評価センター資料閲覧室

第4回固定資産評価研究大会 基調講演

 「分権時代の地方税制」
−納税者から信頼されるために−

鳥取県知事 片山 善博


はじめに
 皆さんこんにちは。ただいまご紹介をいただきました、鳥取県知事の片山善博と申します。
 きょうのこの第4回目の研究大会に講師としてお招きをいただきまして、私は大変喜んでおります。先ほど税務局長さんからもご紹介いただきましたが、第1回目のこの研究大会を開催いたしましたときに、ちょうど自治省で固定資産税課長をやっておりまして、資産評価システム研究センターの皆さん、関係者の皆さん方と、こういう大会をぜひやりたいということで、アメリカにも視察の職員を派遣したりいたしまして開催にこぎ着けたわけでありまして、本当にこれが第4回まで続いて、このように多くの皆さん方に支えられているということを目の当たりにいたしまして、感慨深いものがございます。大変ありがとうございます。

1.鳥取県西部地震のことについて
 実は、私どもの鳥取県は10月6日にマグニチュード7.2、最大震度6強という地震に見舞われました。私も連日現場を訪ねまして被災の様子を見、そして避難生活をされている方々の現状を伺い、この応急対策、さらには復興に向けて今取り組んでいるところでございます。地震発生からちょうど1週間たちましたところで大体応急対策がとれて、これからは、本格的な復興、それから被災をされた県民の皆さんの生活の再建ということが課題になっております。本日は地震発生の日から、ちょうど10日目で、この大会への出席は、かねてお約束をしていたけれども、どうかなと思って自分自身心配をしておりましたが、タイミングとしては今政府の方に状況の報告と、それから支援をお願いをするという時期にもありますので、きのう夜上京してまいりまして、きょうは午前中、官邸から各省庁を走り回っておりました。今そんな状況であります。
 本論を始める前にちょっとお話をさせていただきますと、本当にびっくりいたしました。私も県庁におりまして、もうこれは県庁舎がつぶれるのではないかと思うほど揺れました。直ちに災害対策本部というものを設置をいたしまして、最近は非常に便利なものがありまして、ヘリコプターから映像が見れます。すぐにヘリコプターを飛ばしまして、ヘリコプターから送られてくる映像を県庁で見ながら、これからどうするかということを検討したわけですが、幸いに火災がないということがわかったものですから、これは神戸のときの震災とは違って、火災がないというのは大変幸運なことでありますので、それでまず一安心。そうこうしますと被害状況が刻々入ってまいりますが、死者が1人もいないという、これも後で聞きますと本当に偶然が何乗にも重なったような、奇跡とも思われるような、九死に一生を得た事例が本当にたくさんありまして、ありがたいことだと思っております。仮に死者がたくさん出ていたりいたしますと、私もきょうここにお邪魔することができなかったわけでありますが、本当にそれが不幸中の幸いでありました。
 それにつけても思いますのは、やはり日ごろの訓練でありまして、実はかねがね鳥取地方でも地震が起きるかもしれないということは予想しておりまして、もちろんこんなに早く来るとは思わなかったのですが、私も昨年就任しましてから防災組織を強化いたしまして、かなり充実をいたしまして、それからマニュアルとか防災計画とかを全部見直しをしようということで点検をいたしました。
 下から言われて防災訓練をするというありきたりのものではなくて、幹部みずからが何をすべきかということを逐一チェックをしようということで、私自身も中心になって地域防災計画やマニュアルの見直しをしましたら、全くこれが役に立たない。ことしの5月に防災訓練をやりましたら、現場では全然ワークしないということが判明しまして、それの見直しをやりました。
 それから7月の終わりには被害想定をして訓練をしまして、これは鳥取県西部でマグニチュード7.2、最大震度6強の地震があったという、恐ろしいほど今回とぴったり一致したのでありますが、そういう地震が発生したという前提で、県と、それから地元の米子市、自衛隊、消防局などと一緒になって訓練をしました。
 そのときにもすべてマニュアルを点検をいたしまして、その不備も見直したわけでありまして、今回はしたがって2カ月半ぐらい後に起こったものですから、幹部もみんなそのことがわかっていましたので、みずからが何をやるべきかというのはよく覚えておりまして、初動態勢は本当にスムーズにいきました。これはやはり訓練あったればこそで、何が言いたいかといいますと、研修であります。やはり固定資産税も研修、きちっと日ごろの研修をやっておくことが、固定資産税制をちゃんと守ることにつながると私は思います。何事も練習・訓練であるということを今回体験をいたしました。
 今、生活再建に向けて動きが始まりました。いろんな課題が役場、県庁に寄せられております。今一番苦労しているのが、実は皆様方の同僚でありまして、税制係の固定資産税の家屋を担当している人であります。全壊か半壊か、一部損壊か、これは実は後で大変大きな違いになってきます。家屋を1棟1棟見て、これは全壊か半壊かということを今現場でやっております。大変難しい問題であります。
 私も一昨日、昨日も現場に出ておりまして、その町村で苦労しております全壊か半壊かの紛らわしいところを見てくださいというものですから、実際自分で見ていって、これは全壊だとかやってきたのでありますけれども、今そういうことを家屋係の人はやっている最中であります。近県の町村からも応援に来てくださっている方もおられます。本当にありがとうございます。
 きょうは砂防会館ということで、鳥取県も本当に土砂崩れが今回の災害でも多くて、この砂防会館できょうこの大会をやるというので、砂防の重要性というものを皆さん方も少し認識しておかれた方がいいと、今回の地震を見てそう思いました。
 もう一つ余談でありますが、風評被害に今悩んでおりまして、確かに地震はありましたが、もう今復興への足どりが急ピッチであります。それから鳥取県は東部、中部、西部とありまして、今回の地震は島根県に近い西部であったのですが、東部、中部でも何か震災があったのではないかということで観光客のキャンセルがあったりして悩んでおります。東部、中部は全く被害がありません。その当の西部であっても、皆生温泉などはもう既に通常通りの営業を再開しております。何ら心配ありませんので、どうか遠慮なく観光には来てください。
 やはりこういう震災がありますとすぐ自粛をしてしまおうということになって、避難民の方がおられますから、確かに鉦や太鼓で派手なことをするということはちょっと遠慮しなきゃいけませんが、しかし一方では、観光でありますとか、いろんな産業で生計が支えられている県民も多いわけでありまして、その人たちの生活を守ってあげるということも大切でありまして、ぜひ皆様方、ご縁がありましたら、機会がありましたら、鳥取県は決して心配ではありませんので、お越しいただければ歓迎をいたしたいと思います。長々前段でお話をさせていただきました。
 全国各地からお見舞いでありますとか支援をいただいておりまして、本当にありがとうございます。特に先般は、地震の大先輩というと語弊があるかもしれませんが、兵庫県や神戸市の方からもいろいろボランティアの方でありますとか職員の方も派遣していただいております。我々のわからないところも教えてもらおうというので、つい数日前は神戸市から、兵庫県からチームを組んで来ていただきました。こんなことに気をつけた方がいいですよということを私も出て直接伺いました。
 そうしましたら、神戸市から来られた方は、何と税制課長さんが来られまして、私の知っている方だったですが、何で税制課長が来たのかと聞いたら、やはり税制係が当時も活躍をされているわけです。家屋の問題でありますとかいろんなことで税制課が活躍されておりまして、税制課長さんにもお世話になりました。この中に神戸市の方がもしおられましたら、帰られてお礼を申し上げていたことをお伝えしておいてください。本当にありがとうございました。

2.地方分権確立のために、今必要なこと
(1)分権時代到来の意味するもの

 さて、本論に入りますが、きょうは「地方分権時代の地方税制」という演題で、日ごろ私が考えておりますことを皆様方に聞いていただきたいと思ってやってまいりました。
 私も知事になりまして今1年半たちまして、この地方分権時代の地方自治の現場で日々行政を実践している者であります。大変手ごたえのある毎日であります。まさに今地方分権時代が来たな、これからどんどん世の中が変わってくるなということを日々感じながら仕事をしているわけであります。
 その中で特にこの税制というものが地方分権と切っても切れない関係にある。地方分権を進めるには税制というものを常に見直し、そして税制自体を分権型に変えていく、このことが我が国のこれからの地方分権社会を実現するために欠くことのできない課題であるということを今、日々痛感をしております。そんなことを含めてお話をしばらくさせていただきますので、聞いていただければと思います。
 ことしの4月から地方分権に関する一括法、地方分権推進一括法が施行されました。これで世の中がどう変わったかといいますと、実はそんなに変わっておりません。皆さん方いかがでしょうか。皆さん方も地方団体の人が多いと思いますが、4月から何か世の中が一変したということは多分ないのだろうと思います。私もそう思います。
 今回の地方分権推進一括法でどういう点が変わったかといいますと、やはりそれは権限移譲が行われた。従来国が権限を持っていたものが県におりる、場合によっては市町村におりる。鳥取県ではさらに県で持っていたものも市町村にできる限り権限をおろしていこうということで、権限委譲というものも進めておりますし、それから分野によっては規制緩和、これは地方団体の場合規制緩和と言わずに、例えば必置規制の見直しとか、従来はこういうポストを置かなきゃいけない、こういう組織を設けなきゃいけないという、そういう決まりがあったものが、だんだんそれが緩和されて、地方団体の自由ですよというようなこともふえてまいりました。ですから、もちろん分権一括法ができて地方団体の権限がふえ、それに伴って議会の権限もふえ、そして地方団体の行動や組織運営が自主的に運用できるようになった、そういう面があります。

(2)意識改革の必要性−現場重視の行政−
 しかし、私はそれだけではこれからの地方分権の時代というものはやってこないだろうと思っております。何が必要かといいますと、やはり一番必要なのは意識改革であります。これは、地方団体の職員自身の意識も変わらなければいけませんし、それから中央官庁の政府の役人の人も意識を変えてもらわなければいけませんし、何より住民の皆さん、国民の皆さんの意識も変わらなければいけない。これが私はこれからの地方分権時代を確かなものにするために一番必要だろうと思っております。
 従来は、地方団体の仕事をする場合に、何か問題があったら何をするかといいますと、すぐ中央官庁に照会をかけるわけであります。こういう問題がありますがどうすればいいか、どんな制度がありますか、どんな補助金がありますかといってすぐ中央関係官庁に、お伺いを立てるというわけでもないでしょうが、聞いてみるという、これが大体地方団体、特に県の場合の職員の行動様式であります。
 私は今、鳥取県庁では職員の皆さんに、国に聞くのはいいけれども、それはあくまでも参考であって、一番大切なのは何かといいますと、それは現場である、住民の皆さんである、このことを徹底しております。問題は必ず現場にあるのであって、中央官庁にあるわけではありません。問題の解決をするヒント、これも実は現場にあるわけで、中央官庁には最近は余りありません。
 とにかく現場をよく見て、現場を熟知して、そして現場におられる当事者の生の声を聞いて、そこから問題を汲み上げて解決に向けて努力をしようということを今一生懸命言っております。右向け右、ぴっと笛を吹いたらすぐ変わるというわけではありませんが、しかし徐々に徐々に私の県に関しては職員の意識も変わりつつあります。
 早い話が、先ほど申しました災害でありますが、災害があったときに何をしなければいけないのかというのはまさしく現場にあるわけであります。現場でどういう災害の状況になっているのか、住民の皆さんが今何に困っているのか、これから何に向けて不安があって苦労しているのか、これは中央ではなくて現場にしかないわけであります。ですから私も、この10日間、もう災害対策本部と現場との間を連日ヘリコプターで往復をしておりました。現場に行きますと問題がわかる、そこから課題を整理して検討して、何をしなければいけないか、国に何をぶつけなければいけないのか、今その作業をやっている毎日であります。
 この災害なんかは典型的でありますが、しかし、災害だけではなくて日々の行政についても全く同じでありまして、現場を抜きにした行政というのはあり得ない、現場にこそ重要な要素があるということを今言っております。
 これは私は税制でも同じなんだと思います。今までの税制はどちらかといいますともうすべて中央で決めてしまう、私も実はその一翼を担っていて、今ちょっと胸に手を当ててみると反省しなきゃいけないことがいっぱいあるのでありますが、現場が少し軽んじられているのではないかという気がしてなりません。中央の都合でいろんな特例をつくったり、いろんな複雑な仕組みを掛け合わせたりして今の税制というのはでき上がっております。あれは決して現場からの声を積み上げてできた制度ではないはずであります。
 もちろんいろんな事情が税制をつくる際にはありますからやむを得ない面はあるのでありますけれども、余りにも現場から遠いところで税制ができている、そのことが現場でなかなか税制というものがうまくフィットしないという面があるのだろうと思います。これからの税制を考える場合、特にこれは中央官庁の方もおられますからよく聞いておいていただきたいのですが、税制というものは現場から遊離するとうまくいきません。地方分権時代の税制は特に現場でうまくワークするかどうか、機能するかどうか、このことを常に頭に入れながら税制改正というものをやっていただきたい、こう思っております。

(3)地方自治体の首長は税にもっと関心を持つべし
 それから、この現場というものでもう一つ申しますと、私も自治体といいますか、今県の首長をやっておりまして、このことだけは決して怠らないようにしようと思って今心がけているのは、自治体の首長さんというのは総じて税制に関心がありません。皆さん方のところはいかがですか。市町村で税制の担当者に大変関心を持ってしょっちゅう話を聞いていただけるという市町村長さんがおられるところ、おられますか。まあ県でもいいですけれども、知事さんが税務課長をしょっちゅう呼んでいろんな相談をしているとか、余りないのですね。
 私は知事になる前に税制をいろいろやっていましたので、そのことを自治体の首長さんに会うたびにお願いをしたり注意喚起をするのですが、どうも今の我が国の自治体の首長さんというのは税に関心がない。いろんな仕事をしますからお金は必要ですね。しかし、そのお金を調達する関心というのは専ら補助金であったり交付税であったり、有利な起債であったり、そっちの方に一生懸命目は向くのでありますが、いざ自分の町、自分の自治体で税を調達するということに関しては余り関心がなくて、余り勉強もされない。そんなことはもう課長か係長がやっておけばいいというような、そういうふうな態度が間々見られたものですから、随分私も注意はしたつもりなんですが、なかなか改まらないわけであります。
 私は今知事になりまして、税というものをぜひこれは大切にしなきゃいけない。税というものが財源を調達する手段であるという、貴重な財源調達の手段であるということ、これはもちろんでありますが、そのこと以上に、税というものが実は住民との非常にシビアな接点であるわけであります。
 税というのは有無を言わさず強制的にある一定の条件を満たしたものからは無理やりにでも取っていくという、住民と本当に向き合う局面であります。そこに皆さん方はおられるわけであります。皆さん方がそういう局面に向き合っているというのは、実は首長さんの仕事の一部として向き合っているわけでありまして、すべて本当は首長さんの仕事を皆さん方が代行しているわけでありまして、そういう意味では納税者との厳しい局面というものに自治体の首長はもっともっと関心を持たなければいけないというのが私の考え方であります。
 ですから、県自体においても税というものに私自身関心を持つようにしておりますし、それから県内の市町村にもそういう目で見てもらいたいということをお願いをしておりますが、これはなかなか思いどおりにはいきません。
 したがって、しようがないので私も先般県内の市町村の税制担当の課長でもいいし、係長さんでもいいしというので集まってもらいまして、生の声を聞くということをやりました。そうしましたらいろんな意見が出てきます。市町村からはやはり固定資産税の問題が中心になって出てまいります。こんな問題があります、あんな問題がありますということで出てまいりまして、私も固定資産税に若干の心得がありましたから、アドバイスできる点はアドバイスを直接してあげたり、そうはいってもしかし、固定資産税をやってからもう数年たっておりますのでちょっと知識も古くなっておりますから、わからない点は詳しい職員に勉強させたりしたのでありますけれども、そういうことを鳥取県では実はしております。
 これは私はぜひ全国の知事さんや市町村長さんにこれからもお願いしたいと思っている。どうか現場の税というものに目を向けてください、それは税制を円滑にさせるという、そういう意味合いももちろんありますが、しかし税を通して納税者と真剣に向き合うという姿勢を自治体のトップは持つべきだと私は思うのであります。
 私も今いろんな自治体の仕事をしておりまして、住民の皆さんから喜ばれる仕事が多いです。福祉にしてもそうでありますが、それは文句は言われますが、しかし基本的にはいろんな仕事をするということは、住民の皆さんにサービスをするということが多いものですから、喜ばれることが多いのでありますが、喜ばれない仕事、これもまあ幾つかあります。
 その中で典型的なものはやはり税でありまして、税はどんなにえびす顔をして行っても、やはり喜ばれることはまずありません。文句を言われることが多い毎日であります。そういうところは目をそむけて一部の職員だけにやらせて、いいところだけを自治体の首長さんがやるというのでは、私は本来の地方自治ではない。特に地方分権の時代、住民の皆さんが主人公の時代の地方分権のリーダーとしては少し考えるべきところがあるのではないかと、こう思っておりますので、皆さん方が帰られて市長さんや町長さんに言うのは言いにくいでしょうから、言われると怒られたりするかもしれませんけれども、私はそういう考えを持っておりますので、講演を聞いたらこう言っていましたよというのは、ぜひ機会があったらお伝えをしていただきたいと思います。

3.地方分権時代にふさわしい税制度実現のために必要なこと
 そこで、これからの地方分権時代の税制ということでありますが、これは税制に限りませんが、地方分権時代の行政一般について必要なことは幾つかあります。

(1)住民にとってわかりやすい税制度の構築
@地方分権時代にふさわしい行財政制度のあり方

 一つはとにかくわかりやすくすること、これが重要であります。地方分権時代には今までとどう変わるのか、非常に簡単にかいつまんで言いますと、今までが例えば中央集権型の行政だとします。これからが地方分権型の行政になると、こう仮定します。世の中はそんなに一変しませんから、徐々に徐々に変わるわけで、そんなに単純に中央集権から地方分権にという、こういう割切った表現は必ずしも正確でないかもしれませんが、今まではどちらかというと国がいろんなことを決めていた。法律で決め、政令で決め、省令で決めて、そして通達、マニュアルで決めて、それをどさっと地方団体におろしてくる、県におろしてくる。県がそれを市町村におろしていく。そうすると県も市町村も大体国から来るマニュアルに従って仕事をすればほぼ平均点、合格点が取れた時代であります。
 これからの地方分権の時代というのはそうではなくて、国は制度の根幹を決める、大まかなことを決める。しかし、実際にその大まかな基準に従って仕事をするのは地方団体がみずからの責任と裁量で選択をしながら仕事を進めていくという、こういう時代になってきます。
 その際に、これまでのように中央官庁ばかり見るのではなくて、これからは現場を見て、住民を見て、生の声を聞いて、そこから問題を汲み上げて、それを政策として実現していくという、こういう時代になってくる、これが地方分権の時代なわけであります。
 そうなりますと、従来は中央官庁がいろんな仕組みをつくってそれをおろしてきますから、それに従っていればよかった。住民の皆さんがわかりにくくても、でもこれは国で決められたことですからと言えば大体それで説明になった部分が多いわけであります。ですから難解な制度が難解なままずっと続くということが今までありました。
 しかし、これからの地方分権の時代になりますと、言うまでもないことですが住民が主人公でありますから、その主人公の皆さんにわかりにくい制度というのはやはり基本的に欠陥があると私は思います。とにかく制度はわかりやすく、主人公である住民の皆さんが容易に理解できる、そういうものにしなければいけないと思います。

Aわかりやすい税制構築の必要性
 そのことがこれからの地方分権時代の税制についても言えることであります。特に固定資産税についても私は言えることだろうと思います。
 今までの固定資産税を見てみますと、これは私は平成7年に固定資産税課長になったときにびっくりしたのでありますが、私もかねて若いころに固定資産税はやったことがあるものですから、ある程度の知識と自信を持って固定資産税課長になったのですけれども、なってみると、平成7年の夏に固定資産税課長になったのですが、何がどうなっているかさっぱりわからない。一応聞けば、こうなっています、ああなっていますという仕組みの説明は一応理解はできますが、何でこんなことにしたのかということがさっぱりわからない。ましてそれを、自分が所管している制度だから人に説明しなきゃいけないことが多いわけでありますが、なぜそうなっているのか人に説明ができないわけであります。単にだれかがこうしたという説明はできますけれども、それを自分のものとして、これはこういう意味でこうなっているのですよ、こういう理由でこうなっているのですよという説明ができない、それほど複雑怪奇になっていたわけでありまして、担当課長でさえそうでありますから、現場でさっぱりわからない、納税者に説明できないという、もう怨嗟に似たような声が寄せられていたのも私はむべなるかな、当然だろうと思いました。
 こんな制度ではやはり運用できないだろうということで、私が平成7年から平成9年いっぱい固定資産税課長をやったのですけれども、私の最大の仕事はとにかく少しでも簡単にすること、少しでもわかりやすくすること、これが基本でありました。もちろん思いどおりにはできませんでしたし、そんなに一朝一夕に簡単にすることはできませんでしたけれども、しかし、これからの税制の基本というのはとにかくわかりやすくしなければいけない。そうでなければ住民の皆さん、納税者の皆さんから嫌われる、疎んじられる。
 とかくやはりわかりにくいものは嫌いですね。本を読んでも、わかりにくい本というのは余り読みたくないです。わかりやすい本がやはり読みたい、これはもう人情でありますが、税制も同じだろうと思います。これからの税制はすべからくわかりやすくする、このことをぜひ関係者の皆さんで心がけていただきたいと思うのであります。

Bわかりやすい制度構築の実践例−鳥取県における法令改正表示方式の改革−
 今鳥取県でもいろんなことを実践しているのですが、税制自体は今地方税法で本当にがんじがらめになっていますから、その中で県自体でわかりやすくしようと思っても、これはいささか限界があります。法律でいろんな特例があって、さらにその特例が附則に書いてあって、ともすれば改正附則にまでまたいろんな重要なことが含まれているという、そういうような本当にわかりにくい制度になっていまして、これは何とか簡単にしてもらいたいと、これは今度中央官庁に陳情に行こうかと思っている。税制を簡素化してくださいという陳情に行こうかと思っているぐらいでありますが、鳥取県ではできることはやろうということで、税制に限らず、法令改正、条例改正、これをわかりやすくしようということで、だれでもできる法制執務ということを今実践をしております。
 とかく条例改正、これは税条例の改正もそうでありますが、改正するときにかぎ、かぎとかいっぱいできてきて、「……」を「……」に改めるというのがいっぱいあるでしょう。何のことかさっぱりわからない。しかしそれを議会に出して、議員の人も何のことかさっぱりわからないけれども可決してしまうという。それで県広報とか皆さんの市の広報に搭載して、だれも見やしない。こういうことが地方分権時代にどういう意味を持つのか。住民の皆さんが主人公のときに、だれもわからない改正条例をつくって、それを議会に提案して、議会の議員さんもほとんど見ることもなく、一瞥もしないでそれが可決されてしまって、そして県民の皆さんに広報する、これは広報も重要なんですけれども、しかし住民の皆さんも見もしないし、だれも関心がない、こういうことで本当にいいのでしょうかと私は思うわけでありまして、こんな愚劣なことはやめようじゃないかということで、ことしから条例の改正というのをあの「……」方式を一切やめてしまいました。
 今何をやっているかというと、右を左に改めるという方式にしております。改正前の条例、これをこっちに改めます。右を左に改める、要するに新旧対照をそのまま本文にしてしまった。非常にこれはわかりやすいです。県広報にもそれで搭載します。そうすると何がどう変わったのかが一目瞭然。議員さんも条例改正文を見るようになりました。
 したがって、法令改正というのは一部の特殊な専門的知識を持っている人の職人芸のような領域がありましたけれども、これが今だれにでもできるということで、だれでもできる法制執務というのはそういうことであります。
 これは非常に評判がいいです。ぜひ皆さん方のところでもやってみられるといいです。法令改正、条例改正というのは何かしち面倒くさい、本当に技術的な、高度な技術を要する分野だと思ってだれも近寄らない、一部の専門的な人がやっている、そういう意識が多分あるのだと思いますが、そんなことは決してありません。実に簡単なものであります。必要なことを必要なだけ書いて改正すればいいわけであります。
 従前に比べて字数は多くなります。一部改正で「……」の方が字数は節約できます。しかし今パソコンがあって、一部変えてもすぐすらっと直る時代に、あの字数を節約する方式というのは全く無意味であります。
 昔は実は、改正というのは明治維新から始まったわけでありますが、当時はものを書くのが墨でありますから、めったやたらにいっぱい書くというわけにいかないわけです。そうすると字数を何とか節約して法律を改正しなきゃいけないというので編み出されたのがあの一部改正方式なんですね。
 その後ガリ版になりました。私なんかが若いころ。それこそ昭和50年代の初めぐらいに自治省で、固定資産税課で仕事をしたときにも、ちゃんと法令改正はガリ版でありました。そのころもやはり字数は制限しなきゃいけませんね。どこか変えたために全部書き直すというのは無理でありますから、ですから一部改正方式というのは非常に有効だったのですが、今のようにOA機器が発達してパソコンで全部処理されるようになりますと、いつでもどこを変えても全部あとはすらっと直してくれる、条ずれとか字のずれは直してくれるという時代になりますと、あの一部改正方式というのはほとんど役に立ちません、無意味であります。
 そういうふうに、OA機器の発達、それに応じて法令の改正方式も当然変わるべきところが、その辺が、内閣法制局なんというのは何か神官のような、昔のやり方をずっと守ることが自分たちの生きがいといいますか、職業を守ることにつながっていると私は邪推しているのですけれども、全然ついてきてないのですね。このOA化の時代、情報化の時代についてきてないのが内閣法制局でありまして、そこに一生懸命日参しているのが中央官庁の役人なんです。こんな愚劣なことはやめたらいいと私は思うのですけれども、なかなかやめない。
 この間、内閣法制局長官にその話をしたのです。そうしたら、そういうやり方もあるのでしょうねといってほとんど関心を示されませんでした。時代遅れであります。一生懸命法律を勉強した人が、夜を徹して内閣法制局へ行って本当につまらない仕事をしている、こういう愚劣なことはもうやめるべきであると私は思います。
 今、そんなことをしなくてもだれでも簡単に法令改正できるのです。「ワークブック法制執務」といってこんな分厚い本、私も昔読んで勉強しましたが、私も実はその達人なんですけれども、今そんなもの要りません。私のところの法制係長が1枚か2枚の条例改正のやり方というのを書いて、それで全部できるのです。そういう時代になったのですが、相変わらず政府の方ではそういう無駄なことを徹夜をしてやっているという、地方分権時代にはそぐわないやり方をしているということもみんなが気がつくべきであります。これは余談でありますけれども。

(2)情報公開の積極的推進
@鳥取県における情報公開への取組

 まあそういうことで、とにかくわかりやすくしようということ、これは内容をわかりやすく、改正のやり方もわかりやすく。
 それからもう一つ、わかりやすくという意味では情報公開が必要であります。私も今県政で情報公開を徹底してやろうということに努めております。情報公開というのはいろんな局面があるのでありますが、一番情報公開の必要性が求められたのは例の官官接待とか旅費とか食料費の不正使用、乱用であります。これが表面化してから情報公開というものが一挙に噴出したわけでありますが、私はそういうことに限らず、行政の情報というのはすべからく公開すべきだという信念を持っております。
 私は就任以来もうその方針でやっておりまして、卑近な例で言いますと、とにかく知事の交際費は全部公開しますということで、全部ガラス張りにしております。ガラス張りにしますと不便でしょうといろんな同僚の知事さんから言われます。本当に全部公開して困りませんかと言う。困りません。なぜかというと、公開して困るようなことには公費は使わ
ないということにすれば一番簡単なんであります。
 じゃどうするのですかと言う。それは公費を使わない、でもどうしても出さなきゃいけないということになれば、自分の私費を出すか、場合によっては政治活動の団体を持っていますから、そこに本当にわずかでありますが、政治資金というのも私の場合には若干ありますから、そういうところから出す。公費は出さない。そういうことがすべてお金を使うかどうかのときに判断を求められるわけであります。そうやってちゃんと判断して、これは公費を出しても全然問題ないだろう、しかしこれは公費は絶対出せないというのはそこで峻別するわけで、ややこしいものもあります。それはまあそのときそのときで判断します。もし公費でいいだろうと思って自分で判断して出しても、例えば後でマスコミや県民の皆さんから批判されることがあるかもしれません。今のところありませんけれども、あればそれから改めればいいと私は思っておりまして、その方針でやっておりますが、全く不便はありません。
 ですから、何か隠して出して後でとやかく何か言われるのじゃないかとびくびくしたりする、そのときの心労を思えば、すべて情報公開しますよという、その前提のもとで日々仕事をしている方が断然楽であります。
 私はこのことを県職員にも言っていまして、当初は情報公開というのは非常にリラクタントであります。やはり嫌がります。なぜかというと、今までが公開を前提にして仕事をしておりませんから、公開したらいろんなトラブルが発生するわけですね。ですからそういう当座の、公開してない時代から公開に変わる時代には、やはり面倒くさいことがあります。けれどもそこは割り切って、過去のことはもう余り問わないことにしようと。これは私、オンブズマンの人にも言っているのです。過去のことをほじくり返していろいろああだ、こうだと言い出すと、そうすると、過去のことだけじゃなくてこれからのことにもみんな心を閉ざしてしまいます。これからのことが問題なんで、これから情報を徹底的に公開しましょうというときには、やはり過去のことは少し忘れてもらいたい。まあ完全に忘れるわけではございませんが、余りとやかく重箱の隅をつつくようなことをすると、かえってみんな役人というのは殻に閉じこもってしまって、大切なこれからのことにも公開に不熱心になってしまう。ですから私は、過去のことはなるべく職員をかばうようにしております。
 そのかわり、私が就任して以来今日、これからのことは徹底して公開をする。そこでもし不正があれば、これはもう厳重に処分をします。しかし過去のことは、それは当時から公開を前提としてない仕事のやり方をしていますからさほど追及をしない、こういう仕分けをしておりまして、少なくとも私が就任してからはもう公開度が随分高いだろうと思っております。
 これは単にお金を使ったことの後始末の公開とか、そういう意味だけじゃなくて、県政のいろんな面で情報公開しておりまして、従来は例えば決まったことは決まってから公開をする、これは公開ではなくて報告、レポートであります。後でこんなやり方もあるのじゃないですかと言われても、いやもう決まったことですからと、これは本当の意味の公開ではなくて、PR、広報に属することです。
 今鳥取県でやっていますのは、決まるまでの間にいろんな選択肢がありますから、その選択肢も示して、そこでパブリックコメント、意見を聞く。いろんな意見がありますけれども、その中で大体この辺で合意が得られそうなところだということで決めて、決めた以上は責任を持つという、そういうやり方を今しております。
 結構手間がかかりますが、しかし、一たん決めた後は非常に楽であります。従来は決めた後いろんな文句が出て、それに対して、いや、でもこれしかないのです、こう決めたのですからといって一生懸命説明しなければいけないという、そういうことが今はありません。決めるまでは手間暇かかりますけれども、決まった後は非常にスムーズであります。
 それから、仕事のやり方自体も情報公開でありまして、このたび、また震災の話になりますが、直ちに災害対策本部を設けて、6日の1時半から設けたのですが、今日まで災害対策本部はすべてオープンであります。
 当初は朝から夜の10時まで災対本部員が詰めて、私らも詰めておるのですが、夜中になると徹夜の人が10人ぐらいということでやったのですが、今は少し縮小していますが、もう24時間すべてオープンであります。ですから新聞記者はいつもどこにいてもいい、我々の会議も全部聞いています。それで記事にしたい人は記事にします。ただし、新聞記者に言っていますのは、例えば被災者に対してどういう支援をするかというのは、これは決めるまでは書かないでください。というのは、決めるまではいろんな案が出てきます。こういう施策をとったらどうか、いやこれはちょっと問題があるとか、いろんな議論をしています。その議論が終わって決まるまでは書かないでください。
 といいますのは、決まる前に書いて、何か妙な期待感があるとか、混乱が生じたら困りますから、そこのところは節度を守ってくださいと言っていますと、ちゃんと守ってくれています。ですから新聞記者がずっといる前で、この案で行こうか、あの案で行こうかと今実はやっているわけであります。
 それは大変でしょうと言われるのですが、実は大変ではない。といいますのは、決めるまでの過程を全部新聞記者は見ていますから、決まった後は何も説明しなくてもいい。実に楽であります。
 従来は災害対策本部があって、別の部屋に報道機関の部屋があって、そこに伝令が走って、今の災害状況はこうですと、被災の報告、それからこんなことを今度施策で打ち出しましたということを一生懸命説明する、相手は苛々して待っていて、中身の説明が不十分であると怒られたりするという、そういうことは一切今ないわけでありまして、実に楽であります。災害対策に秘密もありませんので、そういう100%の公開をやっております。
 ふだんの行政は、知事室にいつも新聞記者がいるというわけにいきませんから必ずしもそういうわけにはいきませんが、しかし、仕事の過程もなるべく情報公開をしていこうということに今努めておりまして、非常に楽であります。

A税制における情報公開の積極的推進への必要性
 それで、長々話をしましたが、ぜひ税制も公開度を高めていかなければいけない。このことがこれからの地方分権時代の税制の課題であります。税制がブラックボックスであっては私はいけないと思います。
 正直言いまして従来の固定資産税はややブラックボックスの、ややというか、かなりブラックボックスの点がありました。例えば、私が固定資産税課長になったときにかなり情報公開をしたのですが、従来例えば評価額に対して課税標準の割合が何%になっているのか、これはほとんど公開しておりませんでした。公開すると不公平であるということがわかってしまう。なぜならば、ある地域は評価額に対して課税標準の割合がかなりの程度までいっている。例えば、語弊があるかもしれませんが、私がいた当時は、山口県は評価額に対する課税標準の割合が、平均してかなり高かったです。ところが一方では沖縄県なんかは随分低かったです。今もそんなに変わらないと思いますが。東京都と千葉県の間も、境界の川を挟んで随分違っていました。そういうものを公開すると混乱が起きるのではないか。
 もう一つは、同じ市町村の中でも、評価額に対する課税標準の割合というのは随分ばらつきが今でもあるでしょう。そういう実態がありますよということをオープンにするということは混乱が生じるのではないか。これは実は関係者だけが内々知っておけばいいことなんで、これを内々知っておいて、内々解決していこうというのが従来のパターンだったのですけれども、しかし、それをやっていますとなかなか前進をしない。
 私は、とにかく全部問題点を明らかにしてから解決策を示そうということで、全部オープンにしました。混乱があるかと思いましたけれども、ほとんど混乱はありませんでした。それは不公平ですよとかいう議論はありました。だから不公平を直そうといってこれから頑張るのじゃないですかという、そういう前向きの対応にしたわけでありまして、情報公開をしたから何か大混乱になったとか、税制がにっちもさっちもいかなくなったということは一切ありませんでした。やはり公開をするということが、次の問題に、先に進むためにはぜひ必要だろうと思います。
 これは、先ほどは固定資産税の評価額に対する課税標準の割合の不公平さの公開のことを言いましたが、それ以外にもいろいろあります。固定資産税でも従来から、例えば路線価の公開とかを進めてきました。今はもう全部やられているのだろうと思います。思いますが、私はあれはどちらかというと邪道、邪道と言うと変ですね、次善の策だと思うのです。
 といいますのは、本来は固定資産税の課税情報の公開というのは立派な制度があるわけです。課税台帳の縦覧というのがある。縦覧というのはほしいままに見るという意味であります。これが地方税法に書かれてある固定資産税の課税情報の公開の根拠規定なんです。
 ところが今は、縦覧と書いてあるにもかかわらず、実は閲覧みたいな仕組みに多分なっているのだと思います。そのページしか見せない、あなたのところしか見せないというふうになっていますでしょう。全部見せているところがありますか。もう自由にぱらぱらと、見てもいいですよというところがありますか。ありませんか。
 そのぱらぱらというのをやってないわけですね。本当は私は、縦覧というのは、縦はほしいままという意味ですから、自由に見ていいですよという制度だったと思うのですけれども、だんだん、運用というか、慣行によって、その人の、納税義務者の分しか見せないというふうになってしまっているわけです。
 それにはまあいろんな経緯があって、裁判所もそのことはしようがないということで是としているのですが、これは将来に向かってはやはり本来の縦覧に戻さなければいけないと思います。というか、縦覧にした方がいいと思います。
 他人の資産が公開されるのはプライバシーの侵害になるという、そういう意見もありますが、今路線価まで公開をして、そして、あと面積だとか区画形質なんというのは登記簿を見たらわかるわけでありまして、その気になればすべてわかるわけです。
 ですからそれならば、土地なんか固定資産税の課税台帳を縦覧しても何ら差し支えないと私は思いますし、それから家屋なんかについては今公開していませんから、自分の家屋の評価額がどうなっているかというのはよくわからないわけです。
 評価基準から積み上げていって、自分の家屋が評価が正しいかどうかなんてチェックをする人はまずいないし、できもしません。やはり隣近所と比較して、あそこがこうなら自分はこうでもしようがないのかなと思うのがやはり人間の感覚というものでありまして、その感覚を大切にしたのが縦覧制度だと思うのですね。どうか臆せず、私は家屋についても縦覧制度に戻すべきだと思います。それによって多分混乱はそんなにないと思います。もし混乱があったらそれは解決すればいいと思います。
 むしろ私は、家屋なんかについても縦覧に皆さんが、自治省も含めてシュリンクしているのは、他人の資産を公開することに対するプライバシーの意識よりは、案外自信がないからではないか。納税者の皆さんから聞かれたときにちゃんと説明できないので余り公開に熱心ではないのではないかなという、これは邪推かもしれませんが、いかがでしょうか、そんな気がしてならないのであります。
 これから固定資産制度は長く続いていくわけでありまして、これをちゃんと維持していくためには情報公開を進める必要が必ずあります。その一番大切なのは、土地も家屋も課税台帳は制度本来の趣旨、地方税法に書いてある趣旨に従って縦覧をすべきである、こう思っておりますので、関係者のご努力を期待をしております。
 あと、例えば課税明細書の添付とか、いろいろやりました。私が固定資産税課長のときもやりましたけれども、今は大体もうやっているのですね。ほとんど全部やっていると思います。
 あれも最初は随分混乱をすることが予想されましたし、実際に混乱もありました。といいますのは、課税明細書を添付することによって納税者が初めて自分の課税の根拠、明細がわかるわけでありまして、それまでは、縦覧に行く人はともかくとして、縦覧に行く人は納税者の1%ぐらいのはずですから、他の人は縦覧も行かない。そうしますと、ある日突然納税通知が来て、税額幾らという、そこから始まるわけで、大して気にもとめてなかった。しかし、明細が来ることによって土地・家屋それぞれ場所、面積がわかるわけであります。そうしますと、こんな建物はもうないよというのがそのときわかるわけです。そこからトラブルが始まって、5年分返せとか、いや5年分じゃだめだ、もっとさかのぼって返せという、もうトラブルが全国各地でありました。
 それがありますから、情報公開というものに対して課税当局は非常に、これもリラクタントでありました。やはりやりたくないというのが正直なところであったと思います。しかし、それは乗り越えればいいことでありまして、そういう問題をはらんだままずっとこれからも長くまやかしの課税を続けていくよりは、ある時点で思い切って公開をして、そのことによって早めに正される、間違いが直されるということの方が私は重要だと思ったものですから、かなり尻をたたいて、嫌がる県もありましたけれども、明細書の添付をお願いしたわけでありまして、そのことによって一時的な混乱はありましたけれども、大体収まったのだろうと思います。
 そういうことが長い目で見ますと税制を支えるし、納税者の皆さんから固定資産税というものが信頼をされる大きな一歩になるだろうと思っておりましたけれども、きっとそうなったのだろうと思います。ぜひこれからも、固定資産税について情報公開というものを決して怠ることのないようにしていただきたい。これは制度をつくる皆さん方もそうでありますし、制度を運用される現場の皆さん方もそうでありますけれども、そのことをお願いをしておきたいと思います。

(3)地方公共団体の自律性・独自性尊重の制度確立
@地方分権時代における地方公共団体の自律性・独自性尊重の必要性と地方公共団体の責任

 それから、地方分権時代の行政、税制で、今はわかりやすいということのお話をしたわけでありますが、もう一つは、地方公共団体でこれからは裁量の余地がいろんな分野で大きくなると思います。
 今までは全部国でがんじがらめに決めていたものの完成品をもらって地方団体が仕事をする、それで大体うまくいった。しかしこれからは、さっき言いましたように地方団体で現場の意見を汲み取って政策をつくり上げていくということになりますと、地域地域でやはり仕事の内容とかやり方が変わってきます。ですから、国がいろんな制度をつくるときも、裁量の余地が大きくなるはずでありますし、裁量の余地を大きくしなければいけない。そういう時代になります。
 そうしますと、裁量でありますから選択の余地が出てきます。その選択をするということは責任を伴うことであります。どれを選ぶか、選んだ側に責任が出てくるわけでありまして、裁量と責任というものが伴ってくる、これが地方分権時代の行政であります。そのことをぜひためらうことのないようにしていただきたい。
 従来ともすると、税制でもそうでありますが、地方団体の選択ということになりますと、まず皆さん嫌な顔をされました。そんなこと面倒くさいから国で決めてくださいという対応が非常に多かったのですが、これからはぜひそのことは臆することなく、裁量がふえるということは現場で対応しやすくなるということでありますから、ぜひ制度をつくるときもそういう裁量を大きくしていただきたいし、現場でもその裁量が大きくなった部分を十分に生かすようにぜひしていただきたい、こう思っております。
 私も今、知事の仕事をしておりまして、選択をするというのは結構きついものがあります。自分で選ぶわけでありますから、その選択をした結果についても責任を問われる立場にあります。ですから安易に行政をやろうと思えば全部国が決めてもらって、これは国が決めたことだからと、よくても悪くても国が決めたこと、そのことによって現場がうまくいかないとしても、それは国が決めたことといって責任を逃れられるわけでありますから、その方が実に楽であります。
 しかし、そうやっておりますと、現場との間にどうしてもずれが生じます。ある制度を適用しようとしても現場の現実とフィットしないということがたくさんあります。そのときに、国が決めたことだからしようがありませんよといえばそれで済むのですけれども、それではしかし現場は解決しないわけであります。やはり現場の実態を見て、現場に合わせた政策をとる、それには、どうすればいいかというのは選択が伴います。それは自分で最終的には決めなきゃいけませんから、責任も伴う。それはしんどい面があるのですが、やはり地方分権時代に本当の意味での住民の皆さんが主人公の仕事をしようと思えば、私は選択の余地はもっともっと多くあるべきだと思っております。

A地方公共団体の自律性・独自性尊重の税制実現の必要性
 税制もそうだろうと思います。評価基準なんかももっともっと選択があっていいと思うのです。北海道から沖縄までを一律の評価基準で律するというのは、これは無理であります。
 なぜ無理かというと、それは地域の実情も違うし、実態も違うし、地方団体の、こう言っては失礼でありますが、規模も違えば力量も違います。そういうときに一律の評価基準で、さあこれでやれと言って、全国津々浦々、三千数百の市町村がうまくいくとは到底思えません。やはり地域の実態や、それから地域の実情や地方団体の規模や力量に応じてやはり密度、その制度といいますか、そういうものは当然違ってくるはずでありますし、そういうものに対応した評価基準にしなきゃいけない、このことを私は固定資産税課長のときに痛感したものですから、少しずつ評価基準についても、私の時代には裁量の余地を多くしたいということでやってきました。今どうなっているのか、ちょっとフォローしておりませんので知りませんけれども、これからもぜひその方針でやっていただきたいと思っております。

Bあたらしい制度のもとでの職員研修の必要性とそのあり方
 そのためには、職員の皆さんの研修というものもこれから変わってくると思います。今までの研修というのは、中央官庁が決めたものを、それをいかに会得するか、学ぶか、県でありますと自治省で決めたものをちゃんと学んで市町村にいかに正確に伝達するかということに研修は置かれておりました。それから市町村の皆さんの研修も、国が決めたことをどれだけわかっていただくかという、そういう研修だったと思うのですが、これからの地方分権時代の税制の研修なんかは随分違ってくると思います。
 それは、その設けられた裁量の中で何を選択するか、どうやって決めていくか、その決めるプロセスはどうか、合意形成はどうやってやるのか、そういう研修が必要になってくるわけであります。本当の意味の人材を育てなければいけないわけであります。
 これからいろんな研修があると思いますが、そういう研修が質的に変わってくるという面を私は重視したいと思っておりまして、実は鳥取県でこの夏、お盆のころに例年研修会というのをやっているのです。関心があったものですからその研修内容というものを職員を呼んで調べてみましたら、やはり従来型のありきたりの、通年の年中行事のような研修だったものですから、それはもう一切やめなさい、これは意味がないのでやめなさいということにしまして、新しい研修にしました。
 どんな研修にしたかといいますと、まず税制一般について私が講師になりまして、それから私のところの総務部長が非常に税制に詳しいものですから、総務部長にも講師をさせ、それはどうでもいいのですが、実務なんかもやはり適材を持ってこなければいけませんから、例えば固定資産税なんかだったら大阪市だとか東京都だとか、そういうところのベテランの人に来てもらいまして、徹底的に研修会をやりました。単に居眠りをしていても済むような研修ではなくて、本当にじっくりと勉強しなきゃいけない研修というのをやったのです。
 これは第1回目でありましたから、まだなかなか思うようなものにはなりませんでしたけれども、どうか皆さん方のところも、研修というものは本当に重要であります。冒頭申し上げましたけれども、研修というのは当座しなくてもしのげますけれども、これが何年も続くとボディブローのようにじわっと効いてきて、ある日気がついてみますと体力が極端に低下します。ぜひ適切な研修をお願いをしたいと思います。

C現場重視の行政実現と地方公共団体間の連携
 ついでに言いますが、東京都なんかにも随分お世話になっておりまして、鳥取県ではこの間初めてガサ入れというのをやりました。国税犯則取締法で強制調査をやりました。これは軽油引取税の大型滞納事件というのがありまして、申告するけれども全然納めない、それでとんずらしてしまうという、表面上は単なる滞納なんですけれども、脱税とほとんど変わらない意図的な滞納であります。申告だけはしますから脱税ではないのですね。しかし払いませんから、滞納処分でも取りっぱぐれて不能欠損と、こういうことになってしまうと、余りにもこれはこちらもふがいないものですから、強制調査をすることにしました。
 しかし、悲しいことに鳥取県には強制調査をした職員がいないのです。国税犯則取り締まり、いわゆる国犯法によるガサ入れというのはやったことがありませんので、そこで東京都から密かにベテランに来てもらいまして、国税犯則取締法による強制調査のやり方というのを県職員がじっくり学びまして、それから東京都と一緒になって各地でガサ入れをやりました。
 大丈夫かなと思っていましたけれども、本当に職員は生き生きとしてやってくれまして、終わってから報告会を酒を飲みながら聞いたのでありますけれども、本当に楽しそうに、そんなことを言うと怒られるかもしれませんが、本当に難しい、しかもある種危険の伴う仕事でありますが、そういう仕事を本当に堂々と立派にやり遂げた人間の自信のようなものを私も職員の皆さんから感じまして、本当にうれしかったわけでありますけれども、それも、話が飛びましたが、東京都から本当にお世話になりまして、きょう東京都の方がおられましたら厚くお礼を申し上げます。
 今そういうように地方団体間の連携というものが私は非常に重要だろうと思うのであります。現場ではいろんなノウハウを持っております。そのノウハウをお互い融通し合う、これも地方分権時代の一つのありようであります。
 従来のように国からすべてが出てくる、情報も知識も金も出てくる時代ではもうなくなりました。地方分権の時代というのは現場が重要だということをさっきから私は何回も言っています。中央官庁にはいかんせん、悲しいことに現場がないのです。現場があるのは我々のところであります。特に市町村であります。その住民に一番身近な現場に近いところに実は情報やノウハウがある、これを大切にする、それが地方分権時代の一つのありようでもあるわけであります。
 我々はそれを大切にしたいと思って、研修でもそういうことを取り入れていますし、実際の実務でも、わからないことがあったら現場に聞く、自分のところの地方団体に現場がなければよその現場に聞く、今こういうことを実践しております。皆さん方もぜひそのことをやっていただければと思います。

4.地方分権時代における議会の役割
(1)地方公共団体の長と議会との関係のあるべき姿

 それから、地方分権時代でもう一つ大切なことは議会であります。議会というのは皆さん方は面倒くさいなと思われている方もおられるかもしれません。議会がなければどんなに仕事がスムーズにいくのだろうか、議会があるときは質問とかの答弁書きで大変だ、こう思われているかもしれませんが、議会というのは重要であります。
 私は今、知事になりまして、議会との関係というものを見直すといいますか、整理をしております。といいますのは、従来の首長と議会の関係というのは、首長が出したものをスムーズに通してくれる、議決をしてくれる、これが一番いい議会であるという観念があったと思います。今でもあると思います。なるべく文句を言われない、できれば質問もされたくない、黙ってすっと通してくれる議会がいい議会だという観念がありませんでしょうか。これは私は間違いだと思うのです。
 議会というのは最終的に物事を決定する場であります。ですから最終的に本来責任を負う場なんです。知事は予算とか条例とかを提案します。これは提案であります。しかし、それに本当に効力を持たせしめるのは議会の議決なわけであります。ですから議会というのは本当に強大な権限と責任を持っているわけであります。
 しからば、今の議会というものがその権限を行使するに当たって責任感を持ってやっているかどうか。これは俺たちが決めたのだから俺たちが責任を持つのだというふうに、そういう自覚を持って決めておられるかどうか。ということになりますと、そういうところもあるかもしれませんが、なかなかそうではない。
 議会で決めた物事が例えばうまくいかなかった。そのときにも議会は執行部を追及するという、これは私は変だと思うのです。あなた方が決めたのじゃないですかと。だから我々は執行しているのに、そのことがまずかったからといって、自分たちの責任はどうなんですかということをだれも問いませんね。私は問うことにしているのです。
 ですから、議会の議決というのは本当に真剣にやってください、我々はいっぱいいろんなものを提案しますけれども、是は是、非は非、自分たちでいいと思ったものは可決してください、だけど自分たちでどうしてもこれはよくないと思ったら修正があったり否決をしてもいいはずだ、それが本当の責任ある議会のあり方ですということをこの1年半言い続けてきたら、この間初めて否決をしてくださいました。
 鳥取県職員倫理条例というのを出しましたら、こんなものは条例でやらなくてもいい、これは知事が自分の規則でやればいいということで、めでたく否決をしてくれまして、やっと否決の第1号ができまして、これから新しい議会と首長との関係が始まるということになったわけであります。

(2)議会での議論を通じた住民合意の形成
 これは余談でありますが、本当に議会というものが私は重要であると思っています。その議会が重要であるというのはいろんな意味があるのですが、議会というのは議論する場所なんですね。読んで字のごとしで、議会というのは議論するところなんです。だからオープンの場で大いに議論しましょう。
 とかく議会というのは、さっき言いましたようにすっと通してくれるのがいい議会だとみんな思っているものですから、議会が始まる前にちゃんと1人ひとり根回しをして、反対もないように、できれば質問もないように、質問があっても当たり障りない質問があるような、ヨイショしてくれるような質問を期待しながら根回しをして、議会の開会のゴングが鳴ったときにはもうすべて終わっている。あとは何か、優勝が決まった巨人の消化試合のように淡々と済んでしまうという、これではだれも見に来ない。巨人の場合はスタープレイヤーがいますから見に来ますけれども、こんなことでは私は地方分権時代の議会とは言えないということを、もう就任以来言ってきました。ですから、根回しはもう絶対とは言いませんが、極力しないということでやってきました。
 だんだん本当に活発になりました。多数会派の人たちもばんばんと質問をするようになりまして、それはそれで対応する方は大変なんですが、大変といいますか、結構エネルギーは使いますが、それでもオープンに議論をしますから、それがマスコミを通じて県民の皆さんに知っていただくようになるわけです。報道がありますから。ですから今県政で何が重要かというのが、議会の議論を通じて新聞、テレビで流れるようになりまして、県政に本当に県民の皆さんの注意や関心が寄せられるようになりました。
 地方分権時代の行政というのはそうでないといけないと思うのです。何か大事な問題ほど根回しで済ましてしまって表に出ない。決まってしまってから、ある日突然住民は知らされる。これでは本当の意味の地方自治ではないと私は思っております。いいことも悪いことも議会で議論をされる、そのことが住民の皆さんに伝わって、そこで住民の皆さんの反応もまた行政や議会に、議員によせられる、そういうオープンな議論を経て合意が形成される、そして合意が形成されたら心を一にしてそのことの実現に取り組みましょうという、こういうことを今やっております。

(3)住民の税負担に対する議会関与の必要性
 ですから私は、税も議会でもっともっと議論しなきゃいけないと思っています。今までは税というのはほとんど議会で議論しません。税条例の改正を議会で議論しないという珍しい国なんです。税条例は、大体税法が3月に決まりますから、4月1日から施行する税条例というのは、全国の団体が全部専決でやっています。
 納税者の税負担、負担に関係することを議会で議論をしないで、じゃ議会は一体何を議論するのか。議会というのは、西洋史をひもといていただくとわかるとおり、本来実は税をめぐって議会というのは発祥して、税をめぐって成長してきているわけです。
 フランス革命というのはどこから始まったかといったら、三部会という議会であります。納税者の負担がどうなるのか、僧侶と貴族と特権階級と何かあって、その辺から税の負担の不公平感からフランス革命の一つの原因が起こっているわけであります。
 アメリカの独立戦争もそうです。アメリカの独立戦争は、当時イギリスの植民地でありましたから、イギリス本国が課税をする、印紙税だとか新聞紙税だとかお茶税だとか、そんなものに課税してきた。しかし、課税される側の植民地の人たちはイギリス本国に代表を送れない。国会議員を送れない。代表も送れないのに何で課税するのか。「代表なくして課税なし」という、これがアメリカ独立のきっかけになったわけでありまして、そのときの独立の一番の拠点は大陸議会であります。我々も議会をつくろうと、自分たちで議会をつくった。
 ですから、本来議会というのは税とともにある、税を、税負担を論ずる場所であるわけです。逆に言えば国王とか権力にある者が、これだけ税をくださいといって同意を調達する機関なんであります。その同意が得られないときに革命が起きたりしている。
 ですから、本来議会というのは税を議論する、これが一番の任務であるにもかかわらず、我が国の地方議会は税を議論しないという、非常に一風変わった議会でありまして、これではいけないと思うのです。ですから私も胸に手を当てると本当に反省することが多いのですが、3月に法律が改正されて、専決で次の4月から適用なんということは絶対これはやるべきではありません。少なくとも1年前にやる。このことをぜひ実行していただきたい。
 そして議会で住民の皆さんの負担に関係あることは大いに議論をする。しかし、何も議論する余地がないのでは困るのです。ですから裁量を大きくする。税負担についても裁量がなければいけません。そこで議会で議論をするということが私は重要だろうと思うのです。

(4)地方分権時代における住民の税負担決定のあり方を議論する場としての議会の役割
 そこで税負担について議論をする。例えば税負担というのは今は全部国が決めていますけれども、本来は、地方自治体の税負担というのは国が決めるのではないのです。地方自治体の仕事の量に見合って税負担というのはあるべきなんですね。
 例えばよく言われる高福祉高負担、低福祉低負担、これがまさしくそうでありますが、サービスの水準を高くしようと思ったら税が高くなる、これは当たり前であります。行政改革をやってどんどん歳出を削減する、それならば税負担が低くなる。これが本来の仕組みであります。
 イギリスなんかはそうですね。レートというのは大体そうです。1年間にかかる仕事の量はこれだけです、それをまず決めて、それを課税標準で割り振って税率を決める、基本的にはそれがレートなわけですね。ですから、仕事の量が膨らめば税率は高くなる。アメリカもそうです。オーストラリアもそうです。日本のように仕事がふえても減っても税率は一緒というのは珍しい、これは本当に奇怪な制度なんですね。
 ですから、これからの地方分権時代の税制というのは、財政と連動して、そして裁量の余地があるべきなんです。地方団体によって、うちはこんな仕事をしたい、あれもしたい、それなら固定資産税をちょっと上げようか。うちの市はもう行政改革をやって無駄を省こう、ごみの収集回数も減らすし、市民の皆さんの協力で分別収集もきちっとできて、ごみの収集の経費が減るはずだ、それならば固定資産税は1.4ではなくて1.38にしようか、それでどうですか、こういうような政策提言が、提示ができなきゃいけないのですが、今は悲しいかなそれがありませんね。これは改めなきゃいけないと私は思います。
どんなに行政改革をしても税率が変わらないといったら行政改革をやろうという人はいなくなってしまいます。
 それから、歳出はどこまで膨らむのか、それは税率が上がるということであれば、もうそんな仕事をしなくてもいいです、だから税率を上げないでくださいという声が出てくるのですが、今税金が上がりませんから、歳出はどんどん膨張する傾向にあります。じゃどこが歯どめになるかというと、破綻するところが歯どめになるという、非常に悲しいことで、破綻するまで膨らむというのは困るのです。
 やはり、そんなことまでしなくていいじゃないか、税率を上げてまでそんなことをするのならもうやめてくださいという声がどこかで出てくるような、そういう仕掛けが必要なんですね。そのことが私はぜひ、地方税財政の中には必要だろうと思います。
 今は標準税率制度があって、固定資産税は1.4%、これは2.1%まで上げてもいいですと、こういうことになっています。下はどうですかというと、地方税法上は下はないのです。ですから本当は1%にしてもいいのです。1.38にしてもいいのですが、現実には今1.4のところでみんなぴたっととまっています。
 これはなぜかというと、1.4をちょっとでも下げると地方債が発行できなくなるという仕組みが地方財政法の中に別途あるのですね。ですから地方債を発行しなくてもいいという団体があれば税率を下げられるのですが、そうでないところは税率を下げられないという、これも変なんです。
 だからこれは早晩改めなければいけないことで、多分これは改まると思いますけれども、それだけではなくて、もっともっと私は、地方団体のこれからの税というのは歳出と連動する、税と歳出が連動しながらお互いのバランスで成り立つという、そこにチェックが働く。税が上がるのならば必死でものを納税者の人も見ますから、そういうチェックが私は大切だろうと思っております。
 それを議論するのは議会、だから議会というのは重要になってくるわけでありまして、そんなことも念頭に置きながら、今私は議会との間で新しい試みをやりとりをしておりまして、その結果が条例の否決という非常にめでたいといいますか、そういう結論にもなったわけでありますが、そんなことをやっているわけでありまして、今皆さん方のところでそういうことは発生しないかもしれませんが、近い将来必ずそうなるはずですし、そうならなければならないと私は思っております。ぜひそういうことも念頭に置きながらこれから仕事をしていただきたい。決して固定資産税の税率というのは不変ではない、一定ではないということでありまして、住民サービスとの関係でこれから大いに変わり得るということ、そのことをぜひ認識をしておいていただければと思います。

5.地方分権時代における制度運用のあり方−完全無欠主義を排した柔軟な思考−
 時間が来ましたが、あともう一つだけ。制度を運用するに当たってぜひ柔軟な思考、柔軟な考え方で臨んでいただきたいと思うのです。
 どういうことかといいますと、とかく役所は完璧主義に陥ります。今の制度は完璧なんだ、間違いないんだ、自分たちのやっていることは間違いないんだということについ陥りがちになってしまって、何か文句が来たりクレームが来ると、それを極端に忌み嫌うという風潮がありませんか。
 私は今自分で行政をやっていまして、大勢の職員と一緒にやっています。そうしますと、職員にもいろいろ、それこそ能力にも力量にも度量にも差がありますから、みんながみんな完璧にやれるわけではありません。しょせん人間のやることですから、どうしても間違いが出てきます。その間違いが出てきたときに、間違いがないのだというふうに完璧主義になりますと、間違いがあるはずがないということになりますと、役所は非常に硬直的になります。
 何か文句を言われても、文句を言った方が悪い、そんなことはないはずだ。余り言ってくると、あれは何か変わり者だというふうな処理をしてしまう。しかし、私なんか痛切に感じますが、人間のやることですから、私自身にも間違いがありますし、職員にも間違いがあります。間違いがあったときに、その間違いをしなやかに直すという仕組みが私は大切だろうと思うのです。特に地方分権時代になるとそうです。
 固定資産税でもそうでありますが、土地が1億7,000万筆ぐらいあるはずです。それから家屋が6,000万棟ぐらいあるのでしょうか。そうすると課税客体というのは2億3,000万、土地と家屋だけであるわけです。それを一時に大量に評価をするわけです。これで間違いがないはずがないです。大勢の職員がかかわって、2億3,000万筆を扱うわけでありまして、1%間違っていたら幾らになるのでしょうか、230万ですか。1%間違ってそんなにあるのですね。0.1%でも23万件あるわけですね。それぐらいは絶対あるはずなんです。
 そうしますと、不服申し立てというのはもっともっと出るべきなんです。今が異常なんです。平成6年のときに何かわあっとなってものすごく出たとかいって自治省の人がびっくりしていましたけれども、本当はそんなものメじゃないのです。100万件ぐらい出てもおかしくないのですね。
 それは、大量のものを短期間で評価をするといいますと、やはりそういう間違いがある。間違いがあるかもしれないから、間違っていると思ったら納税者の人から言ってきてくださいと言った方が絶対コストは安いのですね。
 それを、一々全部2億3,000万筆を間違いないように精密にチェックして、完璧にやろうと思ったらものすごい膨大なコストがかかります。ところがそれをある程度のことでやっておいて、間違いがあると思ったら納税者の方から申請してくださいと言った方がよほどコストは楽なんですね。低いはずなんです。そういう仕組みをとっているわけです。
 ですから、不服申し立てなんかも快く受け入れていただきたい。それで、言ってこられたら、ああ、なるほど違っているなと思ったら直してあげればいいのです。それを、不服申し立てが出たら税務課長の恥だ、おれの代にそんな不服申し立てなんか絶対出させないといって威圧をしたり、皆さんのところでそんなことはありませんか。それは絶対直していただきたいと思うのです。
 それで役所が間違っていると思えばスムーズに直せばいいし、それから、相手が誤解していると思えばちゃんと説明すればいいし、そういう対応をしていただきたい。これはもう税に限りません。私は今そのことを痛切に感じます。
 納税者が言ってこられる中にはいろんなのがあります。今県民室というのを設けて、何でも言ってきてください、それは提案でもいいし文句でもいいし、情報公開の請求でもいいし、クレームでもいいし、何でもいいから言ってきてくださいと言って、いろんなものが玉石混淆です。誤解もあります。マニアの人もいます。生きがいにしている人もいるのですが、でもやはり、間違っていますよと言って、なるほどなというのもあります。なるほどなというのは直しています。でも誤解のものにはちゃんと手紙を書いたり説明したりして、あなたの誤解です、これはこうなっているのですよと説明しています。結構大変ですけれども、その方が長い目で見ると非常に楽であります。
 ですから皆さん方もぜひ、今やっている行政というのは決して完璧ではない、これは一人ひとりの人間が完璧な人がいないと同じように、その人間の集団でやっている仕事というのも決して完璧ではありません。間違いがあります。間違いあるということを前提に世の中の仕組みというのはできているはずなんですね。それが不服申し立てであったり異議の申し出であったり、固定資産の場合は、評価ですと評価審査委員会に対する申し出であったりするわけですね。そういうものが制度全体を円滑にするためのバイパスになっているわけでありまして、そういうバイパスを否定しないようにしていただきたい。そのバイパスが制度全体を生き生きとさせる大きな要素になっているということをぜひ理解をしていただきたい。
 中央官庁なんか特にそうなんですが、とかく完璧主義で、絶対間違いがないはずだということで臨みますから、そこら辺で、ちょっとしたことなのに制度全体に不信感が生じたり、うまく機能しなくなったりするということであります。
 地方分権時代には、さっきから言いましたように現場が大切、当事者が大切、その当事者の考えていることを、おっしゃっていることをよく耳を傾けて、役所も謙虚になって、そして間違っていると思ったら謙虚に直す。間違ってないと思ったら堂々と説明をする、こういう対応をぜひしていただきたいと思います。

おわりに
 まだまだいろんなことをお話したいのですが、もう時間も超過いたしましたので、これぐらいにしたいと思います。
 私もまた帰りましてすぐ、明日からは災害復旧対策にまた全力を挙げます。全国の皆さん方から本当に今までも大きなご支援をいただいておりますが、ぜひこれからも被災を受けました鳥取県、それから実は島根県の東部も一部の市町村は同じように大きな被害を受けております。
 今回鳥取県西部地震ということで名前がなっておりますが、実は隣接した島根県の東部地方も大きな被害を受けております。岡山県の北部、一部でありますが、これも大きな被害を受けております。あわせて皆さん方のご支援を賜りますようにお願いを申し上げまして私のきょうの基調講演を終わらせていただきたいと思います。
 ご清聴ありがとうございました。