評価センター資料閲覧室

第6回固定資産評価研究大会 パネルディスカッション討議録

「実務現場から見た資産評価」

 コーディネーター 前川 尚美  地方財政審議会委員
 パネリスト    福井 康子  都市経済研究所 主任研究員
 パネリスト    賀山 眞宜  鳥取県総務部税務課参事(市町村税制担当)
 パネリスト    古屋 和彦  大阪市財政局主税部固定資産税課長
 パネリスト    岡部 庚次  高崎市財務部参事兼資産税課長(不動産鑑定士)
 パネリスト    兵谷 芳康  総務省自治税務局資産評価室長
   
   
1.  目的・趣旨
   前川 本日のパネルディスカッションのコーディネーター役を仰せつかりました前川でございます。
 何分こうした役割は不馴れでございますので、あるいは皆様方にご迷惑をおかけすることがあるかとも思いますけれども、ひとつご協力をいただきましてこのパネルディスカッションを進めさせていただきたいと存じます。
 大変申し訳ありませんが、座って進行させていただきたいと存じます。
 皆様ご承知のように、地方税としての固定資産税、既に半世紀以上の歴史を持っているわけでございます。この間、我が国の経済発展に伴い、また、それに付随し関連する諸々の税制改革に伴いまして、固定資産税も幾多の変遷を遂げてきてまいっているわけでございます。
 ご承知とは思いますけれども、市町村税の体系の中で、基幹税としては固定資産税と相並んで、住民税が挙げられております。この両者で、時期にもよりますけれども、市町村税全体の8割から9割を占めるということで、非常に大きなウエートを持っているわけでございます。
 戦後の新しい税制、シャウプ勧告に基づく税制が発足して以来、昭和30年代頃までは、この両税の中で比較いたしますと、固定資産税の方がシェアが高い時期が続きました。その後、40年代から50年代、60年代と、経済発展に歩調を合わせて個人住民税あるいは法人住民税を合わせた住民税の方が、シェアが大きくなるという時期が続いてまいりまして、平成2年がちょうどその乖差がピークになった時期でございましたが、その後の経済情勢の変化、あるいは土地事情の変化、固定資産税を巡る諸々の環境の変化等がありまして、次第にその乖差が縮まりまして、平成10年度に至りまして、再び住民税と固定資産税のシェアが逆転し、固定資産税の方が住民税を上回ると、こういう形になってきております。
 昨今の状況を見ますと、この情勢がしばらく続いていくのではないかという気がするわけでございますが、特に注目すべきは、最近におけます固定資産税の税収の減少傾向でございます。これも、今後こういう形で続いていくことになるのか、あるいは、どこかの時点でまたターニングポイントを迎えるのか、今から予測することは非常に難しいわけでございますが、いずれにいたしましても、この固定資産税は住民税と並んで市町村の行政サービスの主要な支え、その財源ということになっていることは疑いもないことでございます。
 この固定資産税が、これから先もそういった主要な役割を果たしていけるようにするためには、何といいましても、納税者の皆様方にとって、固定資産税がわかりやすい、信頼をして納税できる、そういう税であり続けることが必要であろうかと思うわけでございます。
 昨今、税務行政に限らず、地方自治体の行政万般にわたりまして、透明性の確保、あるいは情報の公開といったようなことが強く要請されてきております。
 固定資産税におきましても、納税者の立場から見れば、やはり信頼して、安心して納税できる、そういう環境を実現していくことが必要ではないかと思われるわけでございまして、その場合に、やはり一番大切な固定資産税の鍵になりますのは、何といっても資産の評価、その前提としての資産の把握という問題もございますけれども、資産の評価、これが非常に重要なことであることは間違いない事実でございます。
 固定資産税の歴史の中で、この評価を巡って様々な創意工夫、研究が行われ、学問的な領域から実務の現場にわたってまで、今日、成果が重ねられてきているのは皆様ご承知のとおりでございます。
 この固定資産税の課税の基礎となります資産の評価を巡りまして、昨今強く要請されておりますのは、やはり一層の適正化・均衡化あるいはその効率化を図るということであると同時に、評価のプロセスの透明化に努めるということと、それから、それに相まちまして、あるいはそのことによって、納税者に対する説明責任を適切に果たす、こういうことが必要になっているわけでございます。
 皆様方、日常の執務の中で、あるいは民間の方におかれましては固定資産税に様々な角度からご支援いただく中で、ご尽力もいただいているということでございます。
 しかしながら、その実情を見ますと、一方では固定資産の評価基準が非常に複雑でわかりにくい、そういう面があるのではないか、あるいは市町村の規模や職員の構成、あるいは当該団体の人事政策等によりまして、評価をする体制というものが非常に組みにくくなっている、そういう実態もあるのではないか、といったような問題点が最近浮かび上がってきております。
 そういうことから、今回、このパネルディスカッションにおきましては、「実務現場から見た資産評価」という大きなテーマの下で、切り口といたしましては「簡素でわかりやすい評価方法」と「効率的で納税者に対して説明責任を果たし得る評価の体制」、そういった二つの視点から実務現場に即して議論を交わしてまいりたいと、このように考える次第でございます。
 この二つの問題でございますけれども、これからの進め方といたしまして、「簡素でわかりやすい評価方法」のテーマにつきましては、対象物が土地・家屋、償却資産もあるわけでございますけれども、このディスカッションの場では、土地と家屋についてそれぞれ分けて議論を進めさせていただきたいと思っております。
 「説明責任を果たし得る評価体制」の問題につきましては、その現状と課題、それから、それに対応するいろいろなご提言といったようなことについてそれぞれ議論を交わしていただければと、こういうふうに思っているわけでございます。
 そこでまず、この「簡素でわかりやすい評価方法」というテーマで、土地の評価の問題について、それぞれ実務現場で経験しておられます土地評価の現状と課題についてご意見をお伺いしたいと思うわけでございます。
 パネラーの皆様の着席の順とは関わりなく、ややアトランダムになりますけれどもお許しをいただきまして、まずは都市における実情を中心に、高崎市の岡部さんからお願いしたいと思います。
   
2.  土地の簡素でわかりやすい評価方法
   岡部 それでは、地方都市において実務に携わっている者の立場から、土地評価の現状と課題についてお話しさせていただきます。
 宅地の評価、特に路線価評価におきましては、平成6年度の7割評価以降、群馬県内では各市で不動産鑑定評価手法や重回帰分析等の統計分析を援用しましたシステム評価が主流となっているところでございます。
 本市におきましても、昭和63年度の評価替えからそれまで売買実例を収集し、精通者意見価格を参考に、達観評価により職員が路線価の価格付けをしておりましたものを、民間業者が開発いたしました土地評価システムを導入いたしまして現在に至っているところでございます。
 当該システムにおきましては、価格形成要因を分析し、高崎市に適合した土地価格比準表を作成し、統一的・客観的基準により路線価評価を体系的に処理することとしております。
 なお、本市におきましては、用途地区の区分におきまして、固定資産評価基準に定められております区分よりさらに細分化した用途を設けており、現在、17の用途に区分しております。特に本市におきましては、群馬県が車の保有率が全国一ということから、モータリゼーションの発展によりまして、レストランや自動車販売業、スーパーマーケット、ガソリンスタンド等の自動車関連施設をはじめといたします沿道サービス施設の進展が著しく、背後地と異なる価格形成がなされているところから、国道や主要地方道といった幹線を中心に、「路線商業地区」「路線併用地区」「幹線商業地区」「幹線併用地区」等の呼称で用途地区の細分化を図っております。
 このような地域では、敷地面積も1,000平米から3,000平米といった、非常に大きい地積でございます。間口も奥行きも、広く長いものでございます。しかしながら、当該用途地区にありましても、画地計算上は固定資産評価基準に定められております用途区分に応じまして、「普通商業地区」「併用住宅地区」の補正率を適用しているところでございますが、標準的規模の面から適切ではないと感じており、できれば地域性を考慮して、この部分の改正が行われればと考えております。
 また、画地規模に応じての格差につきましては、現在、市場性を考慮しまして用途別に補正率を作成し、適用しております。
 一方、最近の固定資産税に対する納税者の意識としまして、評価において個々の土地の個別的要因を適切に反映した精緻な評価が求められるようになってきております。例えば、高台の団地造成をした土地の所有者から、「我が家の敷地の一部は擁壁部分が傾斜地となっており利用できないが、評価上考慮しているのか」といった質問が寄せられたり、「自宅近くに墓地があるが、取引価格にも影響があると思うが、固定資産税の評価では考慮されているのか」といったような質問も寄せられております。
 市長の定める所要の補正によりまして処理できるものは、個別に対応しているところでございますが、すべての土地につきまして個別的要因を正確に調査・把握することは難しいところでございます。「簡素でわかりやすい評価方法」に逆行いたしますこのような精度の高い評価を人的、時間的、かつ技術的に限られた中で実施することは難しく、大量一括評価の算定評価とされてきました固定資産評価において、どこまで取り入れていかなければならないのか、悩みのあるところでございます。
 なお、宅地の評価にありましては、都市計画法の改正に伴う既存宅地制度の廃止による市街化調整区域での限定宅地等の問題がありますが、公法上の規制の程度をどのように評価に反映するか、現在、他市町村等の状況を調査しているところでございます。
 一方、高崎市は東京から100キロメートルの北関東の地方都市でございますが、年間20万平米から30万平米の農地が宅地等に移行している、まだまだ発展途上にある都市でございます。
 このため、宅地の評価もさることながら、宅地の価額を指標といたします市街化区域農地、宅地等介在農地、雑種地等の宅地比準土地の評価にあって、各地目の評価が市場性を反映した適正かつ均衡の取れたものとしていくことが当面の課題でございます。
以上でございます。

前川 ありがとうございました。
それでは、続けて、大都市におけるそういった観点からの問題点ということで、大阪市の古屋さん、お願いします。

古屋 今、岡部さんが言われました評価方法と大都市においても、基本的には同じでございます。
 路線価の付設につきましては、民間の鑑定業者に委託しまして比準表を作成しまして、それに基づきまして標準宅地の格差率を求めて電算システムより各路線価を付設しております。
 次に、画地計算法でございますけれども、これにつきましては、先程、段々精緻になってきているという話がございましたけれども、実は大阪市におきましても、いわゆる7割評価以前、平成6年以前でございますけれども、市長の定める所要の補正につきまして、数えてみますと6項目でございました。
 その中には、かつての自治省の通達に基づくものもございましたので、あまり独自な補正は少なかったと思いますが、現在では、数えてみますと13項目ということで、倍以上に増えております。
 なぜかといいますと、先程の7割評価以降、評価基準上は標準宅地の価格を評定するに当たって鑑定評価の活用することとなっておりますけれども、そのために個別でいろいろ納税者との交渉の中で精緻なことを求められてきており、そのため所要の補正が増えてきているということがありまして、今の流れで行きますと、どんどん細かなことを求められてくる。一方、固定資産評価は大量一括ということで、ある程度の割り切りが必要ではないかと思うわけですけれども、そのあたりの兼ね合いが非常に難しいと感じております。

前川 ありがとうございました。
 続けてお伺いしたいと思いますけれども、鳥取県の賀山さんには、県内の市町村を幅広くご覧になっていての問題点の認識ということでご発表をお願いしたいと思います。

賀山 鳥取県には39市町村、4つの市、31の町、4つの村となっております。路線価方式でやっているのが、そのうち9団体、市4つと、あと5つは町村という状況であります。
 市町村の方といろいろつき合って感じたことということでお話しいたしますが、土地の評価については、これは土地の現況調査を十分やっておかないといけないということは皆さんご存じだと思います。これは、地方税法408条にも規定してあります。
 私のところは、市町村に例えば交付税検査というのがありまして、こういったところに出掛けて検査をしてみますと、幾つか地目の誤りなどが見受けられるのです。
 例えば、宅地が駐車場等の雑種地になっているにも拘わらず、普通の宅地のまま評価をしていらっしゃるとか、あるいは、雑種地が畑になっているのに雑種地として評価していらっしゃるとか、あるいは、農地が宅地等に転用許可を受けているにも拘わらず普通の一般農地として評価をしていらっしゃるとか、あるいは、課税地であったのが非課税地、道路等になっているのにも拘わらず課税していらっしゃる等々見受けられまして、本当に市町村の方で十分に現況調査をやっていらっしゃるのだろうかとちょっと心配をしているところでございます。
 もう一つは、いわゆる7割評価ということなのですが、これは鑑定士の評価で行っていらっしゃるのですけれども、町村の方で土地の評価が不動産鑑定士にもう任せ切りになってしまっている、そういったことがどうも見受けられる。
 例えば、その土地を担当している方は、その土地の利用状況を十分掌握していらっしゃるはずなのです。納税者から、その土地の評価についていろいろ尋ねられたら、それをちゃんと説明する責任があるわけですけれども、なぜか「これは鑑定士さんに聞いてください。」とか、あるいは「鑑定士さんがやっているので正しいんです。間違いないんです。」という説明をしていらっしゃるところが、見受けられるというようなことがあるようです。
 また、これはちょっと評価とは離れるかもしれませんが、この評価については電算を導入していらっしゃるところが多いですけれども、これは評価額までどんどんと計算しまして、非常に担当者としては省力化が図れていいのですけれども、これが長い間のうちに、もうちゃんとプログラムが組まれていて、電算が正しいのだと思っていらっしゃる担当者の方があるようでして、その土地の評価の制度、あるいは負担水準まで含めてそういうところが変わっているにも拘わらず、そのソフトを変えていないとか、それに気が付かないとか、そういったことも時々見受けられる、そういった意味でちょっと心配しているということでございます。
 以上でございます。

前川 ありがとうございました。
 それぞれの実務の現場で感じておられることをただ今ご発表いただいたわけでございます。
 土地の評価の一つの方法として、市街地宅地評価法によれば、やはり路線価の付設の仕方、あるいは画地計算における所要の補正の仕方、納税者の意向を体して正確あるいは詳密になればなるほど方法が複雑化するという、簡素化という観点からすれば相矛盾した作業をしていかなければならないということで、非常に悩みの多いところだと思われますし、また、鳥取の賀山さんからお話のありましたように、地目の認定というそもそも基本の問題でさらに慎重を期すべき点もいろいろあると、そういう実情を披瀝されたわけでございますが、こういった現状に対しまして、長らく固定資産、特に評価の問題について学究的な立場から研究を進めていらっしゃいます福井さんに、できれば諸外国の状況等も含めてご発表をお願いできればと思います。

福井 土地評価につきましての現状や課題ということを、少し大きな立場からお話ししたいと思います。
 一つは、行政の評価の現場といたしましては、前の年、それからさらにその前の年、その業務をずっと継続してきているので、その延長線上でものをどうしても考えてしまう傾向があると思います。しかし、それをいったん離れて、この10年、一般国民として我が国の不動産市場というものを振り返ってみて下さい。これほど大きな激変の波を受けた時はなかった。それは、もう誰にでもわかることだと思うんです。
 土地だけに限ってみましても、今までとは全然違う、全く違うと言っても良いぐらい新しい流れがあると思います。
 例えば、一つは、これまで更地が一番価値が高いものだったような価値観がありましたけれども、今はどうでしょうか。むしろ実際に取り引きされているのは、稼動して収益を上げているものはきっちりした価格でもって取り引きがあるけれども、今から建てなければいけないような更地などには、ほとんど食指は動かされないで、毎年毎年価格は下がっている。こういった市場が現実なのでありますし、また、肝心の価格体系そのものも、十数年前まで常識とされていた価格水準が、今一番先端のマーケットで取り引きされているところの価格水準とは全く合わない、全然違う価格体系で取り引きがされている。このような旧来的な価格水準が崩壊しているという現状を、固定資産の現場ではどういうふうに考えて引っ張ってきたらいいのかということを考えねばならないと思います。
 それから、今の2つの大きな流れがどういうふうに結実しているかといいますと、結局、収益還元という、最近ではやっとポピュラーになりました新しい価格体系、価格の評価の方法、これが台頭してきて、見る見るマーケットに浸透してきている。この新しい流れも、固定資産税の方でどう考えるのか。これもまだ、全然手付かずであります。
 社会全体で、多分、グローバリゼーションだとかグローバル的な大競争時代というのは、一ブームではなくて、これからもますます強まって、その中で地方経済がどんどん空洞化して、疲弊の波にある市町村の方が多い、また、経済全体はデフレである、こういった中で、どれぐらいの負担水準に持っていくかという大きなテーマは別としましても、不動産、土地の評価だけ見ても、市場全体がもう今は音を立てて変わろうとしている。これに対して、標準宅地の評価に鑑定を入れたということだけで安住していていいのか。
 これをもっと言いますと、はっきり言って今マーケットで信頼されているのは、収益還元のほうが主流でありまして、公的評価、特に公示地基準値は今、信頼性が低下しているところなのです。
 ところが、固定資産税の現場は、その公示地価の7割というところで拠って立っているわけです。もうこれが成立して長いからといって。この制度が、このまま誰からもクレームが付かずにずっと温存できるかどうかというと、お役所の皆さんはどう考えるかわからないけれども、マーケットの厳しい目からすると、かなり脆弱な基盤であると思います。
 なので、やはり根本から見直す時に、いろいろ前提条件が今は変わってきているのでどうするかを今は、考え直す最適のチャンスではないかと思います。

前川 ありがとうございました。
 不動産評価の根底に立ち返ってからのご意見を頂いたわけでございますが、ここで、現状と課題についてそれぞれご発表いただきましたので、そういった論点を踏まえて、「簡素でわかりやすい評価方法」として、それでは一体どういう手法があり得るのか、そういう観点から、それぞれまたご発表をお願いしたいと思います。
 トップバッターで、岡部さんからどうぞ。

岡部 個別的要因が非常に重視される中で、宅地評価において簡素化を図ることは非常に難しいところであるわけでございます。
 私どもの市では、現在、納税者対応におきまして評価の適正化を証明するために、時には鑑定評価書の開示はもちろんのこと、路線価評定におきます価格形成要因に関わります格差率を表示した路線価評定結果もお示しして、納税者のご理解をいただいているところでございます。
 そして、個々の土地の画地計算におきましても、今現在、定められている補正率の適用以外に、方位格差だとか、あるいは土壌汚染の問題等、土地の個性を重視した不動産鑑定評価と同じ様なレベルの評価方法が求められている現状の中で、さらに納税者の疑問に適切に応えていくには、「簡素でわかりやすい評価方法」に反するかもしれないですけれども、理論的に精緻なものにしていかなければならないのではないかと感じております。
 その反面、先程申し上げましたように、一括大量評価とされてきました固定資産評価において、どこまでそういった精緻なものを取り入れていかなければならないのかということで、非常に疑問を感じているところでございます。
 結局、簡素で公平・公正な土地評価というものは、納税者に十分理解されるものでなくてはならないのではないかと考えております。
 また、本市では、先程最後に申し上げました宅地比準土地の評価にありましては、引き続きまして地目間の評価のバランスと市場性を考慮しまして、造成費の他一定の割合で算定する「簡素でわかりやすい評価方法」にしていくというふうなことで考えております。
 以上でございます。

前川 ありがとうございました。
 それでは、続いて古屋さん、お願いします。

古屋 まず、1点目は、先程申し上げました鑑定価格の及ぶ範囲というあたりがもう一つはっきりしていない。そのあたりが、評価が依然としてすっきりしたものにならない一因ではないかと考えております。
 鑑定評価の活用の目的は、標準宅地の水準を揃えるために使うわけですから、そのあたりをはっきりさせて、そこから先は固定資産税が独自の道を歩めるようにすることにしないと、簡素化はなかなか難しいのではないかと思います。
 もう一つ、路線価の付設でございますけれども、このことに関しましては、今の評価基準は総合評価で細かいことは書いておりません。そういう意味では、言葉は悪いですけれどもブラックボックスのように感じられる部分があるかと思います。
 今、私どももそうですし、多くの市で比準システムが採られているかと思いますけれども、それを参考にして、路線価の付設の項目、要因を整理していただいて、それを基準化する。反対に、それ以外の要因については見る必要がないといった整理がされて基準化すれば、かなりの簡素化が図れるのではないかと思います。
 それから、先程福井さんが言われました「公示に右へ倣えしていたのでは信頼されない。」という趣旨のお話がありましたけれども、我々実務からすると非常に難しい部分がございますのは、土地基本法第16条は、もう今は過去のものなのか、そこまで言ってしまうのは難しい面があるかなと思う次第でございます。

前川 ありがとうございました。
 続いて賀山さん、お願いします。

賀山 「簡素でわかりやすい」という面では、特に私からは言えないのですけれども。言えないとは、あまりいい考えがないのですが、ただ、心配しているのは、今、宅地の標準地等の図面の公開が法定化されました。
 ところが、よく考えてみると、農地とか山林、鳥取県等は市部を除けばかなりの部分が山林や農地なのですが、ここについての公開はどういうふうになっているのか。
 これもいずれは公開していくということにしないと、宅地だけ公開というのは、何か納税者から「それはおかしいのではないか。」という声が聞こえるのではないか。今後の課題としてそういった、やはり公開することが納税者にわかりやすいという面もあると思いますので、ぜひ農地や山林についてもそういう公開という方向で検討していただきたいと思っています。

前川 ありがとうございました。
 これまで、お三方から様々な論点についてのご意見を発表していただいたわけでございますけれども、幾つかありましたが、特に鑑定評価の適用範囲、あるいはその活用方法、あるいはその内容の公開、説明の仕方が、透明化という観点から見れば非常に大きな意味合いがある、そこを今後どうするかという提起が1つあったように思われます。
 また、路線価付設の問題につきましては、現行の評価基準があまりにも概括的過ぎて、もう少し細分化して使い易いもの、あるいは環境条件等その他の条件の分析を進められて、使い易いものにしていただいてはどうかと、こういうお話もございました。
 いずれも非常に重要な課題でありますし、今日ここで全てを論じ尽くすことは時間の関係もあって困難だと思います。後ほどこの問題については、兵谷さんからご発表をお願いしたいと思いますけれども、その前に、先程福井さんからご発表のありました中に、固定資産の評価として収益還元法をもう少し真剣に考えて取り組むべきではないかと、こういうお話がございました。今日まで、学会を含めていろいろな方面でその問題が論ぜられていることでもあります。
 この際、市町村の評価の現場で実務に携わっておられる方々が、この問題についてどういうふうに見ていらっしゃるか、そこら辺をお伺いしてみたいと思います。
 大都市の中でやっていらっしゃる古屋さんからいかがでしょうか。

古屋 収益還元法については言葉からすると固定資産税の性格が、不動産を売却してその中から支払う税金ではなくて、不動産から得られる果実から払うであろう税金であるという意味では、非常に言葉としては馴染み易いことからよく論じられていることだと思います。
 そういう意味では非常に合う部分はあるのですけれども、今の固定資産の土地の評価は基本的には更地評価という考え方がございます。
そういう中で、先程取り引きの中心が更地ではなく建て付け地が多くなってきている、つまりマーケットが変わってきているということであれば、段々そういうものが重要視されてくるのは当然のことかなと思うんですけれども、今のルールである更地評価の原則の基では、やはり建て付け地に向いたやり方は、少し合わないのではないかと思います。
 それからもう1点、これは、元々昭和38年に今の制度が定められたときに収益還元法が馴染まないといわれた理由が、今もあてはまるのではないかと思うんですけれども。1つは賃料の把握が非常に難しい。例えば、同じビルの中でも継続賃料があり、新規賃料があり。昔は新規賃料の方が大体高かったみたいですけれども、最近では、反対に新規賃料の方が安くなる場合がある。そういう中で賃料の捕捉が果たして正確にできるのか。
 もう一つは、還元利回りあるいは割引率についての設定が難しいこと。
 もう一つは、不動産を巡る環境について、これは収益還元、将来のことを一定予測して現在の価格を出すわけですから、その予測という部分については、非常に専門的な知識が要る。ですから、我々固定資産税担当の職員が算定することは不可能に近いのではないかと思いますし、また、そういう予測の部分を固定資産税の評価に入れた場合果たして信頼されるのか、あるいは、透明性といった部分で耐えられるのかといったときには、非常に難しいのではないかと考えております。

前川 ありがとうございました。
 市で資産税業務に携われ、不動産鑑定士としてもいろいろ勉強なさっている岡部さんに、両方の立場を視野に入れながら、と言うと大変問題が複雑になりますから、市の税務課長という立場で結構でございますので、ひとつ地方税の立場からご発表をお願いします。

岡部 大阪の古屋さんのお考えと大体同じような形になると思うんですけれども、収益還元方式では、多くの収益事例を収集しなければならないところです。賃貸用の不動産だとか、あるいは企業用の資産についてはある程度収益還元法で賄えるところがあると思うんですけれども、家賃や地代の事例にありましても、現在、公的機関で収集しているものは無いところでございます。この辺が地価公示制度などと違うところでございますけれども、また、家賃等におきましても、先程ちょっと古屋さんも触れられましたけれども、類似地域においても格差があるところから、標準的なものと認定するのが非常に難しい部分があるところでございます。
 また、現在、標準宅地の鑑定評価を鑑定士の方にお願いしているところでございますけれども、不動産鑑定士の方から報告されます鑑定評価書を見ますと、現在、ほとんどの方が収益還元方式では直接法による土地残余法を用いてやっているわけでございます。基本的にはパソコンを利用して、共通のソフトで自動的に収益価格が出てくるような形で使っているということでございますけれども、純収益の把握におきましては、近隣地域や周辺の類似地域の賃貸事例から標準宅地の実質賃料を求めることになるわけですけれども、この際、賃貸事例比較法に拠らなければならないということで、収益方式と言いながら、比較方式としての比準の考え方も適用されているというような部分もございます。
 収益還元方式は、固定資産税の応益原則に適合した理想的な方法でありますけれども、市町村で適用するには、将来予測だとか経済成長、あるいは物価変動を反映した適正な純収益や還元利回りの把握といった専門的な知識・判断・想定、こういうものが必要とされることから、市町村においてこれを採用することはちょっと難しいのではないかと感じております。

前川 ありがとうございました。
 今、市で実務に携わっておられるお二方から、この収益還元法導入の問題についてコメントをお伺いしたわけですけれども、先程それに触れられました福井さん、何かコメントございましたら、どうぞ。

福井 今、両方の市の方が、現状では収益還元、やりたいけれども、それができたら理想かもしれないけれども、データその他の面で制約があるとおっしゃるのは当然ですよね。
 我が国では、長らくはっきり言って賃料をベースとした賃料の市場と不動産の実物価格の市場が全く乖離して、本来だったら2つが連動して、うまくお互いにチェックして、賃料というものを挟んで両市場がうまく収斂するというような経済でなければならないのが、いつの間にかずっとキャピタルゲイン1本で全て解決というような、偏った市場構成をしてまいりましたので、それまで収益還元ということがやりたくてもデータ上難しいと。これは正しいことなのですけれども、幸い、この数年、実際にマーケットで取り引きされている価格のほとんどが収益還元の収益価格、また、それの事例もすごくたくさん蓄積されてきて、もう適正な還元利回りの把握というようなことも決して難しいことではありません。データがある程度溜まってきましたので、こういった町のこういった不動産なら大体何%といったレベルまで今では求めようと思えば求められる時代に入ってきているのです。
 何より、マーケット自体が収益還元で成立していく時代が、今後定着した場合、納税者の意識がそちらに立脚することになるわけですから。私はアメリカにほとんど毎年のように行って、行く度にこういった全国規模の評価大会というアメリカ版のがあるのですが、それにも出て、その前後に主要な都市を訪問することを繰り返してきましたので、大体20近く都市を回ってヒアリングしているのですけれども、どの町も、収益用の、事業用の不動産は全部収益還元でやっているのです。
 どうしてかというと、結局それがマーケットだからと。マーケットが、収益価格で成立しているからということなのです。アメリカにおける固定資産税の評価のテキストも、収益用不動産は収益還元法でとなっています。もちろん、鑑定のようにDCFということをする必要はない。もうごく簡単に、要るのは純収益が幾らかだけなんですよね、結局。
アメリカで大々的に市町村が収益還元で評価できていることの秘密の背景は3つありまして、1つは、純収益のデータを不動産オーナーから申告してもらえるようになっているのです。州の法律で決まっているので、自動的に評価部局にそれが集まってくるのです。だから、何の苦労も要らない。もちろん出さないところもありますけれども、出さない不動産オーナーに対しては、市町村が好きに、高くつけていいということになっていますので、当然出してくるわけです。
 では、あとのキャップレート(還元利回り)は何なのだと。DCFではないですから、単純法を使っていますので、それを割るだけなのです。キャップレートはどうするかというと、これは登記簿に価格だとか税額の記載がなされていますので、キャップレートの把握とは、データ会社が幾つもありまして、そこがもう定期的に非常に低廉な契約料で市町村に対してデータを売ってくださいますから、年別・不動産種別のキャップレートは正確なものが入るのです。とにかく収益還元法でやれば、収益用不動産はもう誰でも評価できるのです。何の手間もかからなくて、頂いたデータで、正確にコンピュータですぐ価格が出る。
 非常に羨ましい環境なのですけれども、多分、日本も、今はそうなっていないのでとても羨ましい、そこまでいくわけないと思うかもしれませんけれども、もう今年に入って、国土交通省の土地の情報を束ねるところの新しい局長が、やはり価格の履歴は整理しないといけない、法務局登記簿に載らないのはやっぱり不動産マーケットに対して正しい物差しではないということで、そこを積極的に取り組むというようなことをご挨拶されていましたし、情報開示がいかに不動産のマーケットの流動化にとって重要かということも次第にいろいろなところで浸透してきましたので、多分この価格やデータという面でのハードルは、近々無くなると思うんですね。
 そうすると、またさらに収益還元というマーケットが広がるし、もうそれが主流という、一般レベルに落ちてくる時代はもうすぐそこまで来ているのではないかと思います。

前川 ありがとうございました。
 現状ではまだ環境が十分整っていないが、近々そういう状況に次第に移行してくれば、収益還元法も具体的現実の問題として視野に入ってくるのではないかということですが、仮にそういうことになった場合には、現在の評価基準は相当内容が変わることになりましょうかね、その点についてのコメントをひとつどうぞ。

福井 大幅に変わると思いますね。アメリカでは、カナダもそうですけれども、とにかく不動産を、住宅のような居住用の不動産と収益用の不動産というふうに、まず2つを大きく分けてしまうのです。で、収益用の不動産は収益還元でやりますので、土地と建物とを別々に把握する必要はないのです。把握したければ、別にチェック機能としてまた調査をかければいいことですけれども、もうメインの評価額は収益還元法で出ますので、そちらには膨大な手間とか時間をかけないで、簡単にコンピュータで正確に出ます。
 こちらの居住用の不動産は、収益還元でなくても、住宅ですから、たくさんの取り引き事例が年中あるので、これは取引事例比較法でも充分できる。一般の人の分りやすいレベルで。
 向こうの人は大体住宅価格のセンスも広まっていますし、日本人のように不動産に対して一生に一度の買い物で価格の水準の知識もあまり無いというようなレベルではなく、結構、価格の目を一般納税者の人達が大体持っていますし、マーケットでもそれは頻繁にわかるような、入手しやすい情報なので、そちらは納税者にもわかる評価で評価額が決定するという、ごくプレーンな世界で評価額が決まる。まず、その大別からストーリーが始まるというシンプルな構造になっています。

前川 アメリカの実例等も引き合いに出されながら、いろいろお話を伺ってまいりました。また、各市の現場でどのような課題に直面し、それに対してどのような対応策、望ましい提言としてはどのようなものがあるか、というようなことについて種々お話を伺ってまいりました。
 ここで、兵谷さんにひとつお話をお伺いしたいと思うわけでございますが、今まで述べられました問題点の指摘なり、あるいは、それに対応する提言、あるいはご意見について、今後どのような形でこれらの問題について検討し、あるいは対応していかれるか、そこら辺についてお話をお伺いできればと思います。

兵谷 やっと声を出すことができて、ほっといたしております。
 今、非常に評価を詳しく研究されております福井さん、あるいは実務の立場から賀山さん、古屋さん、岡部さんから大変貴重なお話を伺った次第です。
 まず、評価の前に固定資産税についての現状を少しお話ししたいのですが、皆様もご存じのとおり、固定資産税は市町村の基幹税制でございます。今や市町村民税を抜いて、決算額で言えば平成11年で45%を占めていますし、都市計画税を合わせますと52%ですから、市町村税のうち半分がこの固定資産税関係ということでございます。
 まさにシャウプ勧告、これは税制の勧告であったと同時に、地方自治の強化の勧告でもあったわけですから、その中心となる市町村の財源として、シャウプ勧告が狙ったとおり、まさにうってつけの固定資産税がその役割を果たしてきたということだろうと思います。
 ただ、平成12年には、これもご存じのとおり、固定資産税の減収の時代に入りました。これまで固定資産税とは増え続けるものと思われていた方が多いと思いますけれども、現実に減収する時代に入ったわけでございます。12年度以降、土地については、13年、14年と連続して下がってきておりますし、そういった中で、税だけでなく地方交付税という、これもまさに地方税とともに一般財源の大宗をなしているわけですけれども、この地方交付税も、総額マクロで減ってきている時代になっております。
 特に小規模団体については段階補正という、ややこしいですが、そういった内容の見直しによって、特に地方交付税が相当減っているという、非常に財政上厳しい状況の中で15年度の評価替えを迎えているわけでございます。
 残念ながら、今回評価替えしても、土地・家屋とも、恐らく減ることは間違い無いという状況です。土地は、地価公示、地価調査等、ご存じのとおりですね。11年連続になりますが下がっておりますし、家屋も、資材費とか労務費が下がっておりますから、これも減ってしまう。
 そうした中にあって、経済界、あるいはその関連省庁から、さらに制度上の引き下げを行ってくれと。例えば商業地等の負担水準の上限でございますけれども、今、70%をその上限としているのですが、これは地価公示からすれば、7割評価の70%、つまりトータル49%、約半分が上限であるわけですけれども、さらにその70%を引き下げろと。例えば55%に下げろと、そういった要望、声も出されているわけでございます。
 まともに評価替えをやっても、確実に減ってしまうという状況の中で、こうした声に対しては、我々としては非常に厳しい態度で臨まなければならないと感じております。
 前置きが少し長くなりました。
 評価については、ご存じのとおり土地については、7割評価を実施しております。これにより、潜在的に今まであったのではないかと思われていた市町村間のアンバランスが改めて表に出ました。そのことを顕在化させたのが、この7割評価です。
 しかし、おかげさまで、評価の方は、これにより揃ってしまったわけですね。全国的に揃ったという状況ですが、実は税額の基になる課税標準は、それに追いついていない。つまり、負担水準のアンバランスが生じてしまった。これを何とかしないと、税金として公平性の問題、同じ評価額なのに税額が違うというこの不公平を克服できないということで、負担水準の均衡化・適正化といったことを、今、一生懸命進めております。
 これは、スピードアップしなければならないだろうと。税自体の公平性の問題に加えて地方交付税に関しても言われておりますが、モラルハザードの問題ですね。評価を低くすれば、逆に交付税が増えてしまう、そういった問題にも関係してまいりますので、この負担水準の均衡化をもっとスピードを上げて進めていく必要があるということでございます。ただ、この負担水準があるレベルに収束した場合、その後をどうするか。今の地価公示等に追随する評価手法、7割評価を続けていくのかどうかといった問題が今後の課題になろうかと思います。
 しかし地価公示は、今後も活用していく必要がある。評価水準をチェックするという意味では必ず必要になると思いますが、7割評価云々というのをやっていくかどうか。
特に鑑定評価は、ご存じのとおり個別評価、あるいは1点の評価というものでございますが、固定資産税は、土地は1億7,000万筆もあるわけですから、いわゆる大量一括評価、面的評価になるわけですので、どうしても一致しないという面が出てまいります。これを今後どういうふうに解決するかといったことが今後の大きな検討課題になろうかと。
 これも、負担水準が収束して後にどういった方法をとるかということで、これからの課題ではないかと思います。
 同時に、所要の補正というお話がありましたが、古屋さんから今、倍になってしまったというお話もございましたけれども、全国、全市町村では、約6,800を上回る数の所要の補正がございます。
 その中でも一番多いのが、画地条件に関するもので、例えば、接面道路(目の前の道路)との高低差、あるいは種別、その道路が行き止まりであるとか、あるいは幅員の問題であるとか、あるいは舗装されているかどうかとか、そういった種別等によって補正を行っているもの、これらが約1,800余りあるわけですね。
 あるいは用排水路があるかどうかと、そういったものによるものが700余りあると。さらには、法令上の規制、高圧線の下にあるとそういったものでも、600余りあるわけですね。もっと多いのは、私道の問題です。私道については、不特定多数の人が利用できるかどうかと、こういったことで評価に差をつけている。これも約840ぐらいあるわけですが、こういった非常に多い所要の補正といったものについては、多くの団体で導入しているということですから、できるだけ評価基準のほうに取り入れていくことができないかといったことが一つでしょうし、もう一つは、逆にほとんど導入されていないようなものについては、整理・合理化できないのかという問題も検討されてよいのではないかと思います。
 ただ、この所要の補正とは、先程の鑑定評価と固定の評価の間を埋めるものといいますか、そういった役割も担っておりますので、これがあるから、複雑だから、これは駄目だと、なかなかそう一概には言ってしまえない、一定やむを得ない面もあるのかなと考えております。
 先程言った問題点、鑑定評価とそれから大量一括である固定の評価、これをどう折り合いをつけていくかということも、今後の課題ではないかと思います。
 現在、私ども、この両者の違いといったものを、洗い出しておりまして、それが額的にどう響くかといったことも調査・研究しておりますので、その結果を受けまして、今後の評価のあり方といったものも検討していきたいと考えております。
 それから、ちょっと長くなりますが、収益還元方式のお話が出ましたので。収益還元方式は、私ども一般に言っておりますのは、還元利回り率とか標準的な収益額の設定が難しいと。これはやろうと思ったらできますよというお話も伺ったのですが、ただ、それを公的に裏づけられるかどうかといったことがあろうかと思います。その担保をどうするかといったこと、それから、不動産の賃貸市場等の情報があまりにも不足している。それが大量一括評価を前提とする固定資産税に馴染むかどうかといった問題があるということが、私ども、一般的に、また、対外的に申し上げております。
 実際、収益還元を加味した方法、各国で採られている国がございますが、例えばフランスで見れば、これはまあ収益還元というよりも、現実の賃貸価格を基礎に置いているのですけれども、ただ実際、フランスの不動産税を見てみますと、1970年、つまり昭和45年の評価替え以来、実質的な評価替えを行っていない。未だに、昭和45年の価格を引きずっている状況です。実は、それから20年後の1990年、つまり平成2年ですけれども、一度評価替えを行ったのですが、評価替えを行った結果、相当税収が動いてしまうということで、実施できていない。事実上、未だに、その45年の価格を引きずっているという現実があります。
 それから、ドイツにおいては、ドイツの財産税は統一評価額といったことで、収益価格方式を加味しているのですが、これも実は1964年1月1日の価格、つまり昭和39年ですね、フランスよりもっと古い、こういった価格を現在でも使っている。
 これは、ドイツの州の財産税ですけれども、あまりにも他の金融資産等と比べて格差があり過ぎると。つまり、安過ぎるということで、連邦憲法裁判所から違憲の判決を出されまして、現在も執行停止になっているという状況であります。これらの国を見ましても、建前は立派であっても、実態はそうではないということが言えるのかなと思います。
 ただ、ここからは私個人の見解で、役所の人間が個人的見解を言っていいのか分りませんが、収益還元方式が確立できるのであれば、先程福井さんからお話があったように居住用、収益用と分けられるわけですけれども、収益用で使えるというのであれば、使ってみるということもあるのかなと思います。
 ただ、これには前提があって、何といってもやはりまだ不動産情報、データが圧倒的に不足しているという状況がございます。こういった情報・データをきちんと報告してもらう、それを義務化する、こういった制度がやっぱり最低限必要かなと思います。
 しかも、もう一つ肝心なことは、こういった制度を導入するのを、税制のために導入するということでは、国民の理解は絶対得られないだろうと思っております。まさにマーケット(不動産市場)を活性化するという意味で、例えば売買や賃貸借をしやすくするのだと。つまり、個々の皆さんの不動産が、非常に活用しやすくなると。これからは利活用が中心になる、つまり、利用価値の問題でしょうから、その利用価値を高めてあげると。そういった意味で国民にメリットがあることが皆さんのコンセンサスとして得られればということだと思います。
 ですから、どちらかと言いますと、国民に最も忌み嫌われやすいといったら語弊がありますが、そうした税制度でもって導入するのではなく、国民の皆さんがメリットを享有できる、そういったシステムを不動産の関連法令でもって構築していただいて、税としてもそれに乗っかってわかりやすいシステムができるのであれば、これは大いに検討してみたいと思うわけでございます。
 以上でございます。

前川 ありがとうございました。
 兵谷さんから、固定資産評価を巡る諸問題の検討の現況について、幅広くご意見をお伺いしました。
 特に、収益還元法の導入の問題については、アメリカのみならず、大陸諸国の実情もご披瀝いただきながら、やはり日本の場合には不動産取引市場の成熟、あるいは不動産取引を巡る諸制度、税ではなくて諸制度の成熟、そういうものと併せて検討の課題になってくるという趣旨のご意見と承りましたが、いずれにいたしましても、今後の課題であろうかということだと思います。
 所要の補正の問題については、納税者の公平を求める納税者意識と、それから簡素・効率化といった執行側の問題意識、両方の兼ね合いの中で、簡素・効率化すれば納税者の理解も、より容易になるのではないかという一面もありながら、現状では、むしろ精緻の方に向かうことがかえって公平感に適う、こういう状況にもあるということもございました。
 いずれにしましても、この問題、会場の皆様方もそれぞれご関心をお持ちの問題であると思いますし、お互い今後とも、今日限りの話ではなくて、研究・検討を重ねていきたい、こういう課題だと思います。
 
   
3.  家屋評価の現状、課題と簡素でわかりやすい評価方法
  前川 土地の問題につきましては、他にもいろいろご議論があろうかと思いますけれども、時間の都合もございますので、この程度にさせていただきまして、次に、家屋の問題に移らせていただきたいと存じます。
 まず、家屋評価の現状や課題、それから、それに対する「簡素でわかりやすい評価方法」のあり方、こういった点について、両方を合わせた形でそれぞれご意見の発表をお願いいたしたいと思います。時間の関係もありますので、できれば六、七分ぐらいでお願いできれば大変ありがたいと思います。
 それでは、初めに高崎市の岡部さんからお願いします。

岡部 高崎市では、新増築の家屋評価にありましては、平成3年度より家屋調査表に基づき、パソコンに図形情報を入力することで、自動的に評価を行います民間業者の開発しました家屋評価図形計算システムを導入して、部分別評価を行っているところでございます。それによって家屋評価の簡素化、あるいは統一化が図られているところでございます。
 当該システムでの入力では、木造で平均35分、非木造で平均50分ぐらい必要とするわけですけれども、アルバイトの職員にも任せられるぐらい、非常に簡明なものでございます。評価において個人差が出ないのが特徴と思います。
 また、家屋調査を補正する資料といたしまして、本市では3年に1回、航空写真を撮影し、これに基づきまして家屋経年異動判読を、これも同じく業者委託で行っているところでございますけれども、それによりまして新増築の家屋だとか、滅失漏れの家屋の把握を行っているところでございます。
 一方、最近、家屋は資材の開発が非常に著しく、3年に1回の評価替えによる評価基準では対応できないような新しい資材も多くなっているところでございます。仕上げを見ただけでは、判断することが非常に難しいわけでございますけれども、例えば工場生産のプレハブ住宅のように、メーカーが独自に開発しているような資材もあるわけでございまして、なかなか対応が追いつかないところもあります。プレハブ住宅のようなものは、隣接の市町村間で格差が出ていると非常に問題があるわけでございまして、群馬県内で市町村の協同で比準評価によって整合性を図っていければと考えております。
 また、最近、賃貸店舗等における所有者とテナントの間における、家屋と償却資産にかかわります分離課税の関係があります。民法242条の例の附合の法理があるわけでございますけれども、実際の認定はなかなか困難で、所有者とテナントの間の合意によって課税を行っているところでございます。
 また、なお家屋にありましては、古くなってもなかなか評価額が下がらないという苦情が多く寄せられるところでございますけれども、この辺も中古建物の市場価格等を調査して、実態に近いものに改めていくことが今後の課題ではないかと考えております。
 いずれにしましても、家屋評価は非常に経験を要する、専門的かつ技術的な業務でございます。職員の人事サイクルが短縮化している中で、使用資材について的確に把握、あるいは調査・把握できるベテラン職員が非常に育ちにくくなっているわけでございますけれども、このような中で、簡素な評価方法はぜひとも必要な事項でございます。評価におきましても、新人職員とベテラン職員との間に著しい開差が生じないような簡素なものにしたいというようなことで、今回、平成15年度の基準年度の改正は大いに助かっているところでございます。
 以上でございます。

前川 ありがとうございました。
 続いて、古屋さん、どうぞ。

古屋 大阪市におきましては、評価額の見込みですけれども、1億円以上の大規模な家屋につきましては、部分別評価によりまして、それ以下の比較的軽易な建物につきましては比準評価によっております。
 実務上、課題といいますか、難しい部分は見積書にいろいろな製品が書かれておりますけれども、その製品のどういうものが評価基準の項目に上・中・並等いろいろランク区分がございますけれども、どういうランクに当たるのか、そういったところがなかなか目安が無いものですから、それをどこに当てはめるのか、あるいは、補正項目において施工の程度や施工量の多少による補正がございますけれども、並とはどの程度の仕上げであれば並なのか、あるいは施工量の多少とはどのくらいの量であれば標準なのかといった部分が明確に示されていないものですから、そういうものを見極めていくには、かなりの経験が必要ですので、人事サイクルが短くなることで、難しくなっている部分があるのかなと感じております。
 それから、納税者との関係でいきますと、よく一般に再建築評価方式が難しいと言われているわけですけれども、同じ建物が建てば、それに対して同じ評価する、そういう基本的な考え方については納税者の理解を得ているのではないかと。同じものであっても、例えば取得価格方式であれば、値段が違うというのが前提になろうかと思うんですけれども、「同じ金額になるように評価していますよ。」ということについては、かなり理解は得られているのではないかと思っております。
 反対に納税者からの不満があるのは、3年ごとに評価の見直しをしまして、特に古い建物ではなかなか価格が下がらないということで、実際には大阪市内でも評価が下がっている建物の割合の方がずっと多いのですけれども、古くからの建物をお持ちの方などは下がらないということでのご不満はあります。
 ただ、これも固定資産税の税負担をいただくための評価と考えた時に、例えば、使用されてはいるものの古い建物で、取り引きするときには、取引価格でみると無い方がましだというような家屋について、「評価額がゼロで、固定資産税の負担がないというのが公平ですか。」と話をすれば、大概の方は、「いや、そんなことはないけどな。」ということで、固定資産税の負担を求めるための評価を行っていることについては一定理解はされていると思いますので、税制度としての時価という考え方と固定資産税の評価というあたりがもう少し整理されれば、難しいとかややこしいとか、いろいろ言われますけれども、理解されているのではないかと考えております。

前川 ありがとうございました。
 それでは、次に賀山さん、お願いします。

賀山 現状と課題については、今、お二人がお話しされたとおりでございますが、この度、専用住宅の評点項目が500以上あったのが3分の1以下になったということで、今度の評価替えについては新しい基準でということになるのですが、これについては、やはり専門性、あるいは専門的な知識が必要ではないかと思っています。
 現在、鳥取県の市町村で評価員、これはちょっと評価制度の話と重複してしまうかもしれませんが、評価員を設置していらっしゃるところは、39のうち15団体です。あとは置いていないということでございます。
 しかしながら、評価員を置いている団体も、結局は本当の評価員ではなしに、いわゆる税務課長、税務を担当している課長が当て職的になっていらっしゃる、こういうことです。
 こういった評価員制度そのものを、今の評価制度は評価員制度が採られているのですけれども、どうもこのあたりがうまく活用されていないなというのが鳥取県の実情です。
 したがって、特に町村では、いわゆる評価担当者が1名や2名ですので、評価の軸となる者がいない。評価員という軸が無いわけですね。そうすると、そういう専門的な知識を持つ職員がなかなか育たない。それから、評価担当者間の評価のバランスにばらつきが出てくる。また、市町村同士の団体間のばらつきも出てきている。
 それから、やはりこの新しい基準でやっても、やはり達観評価ということがよく言われると思いますけれども、この達観評価についても、やはりそういう評価経験の浅い職員の方がいらっしゃると、補正項目、施工量とか程度区分、こういったものの評価がうまくやられていないということがあるようです。
 本当はこういう状態ですから、どういうふうにしたらいいのかということで、実は昨年の9月に市町村の職員と、県は県税職員、不動産取得税の関係をやっていらっしゃる方、全部で8名で、いわゆる「納税者から信頼される家屋評価を目指して」ということで、固定資産の評価研究会を立ち上げました。そして、今年の3月に、その研究結果の報告書を出しました。これについて、また後で少し触れるということになりますが、そういったところでいろいろ検討を行ったということでございます。
 以上でございます。

前川 ありがとうございました。
 家屋の評価につきましては、会場の皆様大多数の方は平成15年度の基準年度から適用すべく大幅な改正が行われておりますことをご存知ですが、これから先の議論の都合もありますので、その概要について、簡単に、兵谷さんからご説明をお願いできればと思います。

兵谷 それでは、今回、家屋の評価基準、大幅にその簡素化を図ったわけですが、大きな点は特に2つあります。
 先程もお話がございましたが、木造の評価基準表の評点項目を大幅に整理・合理化いたしまして、約3分の1程度に減らしてしまったといったことが1点です。
 それからもう一つは、在来分家屋の評価替えに当たりまして、前の再建築費評点数に乗ずべき率があるわけですけれども、これを各市町村ごとに定めると、こうしていたわけですが、これを評価基準の中に位置付けまして、1つの評点補正率を用いるということで、この率を算出するということがなくなって市町村の作業が大幅に軽減されたといったこと、これらが大きな特徴でございます。

前川 ありがとうございました。
 以上のような改正があったわけでございますが、実際にそれを運用なさってみて、どのようなコメントをお持ちか、また、さらに将来に向けてどういう検討が必要か、そこら辺に焦点を合わせて市の実務担当者の立場からご意見をお願いしたいと思います。
 古屋さん、いかがでしょうか。

古屋 まず1点は、在来分家屋の評価替えですけれども、これは国において0.96という乗率を全国的に決めていただきまして、大幅な事務の簡素化に繋がったということで評価しております。
 従前は、乗率用の標準家屋、それぞれ用途・構造ごとに持っておりまして、それを新しい評価基準に基づいて置き換え作業をしまして、その変動率でもって乗率を大阪市独自で決めていたわけですが、そういう置き換え作業が一切不要になったということでございます。
 それからもう1点の、3分の1に木造の住居専用家屋の評点項目が簡素・合理化されたということでございますけれども、これは本市だけをとりますと、新築されるほとんど大部分の家屋が非木造の家屋、それも住居系だけでなく、それ以外の事業系の建物がかなり多く建ちますので、そういった面では、あまり恩恵はないのかなと思います。また、同じような資材が木造のほうは簡素化されて、例えばクロスであれば1種類しかないが片や非木造であれば、まだまだ品等分けがあるといったふうに、今はアンバランスな状態かなと思います。
 今回の木造の簡素化をまず第一歩にしていただいて、今後、非木造とかそういう全般的な簡素化につなげていただければ、全体的な家屋の評価が簡素化するのではないかと思っております。

前川 ありがとうございました。
 岡部さんの方は、いかがでしょうか。

岡部 古屋さんと同じような考えですけれども、在来分家屋の再建築費評点補正率が0.96と統一されたことによりまして、今までサンプリングによります標準家屋による再建築費の評点変動率を算出していたわけですけれども、その辺が大幅に事務処理の短縮が図られたということでございます。
 それから、木造の家屋の再建築費評点基準表の簡素化、先程来出ております3分の1に評点項目がなったということから、非常にわかりやすいもので、経験の浅い職員でも、適切に資材の鑑別が行えるようになって、調査時間の短縮が大幅に図られているのではないかと考えております。
 その反面、評価が平均化してしまい、家屋の品等格差が表し難くなって、高級な建物と建売住宅のような建物の評価に実態ほどの差がなくなってくるのではないかと考えております。
 以上でございます。

前川 ありがとうございました。
 家屋の評価の現状については、今、お聞きになられたとおりでございますが、研究者のお立場から、福井さん、いかがでしょうか。

福井 再建築価格方式でどれだけ現場が苦労されているかは、つぶさにあちこちで聞いておりますので、本当にご苦労に頭が下がるのですけれども、納税者の方からそれを見た時には、幾ら一生懸命やっているとか、すごく正しいからといって、そのご苦労様に対して納得するというレベルの話ではないわけですから、ブラックボックス化してしまっては何にもならない。再建築価格方式の中には、専門性がどうしてもつきまとって離れないですよね。資材だとか、仕上げだとか、また、その程度に応じては、今度は恣意性が入ってくる、主観が入ってくる。
 そういった2つの大きなデメリットが、どうしても拭えないので、それよりは、この際、再建築のような、ごくまじめな、すごく膨大な手間暇のかかる方式をいったん横に置いて、納税者レベルでわかる評価、納税者のごく一般の常識の範囲で価格が出せる評価方式、こういったものを模索してはどうかなと思います。
 例えば、一番簡単なのは取得原価ですよね。幾らで買いましたかというような、本人に申告させるわけですから、本人は後でクレームの付けようが無いわけですけれども、市町村の側は、それを基に、そのまま採用する。余りに安いかなと思うようなことがあれば、サンプリングで少し調査をかけて再評価してみるとかというようなことであれば、抜本的に評価の事務が軽減されると同時に、納税者からのクレームは減るということがあると思うのですね。心配されるのは、税収減になったらどうしましょうというふうなこともあるかもしれませんけれども、その時は、あとは税率の話で、固定的に考えなければいいかなと思うのですが。
 また、もう1つは、韓国的な、もうちょっと簡単な、一般の納税者の感覚で住宅なりを大まかにグルーピングして、簡単に言えば松竹梅というような、とても良いもの、それから少し良いとか、平均的なものとかというような、だれにでもわかるような大雑把な括りのランクに分けて、それの建築の平米単価というものを何らかのデータに基づいて公的機関が出して、その中に入り込むものについては、もう全部同じ平米単価でやってしまう。簡単ですよね。そういったことも、将来は考えられるのではないかなと思います。
 少なくとも、とにかくブラックボックス化を排除して、数年しか配置されない、ごく一般の職員の方でもすぐ評価の実務につけて、しかもその成果が納税者にとってわかりやすい、こういったことを目指すべきではないかなと思います。

前川 ありがとうございました。
 家屋の評価につきましては、今、いろいろと各パネリストの皆様から発表がございましたように、まずは15基準年度に向けて在来分の評価について、木造については再建築費評点補正率の適用によって非常に評価が簡素化されたということがございますが、その他の分野については、なお現在の基準表をもとに評価をしていかなければいけないという問題がございます。その中では、相当高度な経験がなければ的確に運用ができないという問題もまだ残っているのではないかと思われます。
 そういったことから、例えば熟達した職員の減少、経験不足といったようなことに対応する対策として、一つには、例えば評価の共同化といったようなものも考えられるのではないかと思いますけれども、それと併せて、何を基準に評価をするかという基本の問題もあろうかと思います。そういった点について、鳥取県では、先程ちょっと触れられましたけれども、いろいろご研究があると承っておりますので、その概要について、ひとつ簡単にご紹介をいただければと思います。賀山さん、どうぞ。

賀山 共同化ですね。先程申し上げました研究会、ここで検討したのですが、鳥取県内の市町村の数は39と申しましたが、私、今の市町村税を担当したのが昨年からで、実は13年ぶりになるのですけれども、だから13年前といいますか、以前と比べまして、実は町村の税務課というのは、かなり無くなっているのですね。これにはびっくりしました。昔は財政と一緒になって、というのがありましたけれども、住民課、町民課といいますか、そういう事務と税とが一緒になっているのが19団体あります。これにはびっくりいたしました。これは、恐らく行財政改革とかいったものが影響しているのかなとは思いますけれども、そういったことと、それと先程言いましたが、家屋の評価の担当者というのは、町村では1名か、または2名。丸々2名ではないのですけれども、1名から2名ということで、いわゆる自分達が家屋の評価を実際に勉強したいという職場内での研修、これができないということになる。日々が職場研修ですので、これができないという状況にある。
 それから、人事異動のサイクル、これも十数年前は10年組とか15年組の経験の方がいらっしゃって、逆に言えば私が市町村の方から教えていただくというような方もいらっしゃったのですが、今はもう3年程度で変わっていらっしゃるというような状況です。
 そういったところで、やはりこれは何とかしなければいけないという話があったわけです。そうすると、どういう方法があるのかなということで、これはやっぱりそういう数少ないところ同士が、連携してやればいいんじゃないか。その1つの方法として、広域連合とか、一部事務組合もあるかもしれませんが、そういうものをつくって、そこで家屋の評価とか、あるいは研修も含めて、共同でおやりになればいいのではないかというような話、こういうことを検討していったらということです。

前川 ありがとうございました。
 それで、その研究の中で、評価の方式としては、取得価格方式を導入する方が、より分りやすいのではないかということがあったようでございますけれども、そこら辺についていかがでしょうか。

賀山 それについて2つほど話が出まして、今の取得価格方式と、それから平米単価方式、これが議題になったのです。
 その中で、取得価格方式、これは先程福井さんがおっしゃられましたが、納税者に非常に理解されやすい。なぜかといいますと、本人が申告して、その申告に基づいて評価を決定するとこういうことになりますので、取得価格が基になっていくわけですね。非常にわかりやすいし、いろいろ説明する必要もないということになるということで、評価担当者の専門性というのが必要でなくなってくるということと、それから申告ですので、いちいち評価しに行ったりということは必要無くなりますので、行政コストも削減できるのではないかとか、そういったことがあります。
 平米単価については、やはり納税者にどれだけ理解していただくかという、この辺が難しいなと。なぜ1平米幾らなのか、どうやってその説明をしていくのかといったようなこともあるので、担当レベルでは、平米単価の方が簡単でいいですけれども、どちらかというと取得価格方式がいいのではないかという意見が、研究会の中では多かったです。
 ただし、やはり導入に当たっては、いろいろな問題があると思います。
 以上です。

前川 ありがとうございました。
 取得価格方式導入について、前向きにご検討なさったということでございますけれども、この問題については、こういった課題で検討される場では必ず素材の一つとして上がってくるテーマではございますが、これについては、また、いろいろな検討すべき項目も同時に挙げられているようでもあります。そこら辺について、ひとつ兵谷さんから具体的にお願いしたいと思います。

兵谷 それでは、家屋の評価の簡素化ということで、取得価格方式はどうか、これは過去からいろいろ検討課題にも上がってきたわけですけれども、私どもとしては、現在はまだ難しいのではないかと考えています。その理由は、取得の際の個別的な事情というものに相当差があるといったこととか、あるいは賃貸料にしても、それによる収益というものは相当格差があって、それがまた明らかではないということがあろうかと思います。先程収益還元のところで申し上げましたが、特に不動産情報の正確な報告義務といったことが担保されない限りは、なかなか難しいのかなと。今やっている賦課決定方式、私どもが評価をし、そして税額を決定し、そして徴収するというこういう方式と、納税申告方式、納税者が申告をし納入をすると、こういった2つの方法があると思いますが、結局、取得価格方式というのは、最終的にはこの納税申告方式になってくるのかなというように考えています。それができるためには、申告をしていただいた価格が適正かどうかといったこと、鵜呑みにはできないということで、売り急ぎ、買い急ぎとかもあるでしょうし、その辺をチェックする、検証すると。適正な時価かどうかわかりませんが、一定の中に入っているかどうかといったことを検証するシステムが要りますし、それはとりもなおさず、私どもがある一定程度評価の実態を知っていなければ難しいのかなと思います。
 何よりも申告制が一番問題なのは、これは国民の方の本当にコンセンサスを得られるかということです。先程の課題にも戻りますけれども、現在償却資産では、申告制をとっています。これは実際、相手が各法人、企業です。これは法人の企業会計制度、あるいは法人税の申告といったものと連動しておりまして、法人は減価償却の計算をする必要がございますから、そういった意味である程度信頼ができるというか、やらざるを得ないといったものがあるのかなと思いますが、これを一般の国民の皆さんに、同じ様に自分の家屋を申告してもらうという制度は果たして取り得るのかどうかと。確定申告を国民の皆さんが総べてやるというふうなシステムが出来上がって、皆さんがこういった申告制に慣れていただければ、可能かなという気もいたしますけれども、現在の状況でこの申告制というのをとり得るのかなと考えますと、私どもとしては、なかなか難しいのかなと思っております。
 ただ、そうは言いながらも、家屋の評価というのは、実際非常に難しい面がございます。木造は最近簡素化いたしましたが、非木造については、まだまだ手を付けていない。これはこのままでいいとは思いませんので、一定やっていきたいのですけれども、なかなか木造家屋ほど簡単にはいきません。木造の場合、規模がある程度揃っていますけれども、非木造は、まさに今回丸の内にできたような丸ビルとか、あの程度の規模の大きいものもありますし、小さなものもあると。規模が全く違うという点、あるいは種類も全く違いますし、その建物の質の差というものも相当大きいと。そういった中で、木造家屋ほど簡単にはなかなかできないかなと思います。木造家屋の場合は、簡素化ができたのは最終的にサンプリング調査をした結果、既存の方法と新しい方法とで評価額の差が0.3%しかなかったといった結果も踏まえて、これは実施に踏み切れるという点があったのですけれども、その点で非木造はなかなか難しいのかなという気もいたしております。
 そうは言いながらも、簡素化というのはまさに時代の要請でございますので、私どもとしても研究していかなきゃいけないと。特に先程もお話のあった平米単位での方法、これは事務所、工場なんかですと、先程言いましたように規模とか種類が全く違ってまいりますけれども、住宅という面では、規模も大体揃っているということから、評価額にそれほど大きな差が出ないのであれば、一定思い切ってやるという手もあろうかなと思いますが、これもまだ研究をしてみる必要があるというふうに考えております。
 いずれにしても、簡素化の方向に向かって私どもも進んでいく必要があるということは、まさにおっしゃるとおりだと思います。

前川 ありがとうございました。
 家屋の評価の問題について、いろいろお話を伺ってまいりました。土地の評価の問題も含めて、現在、各地方団体で当面しておられる課題についてご発表いただいたわけでございますが、問題はそれだけには限られないと思います。
 本日の議論で、はっきりしてまいりましたのは、要するに、まずは固定資産の評価の均衡化という観点からは、公的評価制度間の均衡ということを、地価公示価格の7割程度を目標にするということでひとつ解決の道筋をつけろと、あるいは各団体間の均衡化ということでは、ご承知の提示平均価格を指標として、それぞれ進められると、いうことだと思うわけでありますが、その団体の中での均衡化、これがなかなか難しいということがいろいろ出てきたわけでございましょう。路線価を決めるに当たっての比準の方式、あるいは考え方、あるいは画地計算における所要の補正の考え方、運用の仕方、それぞれ団体によって、その事情に応じて様々であるということがあるわけでございますが、今後、ここ数年の間に市町村の大変大きな合併が随所で行われていくということになりますと、合併後の市町村の中における土地の評価の均衡化、家屋の評価の均衡化ということが、また一つの課題として今後出てくるのではないかと思われるわけでございます。合併は今に始まったわけではなくて、これまでもずうっとあるわけでございますし、関係の団体では、それぞれ大変なご苦労をなさってその均衡化の努力を図ってこられているわけでございますが、今後それが全国規模でいよいよ起こるということで、なお一層そういった問題についての検討も進めていく必要があるのではないかと、これは評価のあり方そのものにも関わる問題であろうかと、思うわけでありまして、今日はそこまで立ち入った議論をする時間はとてもございませんでしたが、ひとつ今後の課題として、皆さん共々研究し合うということで残しておきたいというふうに思うわけでございます。
 まず、最初のテーマでございました「簡素でわかりやすい評価方法」という問題につきましては、大変時間がかかりましたけれども、以上で終えさせていただきます。
   
4.  効率的で説明責任を果たし得る評価体制
  前川 次に、2番目の大きなテーマでございました「効率的で説明責任を果たし得る評価体制」というテーマに移ってまいりたいと思います。残された時間は、あと30分前後ということでございます。できるだけ効率的にこのディスカッションを進めてまいりたいと思います。

前川 この「効率的で説明責任を果たし得る評価体制」の問題につきまして、それぞれパネリストの皆様から、それに関する現状や課題、併せてその評価体制等に対する工夫や意見等、そういうものがありましたら、ひとつ手短にお取りまとめいただきまして、順次ご発表をお願いしたいと思います。時間の都合もございますので、大変申し訳ございませんが、大体5分程度を目途にお願いできればと思います。
 先程鳥取の賀山さんから、現在の評価体制の現状を踏まえて、共同化の検討を手掛けられたというお話がございました。その後、それが今どういう形で提案されているか、そこら辺の結びのところをちょっとお話しいただければと思います。

賀山 研究結果の報告書によれば、先程ちょっと申しましたが、広域化する方法として、広域連合とか一部事務組合といった既存の広域組織、これを活用するというやり方でやると。
 ただ、共同する家屋の評価事務なのですが、構成市町村からの依頼を受けたものということでございます。具体的には、多分新築、増築ということになると思いますけれども、ひょっとして改築も含めてということも可能かと思います。そして、評価調書の作成、そして市町村長への提出と。といいますのは、広域的な組織をつくった時には、やはり今現在の評価制度の評価員をまず置きまして、評価員の下にもちろん評価補助員を置く。この補助員が、構成団体の各市町村の方から来るなり、あるいはプロパーを育てるための新規採用というのもあり得るかと思いますが、そういう方法をやっていったらということです。
 それと、この研究会では、木造だけではなしに非木造もやったらという意見が出ておりました。といいますのは、鳥取県では、非木造については県税、いわゆる不動産取得税の方で評価を行って、それを市町村長に通知しているという状況にあります。ただし、市に関しては、非木造の軽量鉄骨ですか、そういったものはやっていらっしゃるのですが、あと町村については、全部非木造は県税が評価をしております。そういったことで、今ある評価制度の評価員を置いて評価員の下に補助員を置く。そしてさらに、評価に対して不服といいますか、苦情がその住民の方からある場合は、固定資産評価審査委員会というのがあるのですが、これもその広域組織に置いてしまおうと。そうしたら、これこそいい体制づくりができるのではないか。これは本来は1つの団体の中にあるべきものですが、なかなか今の小規模の町村ではできないということで、そういったことでやっております。
 もちろん、その説明責任は誰にあるのだという話がありますけれども、当然説明責任は、評価に関しては評価員に直接は説明責任があるのですけれども、ただ、課税するのは市町村長さんですから、納税者が評価に関していろいろ尋ねたりするのは、恐らく広域組織よりは市町村の役場の方に来られると思います。そこで広域組織に振ってしまったら、これは何にもならないので、課税庁であるからにはちゃんと説明する責任があるわけですから、あるところまでは説明して、そして内部の本当に専門的な話になったら、広域組織の方から説明しに来ていただくというような体制をつくったらどうだと。
 こういったことを、今年の3月に報告書を出しまして、今年度は県内の市町村の方々に、この結果についてご説明等をして、今は県が市町村にどうこうやりなさいという指導というか、それはできませんので、できればあくまでも市町村の方から研究会なり検討会を立ち上げて下さいと。そうしたら、県としてはいろいろ支援をいたしましょうと、こういうことを今現在やっております。
 以上です。

前川 ありがとうございました。
 それでは、市の立場から、岡部さん、どうぞ。

岡部 高崎市では現在、私以下、土地担当は13人、家屋担当が15人、償却資産担当が6人、税務証明の関係が6人で、計41人で資産税課の業務を行っているところでございます。家屋は2人1組の5組10人が、年間2,000棟余りの新・増築家屋の調査を行っております。土地にあっては、1人1人が担当ということで、市域110.72平方キロメートルの中の34万筆余りの土地の現況調査を行っております。
 また、私どもの市長の方針で、若い時に税事務の苦労を経験させるということで、毎年、新採用の職員が税関係の課に配属されるわけでございますけれども、常に新人職員の育成ということが問題となっております。また、先程来出ておりますけれども、以前からの問題といたしまして、職員の人事異動サイクルが非常に短くなって、在課期間が短縮化の傾向にあるわけでございます。幅広い行政需要に応じられる職員の育成ということで、ますます在課期間は短くなって、現在4年程になっております。
 また、最近の傾向といたしまして、女子職員が非常に多くなってきております。産休だとか育児休暇がありまして、笑い話になってしまいますけれども、うちの方は今、41人のうち9人が女子職員ですけれども、現在6人の方が育児休暇と産休で居なくなっているところでございまして、課内異動を含めて、私の方でうまく処理をしているところでございます。
 さらに行財政改革の一環といたしまして、本市では、平成16年までに5%の職員の減員が予定されているところでございます。
 そのような厳しい状況にあるわけでございますけれども、本市では、固定資産税の評価事務を支援する業務をいろいろと取り入れているところでございます。昭和63年度以降、主なものといたしましては、土地評価システム、航空写真事業、土地家屋の現況図等、あるいは登記簿の照合委託事業、課税台帳の電子ファイル化、現在はまた、GIS等も既に予定に入っているところでございます。
 適正な評価に欠かせない専門的な知識、あるいは経験を持った職員の育成に非常に反します評価体制におきますこういった問題に頭の痛いところでございますけれども、年々脆弱しております固定資産税の評価体制に対しまして、先程来出ておりますように、ますます専門的、高度になります評価事務に対して、どうしたらいいのかということで、私の方では仕事のマニュアル化を図りまして、初任者研修だとか、内部研修を始め日常の業務に役立てております。
 また、新人職員には、これは市行政全体なのですけれども、チューターとして先輩職員が1年間、仕事と生活の両面を面倒見て直接指導するというようなことで、即戦力の対応に努めているところでございます。
 しかしながら、税に関しますスペシャリストを育成することは、年々厳しい状況になっているところでございます。こういう問題は、県内どこの市でも抱えている問題ということで、県内の11市で都市税務協議会というのを組織しておりまして、その中の資産税部会ということで、各市より固定資産税の関係の諸々の問題を協議したり、あるいは家屋評価に関します共同調査、評価研修を行ったり、あるいは地目認定実例集などをつくったりしております。
 また、本市では、本年度より課税から収納まで事務処理を5年間に渡って一環して処理する税トータルシステムを稼働しているのですけれども、このシステムでは、土地の異動処理を今まで、うちの方は遅れているのでしょうけれども、バッチで処理をして入力をしていたわけですけれども、これをオンライン処理にしましたことから、年間を通じて仕事の平準化が図られているようなところでございます。納税者から預かります貴重な税金を役立てるには、最小の経費で最大の効果を上げなければならないところでございますけれども、このような評価体制上の問題を解決するには、業務の棲み分けを行って、民間に外部委託できるものは外部委託して、専門家の知識と技術を援用して、市町村における時間的かつ人的に欠ける部分をカバーすることが適切ではないかなというふうに思っております。責任の所在などということもありますけれども、そのようなことで、市町村にあっては外部委託できない徴税吏員だとか、固定資産評価員、固定資産評価補助員にしかできない業務、例えば納税者と直接応接する家屋調査、地目認定、住非認定、画地認定といったような現場の調査に全力を注ぎ、課税誤りの無い適正な評価に努めることが、これから情報開示で透明性が高められていきます固定資産税事務において、説明責任を果たし、納税者の信頼に応えていく1つの方法ではないかなというふうに考えております。
 以上でございます。

前川 ありがとうございました。
 続けて、古屋さん、お願いします。

古屋 大阪市の場合でも、先程言われていますように、人事異動のサイクルは短縮化しておりますし、経験者が不足しておるという実態は同じでございますので、そういった苦労はございます。
 ただ、政令市の場合は、一般の市町村と違いまして、評価実務は区役所でやっておりまして、それをとりまとめる本庁がございます。この本庁というのは、一般の市町村の方から見られた県の市町村課とは少し違いまして、本市の場合ですと、例えば土地の評価であれば用途地区の区分、あるいは標準宅地の価格、これは鑑定評価を入れておりますけれども、その調整、あるいは比準表の適用といった業務について区役所の担当者と、全面的に一緒にやるわけではないのですけれども、かなりの部分について共同で作業しています。また、家屋につきましても、区役所ごとに合議家屋と言っていますが、区ごとに非木造1件、木造1件の2件の家屋、24区ございますので48件の家屋になりますけれども、これについて、本庁と区役所と共同で評価しております。こういうことを通じまして、評価の均衡化ということを図ると同時に、一定研修といいますか、目線を合わせていくといった役割を果たしておりますので、一般の市町村の方よりは体制的には恵まれているのかなというふうに思っております。
 また、評価体制の中で、委託の問題があるかと思うのですけれども、委託しますと、非常に効率的で、専門的で、一見良さそうに見えるのですけれども、一方、委託しますと、当該市町村の担当者の能力の向上が図りづらくなっていくという問題と、もう1点は、先程来あったかと思いますけれども、責任の所在という点で、やはり担当者が責任を持ってやるということがどうしても薄くなってしまうといった問題があることから、一長一短、なかなか難しい問題かなと思います。

前川 それでは、ただ今までの地方団体の現況をお聞きになり、また、諸外国の実情なども踏まえながら、福井さんのほうから何かコメントがございましたら、どうぞ。

福井 「効率的で説明責任を果たし得る評価体制」という、このわずか18文字に、盛りだくさんな内容が凝縮されていて、それぞれ1つ1つ重大なテーマなのです。私はこのテーマにつきまして、3つぐらい提案をさせていただきたいと思います。
 いずれも諸外国でなされている現場の例から、自分なりに日本の事情に合わせて考えていたことなのですけれども、まず効率的というところで、納税者をもっと活用すべきじゃないかなと思います。納税者は、決して市町村の評価担当局と対峙する敵ではない。一緒に間違い探しをやりましょうという意味で、納税通知をつくる。100%正しいものなんか決してないと思いますので、積極的に納税者のチェック機能というのを、むしろ当然してもらうべき役割というふうに業務の中で位置付けて、その期間もたっぷりとって、この間に修正をどしどしご指摘下さいぐらいの、非常に前向きのつくり方で納税の通知を出されたらいかがですかね。先程、高崎市さんでしたでしょうか、プロセスもある程度公開してとか、格差率の説明まで入れてとかというふうに、そこまで評価内容を事細かにむしろ出していく、そちらの方が、長い目で見たら均衡化、それから結局は効率的な評価に繋がっていくと思うのですね。
 それから、2番目は、これは全国の市町村にとっては朗報と言ってもいいようなことだと思いますけれども、この資産評価システム研究センターの方で開発されましたGIS――路線価の公開のソフトが、無料で、つい最近全国に配られておりますよね。今までGISを導入していなかったところは、無料で手元にそれが配布されたことになりますし、そのソフトでは路線価が入っていますから、そのまま市役所の中で納税者向けにコンピューターで開示すればよいという画期的なものなので、ぜひそれを活用して、そこでどうやって説明責任を果たし得る体制にしていくかとか、効率的な評価にしていくかの大きな第一歩にしていただきたいと思うのですね。やっぱりこの時代、大量評価で面的評価というと、コンピューターやGISの導入は避けられない。評価の効率を上げるといったら、もう、まずはそこをどうするかが、最初に考えるべきテーマです。それを評価センターのほうで無料で配布しているというこのチャンスを、逃す必要はないと思うのですよね。
 それから、3つ目ですが、この説明責任だとか評価体制の面からは、どうノウハウを蓄積するかですが、やはり3、4年で配置転換になるような市役所の人事育成というのがどうしても避けられないのであれば、もう職員個々人のインセンティブとして、その部署にいる期間の間にいかに自分でブラッシュアップして、能力を早目に身に付けてプロになっていくかという、そこをどうプッシュするかしかない。それはアメリカやカナダにいい例がありまして、全米、それから全カナダで、評価の担当者の方々で任意でつくっている団体があるのですね。IAAOと言うのですけれども、このIAはInternational Associationですからこれは国際機関ということで、その後のAOはAssessing Officersと言って評価の担当者ということなのです。Assessing Officers――つまり、市町村の評価に携わっている職員だということなのですね。彼らが自前で年間何がしかの会費を払って、大体8,000人を超える規模の協会があるのです。もう五十年以上経つ機関なのですけれども、そこにみんなの知恵でつくり上げた、資格制度があります。いろんなコースがありまして、大量評価のコースだとか、資産評価そのものをマネージする管理職のコースだとか、五、六本ありまして、それぞれに通信教育や全米各地で行われている研修を幾つか取っていきますと、ちょうど通信教育と現地教育とミックスになったようなやり方なのですけれども、それである程度単位を取ると、最終試験もあるのですけれども、資格が与えられて、その資格を持っていると、その市役所の中でお給料がアップするのです。ブラッシュアップに見合った待遇を備えている点がすごい。そこを考えれば、個々人のインセンティブが上がるのじゃないかなと思いますし、能力向上にこれ以上無い、やはりこれが一番近道ではないかというふうに思います。
 最後に、今言った3つを踏まえまして、それでも評価体制ということを考えた時には、実例を1つお話ししますと、カナダでは日本よりうんと先に不況が長期化していた時期がありまして、そのときに生まれたのが、いろんな州で市町村が合同で評価の業務だけを独立組織として1つつくりまして、そこに評価担当者が全部移って、そこが独立採算的に評価事務をやると。何が起こったかといいますと、リストラがそれでできるのですけれども、評価の広域化を図ることで人員が半分ぐらいで済むようになったとか、効率がすごくよくなったとか、広域でやるので、均衡化や適正化が進んだとか、それで得られた評価の成果物を売れるようになって、収支構造を改善させていく努力があったとか、そういった実例はカナダの方には事欠かないので、もしご興味のある人には、私のところでもまた、評価センターにもデータが蓄積されておりますので、お尋ねになったらいいかと思います。

前川 ありがとうございました。
 大分時間も迫ってまいりました。いよいよ最後のご発言ということになるかと思いますけれども、ただ今のこの評価体制のテーマにつきまして、総務省でもいろいろ現状を認識され、その対応策のあり方について研究を始めていらっしゃると思います。そういった状況について、兵谷さんの方からご発表をお願いします。

兵谷 今のIAAOの資格制度については、興味深く拝聴いたしました。
 私どもも「効率的で説明責任を果たし得る評価方法」については、まず1つは、情報の開示をするといったことで推進をしております。それは納税者の方の税に対する理解、あるいは信頼を確保するといったこと、あるいは行政の透明性といったこと、さらには私どもの課税、あるいは評価そのものの一層の適正化といったことを目的としておりますが、具体的にはもうご存じの通り、まず縦覧制度を拡充しました。これは従来は自己の資産に限っていた、つまり、縦覧は自己の資産のみであったのが、同一市町村内の土地、家屋については、納税者の方は見ることができるとこういった制度に変えました。また、課税台帳の閲覧制度、これは法文上明記が無かったのですけれども、これをきちんと法令上位置付けまして、納税義務者本人と、その他には、従来は関係者ということで代理人、準ずべき者に限られていたのですけれども、借地人あるいは借家人の方にも関係してくるということで、そういった方にも、いつでも課税台帳の閲覧を認めるといった制度を創設しまして、さらに、同時にその記載事項について証明する制度も創設をいたしております。
 また、路線価図の公開についても、これはもう平成3年から進めておりますけれども、今回新たに標準宅地の位置等についても明示をしていただくというように改定をしておりますし、さらに、課税の明細書なんかも、これも法定化をして、きちんと法律上明らかにしたといったこと等も進めております。
 一方で、評価そのものも、もっと簡単にしてはどうかということにもいろいろ取り組んでおりますが、例えば家屋では、再建築費評価方式というもの、これは理論的には非常に優れた制度、正しい制度と私は今も思っているのですけれども、ただ残念ながらちょっと難しすぎると。幾ら正しくても、住民の皆さんに分らないというものでは、先程来お話のあったブラックボックスではないかというふうになってしまうので、これからのアカウンタビリティー、説明責任が求められる時代に通用するのかといったことを考えますと、また課税庁側も人事異動でどんどん人が変わって経験不足気味になる一方で、住民の方も、これまで私ども行政を一方的に信用していただいていたのですが、これからも、そうであってほしいと思いますけれども、なかなか難しい面があるのかなと。こうしたことを考えますと、公共部分といいますか、公共ということはいかにも公が行うとばっかり皆さん思っていますけれども、そうではなくて、別に公のみが行うのではなくて、NPOでも構いませんし、一般の企業であっても構わないわけですが、その公の部分というのを共にやっていく、まさにそれが公共ということかもしれませんが、公共部分においても相互に協力していく。税の分野についても、そういった協力をしていただくと。先程納税者をもっと活用してはという話をいただきましたが、まさにそういった部分を私どもも考えていく時代かなと思っております。
 多少の理論的な荒さはあったとしても、より簡易でわかりやすい、お互いが、課税庁側も、納税者の方もわかりやすい方式を検討していくということは当然のことなのですが、ただ、問題としては、住民の方がその理論的な荒さをどこまで認めてくれるかと。総論としては賛成でも、各論になると、自分の土地、家屋に対してはバッファーをなかなか認めないと、より精緻な制度を求めるといった傾向がどうしてもございますし、また、私どものこれまでの制度との整合性といった問題、さらには個別の市町村にどれほどの税収の変動があるのかといったことも当然検討しなければいけないだろうと。そういったことを踏まえて、時代の要請を踏まえて、簡素化、あるいは説明責任を果たすといったことが求められますから、これは研究するのは当然ですし、具体的な手法としても、私ども研修制度を充実すると、これは当然のことですけれども、先程来お話があった共同化ということ、これは評価機関を本来別にしてもいいのかなといった議論にも発展するのかもしれませんが、どうしても評価は技術的な面が強く、専門性が要求されるといったことで、小さな市町村ではなかなかその人材の確保が難しい。担当者が1人というところもございますので、その方が研修に行ったら、その代わりを誰がするのかということで、代替要員が居ないとかということもございますから、そういった人材の確保という面からも、こういった共同化、あるいは評価機関をまとめてやってみるということもあり得る手法と思います。
 実際には、難しい問題もあると思います。実際、評価件数が少ないからそんなに人は要らない、外部委託も要らないといった話も聞きますが、これは裏を返せば、そんな少ない件数なのに専門家を置く必要があるのかなと、非常にもったいないというお話もございますから、それは委託したほうがいいのではとなる可能性もありますし、またプライバシーの問題については、守秘義務を課してはどうかとか、さらに市町村の実情がわからないじゃないかという話については、活動する範囲の問題ですから、それはどの程度の規模が適切なのかといった議論ではないかなと思います。
 あと、苦情処理ですね。評価をしないのに、苦情処理だけをさせられるのは適わないというのも、ごもっともな意見なのですけれども、技術的な問題というのは評価機関に説明してもらうと、先程もお話ございましたが、そういったサポートしてもらう仕組みを当然考える必要がございますし、課税庁側もそういった評価機関に実際の説明を求めて、その評価について検証し、チェックをするというのは当然でございますから、そういったことを考えますと、共同化、あるいは評価機関を別にといったことも、1つの選択肢ではないかなと思います。
 ただ、市町村によって事情が違うのではないかと。まさに古屋さんのような大都市では、自前でやっていけると、逆に外部から委託を受けてもいいよという規模になるのかもしれませんし、小さな市町村は、当然その共同化をして、より効率的にやるということも考えていく必要があると。その場合には、今、鳥取県がやっておられるように、県自体も参加をする、今も非木造の大規模なものは、県の税務課が評価をしているという面もあるわけでございますから、県が参加をするということも1つの選択肢だろうというふうに思います。
 いずれにしても、こうした問題は、合併をすれば解決するという意見も一方ではあるように思いますけれども、効率的な評価と、説明責任を果たすという点から、これらの問題を考えていく必要があるのかなというふうに考えております。

前川 ありがとうございました。
 「効率的で説明責任を果たし得る評価体制」ということで、これまでいろいろご議論をいただきました。
 方向としては、どなたも同一の方向を目指しておられるという感じを持つわけでございます。
 いずれにいたしましても、固定資産税に対する納税者の方々の信頼を深め、また、理解を深めていくためには、評価から課税に至るまでの一連のプロセスについての透明性をより一層高めるとか、どの段階でもどの問題についてもきちんと説明して、納税者に理解を得られるだけの客観性を持たせるとか、いろいろそういう要素が入ってくるのではないか。そのための仕組みづくりはどうするか。
一方では、行政改革といいますか、組織改革というのも、税の職場も例外的ではないと思われます。そういう中で、この評価をきちんとし、あるいは説明責任をきちんと果たすための組織体制づくりをどうするか。評価と説明責任、この二つのテーマの中で人をどう配置するかと、こういう問題、あるいは全体として、団体として、広域化も含めてそういう組織立てをどうつくるかと、こういう課題になってくるのではないかと思います。これから積極的にその取り組みが、必要となってくる分野ではないかと思われるわけでございます。
   
5.  おわりに
  前川 本日は、簡素でわかりやすい評価方法のテーマから始まって、効率的で説明責任を果たし得る評価体制のあり方の問題まで、大変幅広いテーマでございまして、与えられた時間内では十分に論議を尽くすことはできませんでした。実際にもう四、五分時間をオーバーとしているような状況でございます。この問題については、まだまだこれから先の検討を深める必要がある課題がたくさん残っていると思われます。パネルディスカッションでございますし、こうして今日は会場にたくさんの皆様にご参加をいただいておりますので、会場の皆様からコメントを頂戴し、あるいはご意見、ご提言を頂戴するということができれば最も良かったわけでございますけれども、時間も超過しているような状況でございますので、そこのところはご寛容いただきまして、ただ、今後の検討を深めると、そのための手掛かりということもございますので、ひとつ本日この会場にご参加をいただきました皆様、それからテレビを通じてご参加をいただきました皆様、本日このパネルディスカッションでテーマになりました課題について、ご意見、ご提言、ぜひともお寄せをいただきたいと思います。主催者である資産評価システム研究センターのほうで窓口となってそれを受け付けるということでございますので、ひとつその機会をぜひご利用賜りますようにお願いを申し上げる次第でございます。
 以上で、大変時間を超過して恐縮でございましたけれども、「実務現場から見た資産評価」というパネルディスカッションは終了させていただきたいと存じます。活発なご意見を本当に忌憚なく、腹蔵なくご発表いただきましたパネリストの皆さん、それから最後までこの会場でご参加をいただきました会員各位の皆様、大変ありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。