなデータを使って計算してみる、そうすると、それの範囲内に納まっているかどうかとか、あるいは商業地等の場合は事業に使われているわけです、そうすると黒字の企業であればその固定資産税は費用として引けるということがありますから、ネットの負担率はその1/2と2/3ぐらいになるというような計算がいろいろと可能になってくるということにもなっていくと思います。 他方では、先ほどの意味での負担水準が一定の帯の中に収斂していくと、今度は負担調整措置の代わりに税率で税負担を決めていくことが可能になるという意味で、今度の負担調整措置は、負担調整措置とはいいながら他方では将来への展望を開くという意味も同時に持っているという意味で前向きなものでないかと私自身は考えているわけであります。 片桐 どうもありがとうございました。 負担水準がどうあるべきかということについては、納税者の理解と納得が得られるような考え方、水準が重要なポイントだと思います。納税者に直接接しておられる加藤さんに現在の負担水準の問題点についてご意見をお願いしたいと思います。 加藤 固定資産税は長い歴史がございます。いまの土地なり家屋なりの負担水準は数十年の歴史があるわけでございます。したがって、納税者サイドからすると負担の水準はそう大幅に上げられては困るし、引き下げられれば当然喜ばしいことだと思いますが、財政の負担、行政サービスの水準といったものもございますので、納税者サイドから見ると、一般的には経済成長程度の上昇はやむを得ないと考えている方がほとんどだと思います。 それから、財政という視点で固定資産税を考えますと、税収の安定性が一番重要でございまして、いまの固定資産税が2倍も3倍も一気に上がるということは我々は当然想定していないわけでございます。したがって、現行の税負担を考えると一定の理屈、一定の根拠のもとに適切な負担があるべきだと思われる方が大半だと思います。 そこで、評価に連動しますと、その評価が安定しているときにはよいのですが、急騰すると、それと共に負担が急上昇したり、あるいは降下したりということは納税者サイドから見ても、財政の当局としてみてもあまり好ましいことではありません。やはり一定のルールのもとに適切な納税をしていただくということが重要かと思っております。 地価の水準もひところに比べてだいぶ下がってまいりましたし、これからは地価は安定化していくと思います。そういう中で、先ほども申し上げましたが、できるだけ評価と課税との関係をわかりやすく、端的に言うと、家屋のように評価額がそのまま課税標準額になるような制度を是非つくっていく必要があると思います。 税額計算の簡素化という点では、平成9年度は一つの過程にあるわけでございます。次の基準年度には、さらに評価と課税標準の仕組みをシンプルにわかりやすくしていただきたいと思っております。 片桐 どうもありがとうございました。 負担を考える場合にいまの固定資産税は土地も家屋も償却資産も、土地の中でも住宅用地も商業用地も農地も山林も、全部一律な標準税率で、1.4%ということになっています。土地も家屋も同じ1.4%で負担を求めると、しかも評価をマーケット・バリューということで適正にすると、それがいったい負担水準を考える場合に適切なのかどうかという議論もありうると思います。 アメリカでは財産税は財産の種類によって税率を変えているということがあるようです。そのへんのことについて福井先生にお願いいたします。 福井 アメリカの多くの州では課税標準という日本の用語を持ち出しても、それはなんですかというふうなことになります。評価額自体にダイレクトに税率をかけてシンプルに税額が決まるという考え方をとっている州もあります。そして、歳出予定額とのリンクで毎年税率を変えるという地方自治そのものを具現化しているというのがほとんどです。 その中にあって、いまここで議論されておりますあるべき負担水準という極めて難しいテーマに関しまして一つご紹介したい事例があります。それはアメリカのクラシフィケーションというシステムであります。クラシフィケーションというのは舌をかむような用語ですが、クラス分けをするということです。ですから日本語にダイレクトにもし翻訳すれば、例えば資産区分とか資産によって分類すると考えていただきたいのです。このクラシフィケーションを法律で持っている州がいくつかあります。例えばニューヨークだとか、マサチューセッツ州だとかはこのクラシフィケーション法という法が州法で決まっております。 何のために資産を分類するかと言うと、一言で言えば、その資産間で税率を違える、違う税率を採用してもよいということを実行するためにまず分類する、という法律であります。ですから、目的は資産間で税率を変えることです。トータルで必要な税額というのが毎年算出されるわけですが、それを全部の資産に一律に負担させるのではなくて、例えば住宅にとっては軽く負担させましょう、残りをオフィス用に重く負担させましょうというような政治的判断がそこに働くことができるわけです。そういったものが、一言で言うとクラシフィケーション法というものです。 例えば、マサチューセッツ州の中でも大きな市はボストン市なのですが、そこでは居住用の住宅とそれ以外の資産、それ以外の資産と言うのは事業用資産であるとか工場用資産、動産というように分かれています。税率を居住用資産に対してうんと低く、負担を甘くつけると。ちなみに、1995年の段階ではパーセントだけで言えば、居住用資産が1.38%なので、日本と奇しくもほとんど同じです。約1.4%。軽くした分、事業用資産の方に重く課しておりまして、4.266ですから4.3%。約3%近くも差をつけています。ボストン市役所はこれを非常に得意がっております。財産税を納税者に知らせるようないろいろなパンフレットを多く作っているわけですが、その中でも大きく取り上げて、こんなに減税になっていますよ、一般的な居住用資産に対してはこれだけ減税になっていますよ、平均で402ドル減税ですよということを大きくうたっているわけです。 こういうことができるのも資産間で負担を変えていいという思想があって、それを州の法律でついに勝ち取って実行に移しているというのも何か一つヒントになるのではないでしょうか。 片桐 どうもありがとうございました。 福井先生の話で、居住用財産が1.38%、事業用が4.26。マーケット・バリューを基準にして課するとすれば日本の例に比べれば大変に高いということになります。日本の場合には実行税率が土地で0.3%程度と言われています。 私も勉強したことがありますが、日本の土地の価格はアメリカの土地の価格の10倍から100倍しています。ですから、10倍から100倍もする土地の価格に同じパーセントで、3%とか1%とかというのを取ったら、これはとてもじゃないけれど負担できないという状況になるのだろうと思います。ですから、負担の率を考える場合に国際的な土地の価格の比較もいっしょに考えて議論しないと、日本は土地の保有課税が非常に安いと議論する人がいますが、必ずしもそう言えないのではないかという感じがいたします。 この負担水準を考える場合に、先ほど金子先生からも基調講演で問題提起がありました。地方公共団体の間で不公平、ばらばらになっては問題があるのではないか。交付税の問題とか、基準財政収入をどう算定するかとか、また、起債の問題とか、そういういろいろな問題に絡んでくるわけです。そのへんのことにつきまして現実にいろいろ問題を抱えておられる片山さんからお話をお願いしたいと思います。 片山 当面の問題になっておりました宅地だけに限って、特に非住宅用地、これは商業地と今年から呼ぶようにしましたが、に限ってお話をしますと、過去の経緯と最近の平成9年の評価替えまでの地価の下落の相関関係によりまして、評価額に対する課税標準の割合にはものすごく大きなばらつきがあります。評価額と課税標準との割合は市町村間、地域間によってもばらつきがありますし、同じ市町村の中でもばらつきがあります。これには私は二つの意味で大きな問題があると思っております。 一つは、これはもう単純なことで、納税者にとって大きな不公平が存在する。例えば同じ評価額でありながら、負担の割合が違うとすると、それは不公平であります。 もう一つは、先ほど片桐さんからもお話がありましたが、税と交付税との関係を大雑把に言いますと、税収の多いところには交付税は少ないか、ないしは交付されないケースもあります。税収の少ないところには交付税は多くいくという相関関係になっていますので、負担水準の低いところは総じて言えば、交付税がたくさんきている。負担水準の高いところは交付税が少なくしかきていないという関係になるわけです。そうすると、納税者間の不公平だけではなくて市町村財政における不公平も現実にあるわけです。 そこで、両方の意味でこの不公平は解消しなければいけない。これが負担水準の均衡化を目指した最大の理由です。当面は、上は評価額の8割まで下げ、低いものは順次上げていくということで歩み出したわけです。平成10年、11年ではとうていまだ解消できませんので、平成12年のときにどこまで解消できるかが最大の課題となります。その際には、いったいどこにあるべき負担水準を求めて収斂させようとするのかということが一つの問題です。それから、それが決まった段階で、どのくらいのピッチで、何年間かけてそこに収斂させるのかという問題もあります。これらをいまは研究、勉強しているところです。 その際に、もう一つ考えておかなければいけないのは、加藤さんからも先ほど話があったのですが、一定の水準、例えば評価額の何割というようにあるべき負担水準を決めた場合に、それでは今後地価の変動があったときにそれに連動していくタイプにするのか。そうすれば地価の変動に応じて固定資産税収入も比例的に連動していくということになります。そうではなくて、市町村の税収のかなり部分を占める固定資産税を安定型にすべきだという意見ももちろんあるわけです。その際には地価が変動しても税収が安定するような何か別の仕組みがビルトインされなければならない。これをどちらの方向で考えていくのかということも大きな問題です。そんなことも含めていま一生懸命勉強しているところです。 片桐 金子先生、いまの負担水準の問題について。 金子 たしかに負担水準が同じ市町村の中でもばらばらであり、また市町村相互間でもばらばらであるという問題があるわけであります。それをどこかに収斂させていくことになると思います。その場合には現在の、9年度から採用されている負担調整措置のもとでなるべく一定の幅に収斂させていく。そして、場合によっては一定の幅に収斂させたら、またさらに絞りをかけていくというような必要が出てくるのかもしれません。れそによって公平が維持されるということになっていくのではないかと思います。 その場合に地価が安定しているということが実は大変重要なことでありまして、さっきお話があったように、もし万一地価が上がればまた負担調整措置を長期的に使っていかなければならないということになってくるわけです。しかも、負担調整率の割合を低くするとか、そういうことも必要になって収斂の帯を下に下げるという必要が出てくるということもありますので、地価が安定していることが大変重要なことだと思います。 他方では、税率を永久に不変だとは考えないで、例えば負担調整措置である程度どこかに収斂した段階で今度は税制を一元化して、税率の方で調整を図っていくということにした場合に、税率は長期的に不変であると考えるよりはときどきの景気変動とか地価の動向などに応じて動かすという考慮も恐らく将来は必要になってくるのではないか。それによって負担の急激な増減を避ける、しかも市町村の税収の安定性をはかるといった意味では税率を動かすということも必要な措置になってくるかもしれないという感じがいたします。 片桐 どうもありがとうございました。 税率のあり方 片桐 今度は税率の話になってまいったわけでございます。日本では標準税率が1.4%、制限税率は2.1%。標準税率よりも高い税率を決めている地方自治体も少数ではありますがあるわけです。ただ、標準税率以下の税率は一切採用していないというのが日本の実態だと思います。この税率の決め方についてもっと弾力的にすべきではないかという話が出ているわけです。諸外国、特にアメリカなどではどういう税率の決め方になっているのだろうかということにつきまして福井先生から紹介していただきたいと思います。 福井 アメリカの場合はそもそもが独立戦争を経て自分たちの成立ちがあるというのを背景にしているせいかもしれませんが、日本でいう固定資産税、アメリカでは財産税を自分たちの地方税制の根幹に置いているというのがベースとしての前提条件であります。ですから、数字で言うと、アメリカの多くの自治体で財産税の地方税収に占める割合は平均すれば75%ぐらいです。ですから、非常にシェアが大きい。それだけ財産税に地方サービスが大きく影響され、重要性があるわけです。州によって、特に東海岸系だと8割から9割というようにシェアがさらに大きくなります。もっと低い市町村もありますが、平均して75%。 これだけ地方税収の中に財産税が占めるシェアが大きいものですから、その取り方も住民からのチェック、監視ができやすい、住民が決めると言ってもいいくらいの、行政サービスとのリンクができあがっております。やり方としてはこうであります。まず、その年度に必要な歳出の予定額をそれぞれ必要と思っているところから出してもらって積み上げて、その年度の歳出予定額、つまり歳入予定額と同じなのですが、の必要な予算を立てるわけです。それはひとまず置いておいて、それとは別個にその地方団体の中に存在する資産を全部評価して、全部の資産評価額をトータルで出します。その両者の関係でどれだけ負担させるかを、割り算すればすぐ出るわけですから、出します。それが税率です。ですから、両方ともが動くわけですから、当然税率は毎年変わります。税率とは変わるものなのです。 例えば、先ほどご紹介したボストン市でも、優遇されている住宅だけに絞って言いましても、パーセントでいくと95年は1.38でしたが、さかのぼっていきますと、1.40、1.30、1.1、91年0.8%、90年も0.8%、89年は0.7%。ですから、近年になるにしたがって少しずつ負担増になったということになります。これは、資産評価額の方も動いているわけですから、もしボストン市が非常に景気がよくて資産自体が順調に拡大していればこれは増税ですし、もし日本のように全然停滞していれば率は上がっても税額は同じかもしれませんし、もしかしたら減るという場合だってあるわけです。 ですから、そのあたりはあくまでも税率だけ見るとか、評価額だけで見るのではなくて、一番重要なのは歳出予定額であります。もう一回言い換えれば、その町がどんなサービスをその住民にしようとしているかということと税収はリンクしているということです。このポイントが重要なことであります。サービスに比べて税額負担が大きければそこに住民からのクレームが出るわけです。翌年からもう、反対とか賛成とか議論が巻き起こります。ですからリンクさえしていれば、住民が納税に関して無関心ではなくて、センシティブと言いましょうか、自分たちの払っているお金がどういうふうに使われているかということに非常に関心が高くなる。関心というのは一番低いレベルでしょうが、監視までいくわけです。 納税者に対してのいろいろな財産税のパンフレットをつくっていると最初に申し上げました。ちなみに、その中には、財産税がこう使われていますと。去年こういうふうに使いましたという使い道に対してもはっきり書かれています。警察関係にこれだけ使いました。教育部門にこれだけ使いました。福利厚生に関してはこれだけ使いましたというのが数字できっちりと、何ドルの、日本で言えば何円の、単位まで出ているという具合いであります。それほどリンクが強い。ですから税率が固定的でないというのもこれでうなずかれると思います。 片桐 どうもありがとうございました。 アメリカでは実際の財政需要から逆算して税率を決めるという、地方自治体の需要に応じて極めて弾力的に決めているという話がありました。日本でも都市計画税については目的税ということで、制限税率0.3%、実態としては、うちの自治体はそれほど取る必要がないと、0.2%という自治体もかなりあるわけです。その点は財政の需要に応じて弾力的に決めている実例ではないかという感じがいたします。 ただ、固定資産税の場合は交付税の問題とかと関連してそう簡単に弾力的に、自主的に決めさせるわけにはいかないのではないかという議論もあります。先ほど、金子先生の基調講演では一定の幅、例えば1%から2%の間で自主的に決めると。交付税の方はそのまん中より少し上のぐらいのところで基準財政収入は算定すると。また、地方債の起債の許可については下限税率を上回っていれば許可すると。こういうことも考えられるのではないかというかなり具体的な提案もあったわけでございます。そのへんのことにつきまして片山課長の方からお話をお願いしたいと思います。 片山 いささかいまの私の仕事の立場を離れて個人的な見解も含めて話をさせていただければありがたいと思います。 税率の問題は、いまここで出たのは二つの点があったと思います。一つは、先ほど福井さんからアメリカの紹介がありましたクラシフィケーションの話。もう一つは市町村ごとにいまの1.4%という標準税率ではなくて税率が違ってもいいのではないかという問題提起で、この点はアメリカのプロパティ・タックスを例にとって紹介がありました。 前者の方の税率によるクラシフィケーションは日本では現行制度上ありません。ありませんが、実際の税制の中を見ると、例えば、小規模住宅用地は課税標準を1/6にしているとか、一般住宅用地は1/3にしているとか、産業用の償却資産などについては課税標準の特例措置があるとか、さらにはこれは私の口から言っていいのかどうかわかりませんが、例えば、農地、山林については評価をかなり低くしているとかで、事実上クラシフィケーションと同じような経済効果を生むような仕組みが、いまのわが国の固定資産税制の中にはあるのだろうと思います。たしかに、税率は一定税率で非常にきれいにそろっていますが、中身を見ると資産なり用途なりによって税負担が異なるような仕掛けがしてあるということだろうと思います。これは税率で明確に区別するのか、それとも課税標準の特例などで案配するのかの手法の違いかなと思います。 後者の方の市町村ごとに行政サービスの水準とか行政の需要によって税率が違ってもよいのではないかという問題が別途あります。これは、これからの地方分権の中で課税自主権をどのように具現していくのかという問題と大いにかかわる問題です。実は地方税法上は固定資産税の税率は自由です。正確にいいますと固定資産税の場合は制限税率が標準税率の5割増しの2.1%と設定されていますが、下限は地方税法では実は規定されていません。ですから、極端なことを言うと、ゼロに近い税率でも採用は可能なわけです。一方、地方財政法という法律がありまして、その中の規定で、例えば固定資産税とか住民税などの基幹税目については標準税率を下回った税率を採用した場合には起債の発行権能がなくなるという規定があります。これは許可するとかしないとかの問題ではなくて、そもそも発行の権限が法律上なくなるという規定です。したがって、このこともあってか現実には固定資産税も住民税も標準税率をわずかなりとも下回って採用している団体は一団体もありません。これが現実です。 今後の地方分権の中で、このことをどういうふうに考えるのか。例えば、その規定をなくした場合には、選挙の際に首長が「私はもう税金を下げます。」と言うような減税競争になる恐れがあるという心配があります。したがって、その規定をゆるめるべきではないという意見もあります。しかし、例えば政策選択の問題として、うちの市はごみを今まで週に4回収集していたがこれを3回にできないだろうか、行政の減量ができないだろうかということがあります。その際その代わりに、例えば固定資産税が1.4%だったのを1.39にするということではどうだろう、というような選択はいまは事実上できません。それぐらいの選択はできてもいいのではないかと私は個人的には思っています。そこで、これからの地方分権の流れの中で、固定資産税の税率を例えば1.4%を1.39%にするという政策選択もできないような極めてリジッドなところがあるとすれば、それを少し緩和して、ある程度幅を持った政策選択ができるようにしたらどうかと、私は個人的に思っております。これが地方分権の流れの中でどうなるのか。これは税の世界だけでは律し切れない問題がありますので、私どもだけで決めることはできませんが、これからはある程度多様な政策選択ができるような、歳入と歳出を多少リンクづけて議論できるような機会が必要なのではないだろうかと思っております。 ただ、日本の現状を見ていますと、先ほど片桐さんからお話がありました都市計画税というのはまさに税率を0.3%の制限税率の範囲内で自由に設定できる税として仕組まれているのでありますが、現状を見ると制度の狙いどおりにはなかなか運用されていないような気がしてなりません。と言いますのは、本来都市計画税というのは都市計画事業に当てる税でありますから、都市計画事業が増えれば税率が上がる、減れば下がる。都市計画事業が今年なければ税は取らない。これが一番理想的な姿であります。アメリカのプロパティー・タックスのまさに都市計画事業版なわけです。 ところが、皆さんの中で市町村の方がおられたらわかると思うのですが、実際にはそのような機動的で柔軟な都市計画税の運営を多分されていないだろうと思います。一たん決めたらずっとその税率を続ける。一たん下げたらなかなか上げられないから下げたくないとかいうところが多いのではないかと思います。議会の方でも議員さんたちが、自分たちが税率を決めるのだという意識があまりなくて、ひどいところは私の方に都市計画税が高過ぎるから下げてくれという陳情をされたところもあるくらいです。分権の時代を迎えた今日、これから議会も含めた意識の改革が必要になってくるのではないかと思っている今日このごろです。 片桐 どうもありがとうございました。 個人的な見解ということで非常に率直な意見を出していただきました。現場で担当しておられます加藤さんは何か税率の問題について。 加藤 実は平成9年度の評価替えで家屋は資材価格等の下落でだいぶ下がりまして、横浜市で固定資産税が約90億円減収になりました。90億円減ったからごみの収集を、私どもはいま週3回やっておりますが、2回にするというわけにはいかないわけです。 税収が減ったから行政サービスを簡単に切り下げるという状況にはまったくないわけです。地方分権や地方自治の本旨ということを考えますと、先程のお話にもございましたが、そういうときには税率でそういう穴埋めを、評価が下がってそれがストレートに税収に反映するのではなくて、税率を少し上げてほぼ前年並の税収を確保するということもこれからは当然考えていく必要があるのではないのかと思います。 もう一つ。日本の固定資産税を考えますと土地と家屋と償却資産がございますが、家屋と償却資産はあまり問題がないわけです。地価が戦後急騰してその地価をベースとした評価額、それを本来は課税標準とすべき現在の仕組みが追いついていかないという状況で、課税標準が評価より相当低い水準に固定せざるを得なかったという現状があるわけでございます。これは三つの資産をすべて同率の税率でという制度になっていますからなかなか弾力的な運用が図れなかったのかと思います。 アメリカの実例を先ほどお話していただきましたが、これからは資産によって、例えば土地と家屋の税率を変えることも当然視野に入れていくべきかと思います。そうすればもっと評価と課税標準額の関係を簡単に、明瞭に整理することができるのではないかと思います。現行の制度は長い歴史がありますので、簡単にはいきませんが、近い将来においてそういう方向で税率について考えていくことができれば、私ども実務の担当者としてもありがたいと思います。 片桐 どうもありがとうございました。 税率のあり方については、先ほど金子先生からかなり具体的な、地方団体の課税自主権を尊重しながら交付税や起債措置との調整をというお答えがありました。そのへんのことにつきまして金子先生の方からお話を伺いたいと思います。 金子 私は課税自主権、自主財政主義は地方自治の一つの重要な要素であると思っているわけであります。地方分権の推進ということと課税自主権の尊重ということは裏腹の関係にあると思っています。そういう観点から、いま福井さんのおっしゃったことに大変興味を持って伺っていました。 できるだけ課税自主権を尊重するという方向を将来とっていく必要があると思います。その場合に自治意識が成熟していくということがやはり何よりも必要ではないか。課税自主権が尊重された途端に税負担が下がって、すべき行政サービスもできなくなってしまうという事態が起これば、それは地方自治の推進にとって大変にマイナスなことでございます。税率を自主的に決めるということと、住民の自治意識の成熟とは相互に関連しあいながら発展していかなければならない。そして、課税自主権が認められるということは、つまり地方自治が本物になったということの証でもあるということではないかと思います。そういう意味で、課税自主権と住民の自治意識の前進は裏腹の関係にあるものではないかと思いますし、そういう方向にいって欲しいと思っています。 問題は、先ほどからご指摘のある地方交付税、起債の制限との関係をどう考えるかということであります。私は先日来いろいろ考えておりますが、先ほど基調講演でお話した一つの試案、いま片桐座長がリファーしてくださった試案であります。これは知恵を絞ってもその程度のことしか出てこないものですから、一つの考え方として述べさせていただいたわけですが、そういうことなども一つの考え方として将来検討していただければありがたいと個人的には思っています。 先ほどクラシフィケーションの話が福井さんからありました。片山さんから、日本でも実際にはクラシフィケーションに相当する制度があるということを言われました。私も住宅用の土地、居住用の土地については200平米までは評価額の1/6、それを超える部分については1/3というのは実質は1/6なり1/3なりの税率をもともとの課税標準に適用するのと同じようなことなのではないか、実態は同じことなのではないかと思います。クラシフィケーションの芽は現在の制度の中にもあるのではないかという感じがしながら、話を伺っていたということだけ付け加えさせていただきたいと思います。 片桐 どうもありがとうございました。 税率を地方自治体が自主的に決めるという問題は根本的な問題として日本の地方自治体の自治制度の成熟、民主主義の成熟という問題が根底にあるのではなかろうかという感じをつくづく持ったしだいでございます。 納税者の理解と協力を得るために 片桐 それでは少し議論を進めまして、この固定資産税についての納税者の理解と協力をうるために今後どのような努力を我々はすべきなのであろうかということについて議論を進めたいと思います。 納税者への情報公開、透明性の確保 片桐 納税者への情報公開とか透明性の確保とかはいろいろ努力しているわけでございますが、今後どういう点に努力していかなくてはいけないかということについて議論してみたいと思います。まず、そういう情報公開とか透明性ということに極めて進んでいるアメリカでは行政から住民へのどういう説明が行われているかということにつきまして福井先生からお話をお願いしたいと思います。 福井 まず、どうやって資産をどう評価して、どういう評価額を出したのかという、評価手法だとか評価の実務に自信があれば何も隠さず全部出してよいと、精緻化すればするほど情報を隠す必要はなくて自信を持って出せる、これが基本なのでしょうが、その基本がまずあるとお考えいただいて、しかもその上に情報をどの程度まで出しているのかの話です。 閲覧できるフロアに行きますと、だれでも見ることができる。それは路線価というようなレベルではなくてそれぞれの、資産ごとの、一件一件の価格が全部見られる。コンピューターがあって住所を入れればパパッと評価額が出るし、所有者も出ます。そこには我々が心配するプライバシーというようなもの、プライバシーの侵害ではないかということとは全然別の世界が存在しております。名前を入れても出る、住所を入れても出る、あてずっぽうで名前を登録して、もしその人が住んでいればそれも出る。 縦覧できるフロアに行かなくても、ほとんどの州がコンピューター化が進んでいますので、家にいてコンピューターでアクセスしても同じ情報が得られる。ですから、海外の日本にいて、日本からホームページにアクセスしても評価額をそのまま見られる市町村も少なくない。それほど情報が公開されているということ。そこまで進んでいるのだということをまずご認識いただきたいと思います。 そのあとに、もう一つ。そのペアとして必ず出てきますのが不服の審査の申し出に関しての手続きです。これも納税の通知の中に事細かに、これに不満であれば、こうして、こうして、こうしてくださいと。まずここに来てください。用紙はここにあります。電話番号はこれです。それは何十日以内に来てください。それを過ぎると効力はありません。まずは評価担当官のところに来て、そこで相談したり疑問を解決してもらったりして、どうしても疑問が解けないとか、やっぱり減額して欲しいという場合には用紙に書き込んだらそれをそのまま役所が受理しまして、それを審査委員会に必ずかけられるようなシステムになっていますなどということが書かれています。 その後のことも事細かに書いてあります。次はこういうプロセスになっています。それでも不服だったら、次はこういうふうになります。そういうことが丁寧にわかりやすく書かれています。ちなみに、ボントン市でしたら、あそこは都市としても大きいですし、一流の観光都市でいろんな国出身の方々が住まわれているのでしょう、これは何について書かれたものであるのかということが5カ国語ぐらいの呼びかけの言葉が表紙についていたりします。それぐらい配慮も細やかです。特に、納税者がどういうことを言ってきやすいのかということを過去の経験に照らし合わせまして、非常に多いトピックに関しましては毎回個別に説明をするよりはパンフレットをきっちりつくっておいて、それさえ見れば、なるほどとわかっていただけるように、メジャーなケースについての特化したパンフレットなどもつくっています。 また、あちらはいろいろな減免措置があります。それぞれの人用の、こういう人にはこういう減税の措置がありますよという個別のパンフレットもあります。一言で言うと、懇切丁寧。問い合わせが日常茶飯事で、特殊なことではない。それはもう当たり前なんだと。住民が関心を持って、少しでも疑問があればどうぞ、welcome と。来てください、いくらでも説明します。日本のように不服を申し出るとか、審査請求するということを特殊と考えるのではなくて、評価の一連の流れ、納税の流れの中にきっちり不服申し出の申請手続きを位置づけてやっているというのがそのことでうかがえると思います。ですから、件数もたしかに多いです。 しかし、カナダのオンタリオ州などは日本の少し前と同じで、ずいぶん低く、課税のための評価業務を市町村のオプション制とし、再評価したければしてもいい、しなければしないままでいいということでしたので、長年に渡りまして、日本の一時期と同じようにずいぶん低く抑えられてきました。それがもう許容できない範囲になってしまったので、今回はしっかり市場ベースでいくのだと。そのための再評価を義務づけるというふうに今度大きくシステムが変わるわけです。おもしろいのは、今回大急ぎで改革するので、きっと評価エラーも出る。何かミスも出るし、不服申請もたくさん出るかもしれないが、それは評価を適正化するための一つの手段であると。どんどんアピールをもらって、どんどん修正していけばいいのだというようなトーンです。評価は適正にしよう、不服申立てはそのための必要な手続きである、そういう思想がうかがえると思います。 片桐 どうもありがとうございました。 いまの福井先生のお話を聞いていると、日本でもいろいろ努力はしているわけですが、日本の透明性、公開性と比べると格段の差があるなあという感じを受けました。 私の個人的な経験でも、借地料、地代を地主が値上げを要求してきたので、地主さんはどのくらいの固定資産税を納めているのか、どれくらい固定資産税が上がったのかというのをぜひ調べたいと思って、市役所に行きました。市役所は他人の税額は一切公開できませんということで断わられるというのが日本の実態ではなかろうかと思います。ずいぶん違うものだということを感じたしだいでございます。 日本でもできるだけいろいろ努力しているということだと思いますが、そのへんのことについて片山さんからお願いいたします。 片山 納税者の理解と協力をうるという命題は、私どもも一番大きな課題だと思って取り組んでおります。それをいくつかご紹介したいと思います。まず、情報公開の面で言いますと、従来からわが国の場合には情報公開をするときに、片方では個人のプライバシーの保護との関係をどう考えるのかという、比較考量の問題になるわけです。 例えば、固定資産税には課税台帳の縦覧制度があります。これも縦覧ということにはなっていますが、実際には個別の、当該納税者の資産の箇所しか見せていません。したがって納税者は他人の資産と比較することができない取り扱いになっております。これは行政上の取り扱いだけではなく、最高裁判所もその取り扱いを是としています。今までは、わが国の場合には情報公開という要請よりも個人のプライバシーの保護という要請の方をより重視してきたということだろうと思います。 そこで、しかし、それならば自分の課税される資産が他と比べてどういう関係にあるのか、高いのか安いのかというのはほかのところと比べてみないとわからないではないかという納税者の要請が当然あります。そこで、便法として数年前からいわゆる路線価の公開を積極的にやってまいりました。これは個別の、それぞれの宅地の評価額ではありませんが、一筆ごとの宅地が面しております道路の路線価を一般公開するということにしております。順次公開度を高めてきまして、平成9年度には、ほぼほとんどの路線価が公開されたと思います。こうなりますと、自分の土地がどういう評価をされているのかというのを他人の土地とそれぞれ個別に比べてみることはできませんが、路線ごとの評価ができますから、だいたい裏通りに比べるとこんなものか、表通りに比べるとこんなものかという相場がわかりますので、公開度はかなり高まってきているのだろうと思います。しかし、個別の宅地ごとがどうなっているのかということはまだわかりませんし、家屋については比較のしようがないという問題点がまだあります。 話は飛びますが、先ほど福井さんからアメリカの先進事例ということでご紹介がありました。隣の韓国に行ってみますと、韓国でも地価公示制度がございます。その地価公示に基づいて、これは宅地だけではなくて農地、山林も含みますが、すべての土地について一筆ごとに地価公示、これを個別公示地価と言っています、が設定されています。日本とは違って、それはすべて一般公開されています。ですから、韓国の場合には固定資産税の課税の基礎となる評価額、すなわち個別公示地価でありますが、すべて一般に公開されていますから、韓国でも公開度は100パーセントになっています。日本の場合はそれらに比べると公開度は低いということであります。 これをどう考えるのか。現在の縦覧の運用が決まったのはかなり昔です。そのころから今日までの社会、国民の意識の変化をどうとらえるのか、プライバシーを保護するという要請と、公開度を高めるという要請とのバランスがこの間に変わっていないかどうか、実はいまそんなことを研究しております。少し勉強して、なるべく公開度を高めるようにしたいと個人的には思っているところです。 また、不服申立ての問題は、これも先ほど福井さんから気楽に評価をする一つの要素としてクレームが織り込まれていて、称揚するまではいかないかもしれませんが、どんどん出してくださいとオープンにしているというご紹介がありました。一方日本の場合には、クレームは今まで市町村の窓口では敬遠される傾向にあったのではないかと思います。私もいろいろなところから聞きますと、例えば、不服申し立てをしようとしたらみんなでよってたかってしないように説得をした例があるとか、思い切って不服申し立てをしたら、例えば、その町の有力な人から電話がかかってきて、つまらないことはやめろと言われたとか、言われないとか、そんな話は多分うそだろうと思いますが、でも聞いたことがあります。 しかし、本来固定資産税の不服申立ては固定資産評価を円滑にかつあまりコストをかけないで行う制度に不可欠なものだと私は思っています。と言いますのも、土地でいま1億7000万筆ほどあります。家屋で6000万棟あります。償却資産は申告ですから関係ないとして、課税の単位としては2300万ユニットもあるわけです。短期間でこのように大量のものを評価するわけですから、どうしても間違いはありうると思います。全部完璧にやるということは人間のやることでは無理です。そうすると、役所も一生懸命やりますが、納税者の目で見てもらって間違っていると思ったら気楽に声をかけてもらうようにした方がよい。それが本来の不服申立て制度ではないかと私は思っています。 それを、本来役所がやったことは100点満点で、間違いはあり得ないというような姿勢で臨むとなかなか納税者の方も不満が出しにくくなる。したがって、その不満が別のところで溜まってしまうことがあるのではないかと思います。これからは、私も不服申し立てを推奨したり、称揚したりはいたしませんが、窓口の方ももっと気楽な立場で、気楽な気持ちで受け付ける。間違いがあればすぐに直す。間違っていなければ毅然として断わるという姿勢が必要ではないかと思います。 納税者の方もいまは少し不服申立てをしようとするときはどうしてもきりっと目をつり上げて、鉢巻きこそ締めていませんが、心の中にはゼッケンと鉢巻きをつけて臨むということになりがちです。そんなことはやめて、少し気楽に、間違っているんではないですか、というぐらいの気持ちで出す。それを淡々と事務的に処理していくという姿勢がこれから固定資産税には必要ではないだろうかと思います。その方が私は固定資産税の評価を円滑に処理する上ではきっと安上がりではないだろうかと思っております。 その手始めとして、昭和25年に制度ができてからあまり光を当てていなかったものですから、審査委員会を平成9年度の改正から少し改革しまして、運用が中立的になるようにしてください、市町村のOBばかりいたり、事務局が課税課にあって中立的に審査するには外から見るとちょっとどうかなと思うところがあったものですから、なるべく中立的な事務局になるようにしてくだいさいとか、件数がたくさん出てきたら委員の定数が増やせるようにするとか、弾力的な運用ができるようにしました。そのようなことを通じて少し審査委員会の改革、審査制度が柔軟になるようにしているところです。 情報公開に戻って申しますと、課税明細書を従前はつけていなくて、税額だけがわかるような納税通知でした。それを少し丁寧に、どこそこの土地で何平米で評価額はいくらで税額はいくらということを、当然のことだと思いますが、通知することをきちんと励行してくださいと従来からお願いしていたのですが、なかなかはかばかしくなかったのですが、平成9年度におかげさまでほとんど、93%か94%の市町村で実施していただくようになりました。これも納税者に対する公開、アカウンタビリティーの向上という面では大きな成果があったと思います。 いま一生懸命取り組んでおりますのは、目的税の都市計画税の使途をきちっと明確にしてくださいということです。どんぶり勘定で固定資産税と同じように使ってしまうということのないように。あくまでも目的税でありますから、充当対象事業にちゃんと使われているかどうか、余っているようなことがないかどうかをきっちり把握して、議会にも納税者にも明示してくださいとお願いしております。こっちの方はまだなかなかはかばかしく進んでおりませんが、これも根気よく市町村にお願いしたいと思っております。 そういうことで、公開度を高め、クレームを決して避けることなく、むしろクレームを受け入れて評価が円滑にいくように、いまそんなことをお願いしているところです。 片桐 どうもありがとうございました。 公開、透明性を高めていけば市町村の担当者は非常に大変になるという話もあるかと思います。現場でこの問題に対応しておられる加藤さんの方から意見お願いしたいと思います。 加藤 私どもは課税明細書は平成元年に発行いたしました。それまでは何筆、何棟持っていても税額一本ということでした。これは納税者の皆さんに対して非常に不親切であろうということで、昭和50年代の後半から、明細書をつけることについて検討を始めました。当初はいろいろ心配がございました。全部登記簿どおりに課税台帳が完備されているかどうか懸念もありました。実施する前に、登記簿との全筆、全棟の照合を行い、平成元年に初めて踏み切ったわけでございます。 しかし、誤りは出てまいりました。土地が約120万筆ありますし、家屋も約74万棟あります。非常に膨大な量で中には未登記や非住宅から住宅への申告漏れ等もあったのかもしれません。しかし、課税明細をお送りすることによって納税者の方もそれをチェックされて、これはもう5年前に壊した家屋だとか、あるいは住宅用地として利用しているが非住宅とされている等の事実が判明しました。それはもっと以前に適正化すべきであったものが発見されずに後で出てきたということであり、課税明細を発行しなければ、誤りを是正できなかった可能性もあったと思っているところでございます。 固定資産税は賦課課税とは言いながら、所有者の方々が住宅から非住宅に用途を変えるとか、あるいは登記をしないとか、登記してあった家屋をそのまま滅失させるとか、行政側で100パーセントの情報を仕入れることは非常に難しいことでございます。なんとかそれをそういうことのないようにする道はないかということで当時考えまして、納税通知書に返信用の封筒を同封いたしました。料金はもちろん市が負担するわけでございます。例えば、今年あなたは家屋の取壊しの予定がありますかとか、あるいは新築ないしは増築の予定がありますかと。その他住宅から非住宅に変える予定があるのかとか。そういう情報をお持ちの方はぜひ返信用の封筒に書いて送ってくださいということも元年からあわせて取り組んでおります。 固定資産税の制度は行政側がいくら100パーセントの努力をしても誤りを100パーセントなくすわけにはまいりません。納税者の方々の協力も不可欠でございます。そういう納税者サイド、課税サイドの双方向のコミュニケーションが不可欠なものだと思います。これからもできるだけそういう方向で制度を大切に、100パーセント正確に適切に運用していきたいと思っております。 横浜市では、平成9年度に審査の申し出が土地、家屋あわせて約100人の方からございました。納税者が約94万人おりますので、100人というのは非常に少ない数字だと思います。不服の申し出に来られた方はその数倍いるのですが、説明の過程で納得されて出されなかったとかいうことで、最終的には100人になりました。納税者の方には固定資産税についてもっと関心を持っていただいて、自分の土地がどのように評価されているのかということを納得された上で税をお支払いいただくことが大事かと思います。 固定資産評価審査委員会の委員は現在18人おります。これまで15人だったのですが、地方税法の改正により、今年から枠が増えましたので6月の議会で3人増やして18人にさせていただきました。六つの部会で精力的に委員会の開催をしていただいております。昭和40年代ぐらいまでは、そのころは15人だったのですが、たしかにOBが半分ぐらいおりました。あるいは町内会長さんとか議員さんのOBなどの名士の方が多かったのです。40年代後半、列島改造のあたりから地価が非常に急騰して徐々に専門家に就任していただくべきではないかということで、徐々に交代していただき、現在では18人のうちほとんど、95、6%ぐらいが専門家です。弁護士、不動産鑑定士、公認会計士、税理士、一級建築士等の方々で構成されております。 委員さんの審査も非常に熱心に行われています。やり方はいろいろあると思いますが、私どもは必ず現地調査を委員さんにもお願いして行っていただいて、非常に精緻にやっていただいております。口頭審理がある場合には申出者の方にどんどん意見を言っていただいております。審査委員会には納税者の立場に立った審査を私どももお願いしておりますし、委員さんも専門家で構成されておりますので、制度の趣旨に沿った運営に努めていただいております。 しかし、100件だからこのような細かなやり方ができるのですが、これが1000件、5000件となった場合には果たしてこういうことができるのかなと思います。東京都さんですとか大阪市さんのように非常に件数が多い状況ではとても細かな審査はできないと思いますし、ケースバイケースで適切なやり方を考えていかなければいけないかと思います。 片桐 どうもありがとうございました。 納税者への説得力のある制度 片桐 最後に、納税者への説得力のある制度、アカウンタビリティーのある固定資産税の制度をこれから構築していくためにはどんな努力をしなければいけないか。より簡潔で透明性の高い公平な制度ということだと思いますが、そのへんのことにつきましてそれぞれの先生から最後にご提言をいただきたいと思います。 最初に、金子先生からオーストラリアの印象なども含めましてそのへんのお話を伺いたいと思います。 金子 オーストラリアの地方税、レイトと向こうでは呼んでいますが、日本の固定資産税に当たるものですが、それを見る機会がありました。そのとき思ったいくつかのことがございます。一つは、税務担当の人々が納税者のことをクライアント、つまりお客さんと呼んでいるという点に非常に強い印象を受けました。これは、つまり納税者と同じ目線で、同じ平面で対話をする、コミュニケーションをするということなのではないかと思います。実際問題としてどうかというのはわかりませんが、恐らくそういう発想ではないかという印象を受けました。 もう一つは、先ほどから審査についてお話がありました。日本と違ってアングロサクソンのコモン・ロウの国であるということを強く感じました。これは、不服を申し立てるということについて納税者が別に違和感を持っていないし、税務行政庁の側でも不服を申し立てることに対してなにか特別視はしない。納税者相互間でも、日本ですと不服を申し立てるとか、審査を申し出るというと、恐らく、あの人は変わっている、と見られることが往々にしてあるのではないかと思います。オーストラリアでは恐らくそういう感覚はないのではないかと思いました。これはやっぱりロモン・ロウの国で、法律的にというと杓子定規になりますが、主張すべきは主張してもおかしくないんだという感覚が伝統的にあるせいではないかと思います。 他方、審査の段階では専門家、ロイヤー、日本流に言えば弁護士ですが、法律専門家が審査員になっているとか、会計士等の専門家がなっているという点が非常に印象的でした。加藤さんのお話を伺っていますと、日本でもその点はだんだんと変わってきていて、専門家、特に弁護士、税理士、不動産鑑定士というような名称に士のつく専門家になるべく委員になってもらうという傾向が出てきているということでありますが、これは非常にいいことではないかと思います。 今度の改正のことは先ほど片山さんからお話がありました。従来は、そこに住所のあってしかも納税義務のある人でなければ委員にはなれないということになっていたわけですが、そういう点も改善されました。ですから、昔はサラリーマンの奥さんはたしかなれなかったのではないかと思います。今ではなれるようになりました。そういうような点でずいぶん制度が変わってきている、また、実際も変わってきているということであります。そういうようなことで徐々に改善されていきつつあるのではないかと思います。 なによりもアカウンタビリティーという点から見ますと、制度がわかりやすいということが大変に必要なことだと思います。納税者の立場から見て公平に扱われているという感覚を持つということ、あるいは持てるということが非常に大切なことだと思います。そういう意味では、課税台帳の縦覧ということも本来の意味における縦覧が実現するようにと期待しております。 先ほどお話に出ていた使い道であります。使い道がどうなっているかということは今でもわかるようにはなっていると思うのですが、もう少しわかりやすく、どこかに、明細書にはいまは書いてあるのでしょうか。納税者のところにいく文章の中に固定資産税はこういうふうに使われて住民の福祉の向上に役立っているというようなことがわかりやすく書かれていれば、納税者の側でも固定資産税に対する親しみがわいてくるのではないかという感じがいたします。 アカウンタビリティーとはちょっと離れたことになったかもしれませんが。 片桐 福井先生の方からそれぞれ順番に一言ずつアカウンタビリティーについてのご意見を伺いたいと思います。 福井 アカウンタビリティーは日本語に訳すのは大変ですが、説得力がある、いつ、ぱっと書類を全部のぞかれてもいつでも説明できる。自信を持って、胸を張って、公明正大にやっていますよと、信頼してくださいねと、そういうことだと思います。そのときのキーワードは三つあるのではないかと思います。 先ほどから強調しております、評価そのものがやっぱり精緻なものでないとだめだと。もし評価そのものが鉛筆なめなめで、ちょっと心配なところが多くあれば、それはアカウンタビリティーからずっと離れるわけですから、まずは評価の適正化、評価が自信を持ってやれているかどうかが最初のベースです。 そのあとは、現代的な問題ですが、コストパフォーマンスも最近は考えないといけません。納税者に説明するときに、ただがむしゃらに、ものすごくコストをかけてやりさえすれば、それで正確でいいのかというと、そういうことではないと思います。バランスがとれていればいいわけです。 長崎県のハウステンボスみたいに、あれだけ過度に、本物以上の建物をつくる必要はないわけです。適正なコストパフォーマンスによる評価事務というのがあると思います。そのレベルを自分たちで捜し求めるのは重要なことだと思います。アメリカでもそのあたりは住民からも、ずいぶんと市町村財政が厳しくなる中で、その面がクローズアップされて、議論がまきおこっています。ですから、2番目はコストパフォーマンス。 これのコインの裏側、これのプラス面として、住民にわかりやすい、素人でもわかる、プロでなければわからないというブラックボッスク化するような評価事務ではなくて、どんな人でも、普通の知識の人でもわかる評価ではないといけないと思います。これがコストパフォーマンスと裏表になっていると思います。 そうなりますと、この三つのキーワードを一つにまとめますと、アメリカではすでに行われていますが、もちはもち屋という「外部化」であります。外部化も一つの道です。普通の市の職員の方々が一人前のプロになるまでには相当な時間がかかりますし、またジェネラリストを養成しようという今日的なニーズにも逆行するようなことであります。一職員をプロに仕上げるというよりは固定資産税の評価というものを専門家集団による外部化でコストも下げ、評価は適正に行われて、いつでも裁判に耐えるような内容にしていくとう方向も現実問題としてはあるのではないかと思います。 片桐 どうもありがとうございました。 片山さん。 片山 アカウンタビリティーをこれから固定資産税で高めていくことで私はいま二つのことを考えています。 一つは、制度をなるべくわかりやすくする。制度がわかりにくいと、どうしても必要以上に嫌われてしまうというのは平成6年以来固定資産税の関係者は身をもって体験したことです。いま直ちに、一朝一夕に簡単にはなりませんが、これをなるへく簡単にしていく、わかりやすくしていくという制度改革をこれから心がけていきたいと念じているところです。 本来、固定資産税というのは本則で見ると、適正な時価で評価をしてそれに税率を掛けるという、いたって簡単な税であるわけです。これが今日いろいろな事情で複雑怪奇になっています。そのことが納税者の理解に達しないで、嫌われてしまうという面がないわけではないと思います。納税者一人一人の方によくわかっていただけるような制度にすることを心がけていきたいと思っています。これは内容もそうでありますし、手続き面もそうであるだろうと思っております。 もう一つは、情報の公開度を高めていきたいと思っています。透明度を高めていきたい。情報の公開度合を高めるということは、当面は行政庁にとっては実は結構しんどいことです。先ほども加藤さんから話がありましたように、課税説明書をつけたときにはその結果としてこれまでの課税誤りがいくつが出てきます。そうすると、5年しか返さないのか、いやもっと返すのかとか、いろいろなトラブルが全国で発生したわけです。しかし、誤りはやはりなるべく早く正すにこしたことはないわけですから、公開度を高める、新しい公開をすることによって一時的にトラブルが発生しても、そこは恐れないで公開度を高めていくことが、当面はうっとうしいこともあるかもしれませんが、長い目で見たときには納税者の理解と協力をうる近道ではないかと私は思っております。特に固定資産税のように大量の課税対象を抱えて、大量の納税義務者の方とかかわる税であるだけに、そのことは特に強調しておいていいのではないかと思います。 その関連で言いますと、実は平成6年から固定資産税の宅地については地価公示に寄りかかった評価をしているわけです。現在、地価公示自身がどうなのかという問いかけもあります。きょう不動産鑑定士の方も大勢いらっしゃっておられると思いますが、今までは地価公示は所与のものとしてその7割だからいいではないかという対応が市町村ではしています。しかし、納税者にとってみれば、そもそも地価公示自身が高すぎるのではないかというクレームもあるわけです。ところが、現状では、いや地価公示は決まったものだからということになってしまいます。これでは、いわゆるアカウンタビリティーというのはそこでとだえてしまう。そうすると、地価公示が本当に正しいのかという推論から解きほぐしていくことに果たしてなるのかどうか、こういう問題もあるわけです。 実はいま、私どもは国土庁の方に地価公示の公開度を高めてもらいたいというお願いをしています。もっと言えば、できればこれだけ地価公示と租税制度がリンクしてきたわけですから、地価公示の中にクレームを処理する仕組みをビルトインしてもらえないか。要するに、地価公示の不服申立てのようなことを設けてもらえないかということも実はひそかにお願いしています。しかし、なかなかこれは進まないかなと予想しておりますが、近い将来はそういうこともしていかなければ、相続税についても固定資産税についても制度のアカウンタビリティーは維持できないのではないかと危惧しております。 そういうことで、できる限り公開度、透明度を高めていく必要があると考えているところであります。 片桐 どうもありがとうございました。 最後に加藤さん。 加藤 各先生方からお話がございましたので簡単にさせていただきます。片山さんからいまお話がありましたように、制度の明瞭性、透明性を高めることがまず第一に必要かと思います。 2点目は、私ども自治体サイドから見ると、税の制度が難しいことからできるだけPRに努めていかなければいけないということが言えるかと思います。例えば、各自治体で発行されている広報紙等で固定資産税の制度、税額計算の仕組み等を、あるいは税収全体の使途、税はこういうふうに使われていますということ等をPRして、市民の皆さんが税に対する理解を深めていただけるよう努力をしていく必要があると思います。 また、私どもは一般の新聞にときどき記者発表というかたちで来年の固定資産税はこうなりますというようなことを発表し、記事にしていただいております。市民の方は市の広報紙よりそちらの方をよく読まれますし、記事として掲載していただければ費用もかからず、よく読んでいただけるということで、新聞の活用も考えていく必要があると思います。 3点目に、先ほどコストパフォーマンスというお話がありましたので、付け加えさせていただきます。9年度の評価替えは人力と時間とお金をかけてだいぶ減収になりました。これは私ども財政に係わる立場からしますと非常に困ったものだなという感じでおります。評価が下がってダイレクトに税収にはね返り大幅な減収になると。これはやはりなにか考え直さなければいけない要素があるのかなと感じております。多分今年、土地の地価下落の修正を行った結果も、かなりの減収になるのかなと思っております。こういう問題は将来的に是正し、財政的に安定した固定資産税の制度にしていく必要があると思います。いずれにしても固定資産税の制度の住民の皆さんと市の当局とがお互いに理解しあった、双方向のコミュニケーションを持った制度として運営していくことが重要なことだと思います。 片桐 どうもありがとうございました。 パネラーの皆さん本当にありがとうございました。きょうは大変に率直な話を出していただきまして内容が非常に豊富だったのではなかろうかと思います。会場の皆さんも非常に長い時間大変熱心に聞いていただきまして本当にありがとうございました。きょうのパネルディスカッションをこれで終わりたいと思います。どうもありがとうございました。 |