V.パネルディスカッション
「固定資産評価基準の今日的意義とその課題」
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コーディネーター |
地方財政審議会委員
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前川 尚美(まえかわ なおよし)
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東京大学法学部卒業
昭和35年 自治省(現総務省)入省
滋賀県副知事、自治大臣官房審議官(税務担当)、衆議院専門員(地方行政委員会調査室長、地方分権に関する特別委員会調査室長)、(財)資産評価システム研究センター理事長、(財)地方債協会理事長
主な著書:「地方税(各論T)」(共著)、「地方税(各論U)」(共著)、「たばこ消費税詳解」(共著)ほか
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現行固定資産評価基準は、昭和39年度の制度運用実施以来、約40年を経過しようとしています。
その間、社会経済情勢の変化に対応し、適時適切な改善等が図られてきてはいるものの、基本的な制度は維持されてきています。
しかしながら、制度自体があまりにも長期にわたるような場合には、制度自体が疲弊したり、あるいは、その本来の目的が見失われ、ややもすれば形骸化することもないとはいえません。
そこで、現行固定資産評価基準について、ここで改めて、土地評価及び家屋評価の中心的な評価手法を中心に、実務の実態等を踏まえながら、学者、研究者、実務家の方々の意見も交えて、これまで果たしてきた役割や意義及びその課題を整理するとともに、今後の展望等について議論を深めていきたいと思います。
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岡山商科大学大学院法学研究科教授 |
石島 弘(いしじま ひろし) |
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・岡山大学法学部教授
・ハーバードロースクール客員研究員(アメリカ学術協議会フェロー)
・ニューヨーク大学ロースクール大学院卒
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(財)日本不動産研究所システム評価部長 |
平舘 勝紘(たいらだて かつひろ) |
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(不動産鑑定士、一級建築士、不動産カウンセラー、マンション管理士)
・昭和45年 (財)日本不動産研究所入所
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大阪市財政局主税部固定資産税課長 |
冨永 浩吉(とみなが こうきち) |
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・大阪市固定資産税課償却資産係長
・大阪市固定資産税課家屋係長
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群馬県前橋市市民部資産税課長 |
田部井 正夫(たべい まさお) |
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・前橋市資産税課課長補佐(土地係長)
・前橋市資産税課課長補佐(家屋係長)
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総務省自治税務局資産評価室長 |
石橋 茂(いしばし しげる) |
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・都道府県税課税務管理官
・府県税課法制係長
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1.はじめに
(1) パネルディスカッションの趣旨
【前川】 本日のパネルディスカッションのコーディネーターを仰せつかりました前川でございます。2時間余りの時間でございますが、ひとつよろしくお願いいたします。
ただいまからパネルディスカッションを開会いたします。今回のテーマは、「固定資産評価基準の今日的意義とその課題」ということでございまして、大変内容の深い大きなテーマでございます。
ここにお集まりの皆様方、既にご承知いただいておりますように、固定資産税は、シャウプ勧告に基づく税制改革によりまして、当時の地租・家屋税、これに償却資産に対する税を加えまして独立の地方税として市町村税とされたわけでございまして、昭和25年に創設をされて以来、今日に至るまで、市町村の基幹税として住民福祉の向上に大変重要な役割を果たしてきておりますことは申し上げるまでもないことであります。
その課税標準は、賦課期日におきます各資産の課税台帳に登録されました価格でございますが、その価格については、地方税法上、適正な時価であることが求められております。この適正な時価、これがどういうものかということにつきましては、ご承知の方もいらっしゃると思いますけれども、昨年のこのパネルディスカッションにおいて、さまざまな角度からご議論なさっておられます。
そこで、今回のこのディスカッションの趣旨は、これをさらに一歩進めまして、適正な時価を求めるために必要な評価の基準及びその実施方法と手続について定めております現行の固定資産評価基準そのものを取り上げまして議論をしていこうということになったものであるかと考えております。
固定資産税の税負担のみならず、課税の基本ともなります評価につきましても納税者の関心が非常に高まっております今日でございます。お手元のパンフレットにもございますように、過去40年以上にわたって果たしてまいりましたこの評価基準の役割や意義を確認いたしますとともに、市町村の実務家、担当者の方、あるいは不動産鑑定の専門の方、さらには学問的分野でご活躍の方の目から見た率直な意見をお伺いいたしまして、その実務上、理論上の問題点を明らかにし、課題を整理していくということも大変重要なことではないかと考えております。
本日のディスカッションを今後におけるよりよい評価基準の設定及びその運用につなげていくことができますよう、議論を深めていただければと考えております。どうかよろしくお願いいたします。
(2) ディスカッションの進め方
【前川】 本日のテーマは大変幅の広いテーマでございますので、焦点を絞る意味で、3つの部分に分けて議論いたしたいと思います。
最初は固定資産評価基準のこれまで果たしてきた役割、これが1つ。続いて運用面における固定資産評価基準の課題、それから、3番目に固定資産評価基準の今日的な意義や今後のあり方、そういった大体3つの部分に分けてご議論を賜りたいと思っております。なお、2番目の固定資産評価基準の課題につきましては、土地と家屋、それぞれについて分けて議論をしていただこうかと考えております。
2.固定資産評価基準がこれまで果してきた役割
(1) 固定資産評価基準の沿革(概要)
【前川】 早速でございますが、最初の問題に入ってまいりたいと思います。
簡単に今現在使っております固定資産評価基準の沿革について申し述べておきたいと思いますけれども、この固定資産の評価につきましては、創設当初の昭和25年度、土地・家屋とも賃貸価格倍数方式と言われる方式が採用されておりました。土地については、昭和26年度から売買実例価格をも参考とする方式に改められております。また、家屋につきましては、同年度から標準再建築価格比準方式、いわゆる再建築価格方式と言われるものがとられることになりました。
その後、ご案内のとおり、昭和30年代、いわゆる岩戸景気に我が国経済が潤った時期でありますけれども、工業地をはじめとして、それに追随するように住宅地、商業地などが地価の騰貴をいたしたわけでございまして、当時としては、今日から見れば不十分な評価体制などが重なって、この土地評価の不均衡ということが非常に大きな問題となってまいりました。
昭和34年から各税を通じました評価制度の見直しということが行われまして、固定資産の評価基準につきましては、それまでは自治大臣の通達による技術的な援助という位置づけでありました評価基準が、地方税法に基づく自治大臣の告示という形で法源性を持たせる、明確にする、そういう改正が取り入れられ、いわばこの評価基準・実施方法、それから、手続についての体系的整備がその際に図られたということでございまして、これが昭和39年度から実施をされております。
以後、土地につきましては幾つかの変遷がございまして、例えば昭和40年代、列島改造ブームにわきました際の土地の高騰、まあ、理由はいろいろございますけれども、大都市とその周辺地域の人口の集中でございますとか、金融緩和に伴います過剰流動性の問題が発生したとか、あるいは土地投機とかいろいろございまして、特に宅地化が進む農地の取り扱いが大きな政治問題とされました。制度改正も行われましたが、それに伴いまして評価基準の面でも市街化区域農地の評価に関する項目が取り入れられて、1つの大きな進展があったわけでございます。
また、その後、昭和50年代のいわゆる土地バブルに伴う土地の評価の不均衡の拡大ということも政治的にいろいろ問題になりました。いろいろご議論がありまして、若干時間がかかりましたけれども、ご案内のいわゆる7割程度を目途とする評価制度というものが評価基準にもきちっと位置づけられるという形になってまいりまして今日に至っているわけでございます。
一方、家屋につきましては、再建築価格方式という基本は変わっておりませんけれども、やはり時代の推移とともに変わります技術や構法の進歩、あるいは新建材ですとか設備の開発、建築物価の状況、あるいは評価対象の大量化といったようなさまざまな課題が生じてまいりました。それらに対応しまして随時改正が行われているというような姿であったかと思うわけでございます。
評価基準の変遷過程、いろいろ見方があると思いますけれども、1つの見方としてこのように概観することが可能ではないかと思うわけでございますが、そうした中でも、この評価基準の重点は常に評価の均衡ということに置かれていたように思うわけでございます。今日、それがどのような形で運用され、どのような到達点にあるかが、評価基準を評価する場合の1つののポイントになるかと思うわけでございます。
制度面では、負担水準を維持するための提示平均価格制度の導入でございますとか、さらには納税者の負担の激変を緩和するための負担調整措置というものが導入されていったというようなことで、固定資産税は、長く市町村の主要財源として、経済社会の変動にも耐え、今日の姿になっているということが言えるのではないかと思うわけでございます。
(2) 現行固定資産評価基準制定の目的・成果等
【前川】 そこで、このような沿革をたどっております固定資産評価基準につきまして、過去の話もいろいろあると思いますけれども、最近の状況について、まずは評価基準の所管官庁であります総務省の石橋さんに、評価基準の制定の目的でありますとか、それから、特に最近における評価基準改正の主なポイントでありますとか、その成果等について、お話をお伺いしたいと思います。
石橋さん、どうぞ。
【石橋】 石橋でございます。
ただいま評価基準の沿革についてはコーディネーターのほうから概括説明がございました。皆様ご案内とは思いますが、現行評価基準は昭和39年から運用されているわけですが、なぜ39年からこういう形になったかということについては1つ大きな課題が当時あったと認識いたしております。具体的には、当時、まだ評価基準はよるべきものということで、完全な拘束力を持っていなかったわけです。
当時の課題といたしまして、資産間の不均衡、すなわち土地の評価水準と家屋の評価水準にアンバランスが生じていたこと、市町村間でアンバランスが生じていたこと、さらには資産課税を通じたアンバランス、例えば相続税の評価とのアンバランスということになろうかと思いますが、こういった3つのアンバランスがあると指摘されていました。いずれも、求めるべき価格というのは適正な時価ということですべて共通なわけですから、これらの統一を図る必要性が生じてきて政府の固定資産評価制度調査会の答申などを経て、現行の固定資産評価基準が制定されたというのがその成り立ちです。
1つここで留意しておかなければいけないのは、この評価基準は市町村長はこれによらなければならないものとされたということでございます。これは先ほど申し上げましたように、アンバランスの解消、こういったものがそこの目的にあるのではないかと思います。このように現行の評価基準そのものは、ひとえに適正な評価と均衡の確保、これにあるのではないかと考えております。
こうした経緯等のもとで制定された評価基準であるわけですが、骨格的にはこれまでそう大きな変更はないものと思っております。しかしながら、土地の評価につきましては、平成6年度からいわゆる7割評価の導入というものがありました。また、在来分家屋の評価につきましては、平成15年度からは再建築費評点補正率方式の導入というような比較的大きな変更がなされてきております。
次に、土地の評価方法である路線価方式等の適用状況について申し上げてみたいと思います。いわゆる路線価方式について着目してみますと、現在、路線価方式だけで評価している市町村というのは11.5%となっておりますが、昭和39年当時は2.3%、その他の宅地評価法のみで評価している市町村は当時は78%となっておりましたが、現在は47%程度という状況になっております。もちろん併用している団体も数多くあるわけですが、徐々に市街地宅地評価法にシフトしてきているというような現況にあろうかと思います。いずれにいたしましても、7割評価の実施によりまして、私どもとしましては土地の評価については、その均衡が確保されていると見ております。
また、在来分家屋に係る再建築費評点補正率方式の導入につきましては、これによって、かねてから皆様方からご要望のあった評価の簡素・合理化にも資することができたのではないかと考えております。
御案内のように、固定資産税評価の対象となる土地・家屋は相当の量がございます。しかもこれらをほぼ同時期に評価するというのがこの評価基準に基づく固定資産税評価の1つの特徴であろうかと思います。私としては、公的土地評価の中で比較的早い時代に税評価の1つの手法として、明確、かつ合理的な基準を提示し、先導的役割を果たしてきたのが固定資産評価基準であり、今後もそういった役割を担っていく必要があるのではないかと考えているところです。
私からは以上でございます。
【前川】 ありがとうございました。
お聞きいただきましたようなことで、現在の固定資産評価基準は、評価に当たって市町村長を法的に拘束する、そういう拘束性を持った基準になっているということでございますが、この評価基準で求められました価額がとりもなおさず適正な時価であるという1つの前提に立っているということでもあります。この適正な時価を算出する具体的な方法につきましては、資産の態様によって異なっております。土地・家屋でも当然異なっております。
(3) 土地の評価における固定資産評価基準の役割
【前川】 そこで、まず、土地の評価に関しまして、実際に評価基準を運用していらっしゃる市町村の立場から、特にいわゆる7割評価とその導入に伴う効果、あるいは評価基準の果たしてきた役割等について順次お伺いしたいと存じます。
最初に、田部井さん、どうぞ。
【田部井】 田部井です。
平成6年基準年度以前までについては、職員の経験を生かしながら用途地区、あるいは街路を分類し路線の付設を行い、用途地区ごとに売買実例を収集し、精通者意見価格等を参考にいたしまして、基準宅地、あるいは標準宅地の価格の算定を行い、指定市においては、その結果として基準宅地の指示価格が出され、それ以外の標準宅地や土地路線価はその価格にバランスを、主に置いた、いわゆる均衡化を重視した倍率を客観的に決定し、適正な価格を付設したかと思います。
この時は、地価上昇が必ず右肩上がりで、公的評価と言われた地価公示価格、県地価調査価格、相続税価格、土地固定資産税の評価額の評価水準が時価に対してバラバラであり、いわゆる一物四価、一物五価と言われた時代でなかったかと思います。
その結果、石橋さんが言われたとおりに、政府において7割目途という言い方で出てきまして、地価公示価格の7割目途という評価の均衡化、適正化がその後、平成6年以後については図られているわけであります。
土地所有者である納税義務者においては、公的土地評価相互が同一な尺度で量れることにより、その評価価格について理解が得られやすくなったかと思います。しかし、評価基準では、「宅地の評価は地価公示価格、地価調査及び鑑定価格を活用し、これらの価格の7割を目途とする」ことにより、この結果、多くの市町村は常にその土地の固定資産評価額と当該土地の不動産鑑定価格の格差に対して十分に注意を払わなくてはならない状態ではないかと思います。
この7割評価導入から不動産鑑定評価を活用することになり、宅地評価において大きな役割を果たすようになってきていますが、その性格は専門的、技術的な高度化に伴い、理論的に精緻化された評価資料の必要性が生じているのではないかと思います。このことによりノウハウの少ない市町村が、限られた時間と人と財源の下で現行基準に対応し、膨大な評価事務を処理していくことは大変なことであるのかとは思われます。このことから、事務量の軽減化、あるいは適正化を図る目的から、民間業者が開発いたしました土地評価システムを導入し、現在に至っている市町村は多数あるかと思います。
また、平成9年度評価替えから地価の下落局面に顕著となる納税者不利の状況を改善するために、特例措置で、第2年度、第3年度、平年度においても市町村の判断で価格修正が可能となる。このことについては地域事情を取り入れた、ある程度柔軟な評価ができたのではないかと思われます。
一方で、制度自体が長年続いている制度ということもありまして、現在の評価をする上で、昭和60年代からの地価高騰や最近の地価下落の影響等が過去の評価を無視することができない制度のために歪みをつくっている。このことが課標計算において多大な影響を与え、課税する側と納税者、双方に混乱を生み出し、土地課税の実態がわかりにくいという最大の原因になっているのかと思います。
これについても我々行政の人間の勉強不足で説明が足らないのか、それとも納税者の知識が少ないのかと、まあ、そういう判断はありますけれども、我々は、常にその面については謙虚に研鑽をしなければならないかと思います。
以上です。
【前川】 ありがとうございました。
課税現場の声として、評価担当人員といいますか、体制の問題が1つ深刻な問題としてあるということもお伺いしたわけですが、これについてはまた後ほど時間があれば、このディスカッションで触れさせていただきたいと存じます。
(4) 家屋の評価における固定資産評価基準の役割
【前川】 続いて、家屋の評価に関しまして、最近の改正等も踏まえながら、評価基準の果たしてきた役割についてお伺いしたいと思います。
冨永さん、どうぞ。
【冨永】 冨永でございます。
私のほうからは家屋の評価についてお話をさせていただきたいと思います。先ほどからご紹介もありましたように、固定資産税におきまして初めて家屋評価が行われましたのは昭和26年でございまして、以来、今日に至るまで家屋の評価については一貫して再建築価格方式が採用されてきているという状況であります。現行の評価基準は昭和39年から適用されているわけでございますが、昭和26年から数えますと、もう既に53年の歴史がございます。その評価方法につきましては、これまでいろいろな課題を指摘されてきておりますものの、評価基準自体はその都度必要に応じて改正が行われ、維持されてきているわけでございます。
現在、一定の評価を得て社会にも定着してきているのではないかなと考えているところですが、昭和26年以降の注目すべき改正を振り返ってみましても、昭和27年には初めて評点式評価法が導入されましたし、現行評価基準について行われました昭和39年の大改正を除きましても、平成13年度には損耗減点補正率基準表の大改正も行われましたし、先ほどもご紹介がありましたが、平成15年には在来分家屋の評価替えにつきまして再建築費評点補正率方式が導入されたわけでございます。
再建築費評点補正率方式につきましては、平成15年に初めて導入されたものではなくて、ご存じの方も多いとは思いますが、過去2回、昭和51年度と昭和60年度に実施されたことがありまして、在来分家屋の評価替えの方法が変更されたわけではないのですが、この方式は総務省のほうで家屋評価に関する考え方、見方を一定整理していただいて、評価替えの上昇率を国として示し、それで全国一律に評価替えをやっていこうという方式でありまして、実際、現場で評価替えを行い、課税している市町村にとりましては非常にありがたい方法であります。後ほどまたこのお話をさせていただくかもしれませんが、評価の考え方が整理されることによって市町村の評価事務が非常に簡素化され、また、納税者に説明しやすい方法になったということで非常に画期的な改正であったかなと私は思っております。
このように家屋の評価方法が一貫して再建築価格方式で続いてきましたのは、この評価方法自体が非常にうまくできていたからではないかなと思っておりまして、社会の変化とか建物の個別性に対応して、評価上何らかの問題が出てきた時には、それに一部修正、手直しを加えながらうまく対応できるシステムが昭和39年当初から大変うまく創られていたんじゃないかなと考えております。
地方の基幹税であります固定資産税が、家屋につきまして50年以上、非常に安定して推移することができましたのは、この課税の基本であります評価の方法が非常にうまく創られていたからではないかなと私は思っておりまして、これまで評価基準が果たしてきた役割というのは非常に大きなものがあったのではないかと考えているところでございます。
以上でございます。
【前川】 ありがとうございました。
(5) 不動産鑑定の視点からみた固定資産評価基準
【前川】 固定資産税における評価は、土地・家屋に対する1つの評価の手法でございますけれども、その近接分野として不動産鑑定評価がございます。そこで、この固定資産税の評価と不動産鑑定評価では違いがあるわけでございますけれども、そういった違いを踏まえながら、不動産鑑定のご専門でいらっしゃる平舘さんから、固定資産評価基準というものをどのようにごらんになっていらっしゃるか、そこら辺のところをお伺いしたいと思います。
平舘さん、どうぞ。
【平舘】 不動産鑑定評価という今のお話ですけれども、不動産鑑定評価の変遷を見ますと、歴史的には100年以上昔から、仕事として行われてきました。これは1つには金融系の流れを持っているもの、もう1つは租税系の流れを持っているものという2つの流れでやってきました。それでもこれが独立した仕事として認められたのは、実は、アメリカでは1929年の世界大恐慌が始まって、このときの失敗の原因が評価の失敗だということになりまして、アメリカでは3年後、いろいろな国でもすぐにこの鑑定評価制度というのを取り入れました。
ところが、日本では昭和38年まで、つまり、アメリカが取り入れてから30年後にこの制度を取り入れたんですけれども、その取り入れ方は、実は東京オリンピック等で土地取得とかいろいろなことが必要になりました。それで、一物四価とか、一物五価とか、つまり、1つのものを買うのにいろいろな人が入って土地の乱高下が行われたと。こういうことで、この土地の乱高下を防ぐということが1つ。
もう1つは、教科書的に言えば、人と土地との交わり、それを体現するものが不動産なんですよと。ですから、不動産のあり方を究明していきましょうと、日本ではこういうことが不動産鑑定評価の独立した業務の始まりでした。ですから、言ってみれば、取引とか、金融とか、そういうものが主体になって出てきたものです。
ところが、平成2年の土地基本法ですが、この法律で公的評価の均衡化ということもありましたし、それから、平成6年になりまして固定資産税評価に鑑定評価制度を取り入れる、こういうことになりまして、この固定資産税評価基準と鑑定評価基準のかかわりが出てきたわけです。
最初、眺めてみますと結構違いがありました。それは、1つには鑑定評価は1つ1つのポイントを評価する。1つを目指して、その最有効使用を判断するという仕事ですけれども、固定の場合には大量評価、つまり、算定評価でいかにバランスよくその価格を決めていくかという流れがありました。ところが、この平成12年、今度、15年といろいろと変遷してくるうちに、所要の補正ですとか、いろいろ社会の人たちの鑑定評価に対する価格とのバランスの問題点というようなことで、固定資産評価基準もいろいろ変わってきました。
それでも、用語や何かはいろいろ違います。例えば「近隣地域」を範囲は近似しますが、固定のほうでは「状況類似地域」と言うなど、いろいろ用語は違っていました。いろいろな面で修正を行って、今では固定資産評価基準で求められた価格と鑑定評価額で求められた価格と、結果的にはほぼ7掛けではありますけれども、バランス的にニアリーイコールになってきている、と考えております。つまり、結果価格は、算定評価イコール鑑定評価になってきているのではないかなと、こういうことで土地のほうの固定資産評価基準はほぼ完成されたのではないかと思います。
建物につきましては、こちらの方が評価ハンドブックを持ってこられていますけれども、私ども鑑定士もこういうものをもとに1つずつ拾って積算するということもやっているわけですけれども、これは非常によくできています。まあ、私とすれば、個人的には昔のほう、もっと詳しいほうがよかったなと、思うんですけれども、非常によくできています。
ただ、今、世の中がどんどん発達してきまして、だんだん簡便化するということになってきますと、鑑定士のほうも再調達原価を求めるときに、もっと簡便な方法で、ある程度アローワンスが出てもしようがないというようなことを認める時代になってきました。ですから、これからますますこちらのほうは簡便化する方向で改定されていくんじゃないかなと、こういうふうに考えております。
【前川】 ありがとうございました。
不動産鑑定士さんの目から見て、固定資産評価基準の変遷過程について、おおむね社会経済情勢に適合した到達点に今到達しつつある、納税者意識にもかないつつあると、そういう積極的な評価をいただいたのではないかと思うわけでございますが、なお、今後に残された課題もあるのではないかと思われます。
(6) 裁判例等における固定資産評価基準の法的評価
【前川】 そういうことで、この評価基準につきまして、法律学的に見てどのような評価ができるか。昭和50年代以降、固定資産の評価、あるいは固定資産税負担というものが、納税者からの訴訟という形で裁判所でも争われるケースが増えてまいりまして、判例もやはりそのときの納税者の意識でありますとか、あるいは社会経済情勢、そういったものが多分に影響しているかとも思いますけれども、幾分か変遷しつつある現状もあるようでございます。
固定資産評価基準をめぐりますそういった周辺の司法界の事情も含めて、どのようにごらんになっていらっしゃるか、石島さんからお伺いしたいと思います。どうぞお願いします。
【石島】 石島でございます。よろしくお願いします。
固定資産税の課税標準は固定資産の価格をいうと地方税法349条は規定し、その価格について、それは適正な時価をいうものと地方税法341条の5項で規定している。そして、その固定資産の価格の決定に関して地方税法は、403条で市町村長は固定資産評価基準によって固定資産の価格を決定しなければならないと規定しています。
きょうのシンポジウムのテーマ「固定資産評価基準の今日的意義とその課題」は、法的にはこの3つにかかわる問題ではないかと思います。実務家の皆さんが把握した適正な時価の評価額が納税者にとって不服である場合には、最終的に裁判所がその適否を判断することになりますが、裁判所は基本的にこの3つの条文を基礎にして法的判断をすると思うわけです。
昨年開催された第7回固定資産評価研究大会では「地方税法における適正な時価」とは何か、ということがテーマでありました。今回は、その適正な時価を算定するための基礎としての「固定資産評価基準についての今日的な課題」というテーマであります。歴史的に見ますと、固定資産評価基準は、昭和37年に地方税法が改正される以前の市町村長の固定資産の価格の決定は固定資産評価基準に「準じて」行うとされた通達による時代がありましたが、その後「通達」から「告示」へ改正されましたが、告示による現行制度下でも、平成6年の7割評価が実施された後の性格変化の問題状況があります。
通達の時代の裁判所の法的性格の理解、例えば宇都宮地裁の昭和29年11月15日の判決(行集6巻11号2629頁)は、「市町村長に拘束力を有するものではないから、市町村長がこの基準に従わず、別の方式によっても違法ではない」と述べ、固定資産評価基準をガイドライン的な認識をしています。しかし、画一評価、均一評価が求められるというこれまでの話にもありましたように、そういう観点から、固定資産評価基準は通達から告示に、格上げされたと言うと表現は必ずしも正しくないかもしれませんが、要するに告示化することによって拘束性規範性を持たせたいと考えたわけです。
「通達」から「告示」への改正は固定資産評価基準に拘束性を持たせたいと考えたわけで、裁判所もガイドライン説から離れ、少なくとも市町村長に対する拘束力はあるという判断をしています。私達はこれを内部規範説と称しています。同説は市町村長はそれに拘束されると解する。市町村長はこれに拘束されるということは、裁判所や固定資産評価審査委員会、納税者も法的に拘束されるかというと必ずしもそうではありません。
外部も法的に拘束されると解すると、評価基準に法源性が認められるということでありますが、判例は次第に評価基準に法源性を認めるようになってきたわけです。しかし、法源性を認めたということは、即固定資産評価基準による評価額がイコール時価ということなのかというと必ずしもそうではないと私は理解しています。
どういうことかといいますと、昭和30年11月24日の宇都宮地裁の判決(行集6巻12号2805頁)は、「固定資産の評価が均衡を保たねばならないことは、その適正でなければならぬことと同様に重要」なことであると判示し、評価が適正であるということも大事だが、評価に均衡を維持するということは大事だと言い、「適正な時価」による「価格」の評価を後退させています。
わかりやすく言えば、一物四価を是認するものと言えます。したがって、7割評価が平成6年に実施されるまでの期間は均一評価が重視され、固定資産評価基準を忠実に適用すれば、法に従っていると解されたわけです。適正な評価と均一評価が、法的に同じ価値として裁判所によって認められていたことになります。
しかし、固定資産評価基準の性格に関しては、学説は必ずしも法源性を認めるものばかりではありませんが、法源性を認める有力な学説は、告示は課税要件規定を補充するものであるから、その性質上、法規を定立する行為であり、租税法の一種であると解し、一種の委任立法であり、補充立法であるとするが、固定資産評価基準は委任命令ではなく、市町村に対してガイドライン的に示したものにすぎないと解するガイドライン説もあり、また、内部規範説も説かれました。判例の中にも内部規範説をとっていたものもあります。例えば福岡地裁の昭和57年3月20日の判決(判時254号17頁)は、固定資産評価基準は市町村間の評価の統一均衡化を図るために発したものであるから、「市町村長は固定資産評価基準に従って評価をなすべく義務づけられている」と言っています。義務づけられているということは、これに従って評価しなければならないと言っているわけです。
しかし、それがすぐ法源性を持っているということにはならないが、京都地裁昭和50年12月12日判決(タイムズ338号315頁)は、「固定資産評価審査委員会は評価基準により価格を決定するように義務づけられており、裁量の余地はない」とし、千葉地裁の昭和57年6月4日の判決(判時1050号37頁)は、立法形式の点からいっても、固定資産評価基準は法的に基準たりうる、と判示してそれに法源性を認めている。固定資産評価基準に法源性を認めるということは要するに、価格の評価に均衡が維持されているのが大事であり、適正な評価による評価が後退して、均衡を保たねばならないことが大事だということが裁判所の考え方であったわけです。
したがって、固定資産評価基準に忠実に従って評価すれば、評価の問題は、事足りると、極言すればそういうことであった。しかし、法源説をとったとしても、別に差し支えないということであったわけですが、ご承知のように一物四価、と言われたように、これによる評価額は現実の資産の価値を表現していなかったということもあって、平成6年に地価公示価格の7割に評価水準を引き上げることになったわけです。
その以後、「固定資産評価基準」と固定資産税で言う「適正な時価」をどのように結びつけて考えるかということについて、これまでとは異なるアプローチを裁判所はしたのではないかと思います。つまり、固定資産評価基準は評価に均衡を維持する機能を果たせばいいということではなくて、「適正な時価」に接近するための方法だと裁判所は考えることになります。この方法(評価基準)を使って資産の価格を評価すればそれが即適正な時価になると解されるのではなく、固定資産評価基準によって評価された評価額が適正な時価を上回れば違法であると判断されるようになります。
そうすると、適正な時価を上回っているかどうかは、固定資産評価基準と適正な時価を比較しないと判定できないことになり、この2つは切り離された独立の機能を果たす概念と考えられるわけです。固定資産評価基準を適正な時価に接近するための方法と考えますと、それに法源性を認めることに問題が生じると思われます。
例えば平成14年10月29日の東京高裁判決(判時1801号60頁)は、固定資産評価基準は市町村長は拘束するが、法規のように裁判所や固定資産評価審査委員会及び国民を拘束するものではない、とはっきり述べています。これが、通説とは必ずしも言えないかもしれませんが、少なくとも7割評価が実施された平6以後と以前においては、固定資産評価基準と適正な時価との関連については異なる判断がされていると考えられます。この点が固定資産税の今日的課題の1つではないのかと思っております。
以上です。
【前川】 ありがとうございました。
冒頭、石橋さんからお話がありましたように、現行の固定資産評価基準は、評価の均衡ということが最大の目的であるということでございまして、実務面からも、最近の改正まで含めまして、運用の結果として、その均衡という目的はおおむね達成されていると、また、司法界におきましても、裁判所は、固定資産の評価において重要なポイントはやはり均衡であるということを主張なさっているということでございます。
ただ、最近において、この評価基準が拘束力を及ぼし得る範囲については、若干、従来考えられていた路線とは趣の違った方向、つまり、市町村及びその長は拘束されるけれども、それ以外の諸機関、裁判所でありますとか、審査委員会でありますとか、納税者でありますとか、というところまでは及ばないという考え方を前提にして判断が下されるケースも出てきた。多数であるとか、それが通説であるとかいうことではないにしても、そういう兆しが見えてきている。そういった動きを今後どのようにとらまえていくかというところが1つのポイントになってくると、法的な評価としてはそういうところが指摘をされたわけでございます。
この方向は、3番目に予定しておりました今後の課題等のところでもいろいろ考え方として影響してくるところではないかと思うわけでありまして、より詳しくはそこのところで進めてまいりたいと思うわけでございます。
3.運用面における固定資産評価基準の課題
【前川】 続きまして、2番目の課題として申し上げておりました運用面における固定資産評価基準の課題ということでございます。土地と家屋に分けたいと思います。
(1) 土地の評価とその課題−路線価方式を中心として−
【前川】 土地につきましては、時間の関係もございますので大変恐縮でございますが、市街地宅地評価法でとられております路線価式評価法につきまして議論を進めさせていただきたいと考えております。
@ 路線価方式の意義とその機能
【前川】 最初に、この路線価方式というのがどういうものであるのか、それから、これが適正な時価を求める方式としてどのように有効に機能しているのか、そういった点を踏まえて、石橋さんから基礎的、基本的なことについてお伺いしたいと思います。
石橋さん、どうぞ。
【石橋】 路線価方式については皆さんご案内とは思いますが、改めてお聞き願えればと思います。この路線価方式、固定資産税評価においては昭和29年度の評価から採用されております。国税の相続税が昭和30年でございますから、それより1年早く明文化された評価方式ということになります。その意義といたしましては、何といってもやはり大量・一括評価に最も適した方法であろうと考えられるところであります。
その考え方についてですが、土地の価格にはいろいろな構成要素があるのだと思うのですが、その価格構成要素の基本的なものは街路に反映されているとするものの考え方がとられています。そして、その街路に値段すなわち価格を付することによりそれを基本価格とし、その価格を基礎としてあとは画地計算法により個々の土地の形状等に応じた価格構成要素を反映させ、これによって個別の土地評価をしていくというような仕組みとなっています。
もう少し詳しく申し上げますと、同一の地区に属する各個別の土地、画地は同一街路に沿っておれば、ほぼ同一の効用を持つものとみることができるわけであり、この同一の効用を持つという一般的な共通要素に基礎づけられている価格を基本価格、すなわち路線価として表わし、これを基に特定の画地に係る例えば奥行きとか、間口といった当該画地固有の特質を画地計算法によってとらまえることによってその画地の価格が算定できるというものです。
本来であれば、土地の価値というのは個々の土地が持つその形状、使いがって等を本質的価値として、それに沿接する道路の幅員等の利便性などを付加価値として考えていくというのが一般的な考えかもしれませんが、路線価方式では、道路に付せられた価格を本質的な要素、価値としてとらえ、個々の土地の形状等は付加的な価値であるという考えに基づくものということができます。
したがって、路線価という基本的価格が設定されれば、あとは個々の画地の道路への接面の状況や奥行き等々の状況を把握し、これらの当該画地固有の要素を画地計算法によって機械的に計算することによりその価額が導き出せるということで、大量・一括評価にふさわしいものであるということが言えます。では、基本的価格となる路線価は、どのように設定するかということについてですが、ご案内のように、宅地については、商業地区、住宅地区等に区分し、各地区について状況が相当相違する地域ごとに、その主要な街路に沿接する宅地のなかから標準宅地を選定し、その標準宅地について、売買実例価格から評定する適正な時価を求め、これに基づいてその標準宅地の沿接する主要な街路の路線価を付設することとされております。具体的に路線価にはどのような価格構成要素が反映されるものかということになりますが、大きくは3つの要素があるとされています。
1つは、道路条件といわれるものです。一般に道路と関連のない土地は宅地としての効用は低く、また、道路の開設等によってその利用度が高まることはいうまでもありません。したがって道路の系統、連続性の性質、幅員の程度等によって宅地の利用目的が定まり、当然ながらこうした状況によって土地の価格は変わってくるであろうとする考え方から、これらの要素を反映するものです。もう一つは接近条件というものです。これは社会生活を営む上で、各種の公共施設等との関連性は大きなものがあり、各種公共施設等が宅地の利用価値に及ぼす効果も無視できないものです。したがってそれらの接近の状況によっても土地の価格も左右されるであろうという考え方から出てくる条件です。そして最後に、その宅地条件といいまして、宅地それ自体の利用上の便、不便をあらわす条件ですが、これは一定地域内にある宅地そのものの利用価値を構成する要素のうち、個々の宅地に特有の要素を取り除いた比較的普遍的な要素をいうものです。大きくはこれらの3つの条件を勘案して路線価を決めていくというものでございます。
ちなみに、最近では、それ以外に行政条件といいまして、行政規制上の条件を勘案して路線価を付設している団体もあるようでございますが、大体は今申し上げた価格構成要素を勘案し路線価の付設をしております。なお、ご案内のように路線価は、まず主要な街路に路線価を付設して、その後その他街路に路線価を順次付設していくという方式ですが、街区内等における主要な街路ごとの価格差は、概ね2割程度の格差とすることが指針とされてきています。大体以上のような考え方で現在の路線価方式の評価システムが成り立っております。
また後ほど議論になろうかと思いますが、路線価方式は基本的には以上のようなものですが、この画一的な方法だけではすべてが解決するわけではございませんので、この画地計算については所要の補正という措置が別途講じられているところでございます。
私のほうからは以上でございます。
【前川】 ありがとうございました。
評価基準に定められております路線価方式は、評価の方法としての画地計算法と相まって適切に機能している、有効に機能しているという、総務省ご当局と言っていいと思うんですけれども、評価でございます。
A 路線価方式の特性と運用面から見た論点
【前川】 実際に運用なさっている立場から、田部井さん、冨永さん、それぞれお伺いしたいと思います。どうぞ。
【田部井】 では、田部井のほうからいたします。
土地については、一般商品並みに製造が図られ、売買が煩雑に行われている様相で存れば、その価格というのは容易に判断できるかと思います。しかし、取引量が少ないことや利用目的、また、時の経済状況、或いは位置、形状等、種々多様な個別的要因により、その価格というのは決定されているのではないかと思います。ですから、そのまま個々の利用状況、いわゆる画地単位に適用するということについては、不適当であるかと思われます。
これらからしますと、道路に沿接する、宅地に影響を与える価格形成要因の種類が概ね同じで、且つ、その要因が路線に与える影響力も同等のところ、つまり宅地の価格は概ね同一と認められる一連の宅地が、面している道路ごとに価格を設定するということが最も相応しいことではないかと思います。
先にも述べました個別的要因を排除する等での事務手続が複雑になりますが、同様な路線帯を同一価格にするという比較的精度の高い評価を路線価格として付設することが、実務的な見地から最も容易に作業が可能で、且つ一括大量評価を実施するうえで時間的な制約があることを考えると、経費的にも最も効率的ではないかと思います。
課題としては、現状の評価基準には大まかな規定しかないために、自治体の個体差、特に市街地の形成状況が一様でないというのがあるかと思います。より具体的な評価方法を示していただければありがたいわけでございます。
例えば、その他の街路の路線価の付設方法とか、付設する上で一番重要なものが評価基準にも示されておりませんけれども、価格差の推定ではないかと思います。この価格格差の推定を示す根拠性等が一番市町村が苦慮しておりますから、その辺の考え方を示していただければありがたいなと思います。そうしますと、より統一した評価が行えるようになるのではないかと思います。
このことについては、大都市と中小都市のスタッフの員数の差があるかと思います。特に小規模の町村においては、税務担当職員が4〜5人程度で、土地・家屋を兼務している2人ではなかなか、他の税目についても賦課を行っている、多種類の業務に追われて研鑽する時間がなかなかとれないという事情等があるかと思います。
しかし、一方で固定資産税評価においては個々の画地の「適正な時価」を求めることが必要ですが、そのためには適正、且つ均衡のとれた路線価付設を行うことが肝要となりますが、路線価評価と所要の補正では近年の価格の大きな変動にはついていけない実態もあるのではないかと思います。納税者の理解と信頼を得るためには、より一層の均衡、適正化を図り、路線価付設過程の客観的、論理的説明が必要かと考えられます。
以上です。
【前川】 ありがとうございました。
続いて、冨永さん、お願いします。
【冨永】 では、私のほうから少し申し上げたいんですが、大阪市のような大都市では、田部井課長のところとはちょっと状況が違うかと思うんですが、路線価方式のメリットにつきましては、いわゆる標準宅地の評価におきまして価格形成要因の地域要因を反映させることができることがまず1点、路線価付設において価格形成要因の地域要因と画地条件以外の個別的要因を反映させることができることがもう1点です。画地条件を中心とした個別的要因については、画地計算法の適用により各土地の評価に反映されるということで、石橋室長がご説明になりましたように、この方式は大量一括評価に非常になじむ方式であるということで、大阪市では有効に活用させていただいているという状況です。
ある程度、相対的に均衡のとれた評価の実現も可能ですし、実務としては評価できる手法ではないかなと考えております。ただ、固定資産税の評価はこれまでも何度も出ておりますが、大量一括評価ということでございますので、鑑定評価における個別的な要因のすべてを取り入れることは当然無理であります。したがって、先ほど平舘部長のほうからは一定評価をいただいておりますが、精緻さの点ではやはり鑑定評価に及ぶべくもないというところがあります。
所要の補正を行うというやり方ももちろんございますが、それもやはり幾らやっても限界があるということでございますので、評価基準において、固定資産税の評価において反映する個別的要因と反映しない個別的要因をもっと明確にすることによって、各市町村間でありますとか、各評価対象土地間で均衡のとれた適正な課税価格が実現できるようにする必要はあると考えております。
以上です。
【前川】 ありがとうございました。
お2人の実務担当をなさっている方のご意見をお伺いしますと、路線価方式は大量一括評価の方式として適切な方式ではあるけれども、やはり個別評価に比べると差が出る方式であることは間違いがないので、そこら辺を的確に説明する意味でも、その他路線の付設の仕方についてもう少し具体的な指針が欲しいというようなお話もございましたが、ここら辺は不動産鑑定の立場から見てどのように理解をしていったらいいのか、平舘さんからお伺いしたいと思います。
【平舘】 路線価方式というのは、先ほどから何回も出ていますように大量評価ですとか、それから、機関鑑定の中で算定評価をやる、こういう場合には非常にすぐれた方式だと思っております。ただ、路線の長さによりましては、価格に幅が出てくるということもこれは否めないと思います。
それで、振り返ってみますと、この評価のやり方というのは、そろばんとか計算機で計算をしていた時代にはとてもよくて、最善のものだったと思うんです。ところが、今、コンピューター化が非常に進んでおりまして、そうなってきますと、より精度の高い結果を求めようと、こういうことになりますと、私は少し方向を改善していったほうがいいんじゃないかなと思っています。
それはどういうふうにやればいいのかといいますと、1つは、状況類似地域の範囲を精密にやるということですね。そして、その状況類似の用途地域、用途地区ごとに一定の位置において想定標準宅地というものを設定いたしまして、それの価格をまず出す。それは1になるような価格を出しておく。そして、画地に対しては直接比準をする。そして、その画地に対しては接近条件ですとか、街路の幅員条件ですとか、そういうものはすべてデータとして画地に持たせる。そうして計算すればいいのではないかなと。そうすれば、今、コンピューター化されています市町村では、それほど毎回データが変わるわけではありませんし、できるのではないかなと思います。
もう一つ、相続税のほうは、これは申告課税ですから、申告する人たちに何らかのデータを開示してあげなければ不親切だと思います。そのためにも路線価の開示というのは必要だと思いますけれども、賦課課税であるところの固定資産税においては、路線価まで開示する必要はないのではないか。この標準宅地を開示して、このデータとかこの価格を開示すれば、それでいいのではないかなと思います。
そして、近ごろは情報開示ということも非常に進んでおりまして、また、今、仄聞するといろいろな開示の仕方をこれからも検討していくということになりますと、取引事例のデータがいろいろ修正はされるでしょうけれども、その路線ごとにぼつぼつとインターネットなどに載ってくるということになります。取引事例というのはやはりたくさん集めて、それを平準化すればそれなりの効果があるんですけれども、1つ1つはやはり不正常要素を取り除いても結構ばらつきが出てくる。そういうものが路線価の上にどんどん乗ってくると、これの説明をするというのもなかなか大変じゃないかなとも思いますので、この路線価方式というのを個別直接方式に将来はなさっていったらよろしいんじゃないかなと考えておりますが。
【前川】 ありがとうございました。
固定資産評価基準、なかんずく土地の評価方法については、今までそろばんと計算機でやってきた方向からITを活用した方向へ転換すれば、もう少し条件も細かく区分して、標準宅地を想定することによって、より詳密な的確な評価ができるのではないか。そうなってくれば、路線価の付設ということも必要がなくなってきましょうし、それを開示しなきゃいけないというような問題もなくなってくるんじゃないでしょうかという、そういうご趣旨で大変新しいお考えと受けとめさせていただきましたが、一方では、路線価を維持し続ける限り、ある程度の範囲内での評価、その妥当性ということが是認されてきているという1つの法的状態というものもあると思うんですけれども、その辺について、あるいは今後の見通しについて、石島さんの方からお話を承ることができればと思いますが。
B 路線価方式の法的論点
【石島】 路線価方式の具体的中身については、私は実務家でもありませんのであまりよくわかりませんが、実務のパネリストの方から、ものすごく効率的でいいという評価がなされました。大量一括評価に最も適した方法であるという意味であると思いますが、将来的には個別評価でいくべきではないかという不動産鑑定士の立場からのご発言もありました。
固定資産税の適正な時価を評価する基準として固定資産評価基準があるわけですが、7割評価実施前の平6以前は均衡評価の維持つまり、固定資産評価基準を忠実に適用しておればいいということでしたので、適正な時価の実態的内容を議論する必要はなかったわけです。ところが、平6後は評価額を引き上げられたし、地価は下落傾向という状況の中で、適正な時価と評価額との間に逆転現象が生じる問題が出てきたことで、裁判所もいやが応でも適正な時価とは何かということ、適正な時価の実態的内容を検討せざるを得なくなった。
そういう中で、最高裁判所や下級裁判所の判決例などを見ますと、適正な時価は個別評価つまり、鑑定評価理論にしたがって個別的、具体的に鑑定評価することが最も正確な方法であるとしている。しかし、固定資産評価基準は、何度も出ておりますように、大量一括評価するという行政上の目的がある。
こういう中で、不動産鑑定の評価方法としては、ご承知のように3つの方法があります。不動産の鑑定に当たっては、@取引事例比較法、A収益還元法、B原価法の3つの方法が幅広く国際的にも使われているということですが、固定資産税の場合は1つの方法に固定化されているわけですね。固定化されているというか、土地の取引については売買実例価格を基準にして行う。そして、家屋については再建築価格、それから、償却資産については取得価格というふうに1つの評価方法に限定しています。
ところが、鑑定評価理論においては3つの評価方法をうまく利用しながら個別的に評価するということですから、当然、固定資産評価基準との間に差が出てくる。この差は大量一括評価をする行政上の目的からすればやむを得ない。制度的にその間に差があるということを裁判所も認めています。その差をどのように説明しているかというと、固定資産評価基準による評価が謙抑性の働く範囲で行われておればいいと言っています。したがって、固定資産評価基準による評価額は必ずしも適正な時価とイコールではないにしても、イコール的に理解することもできると思います。
そういう中で、固定資産税の土地については、正常な条件の下に成立する土地の取引価格、つまりは客観的な交換価値であると解され、その客観的な交換価値は売買実例価額から求める正常売買価格を基として適正な時価を求め、これに基づいて評価額を算定するが、路線価方式つまり市街地宅地評価法の基礎をなす標準宅地の適正な時価は鑑定評価等を活用しこれらの価格の7割を目途として評価することになっています。
したがって、不動産鑑定理論と差が出てくるのは当然のことであって、将来的に、大量一括評価はやめてすべてアメリカなどのように個別評価で固定資産税を課すことが理想的であろうかと思いますが、大量一括評価を維持していくというのであれば、固定資産評価基準の内容をさらに改善していかざるを得ないであろうと思います。
この改善の方法として、大量一括評価を推進していく中で改良していくか。それともそれを全部やめて、個別評価を採用して鑑定評価理論にしたがって評価課税するか、その選択の問題があると思います。しかし、路線価方式は、標準宅地価格に基づいて路線価を付設し、路線価を基礎として、画地計算法を適用して各筆の宅地の評点数を付設する方法であり、「七割評価」実施後は、標準宅地については鑑定評価を活用して評価することになっているから、評価はかなり改善されていると裁判所も評価していると思います。
以上です。
【前川】 ありがとうございました。
C 路線価情報公開の意義
【前川】 路線価方式は大量一括評価の方式として、厳密に言えばピンポイントとした評価とは結果として差があるわけでありますけれども、適切に路線価を付設することによってアローワンスの範囲内におさまるということを前提にすれば、法的にも支持できる評価方法であるということでなかろうかと思うわけでありますが、一方、コンピューターが発達した今日において、従来と同じ方式を墨守すべきかどうかというのは、新たな視点でございます。
より簡素に、簡易に、かつ正確に適正な時価というものが測定できる、評価できる方法が開発されるならば、それはそれで1つの新しい行き方を示すことになるのではないかと思うわけでございますが、その道筋をたどるには、今日の状況においてなお若干の時間も必要になるのではないかと思うわけでございまして、それまでの間、路線価方式というのをやはり当面の具体的な大量一括評価の方法として維持せざるを得ないではないかという感じもするわけでございます。
ただ、その場合に、路線価の付設のあり方にやはり評価の均衡確保という観点からいろいろ課題があるというお話もそのとおりであろうかと思うわけでありまして、課税当局、評価当局のご努力によってその差を埋めていく。あるいは今、路線価が公開されていると思いますけれども、第三者の目を通すことによって客観性をできるだけ確保していく、そういう努力も仕組みとしてとられているのではないか。第三者の目を通じて個々の路線価というものが、あるべき姿に近づけられる、そういうことを期待をして開示ということが行われているのではないかという見方もできるわけでございまして、当面はそういうことで処理が進められるものかなと私は考えますけれども、石橋さん、いかがですか。
【石橋】 私といたしましても、今、前川コーディネーターが言われたように、当面のとり得る手法としてはやはり路線価方式をとらざるを得ないだろうと考えています。ただし、そこに改善すべき余地があるのであれば、それは可能な限り改善していきたいと考えておりますし、また、そのための研究もしていかなければならないと今思っているところです。
D 画地計算と所要の補正の論点
【前川】 そこで、路線価を付設した後、個々の土地について画地計算によって評価額を算出していくことになるわけでありますけれども、その場合のルール、それから、各市町村、あるいは地域の個別事情、固有の事情に基づく、いわゆる所要の補正というもの、これによって当該団体としては全体として均衡がとれたと考えられる評価の状態を実現しようということでありますけれども、この所要の補正のルールというのが実は地域によってさまざまと言ったほうがよろしいんじゃないかと思うほど多様性に富んでおります。
それが地方自治だと言えばそういうことになるわけでございますけれども、一方では全国的な評価の均衡という観点から見て問題ないのか、いろいろ論議を起こすところでもあろうかと思うわけでございます。
そこで、所要の補正、一体どういうものが全国的に実施されているのか。その現状等について、石橋さんからお話をお伺いしたいと思います。
ア 所要の補正の現状
【石橋】 所要の補正につきましては、皆さんご案内のとおり、画地計算法において、地域事情に応じた補正ができるというものでございます。もとより、評価基準にすべてを書くことは難しいこともありましてその辺の判断を市町村長に委ねているというものでございます。今、これを実施している市町村数を延数で申し上げますと、平成15年度の評価替えベースでは6,320団体ほどございます。これを経年的に眺めてみますと、昭和63年には2,299、次の平成3年で2,600、平6年で約4,000、平9年で約5,600、平12年で約6,000、そして平15年が6,320ということで、だんだん増加してきているという状況にあろうかと思います。
具体的にどのような補正を行っているのかということについて簡単に申し上げたいと思います。大きく分けまして、画地条件によるものとして、具体的には接面道路、街路との高低差、あるいは横断歩道橋の有無、宅地比準表などについて概ね2,800位の団体で実施されているという状況です。
また、そのほか環境条件によるものもありますが、これは具体的には、例えば新幹線の関係、あるいはいみ施設、鉄道関係、こういったものの要素を配慮しているものもあります。さらには法律上の用途規制やいわゆる高圧線下といった事実上の利用限定、航空法上の規制とか、こうしたものを取り上げているところもございます。
その他もいろいろありますが、特に平6年を契機として補正項目数が大きく増えてきているということがトレンドとして伺い知ることができるのではないかと思います。
【前川】 ありがとうございました。
それでは、具体的に大都市、あるいは都市で所要の補正というのがどういう形で取り扱われているか。また、評価の補完機能としてそれがどのような機能を果たしているのか、そこら辺について、まず、冨永さんからお伺いしたいと思います。どうぞ。
イ 所要の補正の実態と問題点
【冨永】 それでは、大阪市の状況を申し上げます。今、石橋室長からご説明がありましたように、いろいろな所要の補正を行っております。ただ、先ほど申し上げましたように個別的要因のすべてを所要の補正に取り込めるわけではございませんので、大阪市として取り込めるのが何かということを大阪市のほうでいろいろ検討します。検討に当たりましては、もちろん不動産鑑定士さんにご相談をし、研究レポートという報告書をいただきまして、これはやるべきだろうとか、やるべきでないという判断のための情報を把握し、私どもも一緒になって勉強した上で、いろいろな所要の補正をさせていただいているというところであります。
先ほどの石橋室長のご説明にもありましたように、実際、この所要の補正が、平成6年度にいわゆる7割評価が導入されてから非常に増えているところでありまして、これは全国的な数値も今ご紹介ありましたけれども大阪市も同様でありまして、平成6年度を境に所要の補正をしないといけない部分が多くなってきたというところであります。これは、今日ご来場の方はすでにご存じのように、7割評価を導入したことによりまして市町村が非常に緻密な評価を要求されるようになってきているという事実があります。
所要の補正を行わないと、下手をすると逆転現象が起こってしまう可能性が出てくるとか、所要の補正を行わないことによって納税者が非常に不満や不公平感を感じるということがありますので、できるだけ私どもも所要の補正で対応していきたいと考えているところなんですが、先ほどからも申し上げておりますように、限界がございますので、どこでどのように折り合いをつけていけばいいのかということについて非常に苦慮しているところであります。
ただ、所要の補正というやり方がありましたので、まあ、何とか7割評価以降も、路線価の補完としての役割がうまく果たせてきたのかなと、そこまで明確に言っていいのかどうかわからないんですが、何とかやり切れている状況かなと考えているところです。
以上です。
【前川】 田部井さん、いかがでしょうか。
【田部井】 前橋市も、今言った大阪の冨永さんのところと同じような感じなんですけれども、いわゆる所要の補正は不動産鑑定における個別的要因の緻密化に伴い、本市でもかなり伸びているわけですけれども、所要の補正により土地の個性の価格を反映することは必要なことと思われますが、あまりにも所要の補正項目を盛り込み過ぎますと、公平な評価の意味、あそこの市町村はこの補正をしている、こちらではなぜないのとか、そういう地域間の問題が発生するということも考えられるかと思います。
あまりにも入れ過ぎますと、評価基準の規範性が薄れるんじゃないかとか、多分に地域政策的な要素が反映されたとか、純粋な土地評価の意味から逸れたり、実質的には評価基準によらない評価となってしまう恐れが生じるんじゃないかと思います。そのことから、評価にかかる評価コストが、そういうものが新たな課題となってくるんじゃないかと思います。また、県単位とか、広域的に市町村が情報交換を行い、聞くだけではなく、その地域で均衡化、適正化を図るということも必要じゃないかと思います。
【前川】 ありがとうございました。
所要の補正につきましては、路線価に反映すべき価格要素との相互関係というのが不可欠であろうかと思うわけでございます。路線価に反映すべき価格要素として、できるだけ細かいところまで取り込んでいけば、所要の補正の範囲もそれだけ狭くて済むと、こういうことにもなるわけでありますが、そこには限界があるとすれば、ある程度のところで線引きをしなきゃいけない。市町村長の所要の補正に任すべきところは任せていかなきゃいけない。こんなような考え方も出るのかと思われますけれども、不動産鑑定士の目から見て、そこら辺の分界というのはどのように考えていったらよろしいものでしょうか。
平舘さん、どうぞ。
【平舘】 今の石橋室長のお話を聞いておりますと、ほとんどが個別的要因に属するもので、地域要因に属する例示は少なかったように思います。それで、所要の補正はより厳密にポイント評価である鑑定評価に接近するための手段で、個別的要因をいろいろチョイスしているんだと、こういうふうなのが、今、冨永課長とか田部井課長さんのお話だと思うんですけれども、私は、状況類似地域を厳密に設定して、標準宅地の鑑定評価を精密に行えば、ほぼ解消するのではないかなと考える。
それで、それでもなお解消できないような個別的要因または地域要因があれば、先ほど田部井課長さんがおっしゃったように、県単位ぐらいでそういうものを基準化する。そういうふうにすれば、やっている市町村とやっていない市町村で不公平があるというようなこともなくなるんじゃないかなと、こういうふうに考えますが。
【前川】 ありがとうございました。
確かに個別の市町村でそれぞれ市町村ごとに所要の補正を行うという考え方もあるかと思いますけれども、地域による不公平を解消して均衡を図るという観点からは、もう少し広域で所要の補正というのを考えたほうがよろしいのではないかということでございますが、そこら辺のところは、法律的に見るとどういうような考え方になるのか、石島先生にお伺いしたいと思います。どうぞ。
ウ 所要の補正を考えるに当たっての視点
【石島】 今、議論は2つに分かれたのではないかと思いますが、個別評価でいくか、大量一括評価でいくかというふうに。大きく分ければこの二つの評価になるのではないかと思います。現在、わが国の固定資産評価基準が採用している制度はアメリカのような個別評価ではなくて、大量一括評価ですから、この視点から土地については取引事例ですか、売買実例価格を基準にすることになっていて、そして、路線価方式をもって判定することとされています。平成15年6月26日の最高裁判所の判決によりますと、課税標準の算定基礎としての「適正な時価」は各筆の適正な時価を標準宅地の適正な時価として評定された価格であるとしています。それは評価基準に定める市街地宅地評価法は、標準宅地の適正な時価に基づいて路線価を付設し、所要の方式に従って、各筆の宅地の評価をする方法であるからでありまして、適正な時価の算定を地価公示価格でするというのは標準宅地にとどまっていて各筆の宅地の評価にはいたっていません。標準宅地以外の宅地についてどう評価の質を高めていくかということであります。今し方ご説明がありましたように、7割評価が実施されるようになってから、精緻な評価が期待されているということでした。これは当然のことであると思います。
7割評価が実施されるまでは、固定資産の評価に均衡が保たれておればそれでよしということでしたから、一物四価でもよかったわけです。「適正な時価」の中身を云々する必要は極端に言えばなかったから「適正な時価」の実体的内容の検討をする必要はなかったわけです。ところが、バブル経済崩壊後に地価が下落するなかで7割評価が実施され逆転現象が生じ、「適正な時価」の実体的内容の検討が必要になりました。そして、評価の精度を高めなければならないということになったわけです。7割評価をすることによって、資産の評価をより法律の基準に近づけることとし、要するに、適正な時価の中身を可能な限り客観的な交換価値に近づけようということになったわけです。
そういう中で、評価基準は売買実例価額方式だけを土地の評価方法と採用し、評価額は売買実例価格の中に閉じ込められているわけで、売買実例評価基準による評価では不合理だという個別的な理由がある場合には、それを補正する、必要であるというわけです。より個別的評価に近づけて評価の質を高めようとしているわけです。しかし、固定資産評価基準は基本的には均衡を維持すること。市町村間の評価に均衡を保つことが目的だとされておりますから、評価の均衡を重視して主張するとすれば、あまり補正を奨励する必要はないことになります。逆に個別評価的な評価に接近することが必要だ、適正な時価に近づけることが必要だと主張するのであれば、地方自治の視点からも理解できるのかもしれませんが、所要の補正にウエートを置くことになるわけです。
大量一括評価の必要の観点からあくまでも均衡評価を重視するというのであれば、所要の補正は最小限にとどめる必要がありますが、時代状況はそうではないと考えております。したがって、適正な時価を評価する方法として、売買実例価格を特定している中においても、可能な限り所要の補正をしながら個別評価に近づけていくべきですが、適正な時価に近づけていくと、土地にはいろいろ個性があるわけですから、その個別性をどうしても評価の中に表現しなければならないという場合には補正をすることによって、より適正な時価に近づけるということが、時代状況ではないかと私は認識しております。
【前川】 ありがとうございました。
なかなかいろいろな問題が伏在しているように感ぜられますが、路線価法による場合のみに限らず、その他宅地評価法においても所要の補正というのはいろいろな局面で行われているのではないかと思いますが、先ほど冨永さんからお話がありましたように、所要の補正というのは、市町村長に委ねられているわけでありますから、その採否、内容を含めてすべて市町村長の判断で行われるという形になっております。
その場合に、その内容等も含めてだと思いますけれども、何らかの限界があると考えるべきなのかどうか。あるいは最近の納税者意識の流れに沿って、できるだけ詳密に正確に評価額を算出しようとすれば、できるだけ細やかなところまで、いわばかゆいところに手が届くように細かくやっていくということが要求されるのかどうか。
そもそも路線価方式の場合には、先ほど平舘さんからもお話がありましたけれども、長大路線などの場合にはかなりアローワンスの大きな評価をするという格好にもなっているかと思うわけでありますけれども、そういう実情、あるいは位置づけを念頭に置きながら、また、全国的には大変さまざまな要素をとらえて、さまざまな補正が行われているという石橋さんのお話もございましたが、今までのお話を聞いていて、石橋さんとしてはどのようにお考えになっていますか。
【石橋】 所要の補正、これは本来、極力ないほうが均衡の観点からは私は良いのではないかと思います。しかし、そうは言っても、現実に地域の特別な要因というものがあるわけですから、これは運用せざるを得ないし、すべてそれを評価基準で取り上げることもできないのが実態だと思います。
そうしたなかで、では、この所要の補正についてどう考えていくべきかという議論が出てくるわけですが、一番重要なことは、固定資産税評価においては、適正な評価の確保はもちろん重要ですが、先ほど来議論になっている評価の均衡の確保も極めて重要です。ある市町村では採用されている補正項目が、一方の市町村では採用されていないというような場合がありうるわけですが、それに合理的な理由があるのであれば、それはそれで私はいいと思うんですが、合理的な理由がないということになると、これは本当の意味での適正な評価ということについて疑問が出ないとも限りません。
しかしながら、極端な議論をすると、安易な補正項目の採用は、評価全体が低きに流れる恐れもあるわけです。本来、考慮する必要のないものまで、隣の団体が考慮しているので、自分の団体も考慮するというのは、これは本末転倒な議論であって、いずれにしても採用する場合には合理性を十分担保しなければならないと考えます。
そうした面から言えば、評価に関する各市町村間の情報交換も重要となってきますし、また、今後、各都道府県にあっては域内市町村に対する助言等として、この点について一歩離れた立場から客観性、公平性に十分配慮した適切な指導が行われることも期待されます。更に、今後の課題ということになろうかと思いますが、評価基準に取り入れることのできる項目があれば、それを取り入れていくことも研究していかなければならないと考えております。
ただ、実態を見てみますと、同内容の補正項目であっても、市町村によっては補正率が異なっていたり、あるいは項目の範囲のとらえ方が違っていたりするものもありますので、まずはその辺の市町村の実情などを伺ってみたいと思っております。以上でございます。
【前川】 ありがとうございました。
E 「価格帯方式による評価方法」の考え方と問題点
【前川】 そこで、今、路線価方式に関連してでありますが、そもそも適正な時価といった場合に、円単位まできちっと決まった価格というのが絶対的に存在するという価格の絶対性というものを前提にした制度ではなくて、ある程度アローワンスというものを認めて、そのアローワンスの中で許容される適正な時価というのを求めているのではないか。そういう考え方が出てきているわけでありますけれども、それに関連いたしまして、極論すれば、一定の幅の価格帯に位置する土地については、その評価に当たって1つの価格を評価額とする、こういう価格帯による評価額決定方式というのも実はあるわけであります。
我が国ではそういうことを今まで本格的に検討したことはないと思いますし、また、現在、そういう方向に評価基準が動いているというわけでもございませんが、そういう1つの方法もあるということを頭に置いて考えた場合に、より簡素、簡便な方策の1つとしてどのように位置づけることができるのだろうか。実は外国でもそういう例をとっているところがあるやに聞いております。そこら辺のことを石橋さんに少しお伺いしてみたいと思います。
【石橋】 私もそう詳しくはないんですが、1つイギリスの例を調べてみましたのでお話しさせていただきます。
イギリスでは市町村税ということでカウンシル税というのが1992年から導入されていると聞いております。課税主体は市町村ということですが、その課税標準は財産価値とされております。その場合の実際の課税価格はどのようになるかといいますと、課税標準となる価格を8つブラケットといいましょうか、バンドですね。8つの価格帯を設け、同一価格帯に属するものは同一の税負担となるような課税をしているようです。このカウンシル税の納税義務者は、持ち家の世帯主ということになっているようでして、評価自体は内国歳入庁の監督官が行っているとのことです。
今申し上げたように8つの価格帯が決められているわけですが、この8つの価格帯は具体的にどのように決められているかということについてですが、全国の平均価格の80%から110%の範囲、ここを例えば1という価格帯にして、それより高いところ、低いところ、それぞれ一定の幅での価格帯を設けて、その価格帯に属するものは一定の税負担というような仕組みになっているようです。
しかし、これは非常に簡便な方法であろうかと思いますが、一方で課題も実は指摘されているところです。同一の価格帯に属する者はすべて同一の税負担ということになるわけですので、その同一価格帯に属する者間での不公平の問題が生じないかというような議論や、ある価格帯から他の価格帯へ移行するかしないかギリギリのところに位置する人の負担の増減の問題があるやに聞いております。下の価格帯に下がる場合は問題にはならないのですが、上の価格帯へ行くと税負担が上がるわけですので、この辺が課題ではないかというような指摘がなされているようです。
私のほうからは以上でございます。
【前川】 ありがとうございました。
おそらくここにいらっしゃる方は皆さん、きょう初めて耳にしたというお話ではないかと思うわけでありまして、これ以上ここで深めて議論をするのもいかがかと思われますし、また、田部井さん、冨永さんにお伺いしても、青天の霹靂(へきれき)のようなお話で、すぐにはコメントがないかもしれませんが、もし何かコメントがありましたらどうぞ。
【冨永】 カウンシル・タックスの話につきましては、私もちょっと勉強したことがありまして、勉強した中で知りましたのは、石橋室長からもご紹介がありましたように、大きくは2つの課題、難点が指摘されているということです。ひとつは、価格帯のボーダーライン近傍の納税者が、今ご説明ありましたように、1段上の価格帯になるのか、1段下の価格帯になるのかということによって税負担にかなりの差が生じるということで、納税者の大きな不満が生じているという指摘と、もうひとつは、上限と下限を持つ大まかな価格帯方式をとるということで生じる問題についての指摘であります。カウンシル・タックスは、A からH までの8つの価格帯に分けているんですけれども、先ほどご紹介されました基準となる価格帯はDという価格帯でありまして、それぞれの価格帯は相対税率というのが決定されておりまして、その税率は中心となる価格帯Dを9として、一番低い価格帯は6、次は7、8、11、13というふうに決められております。財産税をこういう形に移行させるときに、一番低い価格帯に分類される人というのは、移行前よりも重課になり、より高い税金がかかる場合が生じたり、逆に一番高い、高級な大きな財産の価格帯に入る人は安くなったりという、そういうこともあったようで、大きくはそういう2つの難点が指摘されているということでありました。
それを読んだときに、我々、実務に携わる者としては、確かにそういうことはあるんじゃないかなと思いました。ちょっと論点が違うかもしれないんですが、家屋の評価をするときに部分別評価方式と比準評価方式というのがあるんですけれども、比準評価方式で評価するときに、程度が「上」と「中」のちょうど中間ぐらいの家屋があったとして、現場では、我々がどういうことをするかといいますと、必ず上のランクの標準家屋から比準します。要するに、あなたの家はここのモデルのこの家よりもこういうふうに劣るでしょうと少しずつ格差で落としていくというやり方をします。
下から、「中」のほうから格差率で上げていっても答えは同じになるんですけれども、そのやり方には納税者というのは大きな抵抗感がありまして、『その家よりいいわけがない。そうやられると税金が高くなるじゃないか』という話が必ず出てくるわけで、実務の担当者というのは実務的にはそういうことに苦労しながら、そういうことをいろいろ覚えていきながら上から比準していくという手法を身に付けるわけで、そういう苦労を課税の現場でしている者からすると、この価格帯方式を導入すれば、イギリスで指摘されているような問題がやはり生じるのかなと思います。
したがって、大まかな価格帯というのも非常にわかりやすいんですが、むしろ、評価手法をきっちり決めてしまって、あまり価格差はつかなくても、あなたの土地の価格はこうですよ、あなたの家屋は幾らですよ、というようにすること、評価基準の規範性を強めて、そういう方式で評価する方が、現場で仕事をしている者としては、納税者の感覚に合うのじゃないかなという気がします。
以上です。
【前川】 ありがとうございました。
なかなかいろいろ問題が多い方式のように受けとめられます。アローワンスを求めるにいたしましても、そういう方式というのは従来の伝統的な評価手法には馴染みがない方法であるということにもなろうかと思うわけでありますが、法律的に見ますとどうなんでしょうか、適正な時価というものを求める方式として、そういう方式が許容されるものなのかどうか、石島先生からお伺いしたいと思いますが。
【石島】 適正な時価とは何かということについて最高裁判所は、その平成15年6月26日の判決(判時1830号29頁)で、それを正常な条件の下に成立する土地の取引価格、すなわち、客観的な交換価値というと指摘しているが、標準宅地の適正な時価は宅地の売買実例価額から鑑定評価等を活用し地価公示価格水準の7割を目途に評価することになっているところ、同最高裁判決の一審判決である東京地判平成8年9月11日判決(行集47巻9号771頁)は、土地の適正な時価は鑑定評価理論にしたがって評価することが最も正確であるとしている。しかし、ここで鑑定評価の対象となるものは個別の各筆の宅地ではなく、標準宅地が対象とされているのであるが、宅地の評価方法として7割評価を採っている固定資産評価基準について内容に改善が加えられているということで判例は合理性を認めていると思います。
しかし、これ以外の方法で評価したらどうなるのかということについては、先に述べましたように固定資産評価基準は、市町村長を拘束すると解されている。したがって、市町村長において固定資産評価基準によらずに固定資産を評価するということは認められないことになります。固定資産評価基準が市町村長にとって規範性があることは否定できないと思われます。
そうすると、それ以外の裁判所、納税者や固定資産評価審査委員会を拘束しないというふうに取れるわけですね。先に述べましたように、はっきり固定資産評価基準の法源性を否定する見解もあるわけですので、極論は均衡評価を重視する立場からは、今述べられたようなイギリスの方法などを採用することも可能であろうかと思います。しかし、「適正な時価」を客観的に観念されるべき価値であるとすれば、このような方法を採用することはできないと思いますが。
【前川】 イギリスで具体的にそういうシステムが存在するということで、言ってみれば比較研究的な意味でこの問題提起がなされたわけでありますけれども、大方のご意見としては、現在までに確立されている評価手法なり、あるいはそれを前提にした納税者意識ということを念頭に置きますと、今、この問題について前向きのシグナルを出すことは、まあ、難しいのかなという印象を持った次第であります。こういう評価の仕方もあるということを本日のディスカッションの過程で皆様方にも知っていただいたという程度で、時間もありませんので、とどめておきたいと思います。
(2) 家屋の評価とその課題
【前川】 さて、大分時間が経過してまいりまして、そろそろ私も終わりのほうが心配になってきているんですけれども、まだ大分テーマが残っております。続いて家屋の評価の問題に入りたいと思います。
冒頭にもお話がございましたが、現在の家屋の固定資産評価基準は、再建築価格方式というものをとっております。これは昭和39年度から実施された評価基準以前から既にそういう考え方で評価をしてきているということでございますが、その経緯については先ほど冨永さんからも若干触れていただいたと思いますし、そこは簡略にしていただきまして、時間の関係もありますので、その再建築価格方式の基本的な仕組みなどについて、冨永さんからお伺いしたいと思います。どうぞ。
@ 再建築価格方式の基本的な仕組み等
【冨永】 そうしましたら、再建築価格方式の基本的な仕組みについて簡単にご説明したいと思います。納税者の方にも一般の方にもちょっと誤解がありますのは、再建築価格方式といいますと、固定資産税の家屋の評価方法のことだろうとイコールのように考えておられる方が、私が接した人の中では非常に多いんですが、再建築価格方式は決して固定資産税の家屋の評価だけじゃなくて、建物の評価においては昔から活用されている仕組みであります。平舘部長からも鑑定評価には100年の歴史があるというお話がありましたけれども、かなり昔から、基本的には同じ仕組みで評価に活用されています。
基本的な仕組みは、再建築価格を算出して、それに種々の増減価を加えるという手法でありまして、これら2つの要素によって構成されています。なぜ家屋に再建築価格方式が採用されているかといいますと、この評価方法が不動産の実体に着目した評価方法でありますので、何か後から人が作り出したものを評価するには非常にやりやすい方式であること、評価の方式化も比較的簡単であること、評価の考え方も単純、明解であるということで導入されてきたものです。昭和26年に評価方法として採用されたときも、他の手法も種々検討されましたけれども、そういう考え方から結局、再建築価格方式に落ち着いたというところであります。
ただ、この手法については、やはり建築の考え方がある程度頭の中に入っていないとなかなか難しいということがありまして、我々市町村の固定資産税の担当者というのは技術屋ではなくて事務屋でありますので、そういう事務屋が無理なく使えるように種々の工夫がされております。客観的な手法をつくる場合には、つくる段階で非常に苦労があるわけですが、この家屋の評価基準につきましては、建築界の権威であります日本建築学会に評価にかかる調査研究をお願いし、研究結果を踏まえ、いろいろとご助言をいただきながら総務省で作成していただいているというところであります。
現行の固定資産評価基準において採用されております再建築価格方式について少し具体的に申し上げますと、再建築価格に当たるのが、評価基準で言うところの再建築費評点数であります。再建築費評点数につきましては基本的には部分別評価の方式を用いることとなっておりまして、再建築費評点基準表により、それぞれの家屋について把握した資材、施工量を積み上げて求めることとなっており、これが最も基本的なやり方であります。もう一つ用意されている方法が、先ほども申し上げましたけれども、比準評価の方式というものでありまして、これは、評価対象家屋一戸、一戸について、それを部分別評価するんじゃなくて、状況の類似する同じような家屋を一つのグループに分けて、その中で最も標準的なもの、モデルとなる家屋について部分別評価で評価額を出して、その標準家屋と評価対象家屋との違いを個別に見ていき、標準家屋の評価額を補正することによって評価対象家屋の評価額を求めるというやり方であります。
そもそもの比準評価のやり方はこういうことなんですが、今はかなりシステム化、IT 化が進んでおりまして、横浜市さんでは統計的な手法を活用して比準評価のシステムを構築されていると聞いております。この手法は今申し上げた、標準家屋と評価対象家屋を個別に見ながら比準する評価方法とはちょっと違うんですが、そういう手法も今は研究をされて、実際、実用化されているという例もあるということです。
次に、再建築費評点数が求められたら、それについて増減価をしていくということなんですが、基本的には固定資産税においては増価というのはありません。まず普通の状況では、再建築価格を増加しなければならないということは考えにくいので、一般的な家屋を評価するためにつくられている評価基準では、減価だけを見ているということです。減価につきましては、損耗の状況による減点補正をまず行って、さらに必要であれば需給事情による減点補正を行うという仕組みになっています。
損耗減点につきましては、基本的にはまず経年減点補正率でやってくださいということになっており、経年減点補正率の適用が適当でない場合、それは天災であるとか、火災であるとか、そういう災害を受けた家屋でありますとか、非常に維持管理が悪くて損耗の著しい家屋については損耗減点補正率を使いましょうということになっています。
これらの手法につきましては、基本的には鑑定の手法と類似した手法でありまして、今申し上げた経年減点補正というのは、鑑定評価で言うところの「耐用年数を標準とする方法」に類似する間接的手法でありまして、それが適当でない場合にとられている損耗減点補正については、鑑定評価で言うところの「観察減価による方法」に類似する直接的手法で、その個別の建物を見て、どのぐらい損耗しているかを見て、減点補正を適用する手法になっています。
あと、需給事情による減点補正なんですが、これについては、今日は時間がありませんので詳しくは申し上げられないんですが、再建築費評点数に対する増減価については、昭和26年に初めて再建築価格方式が導入されたときから、所在地域による減価でありますとか、利用価値による減価でありますとか、いろいろな減価要因が考慮されていまして、昭和39年の大改正のときにそれらが一定整理をされて現在の需給事情による減点補正になったということであります。経年減価につきましても、昭和26年の最初の評価基準では木造家屋については直接法がとられていまして、耐用年数に基づく方法ではなくて、建物を個別に見て減点補正するという方法がとられていたんですが、そのような方法では評価額に、評価する個人の差が出てくるということもあり、その後固定資産評価基準は基本的にはあまり差が生じないような方向で改正をされてきていまして、この方式自体いろいろ議論のあるところなんですが、基本的には減価については経年減点補正でやっていきましょうという形になっている訳です。経年減点補正でどうしても見られないものは損耗減点補正でやりましょうという形になっているということです。
詳しく申しますと長くなりますので、一応このぐらいにさせていただきたいと思います。
【前川】 ありがとうございました。
再建築価格方式とはどういうものかということを細かにご説明をいただいたわけでありますが、今、中で触れておられましたように、経年減点補正とセットになって、合わさって評価がなされると、こういうことでありますが、この経年減点補正は、実はご案内のとおり、所得税、法人税で認められております減価償却資産の耐用年数とは違っているわけです。
そこで、これとの対比で家屋の経年減点補正ということがよく論ぜられるわけでありますけれども、そのことについてどのようにお考えになっているか、石橋さんからお伺いしたいと思います。
A 経年減価補正の考え方−耐用年数との違い−
【石橋】 もうご案内のとおり、固定資産税評価は、評価時点における資産の現在価値を求めるものですから、家屋の場合、その評価時点までで経過年数による損耗がどのくらいあったかを計るのが経年減点補正の基本的考え方だと思うわけです。したがって、この経年減点補正については、物理的耐用年数を勘案した上で、評価時点における経価年数を判定する資産価値の尺度と考えるべきものと思います。そして、この経年減点補正率を評価基準に定めるに当たっては専門的見地から建築学会等にお願いして、適切な年数等を算定していただいているところです。
よく、法人税法、所得税の減価償却の耐用年数と比べられるわけですが、減価償却につきましては物理的年数と経済的年数という要素での基準であろうかとは思いますが、目的は必ずしも固定資産税とは同じではないと思います。単純に言えば、減価償却は投下した費用を何年で回収するかという期間と考えられますから、極論すれば、企業家、あるいは業績好調な企業はその年数が短いほうが良いということもあるわけです。
ですから、減価償却の耐用年数というものは基本的には物理的年数を勘案しつつも、これは全く私の個人的な見解かもしれませんが、いわゆる経済的な要素を多々考慮しているのではないだろうかというような気がいたしております。したがいまして、固定資産税評価における経年減点が必ずしも法人税における投下費用の回収期間と考えられる減価償却の耐用年数と全く同一でなければならないというものではないのではないかと考えます。しかし、こうした違いを納税者に対して説明するにしても、なかなか理解が得にくいということは感じております。ただ、少なくとも評価基準で決めているものは、資産評価の手法としては、合理性があるものと思っております。
私のほうからは以上でございます。
【前川】 結局、固定資産税の立場から見た家屋としての資産の価値と、それから法人税等でありますように、税務計算上、資本費の年度配分といいますか、そういう考え方から出てきている減価償却資産の耐用年数というものとは、そもそも考え方が違うということが基本的にあるということでございましょうか。
そういうことにつきまして、不動産鑑定の立場からはどのように考えたらよいのか、平舘さんからお話をお伺いしたいと思います。
【平舘】 先ほどもお話ししましたけれども、隣の冨永さんがお持ちになっているその評価ハンドブック、非常によくできていまして、昔の人はよく勉強してすばらしかったなと思います。私もこのやり方が好きで、積み上げ法に近いわけですから、大体、建物を知っていればこれでやっていくと、それで、出てくる答えも、これ、実際にやってみるとわかるんですけれども、建物の用途ごとにほとんどバランスよくできています。大体50%から70%の間でほとんど均衡のとれた用途ごとの答えが出てくる。こういうふうに考えています。
それで、新築の、鑑定評価で言うところの再調達原価を出すにはこれを割り戻せばいいです。ということなんですけれども、実は私どもの不動産研究所でもそうですし、それから、鑑定協会の鑑定士の間でも、若い人たちはこれを使いこなせる人は建築士以外にはほとんどいないと言っていいくらいなんですね。それで、もっと簡便な方法で、それこそ基礎工事は何という工法でやったと丸をつけていくぐらいの非常に簡便な方法を今はやっています。それで、出てくる答えも1割から1割5分違っていても範疇に入っていればいいと、こういうことになっているんですね。
ところが、なぜそういうことになってくるかというと、先ほどの経年減価補正と同じように、現価率を査定するのに非常に難しい時代になっています。というのは、建物を建てるとき、新築のときは、その人が、つまり、施主ですね。それと建築士と施工業者とそれぞれの人が、その建物について思い入れを持ってつくっているわけです。ところが、それが一種、もし売る、市場に出すということになれば、取引事例と同じように不正常要素みたいな感じになって市場に乗らないということもあります。
それと、先ほど石橋室長がちょっとお話になっていましたけれども、鑑定評価では常に残存価値が幾らか、つまり、あと何年もつのかというのを頭に入れて、それで物理的、経済的または機能的な減価をしていく。そのほかに敷地とその建物との適応、環境との適合と、こういうようなことも考えます。
そうすると、ほんとうのマーケット・プライスのようなことで鑑定評価ということを考えますと、住んでいる人にあなたの家の価値はゼロだよ、市場に出したらゼロだよと言ったら、普通は怒ってしまうと思うんですね。自分の屋敷に住んでいて、自分の家、あなた、ゼロよと、こう言われたら頭に来てしまうと。
固定というか、所有価値と、ほんとうに売却とか買受けとか、そういうことをねらっている鑑定評価とは、この建物の件については違うと思うんですね。ですから、ある数字を調べて、ある帯の間でいろいろな、先ほど言われた経年減価補正みたいなものをやっていかれるのがいいんじゃないかなと、こういうふうに思います。
【前川】 ありがとうございました。
大変参考になるご意見を聞かせていただいたように思います。
さて、そこで、土地については、先ほど来お話にございましたように、特に昭和50年代から、税負担をめぐって、司法の場でも、裁判所でもさまざまな動きがあったわけですけれども、家屋の評価については、石島さん、最近何か目ぼしい判例がございましたでしょうか。
B 家屋の評価に関する判例の動向
【石島】 昨年(平成15年)の7月18日の、最高裁判決(判例地方自治199号46頁)は、土地の評価とは若干、微妙な違いを持った判断をし評価基準に即して算定されている家屋の評価額は、「特別な事情」の存しない限り、適正な時価であると推認することが相当であるとしていることで、裁判所は動揺しているんじゃないかというコメントもありますが、基本的には適正な時価の評価方法をどうとらえるかという評価方法の問題であって固定資産評価基準と適正な時価との関係の考え方において基本的に変わりないわけで、家屋の評価については、今、プロの鑑定士さんからご説明がありましたように、最もこれがすぐれているということかと思います。
しかし、最もすぐれた評価方法であると言いましても、これは大量一括評価をする上で最もすぐれているということではないかと思います。収益性の高い家屋というようなものがあるとすれば、それは収益還元法を使ったほうがいいでしょうし、売買実例がたくさんあるような建物であれば、売買実例価額を基礎とした評価法を使ったほうがいいわけです。
しかし、我が国は固定資産評価基準においては、その2つの評価法は使わずに再建築価額を基礎として評価を行う方法を選択しているのであって、それはあくまでも大量一括評価をする上ですぐれているというものであると思います。平成10年1月22日の東京地裁の判決を見ますと、やはり同じようなことを言っているんです。今述べたようなことを言っているんです。3つの評価方法で評価するとした場合に、どっちが一番すぐれているかというと、再建築価格法が評価の適正と均衡を図る上ですぐれている。だから、大量一括評価をする上でこれを選択することに合理性はあると言っています。
ところが、適正な時価を固定資産の客観的な交換価値だとする場合に、50年も100年も使った家屋に交換価値があるのかということが裁判所でも問題になったのですが、現実に使っている家屋には、利用価値がある。しかし、利用価値があると言ったって、交換価値はないじゃないか、というようなことが問題にされるのですが、固定資産の価格は適正な時価をいうとするとき、それは正常な条件の下に成立する土地の取引価格、すなわち、客観的な交換価値をいうと解されている。このときの適正な時価は、常に収益還元法や再取得法(再建築価格法)を評価方法から排除する概念ではなく、これら評価方法も適正な時価を評価する方法として一応、今、評価理論には100年も経験があるというお話がありましたように、鑑定評価理論においては一般的に用いられているものであります。しかし固定資産税の評価においてはこれら3つの評価方法のうち2つ、つまり、売買実例価格や収益還元法は家屋の評価には用いられていず、再建築価格法だけが限定的に用いられているわけであります。
それでは、なぜそれがすぐれた評価方法であるかというと、固定資産税において資産の価格が課税標準であるから、それに利用価値がある間は、これを売買実例価格や収益還元法で捕捉することは困難でありむしろ適切ではないのであって、固定資産税を応益原則による税と考えると、家屋を使っているということは行政サービスの受益があることを意味する。そうだとすると、使っている家屋には、利用価値があり、この利用価値に着目して課税する必要があるわけで、このような家屋に課税するための評価方法としてはこの再建築価格法はすぐれた評価方法であり、合理性があると裁判所は判断していると思います。
以上でございます。
【前川】 ありがとうございました。
(3) 土地・家屋共通の課題(まとめ)
【前川】 今までに固定資産評価基準の運用をめぐる課題についていろいろご意見を伺ってまいったわけでございます。時間の関係もありまして、細部にわたって取りまとめることはちょっと難しゅうございますけれども、今後、この固定資産評価基準を考えていくに当たって、1つは、より詳密化の道をたどるか、あるいは、ある程度のアローワンス、許容範囲というものを伴いながら大量の評価を行うという方法をとるか、ここは1つ大きな判断の分かれ道のように思うわけであります。どちらの方向をとっても、それなりに問題点があるということは、今までの議論の中で出てまいっております。
行政当局とされても、固定資産税は、やはり納税者あっての税といいますか、納税者から信頼をされ、理解をされ、その上でご負担をいただく、そういう性格の税であり、かつまた市町村の大事な税だと。そういうことを基本に置きながら、言ってみれば、納税者の皆さんの目から見て、現在の状況からはどちらの選択がより妥当なものであると判断できるか。そこら辺が固定資産評価基準の今後のあり方を求めていく1つの手がかりになるのではないかなと。大変抽象的な言い方で申しわけありませんが、そういう感じがいたしました。
4.固定資産評価基準の今日的意義と今後のあり方
【前川】 大分時間も迫ってまいりましたけれども、そういうことになってまいりますと、納税者の方々の信頼をより高める、理解をより深める、そういう観点から評価というものを見た場合に、従来の考え方ですと、固定資産税は賦課課税でございますから、調査から評価、決定、課税まで一貫して課税当局の手で行うのが適切であると考えられてきたわけであります。しかし、そのための公的な負担、費用の負担というものも相当多額に上っている。より詳密な評価を行おうとすればするほど、費用負担というものは増大する。そういう一面もあろうかと思います。
また、各市町村の現場におけるスタッフの確保の問題もあろうかと思います。そういったようなことをいろいろ視野に置きながら、より客観的な評価を求める手法としてどういう形がよろしいのか。従来どおり課税と評価は同一の機関、つまり、市町村の当局で実施するという前提に立って物を考えるのか、あるいは課税は本来の自治権の発動でございますから、市町村が行うべきことは当然でありますけれども、評価という作業は、これはむしろ、その課税団体である市町村に限らず、より広域化した団体、範囲で評価の仕組みを考える。あるいは場合によったら民間の方々に評価を委託する。まあ、外国にはそういう例もあるわけでありますけれども、そこまで考えることができるのか。課税当局である市町村が直接評価しないとすれば、いろいろな選択肢が考えられるわけであります。
いろいろな現場の要素を考えながら、かつ納税者の意識を念頭に置きながら、今後どういう仕組みがいいのか。そういうことを考える1つの手がかりとして、評価というのは直接課税団体の手から離れたところで行われ、もちろん客観性を保つ、合理性、妥当性を保つための仕組みというのは必要になるわけでありますけれども、その上で、その評価をもとにして課税すべき価格というものを決定していく。これは市町村がやらなきゃいけない話でありますが、そういうプロセスを念頭に置きながら、その評価というものを切り離すことができるかどうか。そういうことについて若干ご意見をお伺いしたいと思います。
まずは、現場を抱えていらっしゃる冨永さんからお伺いしたいと思います。どうぞ。
(1) 評価体制のあり方−評価と課税の分離について−
【冨永】 評価と課税の分離についてなんですが、先ほどコーディネーターからもご紹介のありましたカウンシル・タックスを課税しているイギリスでは、内国歳入庁の外局である評価局というのがありまして、そこで全ての評価を統一的にやっているという事例があります。日本においてもそういうことができれば、現場としては非常にありがたいなという気がします。
家屋の話ばかりして恐縮なんですが、昭和39年度にできた現行評価基準のこれまでの改正経過を見ておりますと、コーディネーターからもご紹介ありましたように、家屋評価というのは非常に難しい専門的なものであるということで、さらに適正で公平な評価・課税を行うためには、あまり専門的なものでは無理だということで、家屋の評価基準についてはこの間ずっと評価手法を簡素化する方向で改正が行われてきていると思います。
その簡素化の方向については決して間違っていないと思います。今の固定資産税制度を前提とすれば、全然間違っていないとは思うんですが、もし評価と課税が分離できるようなことになれば、評価というものを専門的なところでもっと詳密に、精密にやっていくということも十分可能になる訳ですし、それは納税者の理解につながるのではないかなという気がします。
一方で、土地のほうは先ほども申し上げましたけれども、7割評価が導入されてからかなり精密化というか、細かいほうに、細かいほうに動いています。土地と家屋、同じ固定資産税の評価でありながら、一方は細かいことをやるような方向で動いてきて、一方は簡素化に動いてきているという、そういう固定資産税制の中にある矛盾点も、そういう評価と課税の分離ができれば解決できるんじゃないかなという気もします。
また、鳥取県では、評価の広域化ということで先進的な取り組みをされているようですし、そういうことは不可能ではないと思いますので、現場で固定資産税実務に携わっている者としては、できればそういう方向で進んでいくほうが納税者の理解につながるいい税制になるんじゃないかなと個人的には思います。
以上です。
【前川】 ありがとうございました。
田部井さん、いかがでしょうか。
【田部井】 私も今の冨永さんと同じような考え方なんですけれども、これからは外部に持っていくのも、それもいいかもしれないですけれども、できる限り、まだまだ市町村の共同体という形で処理するのが望ましいかなという考え方を持っています。まして、賦課するということに対しては、納税者に対して我々職員が的確なる説明責任があるわけです。それをどこまで委ねて、その決定ができるかということにかかっているのではないかと思います。
以上です。
【前川】 ありがとうございました。
現場のほうでは意見が2つのニュアンスに分かれたということですが、法律的に見た場合、現行法では評価基準は市町村長を拘束するという、こういうことになっておりますから、現在の法体系の中ではなかなか簡単にそうはいかないのかもしれませんけれども、法律改正も含めて検討した場合に、このようなシステムはやはり地方自治の原則に触れることになると考えられるのかどうか、そこら辺のところ、石島さんからお伺いしたいと思います。
(2) 評価と課税の分離に関する法的評価
【石島】 評価をどのように考えるかの問題かと思いますが、アメリカでは資産の価格を評価する任にあるアセッサーは、固定資産税(財産税)を賦課する権能を有するという法制度の中で、アセッサーはかなり裁量的に資産を評価をし事実上市町村の財政をコントロールしていた時期がありました。アセッサーは大蔵大臣のような地位にあったわけで、固定資産の評価を低くするために賄賂をもってアセッサーを買収する事件が頻発し行政が混乱したことがあります。
そこで、評価は、フェア・マーケット・バリューすなわち、資産の客観的交換価値の客観的認識行為であると把え、したがって、評価は裁量の余地のない客観的に存在する事実の認定行為であり、確認行為する認識のもとに、あくまでも適正な時価は客観的な交換価値であり、客観的に観念されるべき価格であるととらえることによって、アセッサーの裁量的評価を防止することとしているわけです。
このように考えれば、評価は理論的にはだれが実施しようが客観的な価値を認識し確認する行為であるから、評価を別の部署に委託して実施させても、自治権を侵害するということにはならないと考えられることから、現在カナダでは、ブリティッシュコロンビアやオンタリオなど幾つかの州において準公的評価機関をつくって、そこで評価を実施させているようです。評価の質的向上、経済効率、評価への政治介入を排除する観点から採られたものとされています。それから、ハワイ州は1つの評価カウンティーを有し、テキサス州には特別に評価カウンティーをつくって、評価業務を実施させていますが、この評価カウンティーはカウンティー政府から独立した機関であります。
今年(2004年)3月に、コネティカット州に資産課税の実態調査に行き、州都であるハートフォード市のアセッサーにいろいろ質問をし調査をさせて頂きました。このコネティカット州では固定資産の価格は州法に基づいて、適正な時価の70%で評価するということになっていて、固定資産税(財産税)は各市町村において評価し課税することになっておりますが、小さな市町村においては評価を民間委託しているようでした。しかし州都であり、大きな市であるハートフォード市では独自で評価を実施しているということでした。
固定資産の評価は客観的に観念されるべき価値を認識し確認する行為であってそこに裁量の余地はないものと解されるから、我が国においても、評価の広域化を推進することに課税自主権を侵害するというような問題は生じないと思います。今、鳥取県における評価の広域化の話がありましたが、3年前でしたか、鳥取県で片山知事がコーディネーターをつとめ、家屋の評価のあり方に関して国際シンポジウムを開催されましたが、そのとき、私もパネリストとして参加し、評価の広域化について前向きに議論した記憶がありますが、評価の広域化が憲法92条に違反すると考えなくていいのではないかと私は理解しております。
【前川】 ありがとうございました。
今、お話をお伺いしておりますと、全国一律にそういう第三者機関による評価制度をとるというのも1つの方法かもしれませんが、むしろ、地方の実情に応じていろいろな評価の仕方がある。自ら行っても構わないし、あるいはその第三者機関、それも公的な機関、あるいは民の機関を含めていろいろな形態があり得る。一国の中で複数の形態がそれぞれの事情に応じて存在している国もあるというお話をお伺いしたわけでありまして、そういう方式をとっても現在の地方自治法なり、憲法92条に触れる問題にはならないというお話をお伺いしたわけでありますけれども、鑑定士のお立場から平舘さん、いかがでしょうか。
(3) 評価と課税を分離する場合の留意点
【平舘】 この固定のこと、特に標宅関係につきましては、仄聞するところ、前回あたりですと、各いろいろな市町村から地価公示、地価調査、それから、標宅のバランスが合わないとか、または近隣市町村間の隣接の標宅が合わないとか、いろいろな話を聞いて、鑑定評価そのものの中身を疑うような話も時々聞かれたわけです。
そして、今回の鑑定士の指名についても、そういう面を気をつけながらいろいろ市町村の方がやられていると、こういうふうには聞いているんですけれども、よく考えてみますと、鑑定評価というのは、先ほどから言いましたように、判断をして、このくらいでいかがでしょうかという、ただ数字をお示しするだけで、それをお使いになるのは依頼者の人ということになりますと、入札というような制度にはとてもなじまないものだと思うんですね。
例えば絵画でも、でき上がった絵はオークションにかけて入札しますけれども、絵を描いてもらうときに、こういう絵を描いてくださいといったときに入札でやるような人はいないわけですからね。そういうふうなことを考えてみますと、どうもこの制度が標準宅地の評価を1人の鑑定士の意見に任せていいものだろうか、こういうふうに思うわけです。地価公示のように法律に基づいて、ある機関がやったほうがいいのではないかなと、こういうふうに思います。
それで、この課税という国民の公平ということを考えたときには、評価庁、または評価機関と審査庁、審査機関と、それから課税庁、課税機関、こういう3つのものを地域性をあらわす県単位ぐらい、都道府県ごとに分けて、それぞれそれらの機関を法律に基づいて仕事をさせたほうがよろしいんじゃないかなと、こういうふうに私は思います。
【前川】 ありがとうございました。
いずれのシステムをとるにしても、チェックシステムを含めきちっと法律上の位置づけが必要だと。そのことによって納税者の信頼もより深まると、こういうことであろうかと思うわけであります。
以上、ここまでは、3番目の課題として、「評価基準」の今後の課題ということで、課税と評価の分離という観点からのご意見をお伺いしたわけでございます。
5.固定資産評価基準の今後のあり方についての一言提言
【前川】 さて、時間も大分超過しておりますので、最後にお1人1分ずつということで、固定資産評価基準の今後の問題についてご提言がありましたら、一言お願いしたいと思うわけであります。
私の一番遠いほうから、田部井さん、ありましたらどうぞ。
【田部井】 私の意見といたしましては、関係諸税の評価の現況に見られる税種間、資産間及び市町村間における評価の不均衡を是正するためには、評価方法の内容、評価の適正、均衡を確保するための諸措置等についての所要の改善を加える必要があるかと思います。まず、評価によって求めるべき固定資産税の価格についての認識を明確に統一することが先決問題であるのではないかと考えられます。
終わりに、これまで評価の手法の簡素、合理化を随時進められていただきました関係機関に対しましては感謝申し上げますとともに、今後も引き続き一層の推進をお願いいたします。
以上です。
【前川】 ありがとうございました。
続いて、冨永さん、簡単に1分でどうぞ。
【冨永】 先ほど、平舘部長からも、鑑定評価というのは1つの判断だということがあったんですけれども、結局、不動産の価格の評価ということにはそれが一番大切なものじゃないかなというふうに私考えております。ニューヨーク州の評価員協会が出している納税者向けのパンフレットに、厳密に正しい評価額というようなものはありえないということがきっちり書いてありまして、要するに評価額は市場価値についての1つの判断だということを納税者向けに書いてあります。実は、私それを読んだときに、ある種の感動を覚えました。といいますのは、そういうことがやはり日本人の国民性によるものか、わかっていないようで、不動産であっても価格というのは1つに決められるんじゃないかなというふうに思われている方が非常に多いようでして、そういうことから、固定資産税評価にかかわっていろいろな問題が起こってきているような気がします。我々課税庁としても、不動産価格というのはそういうものですよというのを宣伝というか、納税者に積極的に知らせていきながら、そういう不動産の価格を評価するために、固定資産評価基準というものがあるということをもっと明確に打ち出して、固定資産税制a@円滑に進めていけるような方向に持っていきたいと思っております。
以上です。
【前川】 ありがとうございました。
それでは、平舘さん、どうぞ。
【平舘】 固定資産税は租税法定主義と、こういうふうに言っておられますけれども、それの一部を担う鑑定評価が独禁法違反だというようなことでいろいろな話が出るようなことのないように、この一番もとになる標準宅地の価格を鑑定評価する、ここの部分もやはり法律で何らかの決めをしてもらいたいということと、もう一つは判断である鑑定評価というものと、今の路線価方式はずっと、最後まで評価額を引きずってきますけれども、どこかの一線で切って、帯のような、一番最初に出ました価格帯の中で課税をするというような方式も考えていただいたらよろしいんじゃないかなと、こういうふうに思います。
【前川】 ありがとうございました。
石島さん、どうぞ。
【石島】 いろいろ改善すべきところはあると思いますが、それは大量一括評価を前提にしてのことであって、鑑定評価理論に基づいて個別評価を志向するものではないと思います。そうすると「適正な時価」は客観的交換価値であり客観的に観念されるべきものとすれば、固定資産評価基準はそれを把握する方法にすぎないと解されるから、今後その内容の精度を高める努力が必要になるでしょう。固定資産評価基準で採用されている限定的な評価方法の検討も必要であるし、鑑定評価等を活用しながら評価しているのは標準宅地であるから標準宅地の選定の質的量的問題もあると思います。固定資産評価基準の規範性の問題がありますが、「適正な時価」に強い規範性を認めれば評価基準の規範性は弱まるでしょう。先に評価の広域化の問題が出ましたが、評価員の評価能力の向上を図ることも評価基準に内在する問題と同様に重要であると思います。
【前川】 ありがとうございました。
最後になりましたけれども、石橋さん、どうぞ。
【石橋】 先ほど評価と課税の分離というご議論がございました。非常に大きな課題だと思っています。単純に考えれば、各市町村、同じことをやっているわけですから、それを1カ所に統合して実施したほうが合理的であろうという気はするわけですが、しかしながら、一方で、先ほど申し上げました地方自治との関係でどうかというようなご議論もあろうかと思います。また、仮にそうするとしても、その組織の形態如何によっては実務上の評価作業の方法等もかなり変わってくることもありましょうし、各市町村の評価機関を統合した場合、果たして現行の評価基準のままで、適切な運用ができるのかどうか、そうした課題もあるのではないかという気がいたします。
ご案内だと思いますが、市町村税職員約6万5,000人程おりますが、そのうち4割位が評価に携わる方であろうと言われているところです。厳しい地方財政の下で、財政が厳しいからやるという議論というわけではないのですが、それが合理的でかつ効率的であるならば、そうしたことも研究していかなければならないだろうと考えておりますし、また、真摯に受けとめるべき課題と思っております。
なお、最後に、大量・一括評価という固定資産税評価の簡素化等の議論と、個々の納税者が求める評価の緻密さとのベクトルとは多分、必ずしも一致するとは限りません。その中でどの辺まで評価の分野で納税者の納得を得られるかというのが我々の課題と考えております。評価の簡素、合理化の推進も重要ですが、それを進めることによって納税者の理解を得られないこととなっては意味がありません。このため評価の簡素・合理化と納税者の求める評価のレベルとのかねあいが重要となってくるというような気がしております。いずれにしましても、きょうのご議論を踏まえながら、引き続き私どもも可能な限りの努力をしていきたいと、このように思っております。
以上でございます。
【前川】 ありがとうございました。
6.おわりに
【前川】 2時40分から大変長時間にわたりまして、パネリストの皆様からさまざまな観点からのご議論をいただき、また、示唆に富んだご提言、ご意見を出していただきました。今後、検討されるべき課題が多々浮かび上がってきたように思います。
今後、地方分権のさらなる進展を図り、より一層充実した行政サービスを住民の方々に提供し続けるためには、やはりこの市町村の独立税源である固定資産税、住民税と並んで非常に重要なものでありますが、それを維持し続けるということが大事でありまして、そのためには納税者の理解と協力というのが不可欠であります。
納税者の円滑な理解と協力を得るということが大事だということであればこそ、固定資産税の場合は税負担の内容を具体的に決めるのが資産の評価であることにかんがみますれば、納税者との関係におきまして、その評価や評価基準の運用が妥当・適正なものであることが絶対的でありますし、そのことが多くの関係者の理解、納得を得られるための必要不可欠な必須条件と思われるわけであります。
固定資産の評価基準は、その意味で評価の適正化と均衡化ということを基本理念として、その時々の社会経済情勢、あるいは税負担水準、納税者意識、執行体制などの現状に即して、時代の要請に応える形で変遷をしてまいったわけでありまして、今後ともその努力を重ねていくことがますます必要になろうかと思うわけでございます。
本日は、若干時間を超過いたしまして申しわけございませんでした。また、そういうことでパネリストの皆様にご意見を十分にお伺いできない点も多々あったのではないかとおそれておりますが、貴重なご意見、今後における評価基準の検討の参考として少しでもお役に立たせていただければということを念願いたしている次第でございます。本日はこれをもって閉会といたします。
パネリストの皆様及び会場にお集まりの皆様、終始ご熱心にご議論に参加いただきまして、大変ありがとうございました。これをもって閉会いたします。
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